IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第十八話
「第二試合、最強の後継」
一回戦第二試合、一夏とセシリアのコンビVS箒とラウラのコンビの対決。機体は白式、ブルーティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲン、打鉄と、第一試合に勝るとも劣らない豪華な面々となった。
「セシリア、作戦通りラウラは俺が足止めをしておく。その間に箒を倒してくれ」
「判ってますわ。箒さんを倒すまで持ちこたえてくださいませね?」
「ああ!」
ラウラの機体、ドイツの第三世代型ISシュヴァルツェア・レーゲンのスペックはキラから聞いている。AICは確かに前までの一夏にとっては厄介な武装だろうが、今の彼にはAICに対抗する手段があるのだ。
「私も、キラさんとの訓練のお蔭でブルーティアーズを二機までなら動かしながら機動や攻撃が出来る様になりましたから、苦戦はしませんわよ!」
セシリアも弱点を克服してきているのだから、苦戦はしないだろう。
【試合、開始】
試合が始まった。一夏は現在出せる最大速度でラウラに突っ込み、セシリアはブルーティアーズを開放して箒を包囲しながらレーザーを発射する。
見事、二手に分かれた試合、早速だが展開は動きだした。四方向からのレーザーが箒の動きを制限して、彼女がセシリアに接近しようにも、その隙が見つからない。
そうこうしている内に被弾が増え、シールドエネルギーは一気にレッドゾーンに到達してしまったのだ。
「箒さん、貴女の剣の腕は確かに凄いですわ。それに関しては素直に高評価いたします。もしも貴女が専用機持ちでしたら脅威足りえたのかもしれませんが・・・学園支給の量産機では限界がありますわ!!」
箒の腕は決して悪くない。確かにISランクこそCだが、持ち前の剣道で鍛えた剣の腕は確かなもので、剣に限定してしまえば箒は一夏より強いのだ。
しかし、これは生身の戦いではない。機体の性能差は腕でカバーする事も出来るだろうが、残念ながら箒にそこまでの力は無い。
「さあ、踊りなさい! セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる、真の円舞曲で!!」
一夏とラウラの戦いも白熱していた。
方や、雪片弐型一本で近接戦闘を挑む一夏と、AICを基本に様々な武装を使って中距離を保つラウラだが、一見するとラウラが優勢に見えるだろう、しかしラウラ当人の表情は一向に優れない。何故ならAICを使って一夏の動きを止めようとしても、キラから教わったヒットアンドアウェイ戦闘をしている一夏を中々捕らえられずにいたのだ。
確かに一夏の攻撃はラウラに届いていない。だが、ラウラの攻撃も一夏に中らず、近づいては離れを繰り返す彼に困惑している。
「貴様っ! まともに戦う気は無いのか!? よくそれで教官の弟だなどと言えるな!!」
「へっ! そんな俺に攻撃も中てられない癖に何言ってるんだか!」
ならばと、ワイヤーブレードを放ったラウラだったが、そこで一夏が大きく動き出した。
飛来する何本ものワイヤーブレードの隙間を縫うように瞬時加速で飛びながらラウラ目掛けて急降下してくる一夏、今度こそ捕らえるとばかりにAICを一夏が目の前に来た瞬間に展開しようと構えたラウラだったが、一夏が目の前に来たその時、驚くべき光景を目にする。
「なっ!?」
第一試合の時のキラと同じ、白式に乗った一夏がラウラの目の前で3人に分身したのだ。
三人に分身した一夏は三方向から同時に雪片弐型を振り、一方向にしか展開出来ないAICでは防御は不可能、発動していた零落白夜によって大きくシールドエネルギーを削られてしまう。
「馬鹿な、貴様が撹乱加速を使うなどとは・・・データには無かったぞ!」
「ああ、公式試合で使ったのはこれが初めてだからな。キラとの地獄の訓練で会得した、現状で俺が使える近接戦の切り札だ」
先の試合でキラは今の一夏と同じ三人に分身したが、キラは更に三人、合計六人に分身出来るが、今の一夏には三人が限界だ。だが、それでも一夏にとっては充分な切り札になりえる。
「AICだっけ? 集中している事と、一人の相手に限定して使えるお前の機体の切り札だったな。撹乱加速は充分、天敵だろ?」
確かに、分身されてはどれが本物か判断するのは難しい。AICは完全に封じられてしまったも同然で、更には零落白夜を発動してのバリア無効化攻撃というコンボに繋げられたら、ラウラでなくても脅威だ。
「さぁて、そっちは終わったみたいだな?」
「ええ、箒さんは向こうでお休み中ですわ」
いつの間に終わったのか、セシリアが一夏の後ろに立っていた。
セシリアの後ろを見ると、既に機能停止した打鉄に乗って項垂れている箒の姿がある。如何やらセシリアに一撃も与えられずに敗北した事を落ち込んでいるのだろう。
「さてと、二対一だぜ。ブルーティアーズを操るセシリアと、撹乱加速を使う俺という天敵二人を相手に、まだやる気か?」
「・・・っ! 調子に乗るな!!」
レールカノンを放ち、ワイヤーブレードをセシリアに発射しながらスラスターを全開にして接近してくるラウラ、両手のプラズマ手刀で一夏に切りかかる。
だが、レールカノンは避けられ、ワイヤーブレードはBT兵器で全て落とされてしまい、プラズマ手刀は一夏の雪片弐型で弾かれた。
「っ! 何故だ・・・何故、貴様がこれほど!!」
「俺はキラに鍛えてもらったんだ。俺が尊敬する千冬姉と同等以上の力を持つ友達からな! そしてこの剣は千冬姉から受け継いだ大切な剣だ! だから俺は強くなろうと努力してきた!!」
雪片弐型とプラズマ手刀が何度もぶつかる。だが、一夏はキラとの訓練をしている時に一度だけ様子を見に来た千冬の事を思い出した。
あの時、千冬は刀を二本持ってきており、片方を一夏に渡して一つ、技を見せてくれたのだ。その技は、今の一夏なら完璧ではないにしろ、使えないという訳ではない。
「見せてやるぜ! お前が尊敬して、そして俺も尊敬する千冬姉の技を!!」
雪片弐型を抜刀の構えに持ち、上体を低くしながら前のめりになる。その状態でスラスターを全開にして、瞬時加速を使用、一瞬でラウラの目の前に移動した。
「っ!?」
「くらえ!!」
前のめりになっていた上体を起こしながら振り上げられた雪片弐型、上体移動の力も加わった強力な抜刀式斬撃が抑えようとしたラウラのプラズマ手刀を砕きながらシールドエネルギーを大きく削り、追撃の突きで壁際まで吹き飛ばした。
「がぁっ!? (馬鹿な、この私が・・・負ける? 負けるのか? こんな、極東の平和ボケしたイエローモンキー如きに? 教官の弟というだけで、あの人の心を占めている男に、この私が)」
ラウラは信じられなかった。確かに一夏にダメージを何度か与える事は出来ただろうが、その実、押されていたのはラウラで、今は一夏によって完全に窮地に立たされている。それが信じられず、そして堪らなく屈辱だったのだ。
(汝、力を求めるか?)
「(力・・・)」
(何にも負けない力を求めるか?)
「(ああ、欲しい。私は誰にも負けるわけにはいかない! あんな、あんな男に負けるなんて、あってはならない!! だから寄越せ!! 私に、何にも負けない力を!!!)」
【VTシステム起動】
その瞬間、アリーナが震えた。
「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
ラウラの絶叫が響き渡り、シュヴァルツェア・レーゲンが火花を散らしながら形を変え始め、ラウラを飲み込むと、その姿を完全に変えてしまった。
全身装甲の姿、雪片弐型に似た武器、その一夏がよく知る女性のような姿は、嘗て彼が誘拐された時に助けに来てくれた彼女の姿とまったく同じだ。
「な、んだよソレ・・・何で、千冬姉の姿になってるんだよ。何で、暮桜と雪片があるんだよ!!」
千冬がモンドグロッソで活躍した最強のIS、暮桜と、その武器である雪片、シュヴァルツェア・レーゲンが形を変えたその姿は、二次移行とは違うナニカだ。
「ふざけやがって! 千冬姉と同じ姿? 同じ武器だと? 千冬姉の弟の俺の目の前でそんな真似をするなんて、馬鹿にしてるのかよ!?」
「落ち着きなさいな一夏さん! 私も何が起きたのかは解りませんが、今の状況はあなたが落ち着かなければならないのですわよ?」
「うっ・・・ごめん」
セシリアに叱責されて何とか落ち着いた一夏は改めてシュヴァルツェア・レーゲンを見る。その黒い姿は、姉の嘗ての栄光の姿、それが汚されたような気がして、非常にムカつく一夏だが、だからこそ、今目の前にいるソレの存在を許す訳にはいかない。
「セシリア、援護してくれ。今日最後の瞬時加速と撹乱加速を使って、零落白夜で一気に決める」
「今の状況を見る限り、そうですわね。たった一度のチャンスですが、決めるしかありませんわ!!」
4つのビットを射出して雪片を構えるシュヴァルツェア・レーゲンを包囲するセシリアだが、シュヴァルツェア・レーゲンは瞬時加速で全てを避け、一気に一夏に近づいてきた。
一夏は近づいてきたソレに合わせて自分も本日最後の瞬時加速を行い、シュヴァルツェア・レーゲンの目の前で撹乱加速と同時にを零落白夜を発動する。
「これで決めてやる!!」
一夏のシールドエネルギーは残り10、本当に全てを出し切った一撃がシュヴァルツェア・レーゲンを捉えた。
バリアを無効化して本体を直接切り裂き、更に援護としてセシリアのブルーティアーズが四方向からの射撃で切り口を大きくする。その切り口からは意識を失いかけて朦朧としたラウラの姿が見え、一夏は無理やり穴を押し広げるとラウラの身体を確りと掴み、シュヴァルツェア・レーゲンから引きずり出した。
「あ・・・」
引きずり出されたラウラは朦朧とする意識の中、自分を助け出した一夏の姿を確かに視界に収めた。
その真剣な表情、意識を失っていく自分を心配している瞳、何もかもがラウラの冷め切っていた心を温かくする。
「(ああ、これが、教官の言っていた・・・)」
そこでラウラの意識は完全に落ちた。
一夏は自身の腕の中で眠るラウラを一目見てから、元のシュヴァルツェア・レーゲンに戻ったソレを見て強制的に待機状態へ戻すとセシリアに預ける。
「セシリア、俺はラウラを保健室に運ぶから、ラウラのISを千冬姉に渡しといてくれるか?」
「判りましたわ。早く連れてお行きなさいな」
「おう!」
シュヴァルツェア・レーゲンが暴走した時に塞がっていたピットへの入り口が開いたので、ラウラに負担が掛からない様に飛んで戻ると、白式を解除、そのまま保健室まで走った。
それを管制室から眺めていたキラと千冬、ラクスの三人は苦笑しながらモニターに再生されたシュヴァルツェア・レーゲン暴走の瞬間を険しい目で見ている。
「ヤマト、お前はどうせ知っているのだろう?」
「ええ、間違いなくこれは・・・」
「VTシステムですわね」
「ああ、しかも私のデータを使っているらしいな」
シュヴァルツェア・レーゲンはドイツのIS、そしてドイツには千冬が嘗て教官として訪れていた国であり、亡国企業が起こした織斑一夏誘拐事件での情報提供を行った国でもある。
「きな臭いとは思っていたが、ビンゴかもしれんな」
「束さんに調べてもらいますか?」
「ああ、頼む」
「一応、僕の方でも調べておきます」
ラクスが束に今回の事を伝えてくれるので、キラの方でも少し調べる事になった。千冬も今回の事でドイツに対する疑惑が大きくなったので、キラや束が行おうとしている事を咎める気が無いらしい。
「ああ、誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやれ」
「勿論です」
あとがき
一夏、原作より強化です。原作沿いなのに。
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