セグラントの専用機を開発するチームの主任として抜擢されたクラウンは、
割り当てられた研究室に引き篭もり、日夜どういった機体を造り上げるかを考えていた。

 既に彼の目元にはどす黒い隈が出来ており、どれだけ徹夜したか分からない。

 しかし、彼の顔に疲れは見えず、その顔にあるのは喜びと使命感。

 今も彼は笑みを浮かべながら机の上にある紙に自らの考えを書き記していく。

 クラウン・アーキテクトという男の歴史には常に白い目がついてまわった。

 彼は幼少の頃から優秀であり、成長し青年となった時には将来を期待された科学者であった。

 当然の事ながら彼は本国にある研究チームの一つに招待され、その才能を大いに奮った。

 周りにいた同僚もそんな彼の才能を妬みながらも認めていた。

 しかし、彼は異端過ぎた。

 誰も考える事のなかった事を考え、それを開発してしまうからだ
 
 その結果がビーストアームである。

 彼の発明品は誰にも見向きされず、期待の眼差しは白い目へと変わっていった。

 クラウンはそれを苦とは思わなかったが、それでも一科学者として悔しいという想いもあった。

 一科学者ならば自身の発明を使ってほしいと思うのは当然の事である。

 しかし、誰一人として彼の発明に目を向ける事はなかった。

 何故、誰も自分の発明を、武装を認めないのか。

 何故、枠から飛び出そうとしないのか。

 何故、自ら革新を起こそうとしないのか。

 いつしか彼は失意の底に沈み、EU戦線に半ば左遷の様に飛ばされた。

 EUの前線ならば、と思った時もあったが、結局は彼の発明に陽の目が当たる事はなかった。

 ここも同じか、と考え、一時は自殺を考えた事もある。

 そんな時だった。

 セグラント・ヴァルトシュタインと出会ったのは。

 クラウンは彼の使用した機体を見た時、衝撃が走った。

 彼の機体は、KMFでありながら相手を殴った跡があったのだ。

 クラウンは直ぐに、この機体の持ち主について聞いて回り、確信した。

 彼は枠に囚われていない!

 彼ならば私の作品を使ってくれるのではないのか!?

 そう思い至ったクラウンは直ぐにセグラントの機体を自身の研究室に運び、
ビーストアームを装備させた。

 そして、クラウンは自身の勘は正しかったのだ、と歓喜した。

 彼は、セグラントはビーストアームを振るい戦場の英雄となり、遂にはナイトオブラウンズにまで
上り詰めたではないか。

 彼の活躍が耳に入る度にクラウンは自身の事の如く喜び、同時に物足りなさも感じていた。

 もっと私の発明を使ってほしい。

 いつしか彼の心中はそのような想いが生まれていた。

 そんな時だった。

『クラウン・アーキテクトをナイトオブツー、セグラント・ヴァルトシュタイン
専用機開発チーム主任に任命する』

 という勅命が届いたのは。

 この勅命に彼は歓喜し、直ぐに本国へと戻ってきた。

 今の彼の頭の中には数多くの構想がある。
 
 クラウン・アーキテクトの全てを用い、最高傑作を造りあげてみせる。

 そして、現在。

 彼の目の前には数多くの機体の設計図と武装の構想を書いた紙が置かれている。

 クラウンはそれを見ながら、

「私は、私の全てを用いて最高の機体を造りあげて見せる。セグラント君、
君と私の発明が組めば敵は無いということを証明してみせようじゃないか」

 こうしてクラウン・アーキテクトは徹夜を重ねていく。
















 クラウンが専用機開発に着手してから六ヶ月程経ったある日。

 セグラントはモニカに呼ばれ、ナイトオブトゥエルブに割り当てられた専用格納庫にいた。

「来たわね、セグラント」

「何か用か? わざわざこんな所まで呼びやがって」

「ごめんなさいね。ただ見て欲しかったのよ。私の機体を」

「完成したのか?」

「えぇ、大体は」

 そう言いモニカは格納庫の奥を指差す。

 視線をそちらにやると、そこには一体の騎士が鎮座していた。

「あれが私の専用機、名前はフロレント」

 フロレント、と呼ばれた機体はモニカのマントの色と同じく黄緑色を基調としており、
随所に派手過ぎない装飾が施されている。

「フロレントか。これは直ぐに動けるのか?」

「動こうと思えばね」

「どういうことだ?」

「今の動力じゃ少しの間しか動けないのよ。私の所の開発主任によれば天才と呼ばれてるロイド伯爵が
何か新しい動力を開発したとかしてないとか。それの情報が開示されればちゃんと動くようになるわ」

「なるほど。だからほぼ完成、か」

「そういう事。……そういえば貴方の方はどうなの?」

「クラウンが何かやってる」

「なんかって。貴方の要望とか色々あるんじゃないの?」

 モニカの問いも最もなのだが、セグラントは軽く肩をすくめ、

「俺はクラウンの開発した物なら何でもいいさ。俺とあいつの感性はそっくりだからな。
アイツが造る機体なら俺はなんの問題もない」

 そう言ったセグラントの顔にはクラウンに対する絶対の信頼が伺えた。

「ふーん。まぁ完成したら教えてよね。見に行くから」

 それだけ言うと、モニカは主任に呼ばれたようで、ちょっと呼ばれたから行ってくるね、と言い、
奥に消えていった。

 一人残ったセグラントも此処にいてもしょうがない、と判断したのか立ち去ろうとした時、

「セグラント卿! ここに居られましたか!」

 白衣を来た研究者がこちらに息を切らせて走ってきた。

「ん、どうした」

「クラウン博士が呼んでます。専用機を見せたい、と」

「完成したのか?」

「まぁ、何と言いますか。詳しくは博士に聞いてください」

 何故か言葉を濁し、研究者はこちらです、と言い歩き出したのでセグラントは疑問に思いながら
付いていくこととした。

 

 現在のクラウンの研究室はEUにあったクラウンの研究室よりも大きく、当然の事ながら機材なども
充実していた。そして、部屋の中央には機体を置くスペースがあり、そこには見えないように
幕をかけられた機体が鎮座していた。

「クラウン、完成したのか?」

「セグラント君。その通りだ、君の専用機はほぼ完成した。それがコイツだ!」

 クラウンはそう言い、幕を思い切り引っ張り機体を露にする。

 そこにあったのは機械で構成された騎士ではなく雄々しく、禍々しい竜。

 全身を紅く染められているのが禍々しさを更に感じさせる。

 形として一番近い姿を上げるならばティラノサウルスだろうか。

 しかし、通常のティラノサウルスと違い腕は細くはなく、ビーストアームに似た武装が
取り付けられており、背中には大型ガトリングガンと何かの吸入ファンが取り付けられている。

 そして、最も目を引くのが両後ろ足に取り付けられている楕円型の盾の様な物だろう。
 
 よく見れば、盾の中には巨大な鋏がしまわれている。

 正に歩く破壊兵器といっても過言ではないだろう。

 

「これは……人型ですらないな」

「その通り! 私は常に考えていた! 何故、誰もかれも人型という枠に囚われているのか、と!
人型でなくともいいではないか! そこで造ったのがこの機体!
君の専用機、その名も『ブラッディブレイカー』。今の私が持ちうる全てをかけた傑作。
武装の説明はいるかい?」

「いや、いい。実際に動かせば分かるだろ」

 長くなりそうだ、と判断したセグラントはやんわりと断るが、クラウンは聞いてないの
か勝手に説明を始める。

「まぁ、見ての通り全身武器だ。腕には試作型ビーストアームを改修したブレイカーアームを。
コレの使い方はビーストアームと変わらない。背中のガトリングは言うまでもなく、近距離以外にも
対応出来るようにするためだ。背中にあるファンは気にしないでくれ。アレと連動する武装はまだ作れないんだ。
そして、この機体の一番の目玉が両後ろ足に取り付けられた盾、フリーラウンドシールドだ。盾としても優秀だが、
あくまで中に収納されている鋏、ブレイカーユニットが目玉だ。このユニットならKMF如き真っ二つに出来る。
まぁ扱いがかなりピーキーなんだが。要は全て君の腕に掛かっている」

「なるほど。コイツを活かしきるか無駄にするか、全ては俺次第、か。
嫌いじゃないな、こういった機体は」

「おぉ! やはり君ならば分かってくれると思っていたよ!
いや、私の勘は間違っていなかった!」

 感極まったのかクラウンは涙ぐんでいる。

「おいおい、泣くほどかよ」

「すまない。だが、今だけは許してくれ。今まで私の開発に真正面から取り組んでくれたのは
君だけだったのだ。そして、その君が遂にはナイトオブラウンズにまで登った。
それが嬉しくてな」

「そうか。博士、これからも色々頼むぜ」

「あぁ、任せてくれ」

「ところで、この機体脱出装置が付いてるようには見えないのだが」

「え? 必要かい?」

「……。それと、この機体もモニカの機体と同じであれか?
今の動力じゃほんの少ししか動けないのか?」

「ん? 今の動力じゃコイツは一歩足りとも動けんよ。まぁ、私の考案した原子を使う動力ならば
なんの問題も無いのだが、許可降りるかな……」

「普通に新しい動力が出来上がるのを待つ事にするわ」



 

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