仮面ライダー×仮面ライダー ファズム&ブライ MOVIE大戦MEGAMAX
颯爽のJとL/英・雄・邂・逅
風都。
常に風が吹き、それを利用した風力発電が盛んに行われているエコの街。
その象徴である巨大な風車型発電機、風都タワーは今日も静かに回っている。
そんな街では、今日、恐るべき陰謀を止めるべく、二人の男がバイクを駆って黒い車と鉄色のトラックを追いかけていた。
二台のバイクは街中をまるで自分の庭のように自由自在に走り、遂には標的に追いつき、抜いて見せた。
車とトラックの運転手は目の前の障害物に対処すべく、すぐに車から降りてきた。よく見ると、車の中には奇妙なカプセルを持つ者がいた。
バイクを駆る二人はその足を止め、滑らかな動きで車体から降り、ヘルメットを取り払う。
「おい!ったく、危ねぇだろうがよ!」
バイクを駆る二人の内、キザな仕草が目立つシャープな顔立ちの青年、左翔太郎が問いかける。
「そういきり立つな、左。食事のマナーがなっていないぞ」
片や、黒いロングコートを纏った長身の男、無限ゼロは嗜虐的な表情を浮かべながら、車から降りたの面々を嘗めるように見回している。
二人の白服と、数人の黒服姿の怪人、マスカレイド・ドーパントである。
「そぉの白服……」
「言うまでもないが……」
翔太郎とゼロは自らの腹部にバックル状のメカを押し当てると、メカからはベルトが伸び、二人に装着された。
「フィリップ!財団Xだ!」
「リインフォースよ、心とメモリの準備は良いか?」
二人は此処にはいない誰かに話しかける。
決して二人に奇癖があるというわけではない。
ダブルドライバーとイーヴィルドライバーを身に着けると、二人は自分と遂になる『相棒』と感覚を?げることが出来るのだ。
しかし、
(翔太郎……僕は今、もっと興味深いことを調べているんだ)
翔太郎と接続されたのは地球の申し子、魔少年フィリップ。
彼の特徴はというと、
(君は、煎餅汁を知っているかい?青森県八戸の―――)
「わかった!わかった!」
この通り、興味がわく対象について、徹底的に調べ尽くすという異常知識欲である。
しかも、それを調べるためにアカシックレコードの一種である『地球の本棚』を用いるという能力の無駄遣いぶりを発揮している。
一方、
(ゼロ……その……すまないが……)
――あぁぁぁぁぁん!うぁぁぁぁぁん!――
(ネオがこんな状況で……手が離せない……)
ゼロの伴侶、リインフォースを通して赤ん坊の泣き声が聞こえる。
間違いなくまだ幼い息子のネオのものだ。
何時もなら母に抱かれれば直ぐに機嫌をよくして寝付くというのに、珍しいこともあったものである。
「ふぅ……是非も無しか」
流石に向こうの状況を鑑みて、ゼロと翔太郎は装着済みのドライバーを外し、代わりのドライバーを装着した。
翔太郎はダブルドライバーなら有る筈の左側のスロットがなく、右側のみにスロットが設けられたドライバー。
ゼロはスロットが三つあるイーヴィルドライバーとは違い、ダブルドライバーのようにスロットが二つ設けられているドライバー。
「俺一人で何とかする」
「左よ。一人ではなく、二人だぞ」
「おっと、そうだったな」
ロストドライバーとEXドライバーを装着した二人。
すると、財団側の白服の二人は手にセルメダルを持ち、額に現れた投入口に入れると、二人の体から欲望の肉塊『ヤミー』が現れる。
生まれ出でた当初はミイラ男のような白ヤミーの姿だが、すぐに殻を突き破って成長体のカブトヤミーとカマキリヤミーに変貌した。
それに臆することなく、ゼロと翔太郎はUSBメモリ型のアイテムを手に取る。
「一体何を企んでやがる財団X?」
「訊くだけ無駄だ。吐かせればいい」
【JOKER】
【LEADER】
黒のガイアメモリと紫のガイアメモリから地球の囁き声が聞こえてくる。
右側のスロットにメモリはインサートされ、ゼロと翔太郎はこう叫んでスロットを傾けた。
「「変身!」」
【JOKER】
【LEADER/XCELION】
顔に奇妙な紋様を浮かべながら、二人は巻き起こる旋風に混じった黒と紫の粒子に包まれる。
全身が黒のガイアアーマーに覆われた切札の戦士、仮面ライダージョーカー。
全身が紫のガイアアーマーに覆われた魔性の支配者、仮面ライダーリーダー。
「やれ」
白服の一言で、ヤミーとマスカレイド達が一斉に襲い掛かる。
「この街を泣かせる奴は、許さねぇ!」
「この『欲望』はもう、私の手中にある……!」
ジョーカーとリーダーは武器を持たず、素手のままで軍勢に挑みかかる。
多勢に無勢だが、二人にとっては所詮は烏合の衆。
大量生産を前提に造られた下級メモリのマスカレイドの力など、セールスマンが売り歩いているメモリにさえ劣る。
そんな雑魚を相手に純正化されたメモリを使っている仮面ライダーが負ける要素など1%も含まれてはいないのだ。
「この、小童が!」
ジョーカーはマスカレイドの一体にデコピンをかますと、そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばした。
「行くぞ」
しかし、その先には上司と共に謎のカプセルを持った白服の姿があった。
投げ飛ばされたマスカレイドは白服たちに激突し、その拍子にカプセルは地面へと転がり落ちてしまう。
おまけに地面へと落ちた際、その衝撃でロックが外れてしまったのか、中に閉じ込められていたスライム状の物体はそこから這い出ると、道路のわきにある下水の穴へと入り込んでいってしまった。
「……あれは……」
逃げ行くスライムの姿にリーダーの双眸が鈍く光った。
*****
日本某所・空港X。
ここでは財団Xが所有する大型宇宙ロケット・エクソダスが発進スタンバイをしながら、ある計画の重要な拠点となっていた。
プロジェクトを一任されたレム・カンナギが数人の部下を引き連れ、エクソダスの中に入っていく。
機内では幾人もの白服たちが作業に追われており、カンナギはそれらを一瞥しながら進んでいき、目的の物が安置されている場所へ赴く。
それは、三つの円形の窪みと四角い窪みのある鋼鉄のバックルと、刀身に三つの円形の窪みと鍔に四角い窪みがある大剣だった。
カンナギは嬉々とした様子でポセイドンのコアをバックルに、テュポーンのコアメダルを大剣に収めた。
「メダルとスイッチ―――二つが手に入るのも、時間の問題だ」
そんな時、機内に緊急事態を示す警報が喧しいほどに鳴り響いた。
「トォ!」
と同時に、勇ましい掛け声が轟き、なぎ倒されていく者達の悲鳴まで耳に届く。
次々とこちらへ転がってくる白服たち。彼らを踏み越えて姿を現すのは、14人の戦士たち。
「そうはさせんぞ!レム・カンナギ!」
「これはこれは……伝説の昭和ライダーの諸君!わざわざ来てもらえるとは、光栄だな」
現れた敵に対し、カンナギは余裕綽々な態度で露骨な嫌味を口にする。
「貴様ら財団Xが、世界のエネルギー支配を目論んでいるのはわかっている!」
「この世に生きる者達の自由を奪うことなど、この俺たちが許さん!」
ストロンガーとRXの啖呵に対し、カンナギは一切臆せずに返した。
「貴様ら仮面ライダーなどに私の計画は止められない。やがて銀河の王となる男の前ではな」
カンナギは手にした奇妙な形状のリモコンを操作すると、機内の天上の四隅に設置された装置が起動する。
昭和ライダーたちは装置が発する波動によって悶え苦しみ、眩い光を放ち、何かに囚われていく。
「あとはSOLUだけだな」
忌々しい邪魔者たちの最期に、カンナギは猛々しい表情でラストピースに照準を定めた。
*****
風都。
「左。雑魚は任せた。私はヤミーをやる」
「ま、止めたところで聞かないんだろ?」
ふっ、とリーダーは肯定を意味する微笑を浮かべ、スロットのメモリを二本とも、ベルトのサイドバックルに設置されたマキスマムスロットにインサートする。
【XCELION/LEADER・MAXIMUM DRIVE】
「ライダー!」
リーダーは空中へと跳びあがると、すぐさま急降下してカマキリヤミーに拳を叩き付ける。
「反転ェン!―――」
攻撃の直後に再び跳躍し、
「―――ダブルゥ……パァンチ!!」
二度目の一撃を叩き込む。
カマキリヤミーはそれに耐え切れず、爆散すると同時にセルメダルを撒き散らす。
【XCELION/LEADER・MAXIMUM DRIVE】
さらにもう一度マキシマムを発動させると、リーダーは狙いをカブトヤミーに絞り、助走をつけて跳ぶ。
「電光ライダァァァキィィィック!!」
突きだされた足が甲虫の堅い表皮を砕き、たったの一撃でカブトヤミーもまた、セルメダルの山となって砕け散った。
【JOKER・MAXIMUM DRIVE】
「ライダーパンチ!」
ジョーカーもマスカレイドを一気に片づけるべく、残り二体の内一体に必殺の拳を叩き込む。
技が決まると、ジョーカーは間髪を入れずにもう一度スロットを起動させる。
【JOKER・MAXIMU DRIVE】
「ライダーキック!」
光を伴った蹴りが最後の一体を薙ぎ払い、見事メモリブレイクしてみせた。
状況が一段落し、二人は変身を解除した。
「ふっふっふ」
ゼロは飛び散ったセルメダルを掻き集め、懐に収めていく。
人ならざる特異な生物である彼にとって、欲望の結晶であるセルメダルは貴重な食糧なのだ。
「ったく、何を運ぼうとしてたんだ?」
翔太郎はというと白服が落としていったカプセルを手に取っていた。
しかし、蓋の空いたカプセルの中身は空っぽである。
「これは……?」
「調べてみる必要があるな」
伽藍同になったカプセルを見つめる翔太郎と、セルメダルを拾い終えたゼロは、これから始まる死闘を予感し、各々の相棒に検索の依頼をすることに決めた。
*****
天ノ川学園高等学校。
天ノ川学園都市に建設された、生徒たちの個性を伸ばすことを最大の目的とした私立高校。
今日、この学校では全教師と全生徒の総力を挙げた学園祭が執り行われており、普段ならやってくる事のない部外者たちもお客さんとして来訪してきていた。
元々、様々な分野で成功した人物を輩出した名門校だけあって、その学園祭を目にしようとする人間は多く、校門から内側は人の波が出来そうなほどにごった返している。
そんなこの学園の門前で過装飾されたアーチごしに校舎を見渡す二人組の姿があった。
片や、銀髪碧眼で黒いジャケットを纏った青年。
片や、長い赤髪で黒のタートルネックとロングスカートの美女。
このような二人の恰好は、生来の整った顔立ちも含めて衆目を集めやすいのだが、この日この場所においては問題なかった。
個性派重視の名門校の学園祭ともなれば、奇抜なスタイルで人目を引こうとする人物も現れるだろうし、そういうイベントだってあるだろう。
周囲の一般客や生徒たちは、二人組のことをそのように認識して居たのだ。
「ここが天高か」
「……ふむ。随分、良質の霊地を押さえたらしいな」
互いの耳にしか届かぬ声量で軽口を叩き合う二人組。
何時までもここで立ち止まっては他の来客の顰蹙を買うと考え、いよいよ門を潜って校内に入っていく。
「コズミックエナジーの反応がここ数年でやたらと活性化している二つの内の一つ」
「京都は兎も角、こちらには念入りな調査が入りそうじゃな」
群衆を掻き分けるように歩む二人は、楽しそう、という表現から程遠い表情で天高全体を見据える。
「魔術協会と聖堂教会。ここ最近、死徒狩りや魔術師狩りも一段落したと思えば……」
「これでは、十数年前の再現じゃな」
「まあ、あの女を仕留め切れていない以上、この状況も致し方ないことか」
青年は心から憂鬱そうに顔をしかめ、溜息をそっと吐き出した。
あれから十数年。この世で第二の生を受け、あの激闘の日々を潜り抜けて尚、彼の目的は果たせていない。
受肉したこの体が擦り切れるまで戦うことを決意したが、このまま為すべきことを為し遂げられないのなら、身体より先に魂が擦り切れそうである。
「そう時化た顔をするでない、アヴェンジャー。この学び舎でゾディアーツが出たという噂はひっきりなしに出ておる」
「あぁ……そうだな。手掛かりはきっとある。僕の復讐に、まだまだ付き合ってもらうよ。マスター・カース」
銀髪碧眼の男の呼び名はアヴェンジャー。
赤髪黒衣の女の名前はカース。
十数年前、冬木の地で聖杯戦争を終結させた八番目の主従であった。
*****
時間は若干進み、校舎の内外で様々なイベントが始まる時間帯となっていた。
調査も大事だが、そればかりでは神経が疲れる、というカースの意見により、主従は暫しの間だけこの学園祭を楽しむことにした。
なにより、この学園祭を楽しく過ごす様子を見せておけば、周囲の一般人から怪しまれることは無いだろうという打算も込められている。
そう決めると、カースとアヴェンジャーは校庭のほうで開催されるイベントを見ようと思い、試しに行って見る。
すると、校庭に建てられたステージの上に立つ仮装した生徒たちの姿が目に映った。
いや、釘づけになった、という表現の方が正しいだろう。
なにしろその生徒たちは、即席であることは丸わかりのハリボテとはいえ、明らかに仮面ライダーを意識した仮装をしていたのだから。
というか、このステージの横には、「都市伝説仮面ライダーって何?」という看板が出ていた時点で何処となく予感はしていたが。
「仮面ライダー。それは世界の闇に潜む悪と、人知れず戦う戦士。このヒーローの噂は伝説となりました」
ステージの上部には、栄光の七人ライダー、という題名が書かれており、それぞれのライダーたちのプロフィールが掲載されている。
しかし、アヴェンジャーとカースは仮装した生徒たちの数とライダーの数が合っていないことに最初から気づいていた。
いや、まばらに(しかも野次を飛ばしながら)見に来ている一般生徒らも解っていたに違いない。
1号、2号、V3、ライダーマン、X、アマゾン、ストロンガーの七人の筈が、六人しかいないことに。
V3を演じている美羽という女子生徒も歴代ライダーたちを紹介する途中でそれに気が付き、ステージは何とも言えない空気になる。
「JK?JKは!?」
「JKどこいったぁ!?」
当然のことながら、この小学生の発表会じみたイベントは緊急中止され、六人の生徒たちは急遽としてXを演じる筈だったJKなる生徒の捜索に乗り出した。
観客たちは終始つまらなさそうに野次を飛ばし続けるのみだったが、一切の邪念なくこのイベントを見つめていた四つの眼光。
「あの子たち、まさか……」
アヴェンジャーは都市伝説研究部と名乗る六人の生徒たちから、自分と同じにおいを感じていた。
自らが背負いし称号―――仮面ライダーの気配を。
*****
場所は移ろい、この学術都市に侵入、というよりは逃げ延びてきた一人の女性がいた。
170cm強の長身、紫色の豊かな長髪は光を浴びて鮮やかに輝き、四角い眼鏡の奥にある瞳は宝石のように煌めき、白衣で覆われた身体は起伏に富み―――まさに人が思い描く限りの理想を体現した美女であった。
女神、という言葉は紛れもなく彼女の為にあるといっても過言ではない程に。
しかし、彼女の背後に迫るのは、幻想的な美など歯牙にもかけぬ者達であった。
『待てやこのアマッ!』
汚いヤンキー言葉を浴びせる異形。
その姿は凶悪な顔をした蛇で、体にはクロークがまとわりついているが、彼専用の切れ込みの多いデザインを用いている所為で走るたびに隠されたその身が僅かに覗く。
見えたのは身体に走るスターライン。星座に興味のある者が見れば、それが水蛇座であることを見抜いたであろう。
「ヒュドラ……!」
女性は後方をちらりと覗き見て追跡者の名を毒づくように呟いた。
『さっさととっ捕まれやゴラァ!』
一方でヒュドラ・ゾディアーツはドスの効いた荒々しい声で女性を脅迫するように叫び散らす。
その怒声に連鎖するように、女性の逃げ足は加速していく。それに応じて怒声も大きくなっていく。ある意味、負のスパイラルとも言えた。
(捕まる訳には……。折角、ここまで来たのに……!)
女性は懐の中に仕舞い込んでいるものに手を当てながら逃げる気力を高ぶらせ、両脚の動きにさらなるアクセルをかける。
『待てっつってんのが聞こえねぇのかクソォ!!』
穢れにまみれた言葉がぶちまけられる。
しかし、それでも彼女は止まらない、止められないのだ。
女は白衣のポケットから手中に収まるサイズの四角い物体を取り出し、すぐに後ろへと放り投げた。
――ビカッ!――
『ぬぁっ!?……くっそ、アマァ……!』
前触れもなく生じた閃光によって一時的に視覚を潰されたヒュドラは足を止めざるを得なくなり、目を押さえて逸早く双眸の回復に努めようとする。
「もうすぐ……もうすぐ……!」
彼女はその隙に自らの肉体に強化の魔術を掛け、目的地へと駆ける。
彼らゾディアーツと戦う者がいる学び舎を目指して。
*****
天高の校庭では、大勢の生徒と一般客が集まり、一様に空を眺めていた。
いや、正確に言うと空ではなく、空から降ってくる一人の人間を見ていたのだ。
「彼女キターーー!!」
それを目にして叫んだのは、リーゼントヘアに黒の短ランという昭和の不良スタイルの生徒。
彼は一目散に駆け出し、やじ馬たちを押しのけて少女の落下位置を陣取ると、天から落ちてきた少女を二本の腕でしっかりと受け止めたのだ。
ここに、如月弦太郎と美咲撫子。銀河を揺るがす運命の出会いが為された。
*****
弦太郎と撫子の出会い。
それは勿論の事、アヴェンジャーとカースも遠巻きに眺めていた。
「あの少女……」
「うむ。人間ではないな」
周囲には聞こえないよう小声で会話する二人。
魔術の使い手である彼らは、天から舞い降りた少女に対し、遠距離ながら解析の魔術を行ったのだ。
距離が離れている為、詳細なことまではわからなかったが、それでも彼女の体からは人間が持つ固有の波長や生命力といったものが見受けられなかったのだ。
いや、正確には、あの体の内外の全てがエネルギーの塊であることが見受けられた。
何かが起こる、いや、すでに起こっている。
カースとアヴェンジャーはそれを確信し、この学園に対する警戒心を高めていく。
「はぁ……はぁ……」
そんな時、校門の近くから女性の荒い息遣いが聞こえてきた。
周囲の人間は弦太郎らに視線が釘付けになっているせいで聞こえない様だが、色々と人間離れしている二人の鼓膜には関係なかった。
視線はすぐさま弦太郎らの姿から外れ、校門の前で息を整えている女へと向かう。
「あ奴は……?」
カースは女の姿を確認すると、アヴェンジャーと共に人の群れから離れ、校門に向かって歩んだ。
自分に近づく者の気配を察し、女は下げていた顔を上げ、二人の姿を視認する。
「あ、貴方がたは……」
「あぁ、心配は無用じゃ。そなたの敵ではない」
「…………」
カースは出会いがしらに自分たちに敵意が無いことを伝え、出来るだけ穏便に会話を繋げようと努める。
一方でアヴェンジャーは女との距離が近づいた瞬間、何か信じられないモノを見たかのような表情でかたまり、無言になっている。
「あの、貴方、アヴェンジャーさんですよね」
「……えぇ」
と、そこへ意外にも女の方からアヴェンジャーに対して話しかけてきた。
女はまるで、偶然にも芸能人と出逢ったミーハーな庶民のように目を輝かせ、先程の姿が嘘のようにアヴェンジャーへと迫った。
「まさか、こんな場所で、先達に出会えるとは……光栄の極みです」
「君は、一体……?」
少なくとも、自分はこの女を知らない。
もし知っていれば、決してこの貌を忘れることは無い。
何故なら、
「申し遅れました。私の名前は、シャロナと言います」
(……メドゥ姉……)
彼女の顔、髪、体格。
それら全てが、衛宮空の初恋の人―――メドゥーサと瓜二つなのだから。
*****
アヴェンジャー、カース、シャロナは校庭の真ん中での美少女落下騒ぎに乗じてその場から足早に立ち去り、校舎内で落ち着いて話せそうな場所に入った。
向かったのは生徒たちが出し物の一環で出している簡易喫茶。周囲には一般客や生徒らが賑わっているが、逆にこれなら、こちらの会話など他の話声で埋もれてしまうだろう。
「じゃあ、君はファーブルたちの追手に……」
「はい。身柄を狙われ、ここまで落ち延びました」
シャロナから聞かされたことのあらまし。
彼女は十数年前の第五次聖杯戦争以来、地球上の各地で確認され始めたコズミックエナジーに、魔術とは違うベクトルの可能性を感じた。
そこで、コズミックエナジーを魔術的見地で研究し、宇宙の神秘を通して「根源」へと繋がる鍵にしようとしていたらしい。
それ故、コズミックエナジーの力を用いた仮面ライダーファズムのことも小耳にはさんでおり、何時か直接会って様々な話をしたいと思っていたらしい。
ある意味、研究者らしいが、魔術師とは若干ズレた考えの持ち主とも言えた。
その所為か、アヴェンジャーと会話をするシャロナの瞳の奥には爛々とした煌めきが灯り出している。
「というか、君が奴らに狙われる理由は一体なんだ?」
「……実は、貴方が使っている宝具―――ベルトとスイッチの模造品を作り上げたんです」
「僕のファズムシステムを……!?」
衝撃的な告白を受けてアヴェンジャーが狼狽し、カースも声こそ出さないが、僅かに目元を動かしていた。
だが、驚いた矢先にアヴェンジャーは冷静さを取り戻し、質問する。
「そのシステムの完成度は?」
「先程申した通し、模造品ですので……劣化コピーという表現がしっくりきますね」
「そうか。……じゃあ、もう一つの理由は?」
何物をも貫くような鋭利な視線がシャロナに向けられる。
このような質問をする訳は只一つ。
たかだかドライバーが一つ増えたところで、奴らは目くじらを立てはしないからだ。
しかも、それが劣化品ともなれば、尚更だ。
「…………それは―――」
微妙に長い沈黙ののち、シャロナが顔を俯かせ、目を泳がせながらも、真実を語ろうとした瞬間―――
――バッ!――
黒装束と銀の仮面の装いをした怪人物たちが校舎内に侵入してきたのだ。
その風貌は勿論の事、手に持った忍者刀によって一般人はパニックに陥り、悲鳴を上げている。
「ダスタード!」
彼らの正体は、高位のゾディアーツがコズミックエナジーから生成する戦闘員。星屑忍者ダスタードである。
「ここじゃ拙い!」
アヴェンジャーたちは素早く模擬店の外に身を放り投げ、ダスタードらを誘き出す。
校舎の中を下手に移動すれば無遠慮なダスタードによって生徒たちへの被害が増す可能性がある。
ならば、行き先は拓けた場所、即ち校庭である。
ここにもイベントや露店をやっている人間がいるだろうが、逃げ場の少ない屋内よりはマシなはずだ。
三人そろって校庭へと躍り出し、そこでダスタードを迎え撃とうと考えた。
が、この時の三人は考えていなかった。
他の場所にもダスタードが襲撃し、それに対応している人物がいることを。
「オゥラッ!」
雄々しい掛け声を上げながらダスタードに喧嘩殺法を叩き込んでいるリーゼントヘアの学ラン姿の少年。
如月弦太郎その人である。
しかし、その姿を見て呆然とするわけにはいかない。
アヴェンジャーたちはそれぞれ体術を駆使してダスタードたちに拳や蹴りを撃ち込み、シャロナは柔道な合気道のような動きで攻撃を受け流した直後に投げ技を決める。
「ウリャア!…………ん?」
すると、弦太郎も流石にダスタード相手に応戦しているアヴェンジャーたちに気付いたのか、視線が彼らに向いた。
「余所見とは、余裕じゃな!」
「え?……って、うお!?」
カースが袖から投げた一枚の呪符。
それは高速で飛び、弦太郎の背後に迫っていたダスタードの顔面に張り付くや否や、呪符に目玉模様が浮かび、ダスタードが動きを封じられて地面に倒れてしまった。
「やはり、私を狙って……!」
「いや、それだけじゃなさそうだ」
シャロナは自分の所為で無関係な人間を巻き込んでしまったと思い、自責の念を抱えそうになるが、アヴェンジャーが即座に否定する。
何故なら、アヴェンジャーとカースは、その原因らしき存在を目にしているのだから。
「兎に角、これ以上は人目に付く」
「では、また校舎に?」
「二度手間じゃな……」
言わないでくれ、とアヴェンジャーは心の中で思うも、口に出している暇はない。
三人、いや、四人はすぐさま校舎へとダスタードを伴って入ると、廊下で敵味方とで別れる形で対峙する。
廊下での対峙になると、保健室から数人の男女の生徒が現れる。
先程、校庭のステージで七人ライダーについての研究成果を発表していた彼らは、その実、仮面ライダー部という非公認の部活動のメンバーである。
「あの三人は……?」
見目麗しい容貌をした細身の男子生徒、歌星賢吾は目を細めてアヴェンジャーたちを見据えた。
だが、そんな彼の視線に気を配る余裕もつもりも、今となってはさらさらない。
弦太郎とアヴェンジャーはそれぞれのドライバーをだし、腰に装着した。
銀色のベルト、パワーハーネスの出現によってドライバーが固定されると、二人は四基のスイッチソケットの下部にあるトランスイッチを連続で下げてオンにしていく。
バックルの中央にあるステイタスモニターはトランスイッチが押されていく毎に、そこに映し出された戦士の四肢を浮かび上がらせる。
二人はその直後、右側部の操縦桿らしきエンターレバーを右手で握りしめ、左腕を構えた。
〔〔THREE・TWO・ONE〕〕
ベルトから発せられるカウントダウンの音声。
それが最後の数字を示したとき、弦太郎とアヴェンジャーは叫びながらエンターレバーを前に引いた。
「「変身ッ!」」
♪〜〜〜♪〜〜〜!!
ベルトから吹き荒ぶ白煙。
天上に展開されるコズミックエナジーのフィールドが、弦太郎とアヴェンジャーを包み込んだ。
軽快な音楽が鳴り響き、それが終わるころには、コズミックエナジーを右手で振り払い、その勇姿を露わにした二人の戦士がいた。
「宇宙キターーー!!」
「幻想キタぜぇぇぇ!!」
両手を、拳を、それぞれ天空に向けて突き出し、彼らは叫んだ。
ロケット型の頭に白い宇宙飛行士のような姿をした友情の熱血漢・仮面ライダーフォーゼ。
西洋の黒い騎士甲冑で全身を覆い尽くした第二の生を得し復讐者の英霊・仮面ライダーファズム。
「ほお、あれがフォーゼ―――この町のライダーか」
「すごい。ここで彼らの変身を見れるなんて……!」
カースは顎に手を当て、弦太郎が変身したフォーゼに興味を示していた。
シャロナはかねてより自分が研究しているコズミックエナジーの先駆者たちの姿に歓喜している。
「仮面ライダーフォーゼ、タイマン張らせてもらうぜ!」
「タイマンじゃなくね?―――仮面ライダーファズム、ミッションスタートだ!」
さりげにフォーゼの決め台詞にツッコミを入れつつ、自分の決め台詞も述べあげるファズム。
「あんたも仮面ライダーなら、あとでダチになってくれよ?」
「さあ、どうかな?」
フォーゼのどこまでも友情一直線な言動に、ファズムは若いなと思いながら、辺り触りの無い言葉でお茶を濁した。
そうして、二人がダスタードら目がけて突撃し、キックやパンチの応酬を繰り広げだす。
ライダー部の面々やカースは、フォーゼのファズムの力量を信頼して見守っていたが、
「私も、行きます……!」
シャロナは興奮を抑えきれず、戦場へと足を向けた。
「え、ちょっと!」
「…………」
一方で撫子も黒髪ロングの女生徒・城島ユウキの制止を振り切り、シャロナと肩を並べる形で立つ。
そして、二人が懐から取り出したのは、二つのスイッチソケットが塞がれ、トランスイッチが二つだけのドライバー。
ただし、シャロナが持っているドライバーにはエンターレバーがあるのに対し、撫子のドライバーにはエンターレバーがついていない。
無論、これにはライダー部のメンバーらも驚く。
否、ファズムが現れた瞬間にも驚いていたが、まさかこれ以上イレギュラーな存在が姿を見せるとは思わなかったのだろう。
撫子とシャロナはドライバーを装着し、トランスイッチをオンにした。
〔THREE・TWO・ONE〕
カウントダウンはシャロナがしているドライバーからだけ流れだし、撫子の物からは聞こえてこない。
だが、それに構うことなく、二人は腕を構えた。
「「変身!」」
♪〜〜♪〜〜!
フォーゼらと比べて短い旋律がフィールドと共に彼女たちを包み込み、
「しゃあっ!」
「フッ」
それが晴れた先には二人の女ライダーがいた。
フォーゼと同じく女性的かつ細身ながらも宇宙服とセーラー服を混ぜ合わせたかのような姿をした、仮面ライダーなでしこ。
騎士たるファズムとは対照的に貴婦人のドレスをイメージした赤黒いアーマーに、黒いベール状のバイザーをした、仮面ライダーヴァンプ。
「宇宙キタ〜〜!」
「宇宙キ……って、あれ?私も言うんですか?」
可愛らしくポーズを取りながら決め台詞を述べあげたなでしこに対し、ヴァンプはその空気についていけず、何を言って良いのかわからなくなってしまう。
「おお!お前らも仮面ライダーか!」
「ん?」
フォーゼが歓喜に震えた声で新しい仲間の誕生に喜んでいると、なでしこは首をかしげつつも、迫る敵を目視すると、
「タイマンはらせてもらうぜ!」
フォーゼの決め台詞をそのまま流用し、敵軍に突っ込んでいったのだ。
「では、私も参ります」
それに呼応し、ヴァンプも後を追う形でダスタードらとの乱戦を開始し始めたのだ。
なでしこは奇想天外な動きの数々を披露し、連続腹蹴り、キャメルクラッチ、ヒップアタックでダスタードたちを吹っ飛ばしていく。
ただし、吹っ飛ばされたダスタードたちが教室の壁をぶち破っているのが拙い点ではあるが。
ヴァンプは軽やかな動きで敵の攻撃を次々と受け流し、確実に隙をつく戦闘スタイルだ。その動きは実に優雅で、まるで戦場を舞踏会に変えているようにさえ見える。
ただし、なでしことは違って学校の備品や壁を巻き込んで破損させるような愚行は犯していない。
「すげぇな」
「やるな」
敵の顔面を殴り、または首を掴んで絞めつつ、フォーゼとファズムが静かに称賛する。
が、なでしことヴァンプは残りの敵を追って、空いた穴から外へ出てしまったのだ。
「あ、待て!」
それを見て急ぎ走るフォーゼとファズム。
無論、カースとライダー部もつられて追いかける。
屋外に出た四人は、背中から白煙を吐き出しながら宙を舞い、下忍たちを翻弄しながら蹴散らしていく。
数が数だけに、すぐにダスタードたちはチリに帰り、後には余人のライダーだけが残った。
「……あんたら、そのベルトどこで……?」
当然、フォーゼは三人のドライバーを注視しながら、その出所を聞き出そうとする。
しかし、そこへ現れたのは、
『彼女たちを渡して貰おうか』
「処女宮……ヴァルゴか」
女性的な顔立ちに羽の付いた杖を持ったゾディアーツ。
しかも、その身には上級ゾディアーツ・ホロスコープスの証であるクロークを纏っている。
乙女座のヴァルゴ・ゾディアーツである。
「絶対に断わる!」
無論、なでしことヴァンプを引き渡すつもりなどさらさらないフォーゼははっきりと言い切った。
『ハッ!テメェらの意見なんざハナッから訊いてねぇんだよ!』
が、さらに敵は増えた。
この上なく荒々しい暴力的な口調を交えながら。
「チッ、こんなところで貴様らまで出張ってくるとはな―――ヒュドラ・ゾディアーツ」
『うるせぇんだよ。こちとらそこのクソアマとクソガキ連れて来いって、上が言ってくるんだよ』
ファズムは目の前の姿を見せた仇敵の一人を相手に、敵意と殺意を剥き出し、互いに罵りあうような声音を交わし合う。
「そうか。だったら、こっちも情け容赦なく―――貴様を殺すとしよう」
もとより、両親を殺し、故郷を滅ぼした一派に対しかける慈悲など微塵もありはしない。
ファズムは一番右側の金色のスイッチを外すと、代わりに蒼いスイッチを装填する。
〔GUNNER〕
装填されたことを知らせる音声が出ると、すかさずスイッチをオンにする。
〔GUNNER・ON〕
スイッチから伝わるエナジーが右手を蒼く固め、手中には大型の銃、バーンシューターが握られる。
開放された神秘はファズムの全身に纏わりつき、甲冑をメタリックブルーに染め上げた。
周囲には冷気によって霜ができており、季節感を狂わせる光景を作り上げている。
『ガンナーステイツか』
ヒュドラが忌々しそうにその姿の名を吐き捨てた。
「おおッ、あんたもステイツチェンジできんのか!じゃあ、俺も!」
〔ELEK〕
フォーゼはファズムのステイツチェンジにつられ、右腕のスイッチを取り外し、金色のスイッチを装填する。
〔ELEK・ON〕
スイッチが前に倒されたことで、溢れ出たエナジーは電流となって右腕に流れ込み、ロッド型の武器、ビリーザロッドが握られる。
その直後に雷電がフォーゼの全身に満ち溢れ、雷神を連想させる黄金の姿へと豹変した電気属性形態のエレキステイツと化した。
「行くぜ!」
「散れ」
勢いよくスパークして叫ぶフォーゼとは真逆にどこまでも極寒の呟きを口にするファズム。
ファズムはその冷たい声とは裏腹にフォーゼに先んじてヒュドラに向かって行く。
フォーゼもそれに続いてヴァルゴに突っ込んでいくが、いかんせん向こうが上手なのか、いともたやすくやり込められてしまう。
するとフォーゼはロッドの柄にある三つのコンセントの内の一つに挿してあるソケットを抜き、別のコンセントに挿した。
〔LIMIT BREAK〕
さらにエレキスイッチをビリーザロッドのソケットに装填すると、エナジーが充填されていく。
「ライダー100億ボルトバースト!!」
地面に突き立てられたビリーザロッド。
爆発するかのように迸る超高圧電流の波に押され、ヴァルゴは背中の翼を広げて回避する。
しかし、必殺技を躱された直後、フォーゼはソケットを別のコンセントに挿し替え、ロッドを振るった。
刀身からはリング状のエネルギーが放たれ、ダメージこそは軽薄ながら次々とヴァルゴに命中していく。
「潰えろよ」
〔LIMIT BREAK〕
ファズムはバーンシューターのリボルバーを回し、デフォルトのビームモードからミサイルモードに変更すると同時にガンナースイッチを装填する。
「ガンナー冷凍ファイア」
底冷えする口調で技の名を呟き、ファズムは引き金にかかった指を引いた。
直後、三つの銃口から一斉に、そして連続で発射されていく小型ミサイルの雨霰。
降り注ぐ数は十や二十では利かないモノとなっており、普通の人間ならこの光景を見た瞬間に死を覚悟しただろう。
そう、普通の人間ならば。
『ぬるま湯なんだよォッ!』
ヒュドラは雄たけびを上げながらクロークを脱ぎ捨てると、両手を天に向けて仰がせる。
邪悪な毒蛇の掌からはおどろおどろしい色合いをしたコズミックエナジーが集束していき、彼はそれを勢いよくミサイル群めがけて発射した。
一個に固まったエネルギーは次々と枝分かれをしながら伸びていき、迫りくるミサイルを全て撃ち落としてしまったのである。
「―――だろうな。だから……」
――パチッ――
ファズムがフィンガースナッチをした瞬間、ヒュドラは何かの気配に勘付き、上空を見上げた。
大空の青が見える筈の上方には、
「――停止解答――」
景色を埋め尽くさんばかりの、剣、槍、斧、刀、戟、その他もろもろの武装の大群。
「――全投影、連続掃射」
そしてソレらは、たった一言の号令のもと、二つの異形へと降り注いだ。
「串刺しになれ」
北極や南極に吹き荒ぶブリザードの如く、今のファズムの声には温度が無かった。
風を斬る音を出しながら一直線に向かって行く武器たち。
ヴァルゴは背中の翼で素早く後方へと飛んで避けたものの、ヒュドラはそうもいかなかった。
ザシュ、という音が何度も何度も聞こえたかと思うと、そこには悪趣味なオブジェのような姿となったヒュドラがいた。
数多くの武器たちをその身に受け、刺し貫かれた結果、並のゾディアーツならば即座にエネルギー体が爆散しても可笑しくない程のダメージを与えられた。
が、何度も言うようにヒュドアは雑魚とは遥かに一線を画するゾディアーツだ。
そして、彼の伝説のもとになったギリシャ神話の九つの首のヒュドラは、特定の首を落とされない限り、他の首をどれだけ落としたところで意味はなく、潰された首は再生するという。
『ふ、ふ、は、は……』
伝承通り、ヒュドラの体から自然と刃たちが押し出され、体外へと追いやられた。
再生した肉によって次々と地面に落ちて金音を立てる武器群。
その落ちた武器に囲まれた中で、ヒュドラは笑いを零し始めた。
「浅かったか」
ファズムはそれを目の当たりにすると、今にも舌打ちしそうなほどの不機嫌な声音で呟いた。
が、それだけで終わる程彼は甘くは無い。すぐさま別の手を打つべく、手に魔力を集中させる。
「投影開始」
紡がれるは父より受け継いだたった一小節の呪文。
それと同時に出現するは、巨岩を削りて造られし一振りの剣。
人の手で持つには余りにも巨大な2m強の武装を片手に握り、剣をどす黒い波動に染め上げながらファズムはもう一節付け加えた。
「投影装填」
魔術回路に流れ込む魔力は徐々に練られていき、粘土のように形を変えていく。
単なる複製では意味がない。全てを写し取り、全てを超越した偽物にして偽物ではなく、本物にして本物ではない―――そんな神秘が必要だ。
「全投影工程完了」
チャンスは今の一度きり。
これを逃してはならない。
「是、射殺す百頭」
瞬間、繰り出されるは八つの斬撃。
敵の九つの首の内、八つの首を同時に刎ねる幻想を滅ぼす必殺の剣戟。
『ぐぎあああああああああああああ!!!!』
一瞬にして削ぎ落される八つの急所。
ヒュドラの声帯は震え、あらんばかりの断末魔を上げている。
全身からは火花が散り、今にもリミットブレイクしそうである。
「最期だ」
〔SABER〕
ファズムはガンナースイッチを取り外すと、代わりにセイバースイッチを装填した。
これによってファズムはガンナーステイツから基本形態のナイトステイツへとチェンジする。
〔SABER・ON〕
ステイツチェンジの直後、セイバースイッチをオンにすることで、ファズムの右腕には大剣型のセイバーモジュールが装備された。
「ッ――わ、私も!」
〔SABER・ON〕
それを見て漸くヴァンプは先程までファズムの修羅の如き戦いに我を忘れていた自分を呼び戻すことが出来、ファズムと同じセイバーモジュールを装備する。
騎士と妖婦が並び立ち、その右腕には金色の大剣を構えている。
二人は背中から白い蒸気を吹きだしながら跳びあがり、一気にセイバーモジュールを上から下へと振り下ろす。
「「ダブルヒーローセイバースラッシュ!!」」
決まった斬撃の二重奏が心地よく響く。
『が……う―――』
ヒュドラの肉体は既に限界に達しつつあった。
エナジーで構築されたボディは過剰なダメージによって輪郭を失いつつあり、このまま放置してもそのまま消滅しかねない程である。
しかし、
「トドメだ」
そのような逃げを許すファズムではない。
セイバモジュールを構え、最後の仕上げを行おうとした。
だが、
『あら、これ以上は見過ごせないわね』
この場に似つかわしくない艶のある女言葉が聞こえてきた。
ファズムは聞いたことのあるこの声に、迷うことなく声のした方向へと顔を向けた。
そこには上位ゾディアーツ特有のクロークを身に纏った異形がいた。
「ホロロジウム……!」
『懐かしいわね、反英霊さん』
クロークで身体は隠れているが、その顔には時計の羅針盤を連想させる模様が刻印されている。
『あらあら。こんなズタボロになっちゃって。あーあ、これやると屁の河童なっちゃうから嫌なんだけど……』
ホロロジウム・ゾディアーツは重体のヒュドラを一瞥すると、右手を翳す。
すると、痛みに身体を悶えさせていたヒュドラの体は瞬く間に傷を癒していく。
否、この言い方には語弊があった。
正確には癒えているのではなく、元通りになっているだけなのだ。
「時間逆行……相も変わらず腹の立つ能力だな」
「まさか、そんな……魔法級の神秘を操れるんですか!?」
通常、時間は一定の向きにしか進まない。常に未来へと進んでいき、過去に戻ることは無い。
加速、遅滞、停止はあれど、巻き戻ることを世界は決して容認しない。
だからこそ、時間逆行だけはどれだけ科学が進もうとも実現できず、魔術師の究極的な頂である『魔法』とされているのだ。
そうこうしている間に、ヒュドラの傷は完全に消え去り、ホロロジウムは翳した手を下げた。
『それじゃ、お暇させてもらうわね』
「ふざけるな。ここで纏めて叩きのめす」
『そっちの都合なんて聞いてないの。じゃ、またね〜』
他人の話など聞く耳さえ持つことなく、ホロロジウムはヒュドラを抱えて空間転移して姿を消していった。
「チッ」
折角のチャンスを不意にされ、ファズムは露骨に舌打ちを鳴らす。
一方で、
〔〔ROCKET・ON〕〕
ベースステイツに戻ったフォーゼとなでしこは右腕にロケットモジュールを装備する。
「「ライダーダブルロケットパーンチッ!!」」
後部のジェット部から発せられる強烈な推進力によってフォーゼとなでしこは猛スピードでヴァルゴ目がけて突っ込んでいく。
振り抜かれたダブルロケットモジュールは見事、ヴァルゴの胴体に命中し、奴を仰け反らせることに成功した。
その攻撃を受けて、そしてファズムたちの戦いぶりを見て勝機が薄いと読んだのか、そのままヴァルゴはワープドライブしてその場から立ち去ってしまった。
対する敵は全ていなくなり、四人はトランスイッチをオフにして変身を解除した。
素顔を隠していた鎧と仮面が消え去り、あとにはありのままの四人の姿があった。
アヴェンジャーの表情はやはりというか、奥歯を噛み締めた苦々しいものであった。
シャロナはそんな彼の顔を見て、何と言って話しかけてよいのかがわからず気まずそうだ。
片や、弦太郎は素顔の撫子を見つめていると、心臓の鼓動と体温が急激に高まっていくのを感じていた。
そこへ、ライダー部の面々、そしてカースが駆けつける。
「貴女すごいねぇ!あ、私は城島ユウキ!学校違うけどよろしくね!」
その中の、黒いロングヘアの女生徒は猛烈なハイテンションで撫子に接近し、握手を交わした直後に拳を数回打ち合わせた。
それを受けた撫子は、今度は弦太郎とそれを行おうと手を伸ばした。
「お、俺はいい!」
だが、ここで如月弦太郎としてはあり得ない言動が飛び交った。
学園全ての生徒と友達になる、日本全国に1000人の友達がいる、と豪語している男が友情の証を交わさない筈がないからだ。
「Oops!―――妙ね」
「あぁ。どうしてあの三人はフォーゼと同じシステムを……」
「そんなことはどうでもいいわ」
「いや、どうでもよくないだろ?」
そんな彼らの様子を見て、風城美羽と歌星賢悟のやりとりが行われるも、美羽の論理を越えた観察のせいか、真面目にロジックを語るタイプである賢悟の言動が空回りさせられる。
「桃色の……波動が見える……」
こっちはこっちで弦太郎と撫子に流れる空気を感じとるゴスな変人、野座間友子。
「あれは……恋ね」
「弦太郎さんが、恋っ?」
美羽の推測にチャラ男なJKが吹きだしそうになる口を懸命に抑える。
「言われてみると、何時もの弦太郎らしくないな」
「あの子とはもう友達では満足できないのよ」
「一目惚れか?俺にも、経験あるな……?」
ジョックの大文字隼はさりげなくアピールするも、当の美羽は敢て無視したことで、
「うぅ、美羽ぅ……」
JKに縋りつく程に泣き崩れた。
「美咲さん。君のフォーゼドライバー、どうやって手に入れたんだ?それに、そちらの二人も―――」
賢悟は皆に先んじて撫子の素性とシステムの入手先を聞き出そうとする。
勿論の事、アヴェンジャーたちのことも問い質そうとするが、
――バッ――
撫子は突如として弦太郎の手を引いてどこかへ走って行き、
「マスター。あとはよろしく」
「は?」
アヴェンジャーはカースに面倒事を全て丸投げし、シャロナの手を引いてどこかへと走り去ってしまった。
当然ながら賢悟は追いかけようとしたが、
「ッ―――!?」
「あ、賢悟くん!」
賢悟は持ち前の虚弱体質のせいで突発的な発作に襲われて足が止まってしまった。
「ふう。仕方のない。おい、確りせよ」
そこへ呪符を片手にカースは賢悟の肉体に初歩的な治癒魔術をかけていく。
「あ……貴女は?」
「妾の名前はカースじゃ」
こうして、物語は次々と折り重なっていく。
「「……はあ……」」
振り回される側のシンクロした溜息と共に。
何時の時代においても、英雄の傍らには苦労人が付きものらしい。
次回
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