日本解放戦線のリーダーであった片瀬の死亡。
そして実質的に日本解放戦線を率いていた藤堂とその配下四聖剣の捕縛。
コーネリアはこの二つのニュースをエリア11中に流した。
何故、情報を流したのか。
それはこの二つのニュースを使い、エリア11に残る反抗勢力の動きを抑えようと考え
たからである。
藤堂等はチョウフ基地へと投獄され、近いうちに処刑されるらしい。
この時の死刑執行人はコーネリアの指示によりスザクが任命される事となった。
世間が騒がしくなる中、セグラントの下に父、ビスマルクからの直通通信が入った。
『久しいな、セグラント。お前の活躍は聞いている。一先ずは良くやったと言っておく』
「親父に褒められるなんていつぶりだ? 明日は槍でもふるんじゃあないのか?」
『ふ。安心しろ、これから説教する所だ。まず、なんだあの戦い方は! 騎士どころか
ただの獣の様な戦い方ではないか! 私は常日頃から言っているだろう。騎士たれ、と。
それだというのにお前ときたら、何時まで経っても……』
まさかこの親父は説教をするためだけに直通通信を使用しているのだろうか。
親父ならあり得るな、と思いながらもセグラントは取り敢えず会話を逸らしてみる事に
した。
「親父、説教は帰ってから受ける。何か用があったんじゃないのか?」
『む。そうだったな。お前の顔を見るとつい説教をしたくなってしまうから困り物だ。
セグラント、皇帝陛下からのお言葉だ。一度本国に戻ってこい』
「今、戻るのか?」
『そうだ。至急戻ってこい』
「分かった。コーネリア殿下とかに挨拶をしたらそっちに戻る」
セグラントはそう言い、通信を切ろうとしたところで、
『帰ってきたら説教の続きだ。お前が帰ったら受けると言ったのだから逃げるなよ』
と言い残し通信は切れた。
「……帰りたくねえ〜〜」
帰れば説教という名のファイトが始める事を知ったセグラントは重い足取りで
コーネリアのいる総督室へと向かっていた。
「コーネリア殿下。セグラントです」
「……入れ」
部屋に入ると中ではコーネリアが眉間に皺を寄せていた。
「どうかしたので?」
「セグラント卿か。何先の二戦において何故こうも黒の騎士団に裏をかかれたのかを
考えていたのでな」
「ああ、確かに。黒の騎士団は的確に俺達の作戦を読んで配置してきましたからね」
「その通りだ。セグラント卿、貴君はこの事をどう考える?」
コーネリアの質問にセグラントは軽く腕を組みながら、
「まあ単純に考えるならば内通者がいるんじゃないですかね」
「やはり貴君もその答えに辿りつくか。ギルフォード、一度徹底的に軍を洗うぞ。
準備を進めておいてくれ」
「イエス、ユア・ハイネス」
ギルフォードは恭しく礼をし、部屋から退出していった。
コーネリアは部屋に残ったセグラントに向かい、
「セグラント卿。先程本国から通信が入り、貴君を一度本国に戻すようにとの命令を
受けた。貴君が訪ねてきた理由もそれだろう?」
「ええ、まあ。既に話が通ってるんなら早いですね。自分は撤収準備を終え次第本国へと
戻る事になるんじゃないですかね」
そうか、と言いコーネリアは席を立ち、敬礼をする。
「セグラント卿、貴君の今までの助力に感謝する」
セグラントもたどたどしいながら答礼をし、部屋を後にした
総督室に行く前に撤収準備をクラウンに頼んでいたので、部屋を後にした頃には既に
撤収準備の八割が終了していた。撤収をする、とクラウンに伝えた時の彼の反応は、
『本当か!? いや、良かった。ここの設備では新装備を開発できそうになかったんだ。
ロイ坊の所に行けば出来るだろうが、なんとなく癪でね』
と言っており、エリア11自体に未練はまったく無いようであった。
ブラッディ・ブレイカーを積んだ大型輸送機の下に着くと、そこにはダールトンが
立っていた。
「ダールトン将軍。どうしたんだ?」
「別れの挨拶でも、と思いましてね」
彼はそう言って手を差し出してくる。
ダールトンの意図を理解したのかセグラントは笑みを浮かべながらその手を握り、
お互いに力をいれた。
「ぬううううううっ」
「ふんっ」
彼等の手の骨が悲鳴を上げる。
先に力を抜いたのはダールトンだった。
「やはりお強いですな。最初にお会いした時は手加減をされていたのですな」
「ふん。それはダールトン将軍も同じだろう。それにしてもナイトオブラウンズ相手に
無言で握力勝負を仕掛けるとは。俺じゃなかったらアウトだ」
「ふ。分かっててやったのです。そして貴方はやはりお強い。これからのブリタニアを
支えるのはやはり貴方のような若者だ。……セグラント卿、短い間ではあったが貴君と
共に戦えた事誇りに思う。貴方の事は息子達にも伝えます」
「息子がいたのか?」
「まあ実の息子ではないのですがね。ドイツもコイツも愛しい馬鹿息子ですよ」
そう言って笑うダールトンの顔はビスマルクの笑顔と何処か似ていた。
本国へと戻ったセグラントはすぐに皇帝とビスマルクが待っているであろう謁見の間へ
と向かう。
「ナイトオブツー、セグラント・ヴァルトシュタイン。只今エリア11から帰還いたし
ました」
「うむ、ご苦労。楽にしてよい」
皇帝の言葉でセグラントは真っ直ぐ伸ばしていた背筋を少し丸めた、瞬間。
「いきなり姿勢を崩すな! この馬鹿息子があ!」
ビスマルクによるドロップキックで謁見の間の床を10m程飛んだ。
「いきなり何しやがる! 糞親父! 叔父貴が姿勢を崩していいって言ったから崩した
んだろうが!」
「それでも崩さぬのが騎士だ! やはり貴様には一度徹底的に礼儀を仕込まなくては
ならぬようだな……」
指の骨をゴキゴキと鳴らしながら近づいてくるビスマルクに対して、
ファイティングポーズを取るセグラント。
皇帝が姿勢を直す為に椅子の上で体を動かした時に生じたギシリという音がゴング
となった。
「今日こそ勝たせてもらうぜ! 親父いいいいいい!」
「このセリフの何度目だろうな! 十年早いわ、馬鹿息子おおおおおお!」
両者は手と手、頭と頭をぶつけ合いその場で動かなくなる。
端から見て何をしているのかは分かりづらいが、彼等の足元に視線を移すと強大な
力と力のぶつかり合いにより床が悲鳴を上げているのが分かる。
そのまましばらく拮抗が続くかのように思えたが、セグラントが一度頭を引き、
ヘッドバットをかます事で状況が動いた。
「はっはあ! 俺の方が頭蓋骨が硬いのは3年前で判明してるからな!」
「ぐ、ぬ。調子に乗るでない!」
ビスマルクは敗けじと膝頭をセグラントの水月に叩き込む。
「ふん! 腹筋の鍛えが足らんようだな!」
「急所を狙っておきながら何を言ってやがる! この技ならどうだ! 地獄卍固め!」
セグラントの複雑怪奇な関節技は見事に極まり、ビスマルクの表情に苦悶が浮かぶ。
しかし、これしきで倒れる漢であればナイトオブワンは務まらない。
ビスマルクは唯一動く片腕でセグラントの指を掴み、折ろうとする。
セグラントは余りの痛みに関節技を解いてしまった。
「クソ! 決められなかった!」
「まだまだ。これからよ!」
両者が再び向かいあった時、謁見の間の扉が開き、一人の女性が乱入してきた。
「皇帝陛下! 何事です……か?」
乱入してきたのはモニカだった。
モニカは謁見の間に入るや否や視界に飛び込んできた光景に固まってしまう。
何故なら、謁見の間で喧嘩を繰り広げる親子など見たことが無かったからである。
「セグラントにビスマルク卿! 何をしてるんですか!? というか皇帝陛下、止めなく
ていいんですか!?」
「ふむ。技のビスマルクと力のセグラント。両者の実力は拮抗してきたな。
む。我が騎士モニカではないか。どうしたのだ?」
「いえ、止めなくていいのですか?」
「……。そうであるな。そろそろ止めるとしよう。両者! そこまで!」
皇帝の一喝が謁見の間に響き渡り、セグラントとビスマルク両者は再び取っ組み合う
直前で止まった。
「皇帝陛下! 申し訳ありません! つい熱くなってしまいました! いかような罰も
お受けいたしますのでお許しを! お前も謝らんか!」
「痛え! 腹を殴るな! というか親父が先に仕掛けてきたんだろ! まあいいや。
叔父貴、済まなかった」
二人は揃って頭を下げる。
その息の合いようは血が繋がっていなくとも確かに親子なのだな、とモニカは感じた。
そんな二人のいつもの光景に皇帝の口角が僅かだが上がる。
「ビスマルクよ、良い。我が楽にせよ、と言ったのだ」
「しかし、陛下!」
「叔父貴が良いって言ってんだからいいじゃねえかよ」
「お前は少しは反省しろ!」
「だから痛えっての。叔父貴、何で俺を呼び戻したんだ? あのまま残ってれば
エリア11は平定出来たぜ」
「うむ。実はEUの戦線で奇妙な動きがあるのだ。念のためということもあり貴様を
呼び戻したのだ。我が騎士セグラントに新たな命を与える。セグラント、貴様はこれより
モニカ・クルシェフスキー並びにアーニャ・アールストレイムと共にEUへと向かえ」
「私もですか!?」
突然の指名にモニカが素っ頓狂な声を上げる。
「うむ。安心しろ。我の護衛は現在EUにいるラウンズとジノに任せる。つまりは交代だ」
「……いつ出ればいい」
「機体のメンテナンスを終え次第だ。良いな」
「あいよ、叔父貴。いや、イエス、ユア・マジェスティ」
セグラントは礼をし、謁見の間から出て行った。
「あ、ちょっとセグラント! 待ちなさい」
モニカもセグラントを追うようにして出て行った。
残されたビスマルクはセグラント達が完全に出て行ったのを見届けてから、床に
膝を着く。
「成長していたか?」
「は。後少しでも技量が身につけば超えられるでしょうな。一人の騎士としては悔しい
ですが、一人の親としては嬉しいです」
「そうか。良き息子を持ったな」
「ありがたきお言葉です」
セグラントは本国にある自身の部屋へと向かう途中の廊下でアーニャとすれ違った。
「おう、アーニャ。聞いたか、お前俺と一緒にEUだってよ」
「そうなんだ。ふふ、楽しみだわ」
いつものアーニャらしからぬ発言にセグラントの目が険しい物へと変わる。
「どうしたの、セグラント。そんなに険しい顔をしちゃって」
「お前、誰だ……?」
「ひどいわね。私はアーニャよ」
「いや、違う。よくわかんねえけどお前はアーニャじゃねえ。もう一度聞く。
お前、誰だ?」
セグラントは構えをとろうとするが、
「やっぱりバレるわよねえ。でも口調を変えるのって難しいのよ。貴方もそう思わない?
セグラント。それにしてもあの小さな子供がこんなに逞しく強くなるなんてねえ。
時が進むのは速いわ。あの子にも貴方の万分の一でも逞しさがあればねえ」
そう言って頬に手を当てる誰か。
その仕草にセグラントの膝が自然と震える。
「その物言い、仕草。ま、まままままままままさか……ッ。お、叔母御!?」
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