仮面ライダー×仮面ライダー ファズム&ブライ MOVIE大戦MEGAMAX
友・愛・真・理
とある昼下がり。
天ノ川学園の敷地からそれなりに離れた場所にある小さな中華料理屋。
店内のテーブル席で向かい合い、麻婆豆腐と杏仁豆腐を食べる男女二人組がいた。
片や銀髪碧眼の青年・アヴェンジャー、片や長髪眼鏡の女性・シャロナ。
刺客との戦いを掻い潜った彼らは、面倒事を全て他人に押し付ける形でその場を離れ、この静かな中華料理屋で一度気分を落ち着けることにした。。
「ハイ〜!注文の麻婆豆腐と杏仁豆腐、お待たせ〜!」
出された料理はアヴェンジャーの大好物の麻婆豆腐。
冬木の泰山のような地獄の釜を開けたかのような真っ赤なものではなく、標準のものである。
尤も、泰山の味に慣れ親しんでいるアヴェンジャーにとってまともなマーボーなど甘いと感じる程に生温い。
一方でシャロナは杏仁豆腐を美味しそうに口に運んでおり、これぞまともな食事の楽しみ方であると体現しているかのようだった。
その所為か、前方で麻婆豆腐(セルフで香辛料たっぷり)を怒涛の勢いで口にしているアヴェンジャーが妙に目立ってしまっていた。
「お、お好きなんですね、マーボー」
「えぇ、まぁ」
話しかけられても簡潔な応答しかしない。
一口喰ったらすぐ二口目。あとは水など無粋だと言わんばかりのスピードである。
幾ら香辛料をかけたところで、あの小柄な店主が捻りだす秀逸な味には届かないが、常人では到達しえない領域になったマーボーを彼は脂汗をかきながら口に放り込む。
一口喰えば二口目。水など無粋だと言わんばかりの熱烈な勢いである。
そのレンゲを動かす手を一旦止め、彼はジロりとした目でシャロナを見つめた。
シャロナの微妙な視線に気が付いたのだろう。マーボーを胃袋にかきこむことなく、ゆっくりと、熱を逃がすように口を開いた。
そして、
「―――食うのか?」
「―――食べない!」
どっかで見た事がある様な無いようなやりとりが展開されたのだった。
閑話休題―――。
「奴らに身柄を狙われる理由……ドライバーがそうでないとしたら、十中八九、驚異的な力を持ったスイッチ―――と見るが」
「……流石ですね」
食事を終え、早速誤二人は話すべき事柄について語り始めた。
幾度か言葉の応酬をクロ誤魔化しても意味がないと悟ったのか、シャロナは素直に全てを話すことにした。
そのためにシャロナは懐からある物を取り出し、テーブルの上に置いてみせた。
「これが……」
それは一つのアストロスイッチだった。
コズミックエナジーに関しては専門的な分野に至るまで熟知しているアヴェンジャーですら初見のスイッチ。
かつて彼がいた未来の時間でも目にすることのなかった未知の神秘がそこにあったのだ。
「ドライバーのシステムが劣化コピーしか造れなかった私は、せめてスイッチだけでも……と思ってバカみたいに研究に打ち込みました」
「バカ?冗談じゃない。このスイッチは紛れもなく価値のある物だ。軽く『解析』をかけただけでもわかる。奴らが手に入れたがるワケが」
手に取ったそのスイッチに内包された神秘は並大抵のことでは造り出せない。
それこそ一つの魔術師の家系が何代にも渡って初めて造り出せる、という評価しかくだせないほどに。
「このスイッチの名前は?」
「名称は……」
と、シャロナがスイッチの名を口にしようと一旦間を置いたその時、
――ピリリリ!ピリリリ!――
アヴェンジャーの懐からスマホの着信音が鳴り始めた。
すぐさま会話を中断して懐に手を伸ばし、スマホを手に取り画面をタッチして耳に当てた。
「はい、もしもし」
お決まりの台詞で電話に出たアヴェンジャー。
「おぉ、マスター。…………あー、そんなに怒らないでくれ、謝るから」
相手はカースらしい。尤も、あの場に置いてきぼりにされたことに対し、ご立腹のご様子だが。
「ん……?そうか。やはり、そういうことか。……では、すぐに天高に戻る。……ゲートはそのロッカーでいいんだな?……うん、了解」
通話を終え、電話を切ったアヴェンジャー。
スマホを再び懐に収め、残ったマーボーを一気に喰い尽くした。
「さあ、行こう」
「何があったのですか?」
「美咲、という子について、面白いことがわかった」
*****
空港X―――エクソダスの発射が刻一刻と迫る中、この施設は二人の来賓を迎えていた。
高級なスーツを纏った壮年の男と濃紺のイブニングドレスを纏った若い女だ。
二人はエクソダスの内部に造られた簡易応接室のソファーに座り、テーブルの前にある物を収めたケースを、白服姿の人物たちに差し出した。
「ご希望のゾディアーツスイッチです」
「これだけあれば足りるでしょ?」
ケースの中には18個の未使用ゾディアーツスイッチが収められており、白服の一人がそれを確認するとケースを閉じた。
「ご協力、感謝します。……ですが、私の研究材料であるSOLUを、貴方がたが回収しようとした、と聞きますが」
「出過ぎた真似でしたかな?」
白服の男、レム・カンナギの釘を刺す言葉に対し、壮年の男、我望光明が立ち上がりながらこう返す。
「財団Xの資金援助が無ければ私の研究はここまで進まなかった」
「それに、こういう借りというものは早め返しておくに越したことはないわ」
ソファーに座りながら悠然と構えて言葉を吐き出す若い女、ファーブル。
それに対し、カンナギは雰囲気を一変させる。
「あまり、誤解を招くような行動は慎んだ方が良い……!」
カンナギの後ろに控える黒人の男、カタルと眼鏡の女、ソラリスは顔に異様な模様を浮かばせつつ、我望とファーブルを威嚇している。
「ほう。これが貴方の研究成果のミュータミットですか。強制突然変異による超進化生命、でしたっけ」
我望らはそれに臆することは無かった。
『ン…………!』
『フフフ……ッ』
当然だ。
「私たちのゾディアーツとサーヴァント……どっちが役に立つのかしらね?」
瞬く間に姿を現したのは、獅子座の運命に選ばれたレオ・ゾディアーツと、蛇使い座の運命を背負ったオヒュカス・ゾディアーツ。
そして、
「ファーブル。我をこのようなガラクタの中に下らぬ用件で連れてくるとは、些か付け上がってはいないか」
「下らぬ?王の威光を示す場を提供しただけよ。ギルガメッシュ」
こちらに歩んで現れたのは、黒いライダージャケットを纏った金髪赤眼の青年。
その名を、城塞都市ウルクを治めた半神半人の英雄王―――ギルガメッシュ。
「それとも、令呪が必要?」
ファーブルは難色を示すギルガメッシュに己が左腕を前に突き出す。
すると、左腕には幾何学的かつ出鱈目な模様が浮かび上がってきた。
「チッ。言峰め……死に際につまらんものを遺してくれたな」
十数年前、五回目を最後に終幕となった冬木の聖杯戦争。
その最終決戦にて、ギルガメッシュはアヴェンジャーたちとの戦いに敗北し、消滅する間際でファーブルらに回収されていたのだ。
しかも、ファーブルは死亡した聖杯戦争の監督役の言峰綺礼の遺骸からサーヴァントを制御する命令権、八画の預託令呪を入手することでギルガメッシュと契約を交わし、新たなマスターとなったのだ。
ギルガメッシュは最初の主、次の主とは全く異なり、英雄王ですら強引に風向きを変えざるを得ないこの女の底知れなさには幾度となくままならない思いをさせられていた。
しかし、如何にギルガメッシュが不本意でここにいようと、カンナギたちにとっては脅威であることに違いない。
裏社会の闇を住処とする財団Xは当然ながら魔術協会と聖堂教会の存在を認知しており、そのこともあって聖杯戦争の情報も知り得ていた。
無論、召喚された英霊たちは一人一人が怪人たちを葬れるだけの実力者であることも、そして宝具特化型であるギルガメッシュの力は戦略兵器に匹敵することもよく知っていた。
「では……」
「さようなら」
二体のゾディアーツと一体のサーヴァント。
明らかに分の悪い状況となりカンナギが押し黙ると、我望とファーブルは部下たちを従え、我が物顔でエクソダス―――空港Xから去って行った。
*****
ラビットハッチ。
それは宇宙技術開発機構(通称OSTO)によって建設された月面基地―――その一部だ。
ゲートスイッチと呼ばれる特殊なアストロスイッチと、天高の廃部室にあるロッカーが融合したことで空間を越えた自由な行き来が可能になっている。
大部分を失いながらも、フォーゼシステムの開発とコズミックエナジーの研究に必要な施設を十分に備えている。
アストロスイッチを調整するラボ、スイッチの実験室であるアストロスキャナーを備えており、また、月面でありながら地球と同じ重力を発生させる重力装置があるなど、かなり高性能な施設である。
弦太郎たち仮面ライダー部にとってはなくてはならない重要な拠点である。
「彼女は人間じゃない」
彼女、とは今現在、アストロスキャナー内にて分析を受けている美咲撫子である。
彼女はついさっきまで水銀じみた流動体のような姿をしていたが、瞬く間に姿を変質させ、人の形となった。
「Seeds Of Life from the Universe…………通称、SOLU」
賢悟は撫子の正体を明らかにし、アヴェンジャーらを加え、ライダー部の面々にそれを説明していた。
「コズミックエナジーを細胞核に蓄えた、宇宙生命の種だ」
「生命の種?」
「そうだ。猛烈なスピードで細胞分裂を起こし、新しい組織を作る。元素変換すら容易に行う」
説明の最中、撫子は弄繰り回していたサポートメカ、フードロイドのバガミールの複製品たるメガバガミールを自らの体の一部を用いて行った。
指先から流れ出たスライムは瞬く間にバガミールのそれへと変わり、本物さながらの変形をやってのけた。
「すげぇぇぇ!!」
JKはそれを見て興奮し、二つのバガミールを捕まえようとするも、即座に避けたバガミールの所為でテーブルに激突し顔面を打ち付けていた。
「それでゾディアーツも狙ってたの?」
「ただし、SOLUに知性は無い。見たモノを反射的にコピーする。恐らく今の姿は、本物の美咲撫子という女子高生の姿を、トレースしたものだろう」
「成程。フォーゼとよく似た変身も、この能力があったらばこそか」
SOLUの重要性はこれでこの場の全員が理解した。
確かにSOLUの力を研究すれば、コズミックエナジーを用いた技術に革新的な変化を齎すことが出来るだろう。
ゾディアーツの幹部を差し向けてまで手に入れようとする動機としては十分と言える。
「エイリアンの卵、か。世界は広いものじゃな」
「貴女に言われたくはない。俺は未だに信じ切れていない。魔術なんてものが実在するなんて……」
カースの発言に賢悟は棘のある口調で返した。
科学技術とコズミックエナジー以外の神秘を信じていなかった彼にとって、童話にあるようなマジカルやオカルトの実在は受け入れ難いのである。
しかし、実際にカースは治癒魔術で賢悟の弱った身体を持ち直させている。
自分の体で未知の神秘の力の恩恵を受けた手前、最早賢悟の頭は魔術という存在を認めざるを得ないことを実感していた。
「ふふ……ふふふ……」
尚、カースとアヴェンジャーとシャロナに視線をロックオンし、不気味に笑っているのは、霊感系のゴスこと野座間友子であったのは言うまでもない。
かつて学校の先輩や同級生たちとで嵌っていたオカルトとは違い、本格的な理論と学問で成り立つ真正の魔術は、彼女の図りきれない心に大きな火をつけていた。
「それで、どうするのじゃ?このコピー娘は?」
「……違う!」
と、そこで今まで沈黙を守ってきた弦太郎が、遂にそれを破ってきた。
「彼女は言葉を喋ったし、一緒に笑った!」
その言葉は、撫子を連れ回して一緒に飲み食いをしたり、遊んだりした―――要するにデートをした結果から叫んだものだ。
「それはお前の真似をしただけだ。ただの反射行動だ」
「反射行動だ。反射行動だ」
だが、無情にも賢悟はそれを科学的見地に立って否定した。
さらに撫子自身がそんな意見を肯定するように、賢悟のセリフを無感情にオウム返ししている。
「……………………ッ!」
青春真っ盛りにおいて受け止めきれない哀しい事実に、弦太郎は声にならない声を捻りだしながらラビットハッチから地球へとつながる亜空間のトンネルへと走り去ってしまった。
「ふ〜……若いなぁ」
アヴェンジャーは弦太郎の傷ついた心を感じ取り、昔の自分はあんな風ではなかったな、と自嘲気味に思い出しつつ、彼の後をおうことにした。
*****
とある河原の土手。
弦太郎はそこに腰かけ、意気消沈としていた。
後を追ってきたのは、アヴェンジャーとカース。
本来ならユウキと友子が来るはずだったが、その役をアヴェンジャーが強く買ったことでこのような形となった。
「やあ」
「…………」
と、軽く挨拶するも、弦太郎の表情は曇るばかり。
「ま、仕方ないと言えば仕方ないか」
初恋の人物が感情を持たない非人間だと知らされれば、元気の塊とも言える弦太郎といえどショックを受けるだろう。
「男には、思い切り泣いていい時がある。―――財布を落としたときと、振られた時だ」
(僕はそれ以上の絶望を味わっているのだが……)
こういうところでも、彼と自分には大きな隔たりがあることをアヴェンジャーは実感していた。
「でもよ、相手があんなスライムだったときは、どうすりゃいいんだよ?」
嘆きながら近くにあった石を拾い、川へ投げ捨てる弦太郎。
何時もの威勢の良さは微塵も感じられない姿だ。
「だったら、泣け。自分でもそう言ってたろ?ま、僕も初恋の相手が人間じゃなかったから、気持ちはわからなくはないが」
「え?」
「僕の初恋の人は、女神であり怪物だった。でも、とても美しくて優しい人だった。……今となっては、二度と会えないけどな」
例え、英霊を新たに召喚する機を得たとしても、現れるのは同一にして別人。家族と共に日々を過ごした彼女ではないのだ。
「君にしろ僕にしろ、人でない者に恋をした点は一緒だ。それに結構いるんだよな、人間と人外のカップルってさ。恋愛の前には種族の壁も関係ないってことだな」
「アヴェンジャー。長話も良いが、そろそろ時間じゃぞ」
「あ、もう回収する頃か」
「回収?」
カースの合いの手を切っ掛けに話が奇妙な方向に曲がっていき、弦太郎が問うた。
「あのSOLUはとある大学の研究室から逃げたらしくてのぅ。天高に連絡が入り、歌星が引き渡すそうじゃ」
「尤も、僕らはそいつらを怪しいと決めつけている」
「怪しいって……?」
「当然だ。SOLU程の存在を公表することなく研究するなど、よほどの理由がない限り有り得ない。少なくとも真っ当な研究機関なら、の話だが」
アベンジャーの含みのある物言いに、弦太郎の表情は何かを考え、そして確信したものになっていく。
「まさか、そいつら……!?」
「ゾディアーツと繋がっているかは兎も角、引き渡されたが最後、永遠の別れになるのは必定」
「―――冗談じゃねェ!!」
それを聞いて弦太郎は立ち上がった。
「スライムだろうが人間だろうが関係ねェ!好きなものは好きなんだ!それに、俺はちゃんと失恋もしてねぇ!」
「……それでこそだ。僕と似たような結末にだけは、辿らないでくれよ」
*****
場所は天高の近くにある地下の駐車場。
そこには白い大型車が鎮座しており、周囲を白服の集団が屯していた。
「ご連絡ありがとう。助かりました」
白服の集団の内の一人、眼鏡の女は賢悟からSOLUの入ったカプセルを受け取った。
「貴重な宇宙生命のサンプルです。研究成果に期待しています」
賢悟が語りかけた言葉を返す事なく、眼鏡の女はカプセルを別のメンバーに渡し、SOLUを運び出そうとする。
そこへ、
「待てっ!」
一人の乱入者が駆けこんできた。
乱入者・如月弦太郎は勢いよく現れると、有無を言わさず白服の男からカプセルを奪い取った。
「止せ、如月!」
友人の暴挙を目の当たりにし、賢悟が強い口調で制しようとする。
「撫子は渡さねぇ!」
「それは我々の研究資料です。貴方の物ではない」
頑としてカプセルを手放さない弦太郎に眼鏡の女が冷たい口調で言い放った。
しかし、
「へぇ?随分と偉そうな口を叩くんだな」
さらにそこへ現れたのは一組の男女。
アヴェンジャーとカース。
「白い装い……やっぱり貴様らか、財団X」
「衛宮空……!」
「ふむ。思いのほか、正直じゃな」
現れた二人の内、銀髪碧眼の青年の名を男が小さく呟いたのを、カースは聞き逃さなかった。
白服の男はしまった、と思った。
何故なら、この場において、青年の呼び名は一つしか明かされていない。
にも関わらず、本名を呼べば、彼の属する世界に少なからず関わりがあることを意味するのだ。
「皆、今は聞いてやってくれ。目の前にいる馬鹿正直な男の告白を」
先のやりとりで健吾たちから疑惑の目を向けられ、黙殺された白服たちを一瞥しつつ、アヴェンジャーは淀みのない声で言った。
「ああ、そうだ。俺はまだ撫子に好きだと言ってねぇ!」
「落ち着け。SOLUに知性は無いんだ」
「いや、ある。こいつは宇宙に帰りたがってた。月に行ってはしゃいだし、俺に笑いかけた」
「だからそれは反射行動だ」
「だったらお前は何だ!?」
賢悟の説得を感情で押し潰すかのように弦太郎は叫んだ。
「俺が笑ったらお前も笑う……それも反射か?違うだろ!ダチだからだろ!」
「…………」
そのワードを耳にして、賢悟は思い出した。
そう。何時だってこいつは……。
「言ってる事メチャクチャね」
「でも、それが弦太郎さんだから」
美羽たちも改めて実感する。
この魂にまで響く、理屈を突き抜けた言葉を紡ぐ男こそが……。
「俺は、撫子と友達のシルシが出来なかった。何か訳わかんねぇけど、ダチとは違う……もっともっと熱いんだ!心臓が、ギュっとするんだ!俺のこの気持ちは誤魔化せねぇ!好きなもんは好きだ!」
思いの丈を全て力に変えてきたロジックを越える存在―――如月弦太郎なのだ!
「聴いてるか撫子!お前のことが……好きだ!」
一世一代の星を越えた愛の告白。
それを聞いてアヴェンジャーは至極満足そうな表情をした。
そして、その告白が響くと、カプセルの蓋が強引にこじ開けられ、中に押しこめられていたSOLUが外へと飛び出した。
飛び出したSOLUはたちまち姿を変え、美咲撫子の姿へと変じる。
「弦太郎」
彼女は笑みを浮かべた。
今度は違う。弦太郎が驚いた表情をしているのに、彼女は自分の意志で笑っていた。
「撫子……」
弦太郎は無意識に空っぽとなったカプセルを投げ捨て、真っ直ぐに撫子だけを見つめた。
「ありがとう。弦太郎」
撫子は小走りで近寄り、弦太郎の体を抱きしめた。
この行動に賢悟は驚いた。知性――感情がないとばかり思っていたSOLUのあまりに人間らしい行動に。
弦太郎はそんなことなど、初めからどうでもよかった。ただ、初めて恋をした少女の体をゆっくりと、抱きしめ返していた。
「よくやったな、如月弦太郎」
「良きかな、良きかな」
「素敵ですね。こういう奇蹟も……」
アヴェンジャーは勿論の事、カースもシャロナも、そしてライダー部のみんなが、目の前のロマンスに感激していた。
「此の世に奇蹟なんかない。SOLUの進化が早いんだ。ただ、その進化を促したのは、あいつかもしれないな」
「ふーん。堅物に見えて、意外と良いことを言うでは無いか」
奇蹟、という事象を否定しても、撫子の心を賢悟は否定しなかった。
が、それを良しとしないのが財団Xである。
大型車に乗り込んでいた黒人の男・カタルが首を動かして合図をすると、眼鏡の女・ソラリスが顔に異様な紋様を浮かべ、抱きしめあう弦太郎と撫子に襲い掛かったのだ。
「本性を現したか」
アヴェンジャーは素早く割って入り、ソラリスの脚を掴んでその凶行を止めようとする。
しかし、ソラリスもミュータミットとしての身体能力を駆使し、強引に身体を捻じ曲げ、回転させることでアヴェンジャーの拘束から逃れた。
その上で地面に着地した直後、間髪を入れずにアヴェンジャーの胴体に掌底を繰り出した。
如何にサーヴァントといえど、アヴェンジャーは未変身の状態では全力を発揮することはできない。
「ぐっ……!」
鳩尾に衝撃が加わったことで内臓を押し潰されたかのような感覚を覚え、僅かに背を丸め、鳩尾を手で庇ってしまう。
その隙に他の構成員たちが撫子とシャロナの手を強引に引っ張り、車の内部へと連れ込んでしまった。
「弦太郎!」
「アヴェンジャーさん!」
しまった、と思ったと同時に身体が動いた。
アヴェンジャーと弦太郎はすぐさま車を全力疾走して追いかける。
「待て!」
幸い、車が発進して間もなく、スピードも大して出始めていないためか、人間の脚でも十分に追いつき、二人はそのまま車に飛びつき、内部へと突入していった。
「好い加減にしろ!」
「撫子を放せ!」
狭苦しい空間の中、男女合わせて十人近くが混在し、体を激しく動き回らせてのインファイトを繰り広げる。
単純な戦闘能力なら財団の戦闘員たちを凌駕するアヴェンジャーと弦太郎だが、今は多勢に無勢な上、場所が悪すぎる。
そうこうしている間に車は天高の敷地から離れた場所にまで来たらしく、弦太郎と構成員が衝突した際、車の扉の片割れが外れ、外の景色がダイレクトに映し出された。
薄暗かった空間が一気に明るくなると、構成員たちは一度距離をとり、今度は波のように押し寄せ、弦太郎とアヴェンジャーを無理矢理に車の外へと押し出したのだ。
「弦太郎っ!!」
「アヴェンジャーさんっ!!」
地面を転げまわる二人。
だが、その目はまだ車を見つめ続けていた。
このままでは車を取り逃がしてしまう。アヴェンジャーはこうなれば、と思い懐から何かを取り出そうとしたその瞬間。
――ブゥゥゥゥゥン!――
バイクのエンジン音が聞こえてきた。
現れたのはマシンマッシグラーを駆る天高の男子生徒。
マシンから降り、ヘルメットをとると、それは歌星賢悟であった。
「如月、これで……!」
「助かる」
ライダーのビークルならば一介の車の追跡など屁の河童だ。
見事なグッドタイミングの支援に弦太郎は素直に感謝した。
が、それとは逆に賢悟はどことなく申し訳なさそうな顔をしている。
「すまなかったな……。取り戻せよ、君の彼女を!」
「……おう、任せとけ!」
弦太郎はフォーゼドライバーを装着しつつ、マシンマッシグラーに跨る。
「さて、僕もこれで行くか」
懐からスマホらしき携帯端末を取り出したアヴェンジャー。
その指先が端末の画面を幾度かタッチとスライドを繰り返すと、次第に彼の傍らの空間には水面のような緑色の波動が現れる。
緑色の波動から水文が浮かぶと、そこから一台のバイクが出現した。
ファズムの専用ビークル、マシンストレイダー。
騎馬を模した白と黒のオートバイは普段、アヴェンジャーの宝具の一つと言える特別な空間にて他の装備と共に安置されているが、必要とあらば端末を用いてこのように呼び出すことが出来る。
突如として起こった現象に唖然とする二人を雰囲気的に置いてきぼりにしつつ、アヴェンジャーはファズムドライバーを装着して座席に跨る。
そして、四つのトランスイッチを全てオンにすると、エンターレバーを握り、左腕を構えた。
〔THREE・TWO・ONE〕
「変身!」
♪〜〜〜♪〜〜〜
「ハァッ!」
コズミックエナジーによって形成された漆黒の騎士甲冑を纏い、彼はファズムへと変身した。
「よし、俺も!」
弦太郎も自慢のリーゼントを一撫ですると、ドライバーのトランスイッチをオンにし、右手でエンターレバーを握り、左腕を構えた。
「変身!」
♪〜〜〜♪〜〜〜
「ッしゃあ!」
フォーゼへの変身を完了させると、この場に二人の仮面ライダーが揃った。
ダブルライダーはマシンのハンドルを握り、急発進する。
「宇宙キターーー!!」
「幻想キタぜぇぇぇ!!」
エンジンを噴かし、猛烈なスピードで疾走する二つのマシンは主を乗せ、財団の白い車の前へと躍り出た。
車の前方を横切る形で現れた二人の戦士に、運転していた男と助手席のカタルが眉をひそめた。
そんなことはお構いなく、二人はバイクを方向転換させ、改めて車を追跡する。
「弦太郎ぉ!」
「アヴェンジャーさん……!」
「撫子!」
「シャロナ!」
車の奥で羽交い絞めにされている二人の女性の声。
声の主の名を叫び、二人のヒーローは更にエンジンをヒートアップさせる。
だが、そうは問屋が卸さない。助手席に座っていたカタルが自ら車から飛び降りると、ファズムとフォーゼの行く手を阻む位置に立つ。
顔に異様な紋様を浮かび上がらせ、全身に力を入れたその瞬間、彼の体は瞬く間に変異を遂げていき、薄暗い色合いをしたドラゴンじみた姿の怪物、ミュータミット・サドンと化した。
「「邪魔だぁぁぁぁぁ!!」」
バイクのアクセルを全開にして突貫していくファズムとフォーゼだが、サドンダスは背中からボロついた翼を広げて空へと昇った。
「何ッ?」
サドンダスが飛行能力を持っていることによって突貫を躱された二人だが、今はサドンダスの相手だけをしている場合ではない。
肝心の撫子とシャロナを連れ去った車を追いかけることが今の二人が為すべきことだ。
二人は急いで方向転換し、車を追いかけるが、
『ハア!ハア!』
サドンダスが上空から吐き出してくる高熱線によって二人の進路には土煙が上がり、視覚的に走行が著しく阻害される。
だが、変身したことで向上した身体能力と感覚によって如何にか車の位置は見失うことなく、必死に食らいつく。
「「おおおおお!!」」
チェイスの最中、財団の車は一般車と激突しながらも走り続け、フォーゼとファズムも障害物であるドラム缶を跳び越えて、前へ前へと突き進む。
それに沿ってか、サドンダスの妨害攻撃も激しさを増していく。
「チィッ!」
激しい苛立ちの籠った舌打ちがファズムの兜から聞こえてきた。
このままでは埒が明かないと踏んだのか、彼は一旦バイクを止め、フォーゼも同じようにバイクを止めた。
「っとと、って、うおおおあああああ!!」
しかし、その瞬間を狙っていたと言わんばかりにサドンダスは停車したフォーゼ目がけて上空から体当たりをお見舞いし、フォーゼをマシンから転げ落ちさせた。
尤も、それを免れたファズムは、サドンダスが低空にいる今が好機と捉え、即座に投影魔術で造り上げた有りっ丈の贋作をサドンダスに射出しようと魔力を練り始める。
だが、
『ブオオオオオオオ!!』
「な、まさか……!?」
前触れなく聞こえてきた不吉な雄叫びはサドンダスのものではなかった。
声のした方向に顔を向けたと同時に、アヴェンジャーもフォーゼと同じように強烈な衝撃を受け、バイクから放り投げだされた。
「伏兵か……!」
現れたのはサドンダスと同じ薄暗い色合いをした異形、紛れもなくミュータミットの一体だ。
しかし、サドンダスが薄汚れたドラゴンの姿をしているのに対し、こちらは黒真珠のような色合いをした堕天使を連想させる姿である。
「貴様も……ミュータミットか。先程のと言い、噂には聞いていたが」
『アァ、デスプラーナ』
意外なことに異形の存在は無口なサドンダスとは対照的に自らの口を開いて名を名乗った。
それによってミュータミットに対する印象が僅かに変わりはしたが、所詮はそこまで。敵であることに変わりはない。
双方はすぐさま地上にて肉弾戦に突入する。
一方、財団の車は―――。
――ズドォォォン!ズドォォォン!――
六輪車形態から人型形態へと変形した3mの巨大なイエローのマシンから放たれた小型ミサイルが進路上に打ち込まれ、その爆風により横転させられてしまったのだ。
マシンの名はパワーダイザー。本来は月面基地の建設や土木作業の為に開発されたパワードワーカーだが、今はフォーゼをアシストする頼もしい仲間の一人が駆る貴重な戦力となっている。
「隼か!」
「お前らのベイビーたちを奪わせはしないさ!」
操縦していたのは大文字隼。アメフト部で鍛え上げられたその体力は、パワーダイザーの操縦によってかかる負荷をものともしない。
恐らく今の台詞の終わりに何時ものキザな仕草を入れられる程に余裕があるに違いない。
横転した車からは撫子とシャロナが逃げ出し、それを追い掛けようと財団の構成員が這い出してくる。
「撫子!」
「シャロナ!」
すぐにでも助けに行きたいが、目の前の怪物がいる限りそれは不可能。
二人が歯痒い想いをしていると、シャロナと撫子はあっと言う間に追いつかれてしまう。
【MASQUERADE】
ガイアメモリを起動させた構成員たちは自身の首筋に端子を突き立てた。
すると、メモリが体内に吸収されると同時に彼らの肉体が変質し、マスカレイド・ドーパントと化す。
ただし、通常のドーパントとは異なり、肉体のみの変身である為、白い装いはそのままである。
撫子とシャロナはドライバーを取り出し、装着すると、二つのトランスイッチをオンにする。
「「変身!」」
♪〜〜♪〜〜
「っしゃあ!」
「――ハッ!」
瞬く間に変身シークエンスを完了させ、仮面ライダーなでしこ、仮面ライダーヴァンプが姿を現した。
「宇宙キターーー!」
「宇宙……って、やっぱり無理です……」
ノリノリでポーズ付きな決め台詞が栄えるなでしことは裏腹に、生真面目な性格が災いして今一決められなかったヴァンプ。
しかしながら戦いが始まればそのようなことは全て些事となる。
二人は得意の変幻自在なトリッキーな動きと、優雅な踊りの如き流麗な動きで次々とマスカレイドたちをいなしていく。
相手がザコだった上に二人での共闘だったため、所要時間は一分未満という完勝振りであった。
「うお、あっつあっつ!」
「好い加減に離れよ!」
一方でフォーゼは背中からの噴射で後退しサドンダスの高熱線から逃れ、ファズムはデスプラーナの喉仏に地獄突きをかまして隙を造り、バク転を繰り返して港合流する。
「さてと、御三方。こっからは纏めて行くか?」
「応よ!」
「うん!」
「了解です」
全員がファズムの意見を飲み、四人が肩を並べてサドンダスとデスプラーナと対峙する。
〔LAUNCHER・ON〕
〔RADER・ON〕
〔ROCKET・ON〕
フォーゼは右足にランチャーモジュール、左腕にレーダーモジュールを装備。
なでしこは右腕にロケットモジュールを装備した。
〔SPIDER〕
〔SPIDER・ON〕
ファズムは左腕を司る□のスイッチを換装し、蜘蛛型のスパイダーモジュールを装備する。
〔SABER・ON〕
〔CASTER・ON〕
ヴァンプは二つのスイッチを連続で作動させ、右腕にセイバーモジュールを、左腕にキャスターモジュールを装備する。
「行くわよぉ!」
「ロックオン!喰らえ!」
ロケットモジュールを片腕に突っ込んでいくなでしことは正反対に、フォーゼはレーダーモジュールでサドンダスに標準を合わせ、ランチャーモジュールのミサイルを一斉に発射させた。
次々と命中するミサイル。それによって爆炎と共に宙へとぶっ飛ばされるサドンダス。なでしこはその機を逃さず、すかさず一撃を叩き込む。
「なでしこロケットキック!!」
ロケットモジュールで加速をつけたその蹴撃は見事にクリティカルヒットし、サドンダスは近辺の廃材へと突っ込んでいった。
「絡み付け!」
ファズムの命を受け、スパイダーモジュールは口からコズミックエナジー製の超合金ワイヤーを吐き出し、デスプラーナを絡め取った。
『小賢シイ!』
必死にもがくデスプラーナだが、もがけばもがく程、ワイヤーはさらにきつく彼自身を縛り上げていく。
しかも背中の黒翼までワイヤーが食い込んでおり、空へと逃げることも叶わない。
「行きます!」
〔SABER・CASTER:LIMIT BREAK〕
エンターレバーを引き、二つのスイッチによるリミットブレイが発動する。
キャスターモジュールによる高度な強化魔術によってヴァンプの脚力が極限まで上昇し、セイバモジュールの噴射力でスピードを乗せた必殺キック。
「ヴァンプミステルキック!!」
『ヌオオオオオォォォォォ!!』
盛大な悲鳴を上げ、遥か後方の建物の壁に激突したデスプラーナ。
彼もまたサドンダスと同じく、起き上がってくる様子は見られない。
「ぃよっと!」
「ふぅ〜」
一仕事終えたなでしことヴァンプはゆっくると地上へと降り、フォーゼとファズムに合流する。
「やったな撫子!お前すげぇよ!」
「中々の性能だったな」
なでしことヴァンプの戦いに、フォーゼとファズムも絶賛する。
そうして二組のテンションが否応なく上がっていく中、
「弦太郎」
なでしこがフォーゼに呼びかけ、右手を差し出してきた。
「え?」
「んっ」
それは先刻において断られてしまった儀式。
如月弦太郎の専売特許といえるアレである。
「そっか……まずは、友達からだな」
フォーゼは意を汲み取り、右手を差し出して握手をした。
ファズムとヴァンプがその微笑ましい光景に和む中、互いの拳を打ち合わせようとした―――
「「うッ……!?」」
―――が、その直前になでしことヴァンプの口から苦しみを告げる声が漏れ出た。
次第に彼女たちの体が後退していき、変身までもが解除されてしまう。
「一体何が……。いや、あいつか!」
ファズムは撫子たちの後方で大きく手を広げ、何かしらの力を行使している壮年の男に目を付けた。
服装からして財団Xの一員に間違いないだろう。
男が更に力をいれると、撫子とシャロナは瞬く間に吸い寄せられ、撫子は壮年の男に、シャロナな金髪の青年に捕らわれてしまった。
二人の男を挟むようにして、ソラリスとカタルが控える。
「貴様ら!」
「撫子たちを返せ!!」
「ハッ!!」
フォーゼとファズムが突撃しようとするも、男が口から発した衝撃波によってフォーゼとファズムは吹き飛ばされ、挙句の果てに変身解除にまで陥ってしまう。
それを余所に、男は撫子を捕まえたまま左手に持った奇妙な器具を撫子の脇腹に押し当てた。
器具は銃のような形状だが、スライドにあたる部位の末端にはスイッチらしきものが装填されているが、発射する為のものではないらしい。
一方で、全く同タイプの器具が金髪の青年の手に握られている。
「ソラリス。スイッチを」
「はい」
金髪の男に命じられ、ソラリスは身動きのできないシャロナの懐から件の未知のスイッチを奪い取った。
奪われたスイッチはそのまま金髪の男の手に渡り、器具の装填部位に収められると、銃口はシャロナの首筋へと押し付けられる。
二人の男が不敵な笑みを今一度浮かべると、二本の指が引き金を同時に引いた。
銃口から歪な光がすると、撫子とシャロナの体が発行し始める。いや、正確にはその光を吸い上げられていると言うべきか。
「弦……太郎……」
「アヴェ……ン、ジャ……」
全てを奪い取られながらも必死に手を伸ばし、光の泡粒を飛ばす撫子とシャロナ。
「撫子ぉぉぉぉぉ!!」
「シャロナァァァァァ!!」
次第に光は弱まっていき、撫子もシャロナも、もはや声を出す事すら叶わなくなり、伸ばしていた腕も垂れ下がっていく。
そして、撫子の姿は完全に消失し、壮年の男が持つ器具に装填されたスイッチに吸い込まれ、そこに彩りを与えた。
シャロナは姿こそ消えはしなかったが、残っているのは身体だけ……肝心の中身だけを抜き出され、金髪の男の手にある器具のスイッチに色を取り戻させた。
「「うああああああああああああああああああああ!!!!」」
初恋の人を、初恋の人の面影を持つ人に降り注いだ不幸は、弦太郎とアヴェンジャーの心へ冷たい雨となって共に降り注いだ。
絶叫する二人を余所に、壮年の男と金髪の男は器具からスイッチを取り出すと、残されたシャロナの肉体をアヴェンジャーに投げてよこした。
「好きにすると言い。それはもう空っぽのお人形と変わらないからね」
「貴様、シャロナの魂を……!」
「そうだよ。このMEGAスイッチはコズミックエナジーだけでなく、魔力と、人間の魂を通じて『根源』へと至る道標となる究極の鍵だ」
「だから、シャロナを……」
”根源”。
それは全ての魔術師が追い求める、AにしてΩたるモノ。
全ての起源がそこにあり、全ての終焉がそこにあると言われている。
俗にアカシックレコードとも言われ、この領域に到達した者は究極の知識を得るとされている。
「バカな女だよ。多量の魔力を持った人間の魂ならば誰でも良かったのに、最後まで綺麗事を優先した結果がこれだ」
確かに魔術師の観点ならば、シャロナは後一歩の所で此の世で数える程の者しかたどり着けなかった領域に足を踏み入れたにも関わらず、死を容認できず、挙句の果てに自分の魂を生贄にされてしまったのだ。
全うな魔術師からすれば、愚か者を通り越してた表現しか思い浮かばないだろう。
だけど、そうだとしても、
「僕は……」
この男の腕に抱かれる器の主を思いを否定される言われはない。
「SOLUはッ、エネルギー量子に変換された!」
「まさか、その中に撫子が!?」
一方で壮年の男は自分の器具からSOLUスイッチを取り出し、弦太郎らに見せびらかすように宣言した。
「この中にあるのは純粋なエネルギーのみだ。解り易く言えば、君が求める彼女は……死んだということだ」
「…………」
弦太郎もまた、大切な人が消え去ったことを実感させられ、膝をつき意気消沈する。
しかし、それも僅かな間の事でしかなかった。
「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
弦太郎とアヴェンジャーは雄たけびを上げながら愚直に財団の一団に突っ込んでいった。
この画を冷静な人間が見れば、間違いなく無謀の一言で言い表すだろう。
事実、弦太郎とアヴェンジャーはソラリスとカタル、そして壮年の男と金髪の青年の輪の中で言い様に弄ばれ、
「フン」
――ドガッ――
「「ぐあぁっ!!」」
土手っ腹に入った蹴り一発で数メートルも吹っ飛ばされてしまった。
「あの強さ、人間じゃない……!」
賢悟は壮年の男と金髪の青年の常人離れした脚力に戦慄する。
そんな賢悟のことなど視界にすら入れず、財団の者達は俯せる弦太郎と、シャロナを抱えるアヴェンジャーにこう告げた。
「先逝く若者たちよ、愛する者に殉じたまえ」
「撫子……」
「僕は、また……また……」
壮年の男の台詞は弦太郎とアヴェンジャーには届かない。
大粒の涙を流す二人の心には雑音すら届かない。
「抹殺」
「ラジャー」
壮年の男の命令に金髪の男が答えると、壮年の男はMEGAスイッチを受け取り、ソラリスと共に立ち去った。
残った金髪の男とカタルはサドンダスとデスプラーナに変貌し、弦太郎とアヴェンジャーを襲い掛からんとする。
「……撫子……」
「何で、僕は……メドゥ姉……」
未だ悲しみに暮れる弦太郎とアヴェンジャーはそのことすら認識しているか怪しい。
ただ一つ言える事は、このままでは二人は無抵抗のまま死ぬという事だけだ。
『グゥゥゥ……!』
サドンダスは率先してまずは弦太郎を引き裂いてやろうとするが、そこへパワーダイザーが割り込んだ。
「弦太郎たちに手出しはさせない!!」
隼が決死の思いでサドンダスを食い止めるが、
『真っ直ぐすぎるね』
――ブンッ――
「うわあああああああ!!」
横合いからデスプラーナが放った光弾によってパワーダイザーが弾き飛ばされ、搭乗していた隼が強制的に排出され、地面へ転がり落ちた。
――ブゥゥゥゥゥン!!――
だが、そこだけで援護は終わらない。
マシンマッシグラーに乗った賢悟がサドンダスに突っ込み、前輪を持ち上げられながらも必死にジェットエンジンを噴かす。
カースも服の袖から大量の御札を指に挟み、デスプラーナ目がけて投擲する。
「如月!今は思う存分泣け!君たちが泣く時間くらい、俺たちが作る!」
「そうじゃ!泣くべき時に泣かねば、力が出ぬぞ!」
「「…………」」
相方の言葉に、弦太郎とアヴェンジャーは涙にぬれた顔を上げた。
「そうだよね。いっつも弦ちゃんに助けられたもんね!」
「仮面ライダーは独りじゃないわ!」
「やる時には、やる!」
ユウキ、美羽、友子の女子メンバーも手にフードロイドを持ち、それを一斉に投げつけた。
だが、しょせんはサポートメカ。数倍のサイズと馬力を誇る怪人を相手にさせても10秒足らずの時間しか稼げない。
『ヴオッ!』
『猪口才だね』
サドンダスの光線とデスプラーナの光弾が直前に炸裂し、女子メンバーたちは地に伏してしまう。
「「「キャアアア!!」」」
「うあああああ!!」
同じく吹っ飛ばされたJK。
彼は横ばいの恰好になりながらも、懐から何かを取り出しながら弦太郎たちを励ます。
「俺は、戦うことはできないけど……ハンカチくらいなら……」
「「お前ら……」」
弦太郎は勿論の事、アヴェンジャーも心の中に何かが生じ始めていた。
自分よりも年若く、この世の非情さを知らない―――いや、だからこそ、こうして真っ直ぐに道を進む若者たちがいてくれたことに、どこか感動めいた思いを抱いた。
そうこうしている間に、マッシグラーに乗った賢悟と魔術を統べるカースも一息の間に無様に地べたを這いずる姿を晒してしまう。
でも、彼らは決してそれを屈辱とは思わない。彼らの顔にはただ只管に友達の為に、仲間の為に今を凌ごうとする覚悟がある。
「―――投影開始」
そして、覚悟は飛び火した。
魔力によって造りだされ、空中に浮かぶ何十本もの剣、槍、斧といった各種の武器が一斉にサドンダスとデスプラーナを襲う。
それによって彼らに大きな隙が生まれた。
アヴェンジャーの心は決まった。彼はそれを行動で示した。
弦太郎は……。
「……泣いた。思い切り泣いた!」
全てを出しつくし、立ち上がって見せた。
「まだ怒りは収まらないが、涙は出し切った!」
「そして、この怒りをぶつけるだけだ!」
弦太郎はライダー部の前に立ち、アヴェンジャーはシャロナの体をカースに任せ、弦太郎の隣に立った。
「皆……ありがとな」
「あぁ……本当に感謝している」
静かに感謝を述べ、二人はドライバーを装着し、トランスイッチを押した。
レバーを握り、腕を構え―――
「「「「「「「スリー!ツー!ワン!」」」」」」」
仲間たちの声を出したカウント。
それがゼロとなる瞬間、
「「変身ッ!!」」
♪〜〜〜♪〜〜〜!
「っしゃあ!」
「ッハア!」
宇宙の神秘を白と黒の鎧に変え、二人の戦士が降臨する。
「宇宙キターーー!!」
「幻想キタぜぇぇぇ!!」
腕を天へと突き伸ばし、大空の彼方へと響く絶叫を木霊させる。
「さて、攻守交代と行こうか!」
「これ以上俺たちの”ダチ”は傷つけさせないぜ!」
そして拳を敵に突きつけ、漢と騎士は宣言する。
「仮面ライダーフォーゼ、タイマン張らせてもらうぜ!」
「仮面ライダーファズム、ミッションスタートだ!」
白の戦士と黒の戦士の名乗りを受けて、サドンダスとデスプラーナが気合を入れるようにして翼を広げた。
「コイツで行くぜ」
「なら僕はこれで」
〔FIRE〕
〔SHINOBI〕
フォーゼは赤い20番のスイッチを、ファズムは緑の20番のスイッチを○のソケットに差し込んだ。
〔FIRE・ON〕
〔SHINOBI・ON〕
スイッチがオンとなった時、フォーゼの手が赤く染まり、専用モジュールのヒーハックガンが握られた。
片や、ファズムの右手は緑色になると、その手には一振りの忍者刀、ズバットヤイバが握られた。
そして、紅焔と緑風が吹き荒び、それが晴れた末に姿を現したのはステイツチェンジを完了させた二人だ。
赤を基調とし、消防士のような姿をしたフォーゼ・ファイヤーステイツ。
緑を基調とし、忍者のような姿をしたファズム・シノビステイツ。
「叩っ斬る!」
ファズムはズバットヤイバの柄と鞘を連結させることで薙刀状のグレイブモードに移行させると、ジグザグな線を描くような高速軌道で敵に迫っていく。
『『ムン!』』
それを迎え撃つサドンダスとデスプラーナ。
放たれる熱線と光弾。それらを避けるべく、フォーゼへ上方、ファズムは後方へとジェット噴射する。
迎撃が一度区切ると、二人は再び元の位置へと戻り、ファイヤースイッチとシノビスイッチをモジュールに装填した。
〔〔LIMIT BREAK〕〕
「ライダー爆熱シュート!!」
「シノビ烈風スラッシュ!!」
スイッチからモジュールへと伝達される大量のコズミックエナジーが銃口と刃金に集束していく。
ヒーハックガンの銃口から超高熱の火炎が放射されてサドンダスに、ズバットヤイバから放たれた風の斬撃がデスプラーナに。
各々の攻撃は目がけた敵に向かって一直線に飛んでいく。
しかしながら、サドンダスもデスプラーナも出力全開の熱線と光弾で強引に張り合い、それを相殺して見せた。
「ッ!―――だったら…………ん?」
次なる一手を繰り出すべく、ファズムが駆けだそうとすると、足元に何かが落ちていることに気が付いた。
それはセイバモジュールを模した金色のアストロスイッチだった。
フォーゼもまた、足元にロケットモジュールを模したオレンジ色のアストロスイッチがあることに気が付いた。
そうして二人は思い出す。
SOLUスイッチとMEGAスイッチに全てを封入される直前、彼女らはその手から何を捻りだしたのかを。
「そうか。撫子が俺に……!」
「スイッチをコズミックエナジーに還元し、自らの体内に……。やはり、彼女は天才だ」
〔ROCKET SUPER〕
〔SABER SUPER〕
ファイヤースイッチとシノビスイッチに代わって新たなるスイッチを装填し、オンにする。
〔ROCKET・ON〕
〔SABER・ON〕
フォーゼはロケットスイッチスーパーワンの力により、アーマーの色はオレンジ、バイザーは青となり、両腕にはロケットモジュールが装備されたロケットステイツにステイツチェンジしてみせた。
ファズムはセイバースイッチスーパーワンの力により、アーマーの色はゴールド、バイザーは青となり、両腕にはセイバーモジュールが装備されたセイバーステイツにステイツチェンジしてみせた。
「ウダウダしてる気はねぇ!」
「一気にカタをつけるぞ!」
両腕のモジュールが火を噴いた瞬間、二人はサドンダスとデスプラーナをモジュールの先端に突き刺すようにして捕まえると、そのまま勢いは衰えることは無く、遥か空の彼方へと急上昇を続けていく。
加速力に特化したこの形態の猛烈なスピードによって、二人と二体は短時間で雲を突き抜け、重力圏の少し外れにまで到達して見せたのだ。
「「オリャ!」」
目的の高さにまで達すると、距離を取る為二人は敵を蹴りつけた。
多少力が弱くとも、既に重力の枷から解き放たれている状態ならば、僅かな空気でも噴射したかのような軌道を描ける。
十分な距離を稼ぐと、二人は左腕のモジュールを一時的に解除し、エンターレバーを作動させる。
〔ROCKET:LIMIT BREAK〕
〔SABER:LIMIT BREAK〕
音声と共にモジュールを再び左腕に装着した二人は、二つのモジュールの噴射口の向きを調整し、その噴射の力を利用して高速回転しながら敵に突撃した。
「ライダーきりもみクラッシャー!!」
「セイバー竜巻バニッシャー!!」
『『ぐぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!』』
地球を回る衛星すらも見ることのない場所で、二つの渦が二つの花火を爆発させた。
*****
地上へと戻ったフォーゼとファズムは変身を解き、今後のことについて話し合っていた。
託されたスーパーワンのスイッチを握りながら、弦太郎とアヴェンジャーは財団Xの後を追うべく情報収集に動こうとしている。
しかしそこへ、四台のバイクのエンジン音が聞こえてきた。
現れたのは、袖を切り落とし五体に鎖を巻き付けた奇抜な黒い忍び装束を纏った女。
もう一人は、凹凸の激しい蠱惑的な身体のラインを明確に浮かび上がらせる黒革のライダースーツを着込んだ女。
もう一人は、これと言ってファッションに頓着しない恰好をした人のよさそうな男。
そして、黒い着流しに黒いズボンを着た白髪に赤い瞳をした男。
「やあ、弦太郎くん。友達増えた?」
「あんたはオーズ……」
それは真庭竜王、ルナイト・ブラッドレイン・シルフィード、火野映司、鋼刃介の四人であった。
「あんたら、何故ここに?」
「お前たちもカンナギを追っているのだろ?」
「奴の居所なら、私たちにアテがあるわ」
「人手が要る。力、貸してくれ」
こうして、記憶と欲望と神秘の物語は交差する。
三つの世代は栄光の時代さえも交えた、究極の銀幕舞台へと繋がっていく……!
次回
「MOVIE大戦MEGA MAX」
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