IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第二十五話
「慢心」
昨日は生徒達で溢れていた海水浴場、今はキラ達のみが静かに水平線を見つめていた。
「時間だ、ヤマト、クライン、準備は良いか?」
「はい」
「行けますわ」
キラは手首の、ラクスは指の、待機状態にしているISに手を添えた。
「行こう、ストライクフリーダム」
「参りましょう、オルタナティヴ」
キラとラクスはそれぞれ灰色のIS、ストライクフリーダムとオルタナティヴを展開する。そしてラクスのオルタナティヴがVPS装甲を展開して、機体の色を歌姫の戦艦エターナルを思わせるピンク色に変えると、若干浮き上がって一つのシステムを立ち上げた。
「ナノマシンカタパルト展開、キラ!」
ストライクフリーダムの前に桜色に輝くナノマシンの光が集まり、カタパルトを作った。オペレーター専用ISの本領の一つ、ナノマシンを使ったカタパルトシステム、ナノマシンカタパルトだ。
キラがナノマシンカタパルトにストライクフリーダムを接続したのを確認したラクスはハイパーデュートリオンエンジンからの電力をカタパルトに通す。
「Nカタパルト接続、システムオールグリーン、進路クリアー、X20Aストライクフリーダム、発進どうぞ!」
「キラ・ヤマト、フリーダム! 行きます!!」
カタパルトから発射されたストライクフリーダムがバレルロールをしながら上空へと飛び上がり、VPS装甲を展開して瞬時加速に入る。
一気にトップスピードまで加速したストライクフリーダムは途中で何度か瞬時加速を繰り返しながらハイパーセンサーに福音が引っ掛かる距離まで飛び続けた。
「っ! こちらキラ、目標をハイパーセンサーで確認、これよりアプローチを仕掛けます」
『了解した。こちらも既にクラインが発進している。詳細なデータをクラインに転送してくれ』
「了解!」
千冬の指示を聞き、キラは一気に福音との距離を詰める為、切り札の一つを切った。
瞬時加速の中から更に瞬時加速を掛ける二重瞬時加速、そしてその中から更にもう一度、瞬時加速に入るという、千冬ですら不可能だった神業、三重瞬時加速へと突入して、ほぼ一瞬で福音との距離を詰めた。
「はぁっ!」
先ずは不明だった格闘性能を調べるためにビームサーベルを二刀流にして切りかかる。だが、福音は高速機動の中でそれを瞬時に避けると距離を取ろうとした。
しかし、キラがそう簡単に相手の得意とする間合いまで移動させるなど許す筈も無く、三重瞬時加速で背後に回り、両腕に切りかかった。
「っ!」
距離を取るのは難しいと考えたのか、福音は高速後ろ回し蹴りを叩き込もうとしてきたので、避ける。
本来ならVPS装甲のおかげで回し蹴りなど効かないのだが、この速度だ。当たれば衝撃だけは凄まじいモノになる。そうなれば当然だがバランスだって崩しかねない。
「ならこれで!!」
ドラグーンを全てパージすると、ビームサーベルからビームライフルに持ち替えて全方位からの射撃を開始。
全方位からの射撃に対して福音は反撃するのではなく避ける事で対処して、ストライクフリーダムとの距離が開いた瞬間、上空に瞬時加速で飛び上がると、全身に装備された全砲身36門からのエネルギー弾、銀の鐘を発射してきた。
飛来するエネルギー弾の雨を掻い潜る様に飛びながら福音に近づいたストライクフリーダムは両腰のレール砲を発射、福音に確かなダメージを与える。
「なるほどね、ラクス!」
『データ受信しましたわ。一夏さん! 箒さん!』
『『了解!!』』
一夏と箒が到着するまで少し時間が掛かる。それまでキラが福音の足止めをするのが作戦の第二段階だ。
再び放たれた銀の鐘の弾丸を、キラはマルチロックでロックオンすると、ドラグーンフルバーストにて全てを撃ち落した。
キラが得た情報をラクスが受信して、それが一夏と箒に送られて来たのを確認した二人は、展開していたISのスラスターを吹かして、一気に飛び上がろうとしていた。
「織斑一夏、白式! 行くぜ!!」
「(私も、言ってみようかな)篠ノ之 箒、紅椿・・・参る!!」
飛び上がり、海上で一度停止した二人は紅椿に白式を乗せる為の準備を始める。
「じゃあ箒、よろしく頼む」
「本来なら、女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが・・・今回だけは特別だぞ?」
白式を紅椿に乗せようとした所で、一夏はふと思った事を口にした。それはこの作戦が始まるまでキラから散々言われていた事で、その時は一夏しかいなかったので、その場にいなかった箒にも伝えようと思ったのだ。
「いいか箒、これは訓練じゃない。充分に注意して取り組め・・・」
「無論解っているさ。フフ、心配するな、お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいれば良いさ」
「・・・何だか楽しそうだな? やっと専用機を持てたからか?」
「え? 私はいつも通りだ。一夏こそ、作戦には冷静に当たる事だ。キラが足止めをしてるからって、油断などするなよ?」
「わかってるよ」
だが何だか腑に落ちない一夏だった。箒自身は否定しているが、幼馴染である一夏の目から見ても、今日の箒は何処か浮かれている様な、何となく・・・そう、自信過剰に見えるのだ。
『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』
「はい」
「よく、聞こえます」
千冬からの通信が入った。一夏はとりあえず考えていた事を一度放棄して通信に集中する事にする。
『今回の作戦の要は、一撃必殺だ。ヤマトが足止めをしている福音の懐に一気に飛び込み零落白夜で落とす。短時間での決着を心掛けろ。討つべきはシルバリオ・ゴスペル、福音だ。』
「「了解」」
そこで通信終了かと思いきや、箒がまだ何かを話そうとしている。やはり今日の箒は何処かおかしい、一夏は再びその考えを浮上させた。
「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすれば宜しいですか?」
『そうだな・・・。だが、無理はするな、お前は紅椿での実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が起きるとも限らない。ヤマトもフォローはするだろうが、それも完璧に出来る状況になるとは限らんのだからな』
「わかりました。ですが、出来る範囲で支援をします」
これで確信した。一夏は箒を今回の作戦から降ろすべきではないのかと考え始めた時、一夏に千冬からのプライベートチャネルが開く。
『一夏』
「は、はい!」
『はぁ、これはプライベートチャネルだ、篠ノ之には聞かれない』
千冬も同じ事を考えていたのだろう。だからこそ、プライベートチャネルで助かった。こんな話、箒に聞かせる訳にはいかないのだから。
『どうも篠ノ之は浮かれてるな、あんな状態では何かを仕損じるやもしれん。いざという時は、サポートしてやれ』
「なぁ、箒を今回の作戦から降ろした方が良いんじゃないか? このままだとキラに余計な負担を掛けちまいかねないぜ?」
『本当は私もそう思うのだがな、状況が状況だ。ヤマトに偵察から足止め戦闘、そして殲滅戦までやらせるのは負担が大き過ぎる。奴なら可能かもしれんが、一教師として、それは容認出来ん』
「・・・わかりました。箒の事は俺の方で意識しておきます」
『頼んだぞ』
プライベートチャネルが終了して、再びオープンチャネルに切り替わった。
『よし、では・・・始め!!』
千冬の合図と共に一夏は白式を紅椿の上に乗せて、肩を掴んで固定させる。それを確認した箒は少し微笑んで、真っ直ぐ前を見た。
「行くぞ」
「おう」
紅椿のスラスターが一気に全開まで吹かされ、急激に加速しながら上空まで一直線に進んだ。そのあまりの加速によるGが一夏を襲うが、何とか堪えつつハイパーセンサーとラクスから送られて来た情報の確認を始めた。
「福音の近接戦闘用武装は無し。36門の砲身から放たれるエネルギー弾による特殊射撃がメインの戦闘法か」
「なら、その特殊武装を使われる前に・・・」
「ああ、零落白夜で落とす!」
問題なのはそのスピードだ。福音は現在、一夏が白式で出せる最高速度を超えて動けるらしいので、避けられる可能性がある。そうなればエネルギーは一気に減少してしまい、勝機を失ってしまう。
「その為のラクス、か」
「だろうな、オルタナティヴにはナノマシンを使った仲間のISのエネルギー補給が可能らしいから、もしも避けられた時はキラと箒が時間稼ぎをして、俺はラクスにエネルギーを補給してもらった方が良い」
「なら、もし一撃で落とせなかった時、避けられた時はそうするか」
「ああ!」
二人が福音とアプローチするまでもう直ぐ、漸く前方にピンクのIS、オルタナティヴを見つけた。
「よし、もう直ぐだ!!」
「一気に行くぜぇ!!」
だが、一夏はこの時にも、心の隅で箒に対する不安を抱えていた。千冬と自分が見抜いた箒の現状、それは致命的なミスを起こす前兆ではないかと、そしてそのミスが、もしも取り返しの付かない重大なミスに繋がったら、その時の事を考えると、堪らなく怖かった。
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