どのような場所であろうとも学校と名のつく場所には必ずある行事がある。
そう、卒業式である。
卒業式、それは学ぶべき事を学び、新たな場で羽ばたこうとする若者達を送り出す行事である。
それは此処、ブリタニア軍学校でも変わらない。
ただし、ブリタニア軍学校では卒業と同時にどこかの戦場へと送られる事となるのだが……。
もちろん成績が優秀である者は激戦区へ回される。
卒業する者を何処の戦場に送るか、それを決めるのは教官達である。
彼等は卒業する生徒一人一人の今までの成績を見て、会議で決めていくのである。
「それでは、次の生徒は……。セ、セグラント・ヴァルトシュタインです」
「あぁ、ついにコイツの番か……」
「一番どうするべきか悩む生徒が来てしまいましたね」
「成績は優秀なのだ。ただ戦い方や性格が、な」
「養子とはいえ、ビスマルク卿の子息なのですがね。ここまで親に似ないとは……」
「まぁ実力は申し分ないどころか、すぐにでも前線に出れる腕なのだ。ここはEUで良いのでは?」
「……EUか。だが、彼は悪くいえば獣だ。EUの前線指揮官にそのまま押しつけるのはな」
「ならば、こういったのはどうでしょうか」
一人の眼鏡を掛けた教官が立ちあがり、モニターに二人の人物に写真を写しだす。
そこにはモニカとエディの写真が貼られていた。
「確かこの二人は……」
「はい、セグラント・ヴァルトシュタインのチームメイトです」
「なるほど、彼女等もEUに送り、そのまま彼と組ませるのか」
「その通りです。幸い彼女等も優秀ですから。EUに送っても足手まといにはならないでしょう」
「確かに。……それでは決議を取ろう。この案に賛成の者は挙手を」
結果は満場一致だった。
この時、モニカとエディが同時にくしゃみをしたのはこの件とはまったく関係がないはずである。
モニカは自室で寝転びながら、小説を読んでいた。
小説の内容は至って普通の恋愛小説であった。
その小説はかなり読み続けられた物のようで所々に汚れは見えるが、傷は無い事から大事にされている事が窺える。
この小説は彼女が軍学校に入る前に持ってきた唯一の本であり、彼女の数少ない私物である。
軍学校に入ってからも、彼女は暇を見ては幾度となくこの小説を読んでいた。
内容は主人公の女性が一人の男性と恋に落ち、二人で様々な困難を乗り越え、最後には幸せになる。といったありふれた物である。
既に何十回と読んだため内容もほとんど覚えているのだが、それでも彼女は読み続けた。
モニカはこの小説を読みながらいつか自分もこういった恋がしてみたいと思っていた。
軍学校に入り、軍人になるとは言えモニカもうら若き乙女だと言う事だ。
モニカは本を閉じ、白馬に乗った王子が自分を迎えに来るシーンを妄想してみる。
「やっぱいいわよねぇ。私にもいつかこんな素敵な出会いがあればいいなぁ」
そこまで考えてモニカはふと、王子役を自分の周りにいる男性にしてみる。
エディ、白馬は似合ってるのだが、どこか軽薄そうな感じがするため却下。
ダン、考えるまでもなく却下。
その他にもここで知り合った男性を当てはめてみるがどれも違う気がする。
最後にセグラントの事を思い浮かべた。
するとどうだろう、白馬が巨大な黒馬へと変わり、黒馬に乗ったセグラントが
「我のモノとなれぃ!」
と言ってきた。
「……強引なのは嫌いじゃないけど、アイツ程王子が似合わないのもいないわね。
というか何であんなイメージが浮かんだんだろう……?」
乙女モニカは頭を抱えながら、夜を過ごしていった。
「セグラント、お前は何で軍に入ったんだ?」
部屋で寛いでいたエディが突如尋ねてきた。
「……親父に入れられた。後は、そうだな……ぶちのめす為にだ」
「ぶちのめす? 何をだよ」
「決まっている。親父をだ」
セグラントは自身の前に握り拳を作った。
セグラントの顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
「親父をぶちのめすってお前の親父さんってナイトオブワンだろ? それって帝国最強になるって事か?」
「最強になるかどうかは知らねぇが、それも悪くない」
「うわぉコイツ、堂々と親父をぶちのめす宣言してるよ」
エディは軽くセグラントから距離を取る。
しかし、彼の顔にも笑みが浮かんでいた。
「見てろ、俺は必ず親父に勝ってみせる」
「へぇへぇ、期待せずに見させてもらうとするさ」
「ふん、俺が勝った暁にはお前を俺の部下にしてやるさ」
「マジで? じゃあ今のうちに恩売っといた方がいいかな」
「言ってろ」
部屋の中にセグラントとエディの笑い声が木霊する。
エディは分かっていた。
セグラントは口では親父をぶちのめすと言っているが、本心では父の為ならば命をも捨てられるであろうことを。
まぁぶちのめしたいのも本心なのだろうが……。
――本当にコイツは面白い。
「まぁ、軍学校を卒業すればバラバラになるだろうからな。お前がどうなるか楽しみにさせて貰うさ」
そして、卒業式の日
セグラント達は軍学校の講堂にて教官や校長の話を聞いていた。
「以上で私の話を終わりにします。オール・ハイル・ブリタニア!」
『オール・ハイル・ブリタニア!!』
「次は、卒業生の配属先を発表する。クロイツェフ・ゴーダン、エリア4―――、」
次々と卒業生達の赴任先が発表されていく。
この順番は優秀な者ほど最後にまわされる。
そして、遂に
「セグラント・ヴァルトシュタイン、エディ・マクシミリアン、モニカ・クルシェフスキー」
「おい、何で同時に呼ばれるんだ?」
「知るか」
「以上三名はEUへの配属とする」
教官の言葉にモニカは苦笑を浮かべ、エディは何処か恥ずかしそうだ。
「昨日、あんな事言っちまった矢先にこれかよ」
「なんだか、そんな事になる気がしてたのよね……」
「また三人で組めって事か」
「まぁ、なんだ? これからもよろしく!」
「「よろしく」」
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