EUへと送られた三人は着任した事を報告するために司令官のいる場所へと向かう。

 司令官がいる作戦本部では慌ただしく兵士が動き回っていた。

「失礼します。この度、戦線に配属されたモニカ・クルシェフスキーです!」

 モニカが大声で挨拶したが返って来たのは就任に対する返答ではなく怒号だった。

「第18小隊の反応ロスト! 至急後詰を!」

 通信兵の言葉を聞いた髭面の男が叫び返す。

「わかった! 至急兵を送れ! ……む、何だお前達?」

「ローディー司令、軍学校を卒業した生徒です」

 眼鏡を掛けた副官らしき男が耳打ちする。

 司令は眉間によっていた皺を解しながら、溜息をついた。

「まだ子供じゃねぇかよ。あぁ、挨拶が遅れた。私の名はローディアン・テイガ―だ。
此処、対EU西方軍司令をやらせて貰っている。部下は皆ローディー司令と呼ぶ。
それで? ここに派遣されたってことは腕は立つんだよな?」

 子供、と言われた事にモニカが顔をしかめたが、ローディーの鋭い眼光に
モニカとエディは若干気圧された。

 セグラントは一人気圧される事なく、一歩前に出た。

 気圧される事なく前にでたセグラントにローディーは感嘆を覚えた。

 ここに配属された新兵は皆、ローディーの威圧に気圧される為である。

「……ほぅ。お前、名前は?」

「セグラント・ヴァルトシュタイン」

「ヴァルトシュタイン? ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿の縁者か?」

「息子です。義理ですが……」

 セグラントの答えを聞いたローディーは厳つい顔に笑みを浮かべた。

「ふむ、義理か。だが、そんな事は関係がない。ここは戦場でお前の父はナイトオブワンであるということだ。
となれば、自然とそれ相応の戦働きが求められる。わかるな?」

 ローディーは笑みを浮かべながら言ってくるが、その目は笑っておらずこう言っていた。

『お前は役に立つのか?』と。

「目を逸らさなかった事は評価できる。……コーラッド!」

 ローディーはセグラント達から視線を放し、部下を呼んだ。すると先程の副官らしき男が前に出てくる。

「はい」

「こいつらにナイトメアを回せ!」

「分かりました。機体はどれを?」

「サザーランドが格納庫に残っていた筈だ。それでいい」

「分かりました。挨拶が遅れた、私はローディー司令の副官を務めているコーラッド・ノーザン。
階級は中佐だ。ついて来い。」

 コーラッドはセグラント達を格納庫に案内しながら、現在の戦線の説明を始める。

 現在、前線は大局的に見れば勝っているのだが、やはり地の利は向こうにあるようで、
所々で戦線に綻びが出来ているらしい。

 そして、ローディーが司令を務めるこの地域は最前線ではないが、補給線があるため敗走は許されない、との事だった。

 セグラント達は最初に補給線近くの守備隊に回されるようで、そこでの働き次第では最前線に送られる、との事だ。

「ここまでで何か質問は? ないなら説明を続ける。一先ず君達の階級は少尉とされる」

「ちょ、ちょっと待ってください。私達は配属されたばかりの新兵ですよ? 
いきなり尉官クラスの待遇ですか?」

「それに関しては此処が戦場であると言う事が関係してくる。
この地域は最前線程ではなくとも、激しい戦闘が続いている。戦闘の度にある程度の死者が出る為、
尉官の数が少ないのだ。
それに君たちはナイトメアの操縦が出来る。ナイトメアは現在の戦争の花形とは言え、
それを操縦できる人間はここでは限られているからな。……理由としては以上だ。疑問はあるか?」

 コーラッドの説明にとりあえずの納得を示したが、モニカなどは戸惑いを隠し切れていない。

「……モニカ・クルシェフスキー少尉、そう深く考えるな。考えすぎると潰れるぞ」

「は、はい」

「うむ。さて、ここが格納庫だ」

 三人が格納庫に入ると、そこには数多くのナイトメアが鎮座していた。

 中には腕が吹き飛んでいる物や修理されている物もあった。

 コーラッドは格納庫の奥に鎮座している三機のナイトメアの前で止まる。

「これが、君達に支給されるナイトメア『サザーランド』だ。武装は基本的にはグラスゴーと変わらんが、
それ以外は別物だ。武装に関して変更をしたければ整備班、もしくは博士に言うように。何か質問は?」

 エディが挙手し、尋ねる。

「コーラッド中佐。博士とは?」

「ここにいる人物でナイトメア開発に関わっていた人物だ。だが、いないようなので無理に会う必要はない」

 コーラッドは博士と呼ばれる人物に余り会わせたくないのか会話を手短に終える。

 そんなコーラッドの様子にエディも深く聞く事はしなかった。

「他に質問はないな?……よろしい。では早速だが働いて貰う。いいな?」

「「「イエス・マイロード!」」」










 
 三人が配属されたのはコーラッドの言うとおり最前線ではなかった。

 セグラント達が配属されたのは司令本部からそう遠くない位置であり、此処にはセグラント達の他にも
4機のナイトメアと12両の戦車で編成された小隊が配属されていた。三人は第25小隊として登録されていた。

 三人は周囲を警戒しつつ通信で会話をしていた。
 
「いきなり最前線に行けとか言われなくて良かったわ」

「まったくだ。それでも此処が戦場だって事を実感出来る。さっきから背中に汗をかきっぱなしだからな」

 モニカとエディが会話をしている中、セグラントだけ会話に参加していなかった。

「セグラント? さっきから静かだけどどうしたの?」

「まさか緊張してんのか?」

「……違う。何かこうピリピリしやがる」

「ピリピリ?」

 エディはセグラントが何を言っているのか理解できずモニカの方を見るがモニカも肩をすくめている。

「この感じはアレだ。親父との喧嘩の時に親父が本気の一撃を出す時と同じ感じだ」

「おい、セグラント?」

 セグラントが何かを考え込んでいた時、通信が入った。出所は周囲の警戒に出ていた友軍のナイトメアからだった。

『こちら第19小隊! 周囲警戒中EU軍の奇襲を受けた! 至急援護を……っ。あぁぁぁぁぁ!!!』

 通信は切れ、何も聞こえなくなった。 
 通信を聞いた部隊長はその場にいる全員に指示を出す。

「奇襲だと!? EUの奴等いつの間に……! 大至急本部に伝えろ! 
本部からの援軍がたどり着くまでこの場を死守するぞ!」

『イエス・マイロード!』

「隊長! 敵軍が目視できる距離に入りました! 目視出来る限りで敵ナイトメアが12、戦車が20です」

「よし、戦車隊、砲準備! 目標、敵ナイトメア……撃ぇぇぇ!」

 隊長の指示に従い、戦車隊が砲撃を開始した。戦場に砲撃音が響き渡る。

 セグラントは自分の手が汗でぬめり始めるのを感じた。

「砲撃止め! 敵軍は!?」

「ある程度損害は与えられましたが敵ナイトメア8機健在! どうしますか?」

「ナイトメア隊で行く! いいか、俺達の役目は援軍が来るまでの間ここを死守することだ。
深追いはするなよ! 全機、俺に続け!」

 部隊長のナイトメアがEU軍に攻撃を開始する。

 それに続き、セグラント達を除いた三機のナイトメアが続く。

「モニカ、エディ! 俺達も続くぞ!」

 セグラントの言葉にエディは即座に対応したが、モニカが動かない。

「モニカ! どうした!」

「……ま、待って。手が震えて……」

 モニカは初めての戦場の空気に完全に呑まれていた。

 しかし、これはモニカだけでは無かった。

 エディの顔からは血の気が消えかけているし、セグラントの手も汗で濡れたままである。

「モニカ! ここで動けなければお前は一生戦えない! 怖いのは俺達も同じだ!」

「同じ……」

「そうだ! 震えたままでいい、行くぞ! フォーメーションはいつも通りだ!」

 セグラントはモニカを鼓舞し、ランスを構える。
 
「やれやれ。モニカ、行こうぜ」

 エディは無理やりに笑みを浮かべ、アサルトライフルを構える。

 軍学校で長く組んできた二人が武器を構えるのを見て、モニカは一度己の頬を強くはたき、気合いを入れる。
手の震えは止まっていた。

 ――ありがとう。エディ、セグラント

「……行けるわ!」

「おぉっしゃ! 行くぜ!! 目標は11時方向の敵ナイトメア!」

「「了解!」」

 セグラントが吼え、ランスを構え、目標としたナイトメアに正面から突っ込んでいく。

 敵のナイトメアは接近してきたセグラントに気づき、アサルトライフルで撃とうとする。

「させるかよ!」
 
 敵の射撃が開始される前にエディが敵の足元を撃ち、態勢を崩す。

 これにより照準がずれたのか、敵ナイトメアはセグラントから遠く離れた位置を撃った。

 その間にセグラントがランスが当たる距離にまで即座に移動し、敵のコクピットを串刺しにする。

「まず一機!」

 横から別のナイトメアが迫る。

 セグラントはその存在に気づいていたが、ランスをコクピットに深く刺してしまった為、抜けない。

「もらったぞ!」

「やらねぇよ!」

 セグラントはランスから手を放し、振り向きざまに接近してきていた敵ナイトメアを殴る。
殴られた事により、態勢が崩れた隙にモニカがサザーランドに装備されていたスタン・トンファーでコクピットを潰した。

「ナイスだ! モニカ!」

「当然!」

「隊長達の方はどうなった?」

 エディがレーダーを見るが、辺りに機体反応は見えない。

 そう、見えないのだ。
 
 敵だけでなく味方も。

 その時、レーダーに新たな反応が現れた。

 それは本部からの援軍ではなくEU側の援軍だった。

「おいおい、嘘だろ?」

 エディがそう漏らすのも無理はなかった。

 EUの援軍は目視で確認できるだけでも、ナイトメアの数は10を超えていた。

 しかも後ろから土煙が上がっている事からまだいるのだろう。

「これはピンチかな?」

「それでも諦める訳にはいかんだろう」

 セグラントはそう言うと、突き刺したままのランスを引き抜き構える。

「それもそうね」

 モニカも続き、スタントンファーを構えた。

「だよなぁ。だけど数は圧倒的にこっちが不利だぜ? さっきと同じようにはいかねぇだろう。
どうする?」

 エディもアサルトライフルを構えながらセグラントに尋ねる。
 
 すると、返答はセグラントからではなく、通信から返ってきた。

『私達に任せればいい』

「え?」

「む?」

「誰だ?」

『あぁ、私はナイトオブナイン、ノネットだ。これからEU軍の掃討を開始する。お前達も加われ』

「ナイトオブナイン!?」

「豪華な援軍ね」

「それだけ此処は重要なんだろう。分かりました、これより私達は貴方の指揮下に入ります」

『うむ。……全機、敵を駆逐せよ!』

『イエス・マイロード!!』



 

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