IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第二十話
「臨海学校準備」
タッグマッチが中止になった翌朝、HRで教卓に立つ真耶が酷く困惑しているというか、何とも言えない表情をしていた。
「えっとぉ・・・きょ、今日は皆さんに転校生? を紹介します」
転校生という言葉が疑問系なのは如何いう事なのか、生徒は誰もが首を傾げるのだが、その理由を知っているキラとラクス、千冬の三人は若干だが苦笑している。
「なぁキラ、シャルルがまだ来てないんだけど・・・朝も先に行っててくれって言って、遅刻かぁ?」
「あはは・・・まぁ、大丈夫だよ」
「でも遅刻したら千冬姉が怖いぞ?」
そう、シャルロットの席は未だに誰も座っていない。今回の転校生? と何か関係でもあるのだろう。
「ど、どうぞ」
真耶の言葉と共に入ってきたのは金髪の髪が美しい女子生徒、IS学園の女子の制服をミニスカートにして着ているフランス人の美少女だ。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくおねがいします」
「・・・・・・は?」
「・・・・・・な゛っ!?」
『えええええええええええええええっ!?』
一夏と箒の唖然とした声の後に、クラス中が絶叫で包まれた。同室だった一夏も含め、クラスの誰もがシャルロットを男子だと思っていたのに、まさか女子だったなどと、これで驚くなという方が無理だ。
「はっ!? ま、まさかキラ! お前、知ってたのか!?」
「まぁ、ね」
「って、待てよ? じゃ、じゃあ俺って今までシャルルが女だって気付かずに同室だったって事か!?」
「い・ち・かぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
突如、教室のドアがぶち破られ、甲龍を纏った鈴音が衝撃砲をチャージしながら入ってきた。更に何処から出したのか真剣を構えた箒が、その切っ先を一夏に向けている。
「ちょ、ちょっと待て! 俺も知らなかったんだって!! ま、まさかシャルルが女なんて! 男だと思ってたんだよおおおおお!?」
「言い訳無用!!」
「死ねぇえええええええ!!!」
衝撃砲は流石に周りの生徒へ被害を与える。それだけの理性は残っていたのだろう鈴音は双天牙月を出して一夏に振り下ろした。
しかし、巨大な刃が一夏の身体を縦に真っ二つにする事は無かった。一夏の前に回りこんだラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのAICによって双天牙月が止められ、箒の刀はISの腕に遮られている。
「た、助かったよラウラ、ありが・・・んむ!?」
「「あ、あああ、ああああああああああ!!??」」
一夏を助けたのだろうラウラは、お礼を言おうとした一夏の唇に、自分の唇を強引に重ねた。その光景を目の前で見せられた箒と鈴音は、一気に頭に血が上る。
「お、お前を私の嫁にする! 異論は認めん!!」
「よ、嫁ぇ!?」
この後、教室が大いに荒れたのは言うまでも無い。主にISとか刀とか、出席簿とか・・・・・・。
シャルロットが女として改めて転入しなおした翌日、休日なのでキラとラクスはシャルロットを連れて街に出てきていた。
目的はデートではなく買い物、もう直ぐ臨海学校があるので、その為に必要な物をいくつか買いに来ているのだ。
「い、良いの? せっかくお兄ちゃんとお姉ちゃん、デートなのに・・・」
「あら、折角ですもの、シャルロットさんもご一緒にお買い物を楽しみたいですわ」
「うん、それにシャルロット言ってたでしょ? 水着は学園指定の物も申請し直してるから一つも持ってないって」
女子として転入しなおしたばかりなので、学園指定の女子の水着を持っていないシャルロットは、現在手持ちの水着は一着も無い。だから正直な話、今回誘われたのは彼女としても助かった。
「でもお兄ちゃんとお姉ちゃんは持ってないの? 水着」
「僕もラクスも海で遊ぶって経験は殆ど無いから、実は今まで水着を買ったことが無いんだ」
オーブに居た頃も子供達が海で遊んでいるのを眺めているだけだった二人は、生まれてこの方、水着という物を買った経験が皆無だった。
なので今回、初めて買いに行く事になるのだが、どんな水着を買えば良いのか判らないので、シャルロットには水着を見立てて貰いたいという思惑もある。
「そういえば、折角家族になれたのにシャルロットって呼び方は固いよね」
「え?」
「それでしたら、何か別の呼び方など宜しいのではありませんか? 何か可愛らしい呼び方が良いでしょうね」
「そ、そんないいよ! 別にシャルロットでも僕は・・・」
この辺、変に遠慮する所はまだ直らない。最早癖と言ってもいいのかもしれないが、出来ればもう少し甘えて、我侭を言って欲しい二人だった。
「そうだね・・・シャル、なんて如何かな? 縮めただけだけど、結構可愛いと思うよ?」
「あら、良いですわね。シャルさん、何だか親しみやすいですわ」
「シャル・・・うん! 良い! 良いよ!! 凄く良い!!」
最初こそ遠慮していたシャルロットだが、シャルという名前を縮めただけの愛称でも、付けられた彼女本人も可愛いと思ってしまう呼び名を決められ、思わず興奮してしまった。
特に、シャルロットが兄と姉と慕う二人と、これで更に距離が縮まったような感覚が込み上げてきて、余計に嬉しくなる。
「じゃあ、行こうか、シャル」
「行きましょう? シャルさん」
「うん! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
キラとラクスの間で、二人に手を繋がれながら歩くシャルロット。まるで本当の家族の様な光景を作り出す三人の姿は、誰もが振り返り、そして思わず微笑んでしまうか、見惚れてしまう程、自然な姿に映っていた。
三人が訪れたのはIS学園からモノレールで数駅離れた所にあるショッピングモールにある水着ショップだ。水着を専門に扱う店らしく、幅広い年代の女性から人気があると雑誌にも出ている。
「まぁ、男物があるのは良かった」
無い筈が無いので、男用水着のコーナーで青と白のコントラストが美しいトランクスタイプの水着を買ったキラは、いくつか見繕って試着室に入っているラクスとシャルロットを待っていた。
「お待たせしましたわ、キラ」
先に着替え終わったラクスがカーテンを開いた。ラクスが着ている水着は彼女のピンク色の髪に合う様にと、水色のセパレートビキニで、胸は少し大きく見える様に寄せて上げれるタイプになっている。
「うん、良いんじゃないかな」
「キラ・・・前にもお洋服を見に行った時に同じ事を言いましたわよね?」
「えっと・・・」
「もう!」
「ごめん、でも似合ってるよ。凄く綺麗だ」
「最初からそう言ってくださればよろしいのに」
拗ねた様に言うが、頬を若干だが赤く染め、嬉しそうな表情でカーテンを閉めたラクスは、満更でもなさそうだった。
「お兄ちゃん、こっちも見てくれる?」
隣の試着室のカーテンが開き、シャルロットが出てきた。オレンジ色のセパレート水着だが、ラクスより大きい胸は寄せて上げる必要が無いのか、見事にその大きさを自己主張している。
「シャルも可愛いよ。後は髪を三つ編みにしたら良いかもしれない」
「可愛い・・・えへへ、うん! じゃあこれにするね!」
キラに可愛いと言われて心の底から嬉しそうな、シャルロットスマイルになったシャルロットはカーテンを閉めて着替え始めた。
シャルロットの笑顔を見たキラは、前までの、シャルルの時のような、どこか無理をしている作られた笑顔ではなく、心の底からの笑顔になった今の彼女に安堵する。
「・・・っ!」
ふと、キラは視線を感じて勢い良く振り返って、店の外を鋭い眼差しで見つめた。先ほどの視線に、不吉な予感を感じて、軍人としての勘が警告を鳴らしている。
「僕を探っていた? いや、僕とラクスか、それとも僕とシャルか・・・、亡国企業かフランスかは判らないかな」
前者なら亡国企業だろうし、後者ならフランスだろう。果たしてどちらなのか、それは判らないが、キラが振り返った瞬間から既に視線は感じなくなっている。恐らく、もう既に逃げた後だろうから、追っても無駄だ。
「キラ?」
「お兄ちゃん?」
着替え終わって出てきたラクスとシャルロットが何事かとキラの顔を見上げて、心配そうな眼差しを向けてくるが、キラは何でもないと首を振り、微笑んだ。
「それより、会計を済ませようか。この後はカフェでお昼にしよう」
「ええ、でしたら行きたいカフェがありますわ」
「僕も! お姉ちゃんと決めた所なんだけど、ケーキが美味しいらしいよ?」
「へぇ、珈琲とかも美味しいと良いな」
ケーキが美味しいのなら、紅茶や珈琲も期待出来るだろう。
会計を済ませたキラ達は早速カフェに向かい、昼食とデザートを食べ、午後からはウインドウショッピングを楽しんだ。
ただ、キラが先ほど感じた視線は、その後一度たりとも感じる事は無く、誰かに話しかけられるという事も無かったのが、唯一の気がかりだったのだが、その答えは近い未来、キラの怒りという形で出されるのだった。
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