IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第十七話
「第一試合、射撃王」
アリーナではキラのストライクフリーダムとシャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムU、鈴音の甲龍、鈴音のパートナーのラファール・リヴァイヴが向かい合っていた。
リーグマッチ一回戦第一試合から早速激戦を予想させるメンバーだ。
「キラ! 言っておくけど手加減なんてしないわ!! あんたが強いのはよく解ってるし、あたしがあんた相手に何処まで通用するのか試させてもらうから!」
「わかった。僕も全力で相手をするよ」
試合開始のコールと共に全機が動いた。
シャルロットはラファール・リヴァイヴへ向けて両手に展開したライフルを乱射しながら鈴音と引き離し、キラと鈴音は互いにぶつかり合った。
キラのビームサーベルと鈴音の双天牙月が時にぶつかり、時に避けられるが、状況は鈴音が不利だ。キラの高速機動に鈴音は目では何とか追えるものの、身体の反応、思考速度が追い付いていかない。
「ああん、もう!! なんて速さなのよキラは!!」
衝撃砲を放っても当たらない、切りかかろうと近づいても直ぐ離されるどころか、まず追いつけない。
「っていうか、あんな機動していてキラって何で意識を保っていられるのかしら? いくらISがGを殺していても限界はあるのに」
ISの飛行時、基本的に重力制御によって体に掛かるGは殺されているので、基本的に操縦者が高機動をしてもGを感じない。
しかし、それにも限界はあって、今のキラの様な超高速機動をしていたらGを殺しきれない、相当な大きさのGがキラの全身を襲っている筈なのだ。
「でもキラの機動を見る限りじゃ、Gがキツイって感じじゃないし・・・」
そもそも、そんな機動をしながら戦況を瞬時判断して、ドラグーンを操作しながら自身も攻撃をするなんて普通ではない。
「って、今はそんな事を考えてる場合じゃないわね!」
衝撃砲をもう一度、今度は連射しながら放ち、キラと戦う為に会得した瞬時加速(イグニッションブースト)を使いながら接近する。
キラは接近してきた鈴音を操作するドラグーンで迎え撃ちながら両手のビームライフルを上空へ放り投げた。
「何をやってんのか知らないけど、チャンス!!」
試合中なのに武器を放り投げ、ビームサーベルを抜こうとしないのを見てチャンスと思ったのか、被弾を覚悟でドラグーンが放つビームの嵐の中を突っ切り、双天牙月を上段から振り下ろした鈴音だったが、驚くべき光景が目に飛び込んできた。
キラは双天牙月を白刃取りで受け止め、腰のレール砲を至近距離から放って甲龍に大ダメージを与えたのだ。
「〜〜〜〜〜〜っ!? 絶対防御が無けりゃ、死んでたって言いたいの!? あんたは!!」
確かに、絶対防御が無ければ今の攻撃、鈴音は死んでいた。
鈴音が衝撃で離れた瞬間、放り投げて落ちてきたビームライフルをキャッチしたキラはフルオートモードでビームを連射する。
レール砲の一撃でバランスを崩していた鈴音は、ビームを逃げ切る事が出来ずに被弾して、シールドエネルギーが残り40まで減らされてしまった。
「くぅっ! あたし、まだキラに一撃も与えてないのに!!」
せめてもの抵抗として衝撃砲を最大出力で放った鈴音だったが、そこには既にキラは居らず。背後から気配を感じた鈴音は咄嗟に双天牙月の刃ごと振り返って、振り返り様に切ろうとしたのだが・・・・・・。
「うそ・・・」
確かにキラは背後に居た。だが、双天牙月がストライクフリーダムの装甲に接触しようとした瞬間、ストライクフリーダムの姿がぶれて、三体に分身したかの様な、嵐の様な機動で回避して、その三体からのビームサーベルによる同時攻撃で甲龍のシールドエネルギーは0になるのだった。
「撹乱加速・・・、何であたしと同じ一年のキラがそんな高等加速技術を使えるのよ」
キラが今使った分身を出す加速、それは一夏にも教えた加速技術の一つであり、IS学園でも二年生になれば教えるが、実際に使える人間はそんなに多くない高等技術、撹乱加速だ。
『試合終了、キラ・シャルルペアの勝利』
いつの間にか、シャルロットが2組のラファール・リヴァイヴを撃破していた。シャルロットに被弾らしい被弾は一切無く、キラとシャルロットはお互いに被弾0で一回戦を勝ち進んだペアという事になったのだ。
実質、今大会の優勝候補筆頭に早速名が挙げられるような快挙であり、他の出場生徒、各国の来賓、学園教師、誰もが注目してる。
「ほほう、デュノアの娘のペアである生徒・・・篠ノ之博士が発表した男だったな。是非ともフランスに招き、我が国の力になってもらいたいものだ。ストライクフリーダムというISと共にな」
タッグマッチを見に着ていた主賓の一人、フランス政府の役人がシャルロットとキラの試合を見て、シャルロットと組んでいるキラに興味を示した。
キラの実力もそうだが、キラの乗るストライクフリーダムにもだ。ドラグーンの存在、IS初のビーム兵器、VPS装甲、そして脅威の超高速機動、何もかもが現行第三世代ISを上回る高性能機なのだ。
「彼がフランスに来てくれれば、フランスはIS開発面で他の国を圧倒的に上回る事が出来る。何が何でも彼をフランス所属にしなければならないな」
フランスの策略は始まる。しかし、それが自身の国の未来を暗くする要因になる等とは、この時、彼もフランス政府も、そして国際IS委員会を含む全ての世界も、まだ知る事は無かった。
試合を終えたキラとシャルロットはピットに戻って来て先ほどの試合の反省会を始めた。
次の一夏とセシリアが出る第二試合まで少し時間があるので、これくらいの時間的余裕はまだある。
「キラは流石だね。中国代表候補生の鈴に余裕で勝っちゃったもん」
「シャルロットも流石だよ。ラファール・リヴァイヴの性能は父親の会社が作っただけはあって完全に把握している」
「僕の機体も元々はリヴァイヴをカスタムしたものだからね」
何より、シャルロットはフランスの代表候補生だ。それだけの実力もあるので、リヴァイヴを使うただの生徒に負ける筈もない。
「でも、リヴァイヴをカスタムした機体の性能を正確に把握して、自分の長所でもって相手の弱点を的確に突けるのはシャルロットの才能だと思うよ」
「そ、そうかなぁ? えへへ」
キラの賞賛に頬を染めて喜ぶシャルロットだが、実際キラから見たシャルロットの実力は決して低くない。
たとえカスタム化していても、第二世代に違いないラファール・リヴァイヴ・カスタムUを扱う彼女の実力は相手が第三世代機であろうとも引けを取らないであろうものだ。
もしもシャルロットが第三世代機に乗った場合、どれ程の実力を発揮するのかを想像すると、薄ら寒いモノを感じる。
「ねぇキラ、実は僕ね、瞬時加速を覚えたんだよ」
「いつの間に?」
「さっきの試合で、鈴の瞬時加速を見て、やってみたんだぁ。一夏やキラがやってるのは何度か見てたからやり方自体は何となく理解してたし」
瞬時加速は代表候補生なら大体は教える国が多いが、実際の話、出来る者と出来ない者がいる。
元々、加速系が得意ではない機体の者や、加速が苦手な者もいるので、教えてもらっても出来ないという例があるのだ。セシリアはその例の一つだろう、彼女はイギリスの代表候補生だが瞬時加速の原理は理解していても実行は出来ない。
シャルロットの場合、元々はフランスでISのテストパイロットだったので、代表候補生になったのはつい最近の話、まだ瞬時加速は教えられていないのだが、それを短期間で覚え、実行出来る様になるなどとは、才能の成せる業なのだろう。
「じゃあ、次の相手は一夏とセシリアのペアか、それともラウラ・ボーデヴィッヒと箒のペアとの試合になる。充分に戦力を分析しておかないとね」
「うん! 僕も手伝うよ!!」
どちらも、油断して良い相手ではない。箒とラウラのペアも、一夏とセシリアのペアも、どちらも前衛と後衛がそろっているので、戦術としては向こうの方が立てやすいし戦いやすいのだ。
「でも、だからこそ攻略もしやすいんだけどね」
キラは前衛と後衛がハッキリとした敵軍と戦った経験も幾度とある。ストライクに乗っていた頃から一人で前衛のデュエル、後衛のバスター、中距離のイージス、強襲型のブリッツと、正に完璧な布陣と戦っていたのだ、そういった相手の攻略法など熟知していても不思議ではない。
「まぁ、次の試合を見て、色々と考えよう?」
「うん! じゃあ観客席に行こうよ!」
ラクスは管制をしていなければならないので、誘う事も出来ない。キラとシャルロットは二人で観客席に向かい、丁度空いていた席に座ると、第二試合が始まろうとしているところだった。
「さぁ、ドイツ軍少佐とドイツ最新鋭機を相手に、何処まで戦えるか・・・見せて貰うよ、一夏」
今正に、一夏とラウラの因縁の対決が、始まろうとしていた。
白式とブルーティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲン、打鉄の四機がアリーナ中央の空中に静止して、それぞれ武器を構え合っている。
『一回戦第二試合、織斑一夏、セシリア・オルコット対ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之箒の試合を始めます』
モニターに四人の顔写真が映し出され、それぞれの機体の名前が写真の下に表示された。
『試合、開始!』
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