後にブラックリベリオンと呼ばれる一大事件があった。
 これは神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアによる日本人虐殺事件を切っ掛けと
してゼロ率いる黒の騎士団がトウキョウ租界へと攻撃を仕掛けた。

 最初こそは黒の騎士団が優勢であったのだが、ここで一つの問題が起きる。

 黒の騎士団のリーダー、ゼロが突如としてその姿を消したのである。

 頭を失った事により黒の騎士団率いる暴徒達は瞬く間に鎮圧され、黒の騎士団もまた
殆どの主要人物が捕縛され、残された人員も潜伏、逃亡をよぎなくされた。
 
 後世の歴史家達は考える。

 何故、この時ゼロは消えたのか。
 いくら議論を重ねようとその答えが出ることは無かった。

 何故なら、この時の真実を知る者は全て口を閉ざしたのだから。



 世界はある一つの知らせに沸き立っていた。
 それは悲しい報告でもあり、喜ばしい報告でもあった。

 その内容とは黒の騎士団のリーダーであるゼロが捕縛されたというものであった。

 ゼロを捕縛した人物の名を枢木スザクと言った。

 捕縛されたゼロは直ぐに本国、皇帝シャルルの下へと護送される事となった。
 
 シャルルはゼロを直ぐに自分の前に連れてくるようにと告げ、加えてその場の人払い
を行った。これには流石に反対意見が出たが、シャルルの皇帝の命である、という一言
により封殺された。

 そして、謁見の間の外の扉には万が一の時の為に護衛としてビスマルクとセグラント
が配置されることとなった。

「なあ、親父」

「なんだ」

「なんで叔父貴は人払いをしたんだろうな」

 セグラントの疑問も最もなものだろう。
 ゼロと言えば神聖ブリタニア帝国に反旗を翻した数ある組織の中でも最も大きな勢力を
持っていた黒の騎士団のリーダーである。
 
 本来ならばそういった人物を捕らえた場合は公開処刑へと直行するはずだというのに、
今回はその範疇では無かった。これを気にするな、というのは無理があった。

 それに対するビスマルクの答えは、

「陛下が仰った事に異を唱える事などあってはならない。陛下が人払いをしたのならば
我等はそれに従うだけである」

 という実に彼らしい答えであった。

 半ば予想していたのかヤレヤレと肩を竦めるセグラント。

「……ところでセグラント。今、陛下の事を叔父貴と言わなかったか?
今は公務の最中であり、プライベートではないのだぞ?」

「……あ。いや、あれはだな、その、ついというか何と言うか」

「あれほど……。あれほど騎士としての心意気を持てと言ったのに貴様と言う奴はぁ。
セグラント、そこになおれぃ!」

 ビスマルクはそう叫ぶと、一瞬にしてセグラントの背後に回り逃げられないように
ベアハッグの態勢になり、そのまま後方に投げた。いわゆるベアハッグスープレックス
である。

「げばらぁぁぁぁぁぁ!」

 セグラントは父の巧みな技に受け身を取る事も出来ず、床をのたうち回る。

「こ、の糞親父ぃぃ! 何が騎士としての心意気を持てだ! 公務の最中に同僚に
技を極めるのが騎士のやることか!」

「ふん。今のは父から子への愛ゆえにいいのだ」

「そんな暴論ありか!?」

「私はナイトオブワンで、お前はナイトオブツー。何か文句でも?」

 堂々と言いのけたビスマルクに流石のセグラントも開いた口が戻らなかった。
 実に清々しいまでの職権濫用であった。

 二人がそのまま大喧嘩という名の語り合いへと移行する直前だった。
 謁見の間の扉がギィィという重厚な音を立てて開かれた。

 出てきたのは、ゼロを捕らえた枢木スザクだった。

「ヴァルトシュタイン卿、何をしているんですか?」

「……何事も無い。それより陛下との謁見は終わったのか?」

「はい。それでは自分は失礼します」

 スザクはそう言い、ビスマルクとセグラントに一礼し去っていった。
 この時、ビスマルクはシャルルの護衛へと戻っていった為きづいていなかったが、
セグラントは見ていた。
 
 スザクのビスマルクを見る目が剣呑な光を抱いている事に。

「……枢木」

 気がつけばセグラントはスザクに声をかけていた。
 
「なんでしょうか?」

「…………いや、やっぱなんでもねぇわ」

 何かを言いかけた様子にスザクは首を傾げるが、今度こそ去っていった。
 セグラントはそんな彼の背中を静かに見送った。
 
 その目に多少の懐疑を混ぜながら。



 

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