IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第一話
「知らない世界」
IS・・・インフィニット・ストラトスとは宇宙空間での活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツの事だ。
だが、ISのコアを開発した篠ノ之束博士が引き起こしたと思われている白騎士事件によって従来の兵器を遥かに凌駕する性能を見せ、宇宙進出よりもパワード・スーツとしての軍事運用が始まった。
だが、篠ノ之博士はISのコアを467個を作った時点でそれ以上の製造を止め、行方を眩ませてしまったのだ。
故にISの絶対数は467機、現在世界中で篠ノ之博士の捜索は行われているが、一向に行方不明。その為、専用のISを持つ事が許されるのは政府や企業の関係者の中でも、選ばれた者のみになってしまった。
しかし、ISは一見高性能な兵器に思えるが、その実、決定的な欠点があった。それは女性にしか起動できないという点、それにより社会情勢は大きく変わり、女尊男卑が当たり前の世の中になってしまっている。
某国の隠れ家にて、この世にISを生み出した世紀の大天才、篠ノ之束は友人から送られて来た手紙を読んで、友人やその弟の近況を知り、笑みを浮かべていた。
「そっかぁ・・・ちーちゃんもいっくんも、元気そうで良かったぁ」
友人も、その弟も元気にしている。それが判って満面の笑みを浮かべた束は何となく空を見たくなり、窓を開けた。
「・・・?」
窓を開けて庭を見た時、空から何か降ってくるのが見えた。しかも二人・・・。
「って、不味いよ!?」
慌てて束は手元にあったスイッチを押す。すると庭の・・・二人が落下する地点に大きな網が出てきて、落ちてきた二人は地面に激突する事はなかった。
庭が血溜まりにならなくて済んだ事にホッとした束だが、すぐに庭に出ると、落ちてきた二人を網から下ろしてベッドまで運んだ。
茶色の髪の少年と、ピンク色の髪の少女、何者かは判らないが、気を失っている以上、目を覚ますのを待つしかない。
「んん? これ・・・・・・」
少年を運んでいる時、束は少年の手首に巻いてある翼をモチーフにした青いブレスレットを見て首を傾げた。如何見ても自分が開発したISの待機状態なのだ。
「ううむ・・・ちょっと借りるよ〜? って、気を失ってたら返事できないよね〜」
二人をベッドの上に寝かせると、束は少年の持っていたISの解析を始めた。
解析して先ず判った事、それは少年の名前、ISの名称、武装などのスペック、そして・・・・・・。
「これ、私が作ったコアじゃない? んんん? 変だねぇ・・・467機しか作ってないし、この束さん以外にコアを作れる人っていない筈なんだけどなぁ」
作った覚えの無いコア、存在するはずの無い468機目のコアは、だが確かに此処に存在している。
「ふむふむ、あの男の子の名前はキラ・ヤマト・・・名前は日本人っぽいけど、外国人? ISはストライクフリーダム・・・うそっ!? なにこのスペック!? 動力にハイパーデュートリオンエンジンと小型のレーザー核融合炉エンジン・・・・・・え、何このオーバーテクノロジーの塊」
他にも天候に左右されないビームを発射する高エネルギービームライフル、ビームシールド、クスィフィアス3レール砲、カリドゥス複相ビーム砲、シュペールラケルタビームサーベル、スーパードラグーンビーム突撃砲、ヴォワチュール・リュミエールシステム、スーパードラグーン兵装ウィング、31mm近接防御機関砲、ワンオフアビリティーにはミーティアというデカイ武装が追加されるという規格外すぎるスペック。
更には装甲にも驚きだ。全身装甲の装甲で、表面にはVPS装甲という物理兵器・・・実弾や実剣などを無効化する特殊装甲を採用している。
「今、開発してる白式や紅椿より高性能・・・第5世代って言っても良いISだよ」
天才の束ですらここまで高性能、オーバーテクノロジーなISは作れない。一体何者が作ったと言うのか・・・・・・。
「う〜ん・・・本当は他人に関わりたくないけど・・・このISの事は知りたいし、聞いたら出てってもらえば良いかな」
いつまでも他人を自分の場所に置いておきたくはない。だから知りたい事を教えてもらったら早急に出て行ってもらう事にした。
ベッドに寝かされていた少年と少女・・・キラとラクスは漸く目を覚ました。
目が覚めて数瞬だけ状況を判断出来なかったが、見知らぬ部屋という事に気付いて警戒する。パイロットスーツのキラとラクスは銃を持っていない。更には自分達が乗っていた筈のストライクフリーダムが行方不明となれば、危険な状況だ。
「あ、何だ・・・目が覚めたんだ」
扉が開いて女性が入ってきた。
頭に機械的なウサミミを着けた髪の長い日本人女性、見た感じでは何処かの軍の人間には見えないし、研究者と言うには雰囲気がミスマッチだろう。
「それで、君がキラ・ヤマト君で良いのかな?」
「何故・・・僕の名前を?」
名乗っても居ないのに見知らぬ女性が自分の名を知っていた事に警戒心を露わにしたキラとラクス、もしかしたら本当に研究者か軍人なのかもしれない。
「君の持ってたISのデータに持ち主である君の名前があったからね」
「・・・IS?」
IS、初めて聞く名だった。しかもキラが持っていたと言うが、キラはそんなものを持っていた覚えは無い。
「あの・・・僕とラクスが乗ってたMSは・・・」
「はぁ? MSって何? 君達は空から生身で降ってきたんだけど」
「空から生身で・・・ですか? キラ・・・私達、確かにフリーダムに乗ってましたわよね?」
「その筈、ここは地球みたいだから、多分落ちてきたのかもしれないけど」
ならばフリーダムが無いのはおかしい。
「それで、MSって何? フリーダムって名前みたいだけど、それって君が持ってたISの名前だよね」
「あの、ISって何ですか?」
「知らないの? 今の時代、知らない人なんていないと思ったんだけどなぁ」
如何にも互いの認識に違いがある。MSを知らない女性、知らぬ者はいないというISの存在、勿論キラとラクスはISなんて聞いた事もない。
「すいませんが、中立国オーブ、プラント、ザフト軍、地球連合軍って言葉に聞き覚えは・・・?」
「知らない。何それ?」
「・・・」
キラが言った名前は誰もが知っている筈の国、軍の名前だ。それを知らないという事は・・・・・・。
「もしかしたら、僕達はこの世界の人間じゃないかもしれません」
「・・・はぁ?」
キラとラクスが語りだしたのは自分達の世界の事、年号や、各国、戦争やMSの存在、コーディネーターとナチュラル、全てを語った。
「ふぅん・・・それで、君の持ってたIS、ストライクフリーダムは君が乗っていたMSって事?」
「はい・・・それで、この世界の事を教えてもらっても良いですか?」
「え〜メンドイなぁ・・・まあ、話も進まないし仕方ないか」
彼女が話すのはこの世界の事、彼女・・・篠ノ之束が作り出したIS(インフィニット・ストラトス)の存在により世界情勢が変わった事、9年前の白騎士事件、その他色々・・・・・・。
「そのISを作り出したのがこの篠ノ之束さんな訳だけど、理解出来た?」
「はい」
「宇宙進出を目的としたパワードスーツが、兵器になり、今はスポーツへとなった・・・ですか、女尊男卑はアレですが・・・」
キラとラクスは束に案内されてMSからISになってしまったストライクフリーダムが置いてあるラボに来た。
ラボの中央には青いブレスレット、ISの待機状態らしいが、これがストライクフリーダムなのだとか。
「それで、これがスペックなんだけど・・・間違いない?」
「はい・・・間違いありません」
「私も設計に少し携わりましたから、内容は知ってます。間違いありませんわ」
「そう、ならこれは返すね」
束にブレスレットを渡されたキラは、取り合えず腕に巻き、その翼をモチーフにした飾りを眺める。
「使い方は・・・はい、ISの説明書あげるから」
「すいません・・・何から何まで」
「別に、さっさと出てって欲しいからしてるだけだよ」
先ほどから感じていたが、随分とキラとラクスを拒絶しているみたいだ。・・・いや、他人を拒絶していると言った方が正しいのかもしれない。
「・・・ん?」
キラが取り合えず御礼でもと思ったのか頭を下げようとした時、その視界に設計中であろうISのデータが入った。
白式と紅椿、第4世代型ISと銘打たれたデータには、その二機の設計資料が載っている。
「あ、勝手に見ないでよ! それは開発中のISなんだから」
「す、すいません。ただOSに少し興味があって・・・」
「OSに・・・? 君、プログラミング出来るの?」
「ええ、僕もラクスもコーディネーターですから、特に僕は専門の学校にも通ってましたし、MSのOSも開発した事があります」
「・・・ほほう」
キラの言葉に束が天才としてのプライドに火を点けた。
「じゃあちょっと、この白式のOSを見て、どこか問題は見つけられるかな?」
「えっと・・・」
束に言われてOSデータを見る。並行して白式のスペック、武装データにも目を通すと、いくつか発見した。
「これ、スペック上の最高速度を出す為のプログラムが未完成ですね・・・それから零落白夜? ですか・・・これにシールドエネルギーを回す為のOSも構築が出来てません。回路も構築はされているみたいですけど、効率的なエネルギー転換をするには不十分で、多分ですけど、想定通りの事はまだ出来ない状態ですか? 既存の物はあるみたいですけど、それを更に発展させようとしている風に見えます」
「わお、凄いね・・・まさか素人が初めて見ただけで束さんも苦労している所を見つける事が出来るなんて」
「キラはプログラミング関係では天才と言って良い程ですから・・・ザフト軍でも次世代型MSのOS開発に関わっていましたし」
「ほへぇ・・・これは、もしかして良い拾い物したかも?」
本来であれば他人なんて傍に置いておきたくない束だが、正直な話、白式の開発が難航している。
一人で完成させたいのだが、このままでは何年掛かる事やら・・・。ならばOS関係においては束クラスの天才と見たキラと意見交換しながらするのも手かもしれない。
「むう、でもそれだと・・・」
自分の矜持を曲げる事になる。しかし開発中の白式も紅椿も、後一年以内に完成させておきたいのも事実だ。
「しょうがないか・・・君、えっと・・・キラ・ヤマトだっけ? そっちの子も、暫く此処に置いたげる」
「まあ、宜しいのですか?」
「その代わり、キラ・ヤマトには束さんの手伝いをしてもらうから。ラクス・クライン? も家事とか代わりにしてくれるなら良いよ」
有難い事だ。此処で暫く住み込みで働くと考えれば無一文の現在では助かる。
「お願いします」
「お願いしますわ」
「うんうん、素直なのは良いけど、早速手伝ってもらうよ」
こうして、キラとラクスの二人は篠ノ之束の下で暮らす事になった。
暫くは束も他人行儀な態度しか取らなかったが、半年も経てばキラの頭脳やラクスの人柄に慣れ、いつの間に気に入られていたのか、キー君、ラーちゃんと呼ばれる様になる。
二人の戸籍に関してはキラが持ち前の技術でハッキングを施し、束の故郷である日本国籍で戸籍を偽造した。
そして二人がこの世界に来てから一年後、日本にあるIS学園というIS操縦者養成学校に束の親友の弟が、世界初の男でISを使える人間として入学する事が決まり、束がキラとラクスにも同時期に入学しろという無茶苦茶を言ってくるのだった。
「あの、束さん・・・僕もラクスも、高校生という年齢ではないんですが・・・」
キラもラクスも今年で20歳、流石に高校一年生というのは無理があるような気がする。
「え〜? まあキー君は束さんがISの知識を教えたから問題無いとは思うけど・・・いっくんが心配なんだよねぇ」
「大事な幼馴染の弟であるからこそ・・・僕に守ってもらいたい、ですか?」
「だ〜いせ〜か〜い!! それでねそれでね!? キー君が二人目のISを動かせる男って事で声明出しちゃったから、ラーちゃんと一緒に入学してきてくれるかなぁ?」
キラにはIS操縦者として、ラクスにはIS管制として、それぞれ学ぶ為にと偽って束の幼馴染、織斑一夏の護衛をしてほしいのだと。
「はぁ・・・束さんのビックリ発言は今に始まった事ではありませんし、僕は良いですよ? ただ、白式と紅椿の開発は如何しますか? もう佳境ですし・・・」
「それは束さんにお任せだよ〜! キー君は気にせず安心して入学してくれたまへ!」
「キラ、こうなっては束さんも聞きませんし・・・諦めましょう?」
「・・・そうだね」
見れば束は既に二人の入学願書控えを差し出している。用意周到というか、何と言うか・・・・・・。
「あ、ラーちゃんにはもう一つおねが〜い」
「なんですか?」
「二人の制服姿を写真に撮って送ってくれると嬉しいなぁ」
「わかりました・・・」
珍しく呆れたという様子を見せるラクスは、束から彼女手作りの高性能・高画質デジタルカメラを受け取り、キラと共にIS学園に行く準備を始めるのだった。
あとがき
これから始まが始まりです。キラとラクスの、19歳と20歳での高校1年生生活!
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