IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第二話
「IS学園」
IS学園、それは世界各国からIS操縦者候補を集め、ISの知識、技能を学ぶ日本の教育機関である。
ISを扱えるのは女性だけ、つまりIS学園は本来なら女子校だったのだが、今年になってISを動かせる男が二人、現れた。
一人は受験会場に置いてあったISを偶然動かしてしまった織斑一夏。第一回モンドグロッソというISの世界大会優勝者である織斑千冬の弟であり、世界で最初のISを動かせる男性として注目を受けた少年である。
そして、もう一人は現在行方不明中の篠ノ之束が発表したもう一人のISを動かせる男性、キラ・ヤマト。今年20歳になる歳ではあるが、IS学園で織斑一夏との比較データを取るという名目で入学する事が決まったのだ。
現在、IS学園1年1組の教室にて、キラとラクスは隣同士の席で雑談しながら副担任らしい童顔の先生、山田真耶のSHRを受けていた。同時に、最前列の教卓前の席に座る織斑一夏の観察もしている。
キラもだが、彼もまた周りの女子の視線を一身に受けていて萎縮しているのか、心成しか後姿が小さく見えてしまう。
「織斑君? 織斑君!」
「は、はい!?」
「あ、大声だしちゃってごめんなさい! お、怒ってる? 怒ってるかな? ごめんね! ごめんね!? あのその・・・自己紹介、“あ”から始まって、今“お”の織斑君なんだけど、織斑君、自己紹介・・・してくれるかなぁ?」
「は、はい。織斑一夏です、よろしくお願いします・・・」
簡単な自己紹介、当然だがそれで周りの女子達が納得する筈も無く、不満気な空気が出来上がる。
「えっと・・・・・・以上です!」
ガタンっという音と共にクラスの大半が椅子から転げ落ちた。何を言うのか期待してみれば、何も言わずに自己紹介を終わらせてしまったのだから、当然の反応と言えばそれまでなのだが・・・。
だが、それに納得しなかった者が一人、一夏の後ろに立って、手に持った出席簿で彼の後頭部を思いっきり殴る女性がいた。
「ってぇ!? って、げぇ!? 関羽!?」
一夏がそう言った時、再び彼の後頭部に出席簿が叩き込まれた。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
痛みに身悶えている一夏を放置して、その女性は教壇、山田先生の横に立つ。
「織斑先生、会議は終わられたのですか?」
「ああ、山田先生、クラスへの挨拶を押し付けて申し訳ございません」
「いえ、副担任としてこれくらいはしないと」
どうやらこの女性が担任らしい。一夏への態度から見るに、キラは束が言っていた“ちーちゃん”がこの女性なのだろう。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。これから一年間で君達を使い物にするのが私の仕事だ。だから私の言う事はよく聞き、よく理解しろ。理解出来ない者は出来るまで指導してやる。私の仕事は若干15歳から16歳までを鍛えることだ。いるとは思わんが逆らっても良い、しかし私の言う事だけは聞け、いいな」
まるで軍隊の教官みたいな挨拶だが、束から聞いたところによると千冬は少し前までドイツ軍IS部隊の教官をしていたらしい。
なるほど確かに、軍の教官をしていたというだけあって、纏っている雰囲気、視線、口調の鋭さ、何もかもが軍教官のそれだ。
当然、IS学園に入学したての普通の女の子ならば萎縮してしまうのが普通なのだが、織斑千冬はその雰囲気を打ち消す程の人気がある。
「キャーーーーー!! 千冬様! 本物の千冬様よ!!」
「私、ずっとファンでした!!」
「私、お姉さまに憧れてこの学園に入学したんです! 北九州から!!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて、嬉しいです!」
「私、お姉さまの為なら死ねます!!」
まるでアイドルを目の前にしたファンクラブみたいな反応を示す。
思わず頭を抱えてしまうキラとラクスだが、どうやら千冬も同じらしい。彼女もあまりの状況に頭を抱えていた。
「毎年、よくもまあこんな馬鹿者共が集まるものだな。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
それもあるのかもしれない。ドイツ軍教官をしていたのだから、この程度の馬鹿を矯正するのは赤子の手を捻るより簡単だろう。
「・・・で? お前は挨拶も満足に出来んのか、織斑」
「いや、千冬姉、俺は・・・っ」
再び出席簿が一夏の頭に落ちた。
「織斑先生と呼べ、馬鹿者」
「・・・はい、織斑先生」
一夏が千冬の弟だという事でクラスが再び騒がしくなったものの、千冬が出席簿を教卓に叩きつける事で沈静化、自己紹介が進み、次は“く”の人間、つまりラクスだ。
「ラクス・クラインです。出身はアメリカですが、国籍は日本になっていますわ。IS学園では操縦者ではなく、ISのオペレーターとして学ぶつもりでいます。どうぞ、よろしくお願いします」
束と共にキラとラクスの戸籍を偽造した時、キラは日本系のアメリカ出身、ラクスは英国系のアメリカ出身の日本国籍として作った。
両親は既に死亡している事にして、二人ともアメリカで生まれて日本で育ったという風に偽っている。
そして自己紹介は進み、次は“や”・・・つまりキラだ。
「キラ・ヤマトです。一応、織斑君と同じくISを動かせる男って事になってます。ラクスもなんですが、僕達は現在、皆さんより年上で、今年20歳になります。えっと、年齢の事とかは気にしないで接してくれると嬉しいです」
その瞬間、教室が黄色い悲鳴に包まれた。
年上の男、中性的な美形の顔、柔らかく儚げな笑顔、綺麗なアメジスト色の瞳、艶やかな栗色の髪、170cmを超える高い身長、無駄な脂肪も無く引き締まっていて尚細い身体、女性にとって理想的な男性を表したかのようなキラの容姿に年頃の女子達は皆一様に見惚れてしまう。
「さあ、いつまで騒いでいる! SHRは終わりだ。諸君等にはこれからの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか? いいなら返事をしろ、よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ。以上だ」
SHRが終わって直ぐ、一夏がキラの所に来た。
「よお、ヤマトだっけ? 俺は織斑一夏だ。同じ男同士、よろしくな」
「よろしく織斑君、僕の事はキラで良いよ」
「そっか、なら俺も一夏で良いぜ・・・っと、そういや年上だっけ? でも年齢気にしないでって言ってたから、このままで良いか? 敬語とか苦手でさ」
「うん、僕もその方が親しみやすいし」
早速友達になってしまった。
何となく、一夏は誰とでも直ぐに仲良くなれる才能があるのではと思ったが、この時キラは、彼の才能が実は女性にのみ、その力が倍増されるとは思っていなかった。
「あら? キラ、もう織斑さんと仲良くなられたのですか?」
「ああラクス、うん」
「えっと、クラインさんだっけ?」
「はい、ラクス・クラインですわ。2月に誕生日を迎えていますのでキラより先に20歳になりました」
「二人って、知り合いなのか?」
自己紹介の時も、考えればキラはラクスをファーストネームで呼んでいた気がする。
「うん、ラクスは僕の恋人だから」
「こ、恋人ぉ!? マジかよ・・・」
彼女いない歴=年齢の一夏、キラとラクスが恋人同士だという事に驚き、そして珍しいモノを見る様な目を向けてくる。
「どうしたの?」
「いや、俺の周りに付き合ってる奴っていなくてさ・・・珍しくて」
「そうなんだ・・・一夏は? 恋人とかいないの?」
「いやいや、いねぇよ。俺ってそんなにモテないしな」
少なくとも、このIS学園ではキラと一夏が唯一の男子なのだから、恋人のいるキラより一夏の方が出会いに恵まれている筈だ。
それに、一夏は美人の姉に似て顔立ちは非常に整っており、少なくとも世間一般で言う所のイケメンと呼ばれる部類に入るだろう。
「そういやキラがIS動かせるって、束さんが発表したんだよな?」
「束さんの知り合い?」
一応、惚けてみた。束から一夏の事を護衛する様に言われたとは言えない。
「ああ、千冬姉の親友だからな。歳は離れてるけど、俺も幼馴染みたいなもので、もう一人の姉さんって感じかな」
「そうなんだ・・・束さんとは一年前からの付き合いでね。彼女の下でISが動かせるって判ったんだ」
「一年前・・・よく束さんに認められたなぁ」
「あはは・・・最初はまともに話も出来なかったけどね」
流石に、幼い頃からの知り合いと言うだけあって、束の性格を把握している。
「あれ? ってことは束さんの居場所とか、知ってんのか?」
「いや、僕達がここに来る時にに引っ越しちゃったから、それ以降の居場所は知らない」
これは事実だ。
「そっか・・・」
行方不明のお姉さんの事が心配なのか、少し心配という表情をするが・・・・・・。
「まあ、束さんなら心配するだけ無駄か。あの人は千冬姉がIS使って攻撃しても死なないだろう人だし」
「それ、既に人じゃありませんわよ?」
何気に酷かった一夏の束像だった。
「ちょっといいか・・・?」
その時、三人で話していると横から話しかけてくる者がいた。
そちらに目を向けると、長い艶やかな黒髪をポニーテールにした釣り目の少女・・・篠ノ之束の妹である篠ノ之箒が一夏に目を向けている。
「あ、箒?」
「ヤマト、クライン、悪いが・・・ちょっと一夏を借りても良いだろうか?」
「良いよ、一夏から聞いたけど、幼馴染なんでしょ? 積もる話もあると思うし、お好きなだけ」
「感謝する」
箒と一夏が教室を出たのと入れ違いで千冬が入ってきた。
「ヤマトとクラインはいるか?」
「はい?」
「ああ、二人とも・・・悪いが職員室に来てくれ。話したいことがある」
「かしこまりました」
千冬と共に職員室に移動する、のかと思えば向かったのは職員室ではなく生徒指導室だ。
「ここなら誰にも聞かれないだろう」
「あの、織斑先生?」
「ん? ああ済まない。人には聞かせられない話だからな・・・二人の事は束から聞いている。IS学園に入学した理由もな」
「あ、そういう話ですか」
どうやら束が前以て千冬に連絡していたらしい。
「特にヤマトには、弟の事で色々と迷惑を掛けてしまう事になるからな・・・これだけは言っておきたかった。ヤマト、一夏の事を・・・どうか頼む」
そう言って、千冬は頭を下げた。大事な弟を護衛する為に来てくれたキラに対する最大限の礼儀と感謝を込めての行動なのだろう。千冬の表情を見ればそれがよく判る。
「頭を上げてください先生、僕はもう一夏の友達ですから、友達を守るのは当然のことです」
「そうか・・・何かあったら何でも言ってくれ、出来る限り最大限の協力は惜しまないつもりだ」
「いえ、私も何かと先生には協力いたしますわ。お相子です」
キラとラクスの言葉に安心したという表情を見せた千冬は改めて二人と向き合った。そこにいるのは弟の身を案じる姉としてではなく、一教師としての雰囲気を纏った千冬だ。
「実は二人を呼んだ理由なのだが・・・クラインの事だ」
「私・・・ですか?」
「ああ、クラインは一応、ISオペレーター志望という形で入学しているのだが・・・入学試験でISを動かしたのは覚えているな?」
「はい・・・あの、それが何か・・・?」
確かに、入学試験の時にキラもラクスもISを使った。
キラはストライクフリーダムを、ラクスはラファール・リヴァイヴを使って試験を行っている。
「クラインの試験結果なのだが・・・IS適正ランクがAだと判明した。これは国家代表や国家代表候補生レベルの適正だ・・・・・・もしかしたら、ISオペレーター志望と言っても適性レベルで問題が出てくるかもしれない。正直、何処の国も適正レベルの高いIS操縦者は求めているからな、一応、その事を頭に入れておいてくれ」
つまり、日本だけでなく、様々な国からラクスをISオペレーターとしてではなく、IS操縦者としてスカウトしてくる可能性が高いという事だ。
IS適正ランクAの者は何処の国でも操縦者として国家代表や軍に欲する人材だ。それをISオペレーターとして遊ばせている余裕は無いという事でもある。
「わかりました。僕もラクスも、その辺には気をつけておきます」
「ああ、そうしてくれ・・・正直、私は一介の教師でしかない。国家や学園上層部には表立って逆らえんからな」
IS学園の学生は何処の国家・組織にも属さず、介入もされないという校則があろうと、裏から手を回してくる国家や組織は存在する。
IS学園の学生だからと言って安心は出来ない。だからこそキラが一夏の護衛として来たというのもあるのだが。
「話は以上だ。そろそろ教室に戻れ」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
「それでは」
生徒指導室から出て教室に向かう途中、キラとラクスは先ほど千冬から聞いた事を思い返していた。
ラクスのIS適正ランクが国家代表や代表候補生と同等のAを出している。それによってオペレーター志望という名目で入学したラクスを何とかIS操縦者にしようと学園上層部や日本、他国が暗躍してくる可能性がある。
キラは一夏の護衛をする事にはなっているが、ラクスのことも守らなければならない。その決意の下、ラクスの手を握ったキラを、ラクスは微笑み、そっと握り返すのだった。
あとがき
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