IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第二十一話
「海、戦いを忘れる楽しい時間」
真夏の日光が照りつける白い砂浜、快晴空の色をそのまま映し出した青い海、IS学園1年生の臨海学校は海水浴から始まった。
1年の全クラスが皆、水着姿で年相応に海を楽しんでいる。ある者は早速泳ぎ、ある者はビーチバレーをして、日光浴をする者もいた。
「なぁキラ、箒たちはまだか?」
「女の子は着替えに時間が掛かるものだよ。もう少し待とう」
「そういうもんか?」
そういうものだ。
キラは適当な場所にビニールシートを敷いて、パラソルを立てると荷物を置いていく。セシリアがサンオイルを塗りたいから用意しておいて欲しいと言っていたのだ。
「い、一夏・・・待たせたな」
「やっほー一夏!」
「キラ、お待たせしましたわ」
「キラさん! さあ!! 私の水着、如何ですか?」
着替えが終わったらしい。箒は白いビキニで、豊満な胸が面積の少ない布が強調している。鈴は胸が残念だが、動きやすそうなビキニ、セシリアは箒と同じタイプの青い水着を着ていて、ラクスはキラとシャルロットと共に買いに行った水着だ。
「あれ? ラウラとシャルロットは?」
「ああ・・・あれね」
一夏がラウラとシャルロットがいない事に気付き、何処かと尋ねると、向こうから歩いて来るオレンジ色のセパレート水着を着た三つ編みの髪を前に垂らしているシャルロットと、バスタオルミイラが歩いてきたのが見えた。
「シャル、うん、三つ編みも可愛いよ」
「お兄ちゃん、ありがとう! でも、僕は良いんだけど、ラウラがねぇ」
シャルロットの隣にいるバスタオルミイラ、見れば眼帯をしているのでラウラだというが直ぐに判った。
「ら、ラウラ? 何があったんだよ」
「い、いや・・・その・・・・・・」
「ほらラウラ、恥かしがってないで見せたら良いのに」
「し、しかし・・・」
如何やら一夏に水着姿を見せるのが恥かしいので、全身をバスタオルで覆っているみたいだ。あのラウラが、随分と乙女になったものである。
「もう、なら箒や鈴たちが一夏と一緒に、ラウラ抜きで遊んじゃうんだけど・・・いいのかなぁ?」
「そ、それは! ・・・っ、ああもう!! えい!!!」
シャルロットも中々策士だ。ラウラはシャルロットの言葉で意を決したのかバスタオルを剥ぎ取る。紺色のフリル付きビキニだが、鈴と同じく胸は残念、しかし小柄な彼女がフリル付きの水着を着ていると、何故だか可愛らしく見えた。
「ど、どうだ?」
「え、あ、うん、可愛いぞラウラ」
「か、かわいい・・・そ、そうか、私は、可愛いのか」
途端に顔を真っ赤にしたラウラを微笑ましく見守っているシャルロット、何故だか恥かしがりやの妹を見守る姉か、もしくは娘を見守る母親のような母性溢れる笑みを浮かべていた。
「あらあら、一夏さんも中々のプレイボーイですわね」
「そんな言葉、何処で覚えたの?」
「マリューさんですわ。ムウさんへの愚痴を聞いたときに、ムウさんはプレイボーイで困ると仰ってましたから」
「マリューさん・・・ムウさん・・・・・・」
キラにとってはバルトフェルドと同じ、兄と姉の様な存在と慕う二人に、今は呆れていた。ムウにはマリューという恋人がいるのにも拘らず、オーブ軍でも女性にモテているので、恐らくは女性たちに良い顔しているのだろうと。マリューにはそんな愚痴をラクスに聞かせている事にである。
「後はカガリさんですわ。アスランとメイリンさんの事で」
「カガリ、アスラン・・・」
実の姉と幼馴染までもか、と深い溜息を吐いたキラは、何故か頭が痛くなったのだが、無理も無いだろう。
「マリューさんもカガリさんも仰ってましたわ。少しはキラやシンさんを見習ってほしいと」
「僕? まぁシンはルナマリア一筋だから、納得」
キラもラクス一筋なので、それでだろう。ついでに言うならディアッカもミリアリア一筋なのだが、当の本人は未だにミリアリアと復縁していないので、除外されたのだろう。
「あれ? でもイザークもだよね? シホさん一筋じゃなかった?」
「・・・あら」
マリューもカガリもイザークとは顔見知りなのに、何故彼の名前を出さなかったのだろう。
だが、久しぶりに元の世界の友人達を思い出したものだ。マリューとムウから始まり、カガリ、アスラン、メイリン、シン、ルナマリア、ミリアリア、ディアッカ、イザーク、シホ、本当に懐かしい。
「皆、元気にしてると良いね」
「はい」
懐かしい友人達を思い出し、その思い出に充分浸ったので、二人は言い争っている箒、鈴を苦笑しながら見ているシャルロットとセシリア、更に未だ呆然としているラウラの所まで歩み寄り、8人で遊ぼうと言いに行く事にするのだった。
早速だが、キラは只今ピンチである。それはキラの目の前、ビーチパラソルの下のシートにうつ伏せで横になる英国淑女が原因だ。
「さあ、キラさん。サンオイル、塗って頂けますわよね? バスで約束しましたもの」
「い、いや、その・・・」
確かに約束はした。しかし、恥かしい話なのだがキラは海水浴というものに行った経験が無い。つまり、サンオイルというのも何なのか知らないのだ。
オイルを塗るというからには、腕とかその辺に塗るものだろうとは予想していたのだが、まさか身体全体に塗るとは思ってもいなかった。
「キラ?」
「お兄ちゃん?」
しかも、キラの真後ろではラクスとシャルロットの輝かしい笑顔があった。だが、その誰もが見惚れるであろう笑顔は、目が笑っていない。寧ろ絶対零度の冷たい光を宿している様な気がするのだ。
「さあ、キラさん」
「キラ?」
「お兄ちゃん?」
「・・・・・・・えっと」
サンオイルの瓶片手に、キラは未だ嘗て無い人生最大の危機を、迎えていた。
「えっと、背中だけで良いなら・・・」
結局、約束をしたのだから守らないという選択を出来ないキラは、背中だけという条件で塗ることとなり、背中に突き刺さる冷たい視線と殺気は、我慢する事にした。
「それでは、お願いしますわね」
セシリアは背中に手を回し、水着の紐を解いて完全に背中を露わにした。今セシリアが身体を起こせば歳の割りに発育の良い胸がキラ達の目の前に曝される事だろう。
「そ、それじゃあ」
オイルを手に塗り、それをセシリアの背中に当てた。
「ひゃん!?」
「うぇ!?」
「お、オイルは手で少し温めてから塗ってくださいな」
「あ、ごめんね。その、初めてだったから」
「初めてでしたの・・・それなら、仕方ありませんわねぇ」
何処か嬉しそうなセシリアだった。
それを見てラクスとシャルロットの全身から黒いオーラの様なモノが噴出した様に見えたのだが、周りのクラスメート達は見なかったフリをする。懸命な判断だろうと、後に千冬が語ったらしいが、定かではない。
「ん・・・んふぅ・・・ああ、キラさん、とってもお上手ですわぁ。何だか私、眠くなってまいりましたぁ・・・」
「いや、寝られたら困るというか」
実際、困る。このままではキラの後ろにいる修羅二人の相手を、キラ一人でしなければならなくなるのだから。
「Zzz・・・」
「うそ・・・」
本当に眠ってしまった。そして遂にピンクの修羅とブロンドの修羅がそれぞれキラの肩に細く女性らしい綺麗な手を置いた。ただし、その手は万力を思わせるほど力強く肩を握り、キラの両肩からはミシミシという嫌な音が聞こえてくる。
「っ! えっと・・・ごめんなさい」
「「許しません♪」」
地獄、光臨だった。
何故かボロボロで、何処かやつれたキラと、イイ笑顔で、艶々とした肌のラクスとシャルロット達は砂浜を歩いて適当に見て回っていたのだが、丁度ビーチバレーのコートで一夏とラウラ、箒を含んだクラスメート6名が試合をしようとしている所に出くわす。
「お、キラ! ビーチバレーやるか?」
「いや、見てるだけで良いよ・・・疲れたから」
「「?」」
グロッキーなキラを見て首を傾げる箒とラウラだが、その後ろで微笑むラクスとシャルロットが怖くなって慌てて目を逸らした。
「そっか、なら俺たちの試合でも見ててくれよ」
「そうさせてもらうね」
試合開始、流石に男の一夏と剣道部の箒、軍人のラウラのチームは強い。相手のチームは運動部の人間もいるのだが、流石にのほほん・・・布仏本音というマイペース少女が足を引っ張っている。まぁ、それでも彼女のラッキーアタックが時々脅威になるのだが。
「あ、ビーチバレーですかぁ、面白そうですね〜」
その時、見回りをしていた真耶がやってきて、ビーチバレーに参加したそうな目を向けてきた。引率の教師とは言っても、本日は教師としての仕事は簡単な見回りだけで、遊ぶのも自由なのだ。
「先生も一緒にやらない?」
「いいですね〜、織斑先生もご一緒に如何ですか?」
どうやら千冬も一緒だったらしい。スタイル抜群の身体で、黒いビキニを着た千冬の姿は女子生徒だろうと、実の弟だろうと見惚れてしまう。
もっとも、キラはそれ所ではないし、もしも見惚れようものなら再び地獄が光臨する事になるので、少し視線を逸らした。
「では」
「はい! 負けませんよ?」
真耶が一夏のチームに入り、千冬が本音のチームに入った。4対4の試合だが、この二人の参入で試合は激戦となる。
本音のチームは千冬が強力なアタッカーとなり、強烈なスパイクが何度も炸裂、一夏のチームは逆に真耶の高い反射神経が鉄壁のブロッカーとなって一進一退の試合展開を繰り広げるのだ。
「皆さん、楽しそうですわね」
「うん、後は明日だね。明日、束さんが来る」
「紅椿と私の専用機、何が待ち受けているのでしょうか?」
「間違いなく、明日は何かが起きる。紅椿とラクスの専用機のお披露目としてね」
シャルロットがいつの間にか来ていた鈴音と一緒にビーチバレーを応援している後ろで、キラとラクスは明日の事を考えていた。
明日、束が来る事になっていて、その時、白式の兄妹機である紅椿と、ラクスの専用機が届くことになっているのだ。
「問題は」
「箒さんですわね」
キラとラクスは、アタックを決めてハイタッチをしている一夏の、その向かいで照れながらも応えている箒を見つめていた。
「何事も無ければいいけど」
「箒さんの最近のご様子を考えると、可能性が高いですわ」
果たして、二人の心配は現実のものとなるのか、それは明日になってみなければ判らない。
あとがき
お待たせしました。仕事が忙しくて中々時間が無いですが、三話いっきに行きます。
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