IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第二十四話
「銀の福音」



 最適化(フィッティング)が終了して、早速だが紅椿とオルタナティヴのテスト飛行が始まった。
 箒とラクスが飛行イメージを浮かべ、そのイメージにあわせて紅椿とオルタナティヴはスラスターを吹かし、ゆっくりと地表から離れ、次の瞬間、紅椿が上空へ飛び上がり、オルタナティヴが灰色の装甲をピンク色に変えながらバレルロールをしつつ飛び上がって行った。
 紅椿は確かに第四世代という事で第三世代機よりも速かったが、オルタナティヴはそれ以上に速かった。紅椿よりも後に飛び上がったのに、オルタナティヴは既に紅椿を遥か後方へと追い越してしまったのだ。

「何コレ、どっちも速い!」
「これが、第四世代と第五世代の加速、という事?」

 紅椿は同じ第四世代である白式より若干だが速く、オルタナティヴはリミッターを掛けた状態のストライクフリーダムと同等か、若干だが劣るのスピードだ。
 つまり、どちらも第三世代のスピードなどでは到底追いつけない速さだという事になる。

「どうどう? 箒ちゃんとラーちゃんの思う以上に動くでしょう!?」
『ええ、まぁ・・・』
『キラより少し遅いくらいですわね。でも、これくらいなら私には丁度良いですわ』
「じゃあ、箒ちゃんは刀を使ってみてよ。右のが雨月で、左のが空裂ね。で、ラーちゃんは自衛用の武装を使ってみて! 右腕に搭載されてる砲身はビーム、全身にはミサイル発射管とCIWS、両肩には連装レールガン、両手の甲にはビームシールドが搭載されてるから! 武器特性のデータ送るよん」

 そう言って、束は巨大な連装ミサイルポットを二つ展開して、全てのミサイルを発射した。
 ミサイルはそれぞれ上空の箒とラクスに向っていくが、雨月と空裂を出した箒の斬撃と突きから放たれた紅いレーザーが全てを撃墜して、ラクスの方は右腕のビーム、全身からのミサイルやCIWS、両肩の連装レールガンの一斉掃射によって撃ち落される。

「!? 束さん、まさかオルタナティヴに、マルチロックオンが搭載されてるんですか?」
「まぁね〜、束さんが唯一完全再現出来たのはマルチロックオンだけだったから、あれは外せなかったんだ〜」

 何より、ナノマシンを使う上で、マルチロックオンは如何しても必要だったらしい。だから修理・補給用としても、自衛用としても使える様に設定してあるとの事だ。
 兎に角、束は予想以上の仕上がりに大変満足しているのか、ご機嫌そうに笑っている。だが、その時、真耶の切羽詰った声が聞こえてきた。

「た、大変です! 織斑先生!!」

 見れば、片手に何かの端末を持った真耶が駆け足でこちらに走り寄って来ている。何かの緊急事態だというのは彼女の表情を見れば一目瞭然だろう。

「これをっ!」

 真耶に渡された端末を開いた千冬の顔色が変わった。教師から軍の教官時代のソレへと・・・。

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし・・・・・・テスト稼動は中止だ! お前達にやってもらいたい事がある」

 束が現れたその日の内に特命任務レベルAの事件、キラはそっと束の顔を見た。すると彼女はそれに気付いたのか笑顔を向けてきて、右手人差し指を伸ばして唇に当てた。

「安全は保障してあるから、大丈夫。キー君に任せるよ」
「安全とは、一夏や箒の事ではなく・・・敵の事、ですね?」
「それは秘密〜」

 箒とラクスが降りてくるのを眺めながら、キラは待機状態にしているストライクフリーダムをそっと撫でた。リミッターを外しておいて良かったと思いながら。


 旅館の一室、緊急作戦司令室として用意されたその部屋で、千冬と真耶、多くのオペレーターの教師の他に、キラ達、専用機持ちが集められていた。

「2時間前、ハワイ沖で試験稼動にあった、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代のIS“シルバリオ・ゴスペル”通称“福音”が、制御下を離れて暴走、監視空域を離れたとの連絡があった。情報によれば、無人のISとの事だ」

 無人、とは言うが、間違いなく有人だろう。
 束の言葉、それを思い出したキラは、それを伝えるべきか如何か、それを迷っている。一応、束にとってはこれが箒の専用機デビュー戦と一夏の実戦経験を積む為のものなのだから、余計な情報を与えるべきではないのかもしれない。
 それに、束の言葉を信じるのなら、福音のパイロットの安全は保障されているらしいので、変に遠慮する必要は無いのかもしれないのだ。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はこの先2kmの空域を通過することが判った。時間にして50分後、学園上層部からの通達により我々がこの事態に対処する事になった」

 先ず、教員は学園の訓練機、つまり打鉄とラファール・リヴァイヴを使って空域と海域の封鎖を行う事になっている。全教員が封鎖に駆り出されるので、本作戦の要となるのはキラ達、つまりは専用機持ちが担当する事になったのだ。

「えっと、如何いう事?」
「つまり、暴走したISを我々が止めるという事だ」
「マジ!?」
「一々驚かないの!」

 一夏が意味を理解していなかったが、ラウラの説明で驚愕、それを鈴音に注意されてしまった。

「それでは作戦会議を始める! 意見がある者は挙手するように」

 早速手を挙げたのはセシリアだった。

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「うむ、だが決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と、最低でも2年の監視が付けられる」
「了解しました」

 モニターに映し出された福音の詳細なスペックデータ、データによると広域殲滅を目的とした特殊射撃型のISであるらしい。
 ストライクフリーダムやブルーティアーズと同じ、オールレンジ攻撃が可能な機体だ。速度もブルーティアーズと同等か、それより速いくらいだろう。正に攻撃と機動、両方に特化した機体だ。タイプで言えばブルーティアーズよりもストライクフリーダムに近いと言える。

「この特殊武装が曲者って感じだね。連続しての防御は、難しい気がするよ」
「このデータでは格闘性能が未知数・・・偵察は行えないのですか?」
「それは無理だな、この機体は現在でも超音速移動を続けている。アプローチは一回が限界だ」

 一回きりのチャンス、つまり一撃必殺の攻撃が出来る機体で当たるしかない。そしてそれが可能な機体は二つ、零落白夜を持つ一夏の白式と、圧倒的な火力を誇るキラのストライクフリーダムだけだ。

「織斑先生、僕が偵察に出ますか?」
「ストライクフリーダムでか・・・最高速度はどれ位になる?」
「今はリミッターを切ってますから、福音の4倍は出ます。瞬時加速(イグニッションブースト)二重瞬時加速(ダブルイグニッションブースト)を併用すれば更には」

 それに、キラにはまだ切り札がある。ミーティアを使っても良いのだが、あれだとアプローチした時に小回りが利かなくなるので、別の切り札だ。

「ふむ、ならばヤマト、お前が先に偵察に出て更に詳細なデータを集めて転送しろ。そして白式がアプローチしたら零落白夜で一気に決める」
「え、俺が!?」
「当たり前だ馬鹿者、お前以外に白式を使える者はいないのだからな」

 だが、問題もある。ストライクフリーダムはレーザー核融合炉とハイパーデュートリオンエンジンを搭載しているから、エネルギー切れを起こさずに動けるが、一夏の白式を福音の所までエネルギーを消費させずに移動させる手段が無い。
 移動に機体エネルギーを使えば、当然だがシールドエネルギーも激減する。零落白夜がアプローチするときには使えなくなりましたでは話にならない。シールドエネルギーと機体エネルギー、全てを零落白夜に使わなければ一撃で落とす事は出来ないのだ。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! お、俺が行かないとだめなのか!?」
『当然!』
「ゆ、ユニゾンで言うな!!」
「織斑、これは訓練ではない・・・実戦だ。もし覚悟が無いのなら、無理強いはしない。その時はヤマトに偵察ではなく殲滅を頼むからな」

 勿論、その時のキラへと掛かる負担は大きい。だからこそ、一夏の作戦参加は必要なのだ。

「・・・やります。俺が、やって見せます!」
「よし。それでは現在、専用機持ちの中で、最高速度が出せる機体は・・・」
『ちょっと待ったぁ!』

 場の空気を読めていない能天気な声が聞こえた。
 何故か、作戦司令室の天上から逆さまに顔を出す束が居て、作戦に待ったを掛けてくる。

「とう!」

 そんな掛け声と共に空中で回転しながら飛び降りてきた束は一瞬で千冬の前に移動する。ああ、千冬の胃はキリキリ痛み出すのが手に取るようにわかる光景だ。

「ちーちゃんちーちゃん! もっと良い作戦が私の頭の中にナウプリンティング〜!」
「出て行け・・・!」
「聞いて聞いて! ここは断然、紅椿とオルタナティヴの出番なんだよ〜!」
「・・・何?」

 なるほど、確かに紅椿もオルタナティヴも最高速度はストライクフリーダムを除いてこの中では一番と二番だろう。
 そして戦闘も意識した場合は紅椿が白式の運び手に、戦場でのオペレーターとしてオルタナティヴが出るのは最も効率が良いと言える。


 川原に移動した一同は箒とラクスがそれぞれのISを展開するのを待っていた。
 箒の左手首に巻きつけられた金と銀の鈴が一対になってついている赤い紐と、ラクスの右手薬指に填められたピンクサファイアの指輪が輝き、箒は紅い光、ラクスはピンク色の光に包まれる。

「紅椿、行くぞ・・・!」
「さあ、歌いましょう・・・オルタナティヴ、平穏を願う歌を」

 紅椿とオルタナティヴが展開されたのを見て、束とキラがそれぞれ担当の機体に歩み寄り、調整を始めた。
 それを後ろで見ていた千冬と真耶だが、真耶が束の姿を見ながら神妙そうな表情を作る。

「織斑先生、篠ノ之博士が此処に居る事を、学園上層部は」
「連絡は着いている。今は暴走したISを止める事が最優先だ」

 一先ずの調整を済ませた束が紅椿から離れると、一つ指示を出した。

「よし、それじゃあ箒ちゃん、展開装甲オープン!」

 束の指示と共に展開された紅椿の全身に搭載されている展開装甲、その姿は白式の雪片・弐型に似ている。

「展開装甲はね、第四世代型の装備で〜、一言で言っちゃうと〜、紅椿は雪片弐型が進化した機体なんだよね〜」

 だから、雪片弐型を持つ白式の第四世代型になる。最も、それは以前キラが説明しているので、この場にいる全員が知っていた。

「じゃあ、ラクスはヴォワチュールリュミエールシステムを展開してみて?」
「はい・・・それでは」

 ラクスが目を瞑ってイメージをすると、スラスター・・・背中のウイングを思わせる大型スラスターバインダーの部分から桜色掛かった光の翼の様なモノが現れた。

「ラクスのオルタナティヴに搭載されているヴォワチュールリュミエールシステムは、僕のストライクフリーダムにも搭載されているんだけど、光パルス高推力スラスターの事なんだ。このシステムのお蔭で通常のISを大きく超える高速機動が可能になる」

 ただし、ストライクフリーダムの場合はドラグーンをパージしなければ使えないので、ドラグーンとの同時操作が必要となるが、オルタナティヴはその必要は無い。

「それにしてもアレだね〜、海で暴走って言うと、10年前の白騎士事件を思い出すね〜」

 束の言葉で千冬の顔色が若干だが変わった。
 10年前の白騎士事件の事はキラも束から聞いて知っている。当時、束が開発した最初のIS、それが白騎士であり、その白騎士が世界各国のハッキングされ日本に向けて発射されたミサイル2341発をたった一機で全て撃墜した事件だ。

「白騎士って誰だったんだろうね〜? ね、ね、ちーちゃん?」
「知らん」
「うんうん! 私の予想ではバスト88cm・・・ウグッ!?」

 千冬の出席簿が、今までで一番の威力でもって束の頭に振り下ろされた。

「きゅ〜う、酷いちーちゃん! 束さんの脳は左右に割れたよ〜!?」
「そうか良かったな。これからは左右で交互に考え事が出来るぞ?」
「おお! そっか〜! さっすがちーちゃん、あったま良い〜!」

 そういう問題でもないし、そもそも脳が左右に割れているのは元からだ。
 束に抱きつかれたうっとおしそうにしていた千冬は、強引に束を引き剥がすと紅椿とオルタナティヴの調整にどれ位掛かるのかを聞いてきた。

「織斑先生」
「何だ? オルコット」
「私とブルーティアーズなら、必ず成功して見せますわ! 高機動パッケージ、ストライクガンナーが送られて来ています」
「そのパッケージは、量子変換してあるのか?」

 そこで押し黙ってしまった。つまり、まだ量子変換をしていないという事だ。量子変換には時間が掛かる、それも分ではなく時間だ。
 逆に、紅椿とオルタナティヴなら、調整に掛かる時間は束とキラという天才二人が行う為、7分もあれば余裕だろう。
 これで決まりだ。今回の作戦はキラとラクス、一夏、箒が行う事になった。
 先ず、ストライクフリーダムが偵察に出て、高速機動で移動しながら戦闘と偵察を行い、後からオルタナティヴが合流、偵察情報を超高出力ハイパーセンサーにて即座にキャッチ、白式と紅椿に送信して、紅椿は白式を乗せながら福音へ接近、射程圏内に入ったら一気に白式の零落白夜で落とす。

「作戦開始は30分後、各員準備に掛かれ!!」

 千冬の合図と共に、各自が準備に入る。作戦を行うのはキラ達4人だが、残りの4人もサポートを行うのに準備をしなければならない。
 この30分間、和気藹々としていたメンバーにも殺伐とした空気が醸し出され、誰もが緊張する時間となるだろう。

「キー君」
「束さん?」
「本当に不味いと思った時は、お願いね?」
「撃墜以外で、ですか?」
「うん」
「・・・わかりました」

 キラはラクスから預かっていた暮桜・真打を取り出し、それを束に渡すのだった。




あとがき
臨海学校編、福音戦です。



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