IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第三十一話
「夏休み」
臨海学校が終わってから程なくして、IS学園は夏休みに突入した。
生徒達はそれぞれ実家へ帰郷する者、外国人は帰国する者が多く、IS学園に居残る者は結構少ない。
セシリア、ラウラ、鈴はそれぞれ自分達の国に帰国しており、一夏、箒は学園に居残り、そしてキラとラクスはシャルロットと共に日本国内だが小旅行をしてから、二人だけで日本を発った。
キラとラクスの目的地は臨海学校の時に束から教えてもらった現在の彼女の隠れ家なので、この旅も御忍びとなる。
「着いた・・・随分とまぁ」
「人里から随分離れた所ですわね」
某国の空港を降りてから郊外まで移動して、更にISを部分展開して飛行しなければ辿り着けない秘境、そこに純和風の屋敷が建っている。
「お帰りなさいませ。キラ様、ラクス様」
「ただいま、クロエ」
「ただいま帰りましたわ。クロエさん」
インターフォンを鳴らすと、引き戸を開いて中から昔、束が引き取って娘にした少女、クロエ・クロニクルが出てきた。少し会わないだけだったが、変わらないようで安心した。
それから、クロエの後ろから束も出てきた。彼女もまた、海で会った時と変わらないいつもの束で、少し安心する。
「入って入って〜、待ってたんだよ〜」
「はい」
「束さん、これ、お土産ですわ」
中に入ってラクスが持って来た紙袋を束に差し出した。
「んん〜? こ、これは〜! 束さんの大好物、辛さ1000倍カレーのレトルト!!」
毒々しい真っ赤な箱を取り出した束はクルクル回りながら、小躍りして喜びを表した。それほど嬉しいのだろう。
「さてさて〜、二人に来てもらったのは他でもないんだよ〜・・・・・・ちょっと小うるさい国際IS委員会の事でね」
「ラクスと箒の事ですか?」
「調べてみたらもう大変! 箒ちゃんとラーちゃんが代表候補生でもないのに専用機を持った事でどこにISを帰属させるのかで大騒ぎで、更には箒ちゃんが日本所属なのは決定しているんだけど、ラーちゃんを如何するかで各国が騒いでるんだ」
このまま行けば箒は日本所属になる。紅椿も日本に帰属させる事になるのだろうが、問題は紅椿が第四世代という事で、その技術を欲する各国が箒はいらないから紅椿だけでもと狙っているのだ。
更に、ラクスは第五世代のオルタナティヴという存在と、国籍だけは日本だけど、日本人ではない彼女の血が、大問題になっている。
「正直なお話をさせて頂きますと、世界中が第四世代、第五世代が欲しいという事ですね…流石は束様の技術力です」
現在、第五世代のISはキラのストライクフリーダムとラクスのオルタナティヴだけ、それからキラは世界で二番目のISを操縦出来る男という事で、キラとラクスの二人を欲しがる国が数多く存在しているのだ。
「正直、時間が残り少ないですわね」
「そうだね〜、計画を進めるスピードを少し上げないと、卒業までにじゃ間に合わないかも」
「束さんは引き続き量産型の計画進めていくとして、僕とラクスの方でも何か行動をしないと」
キラが目を移した先にあるのは、ラボの一角に置いてある企画書、その表紙に書かれた“アストレイ計画”と“ムラサメ計画”の文字。
「データは充分あるから、後はコアと装甲、それとビーム技術と変形機構の完成かな〜? キー君の方は如何なの?」
「一人は確実かと、後は一夏たちです」
「そっか〜」
特に、一夏と箒の確保は絶対、この二人を自分達の陣営に入れなければ大変な事になるのだ。
「それにしても、戦争の兆候は今のところ見当たらないけど、世界中で極秘裏に開発されている武装、凄いよ〜。くーちゃん、キー君とラーちゃんに見せてあげて?
「はい」
「これは・・・」
「戦争を意識した武装ですわ」
「いや〜、やぱり馬鹿が多いよねぇ。ISの戦争利用は禁止されてても、やっぱりキー君の予想通りの事をやってるもん」
確かに、たとえアラスカ条約でISの軍事利用を禁止していても、戦争目的の武装を極秘に開発している国は多い。
クロエが見せてくれたデータの中には大量殺戮兵器も存在しているの所から、本気で戦争をやろうとしていると捉えて良いだろう。
「恐らく、本格的な戦争へ発展するのは僕と一夏が卒業してから、僕と一夏が何処かの国に所属した時が、幕開けでしょうね」
「第三次世界大戦・・・いえ」
「第一次IS世界大戦だね」
世界大戦まで残り少ない、そう考えて良いだろう。だから急がねばならない、戦争の抑止力となる力、その為の・・・・・・。
「第五世代型量産機・・・」
束の隠れ家に着いた日の夜、キラとラクス、クロエは束が作った夕飯を食べていた。
「いやぁ、ラーちゃんの手料理も食べたいけど、たまには束さんの手料理も食べてもらいたくって! どうかな!?」
「美味しいですよ。まさか束さんが和食を得意としているとは思いませんでしたけど」
「そりゃあね、一応は神社の生まれだし」
「束様の料理…美味しい」
篠ノ之家は神社だ。当然だが和食を幼い頃から食べてきた束は和食が好きだし、作る料理も和食がメインになってしまう。
「この肉じゃがはねぇ、実はお母さんが作ってた味なんだよ〜。なので再現してみました! お袋の味〜♪」
「なるほど・・・」
お袋の味、それを聞いてラクスが真剣な表情になった。如何やら味付けを覚えようとしているらしい。
「ねぇねぇキー君! キー君は料理って出来るの?」
「まぁ、それなりには」
一応、母からはロールキャベツの作り方を教わっている。キラも、ラクスも。
そして、この中で唯一料理が苦手なクロエは、随分と落ち込んでいたが、それでも彼女の料理は初めて出会った頃と比べればラクスに教わった分、少しだけだが上達しているのは間違いない。
「そうだ。いっくんの白式が二次移行(セカンドシフト)したよねぇ? キー君のストライクフリーダムは如何なのかな?」
「ストライクフリーダムですか?」
「調べてみたらストライクフリーダムって第一形態だから、もしかして二次移行(セカンドシフト)もあり得るんじゃないかな〜? って思うんだよ〜」
考えたことも無かった。ストライクフリーダムで充分満足しているキラだったが、確かにストライクフリーダムが第一形態なら、当然だがIS化している現在、二次移行(セカンドシフト)をする可能性がある。
「正直ね? ストライクフリーダムは私が作ったISじゃないから・・・っていうより、元々ISですらないから二次移行(セカンドシフト)するかは不明なんだけど、面白い結果が出てきてるんだよ〜」
「面白い結果?」
「ねぇキー君、今までストライクフリーダムに乗ってて何か感じなかった? 何か語りかけられる様な感じとか」
「・・・いえ」
「そっか〜」
それ以上は何も言わなかったが、束が見つけた結果、そこにはストライクフリーダムの方からキラに対して語りかけている様な、アプローチしている様な、呼びかけている、そんな結果が出てきたのだ。特に福音戦の時には何度も、だからもしかしたらと思ったのだけど、キラがそれに気付いていないのなら、今は言うべきではないのだろう。
「キー君」
「はい」
「もしも何かを感じたら、受け入れてあげて、それはキー君にとって本当に大切なものだから」
「・・・わかりました」
いつの日か、キラがその呼びかけに気付き、応える時がくるのだろう。その時、ストライクフリーダムが如何な進化を遂げるのか、楽しみで仕方が無い。
「さて! 食べ終わった事だしオルタナティヴの調整でも始めますか!」
食器を片付けた束はラボに戻った。
まだまだ完成したとは言え、劣化版のビーム兵器やハイパーデュートリオンエンジン、ヴォワチュールリュミエールシステム、VPS装甲を更に完成へと高めなければならない。
「にゅふふふ! 天才束さんに不可能はない!! 必ず完成させてみせるよ〜!!」
マルチロックオンを完全再現したプライドからか、オルタナティヴの完全完成に躍起になっていた。
だが、完全に完成すればラクスの自衛能力は更に上がる、オペレーターとして戦場に立つ以上、自衛力の高さは絶対に必要なのだ。
「待っててねラーちゃん!」
今夜から暫く、キラとラクスが帰るまで、束は眠れない毎日となるのだった。
キラとラクスは束の隠れ家に一週間ほど滞在して、その間にストライクフリーダムとオルタナティヴの調整を進めて本日、日本へ帰る事になった。
玄関先で帰る準備を終えていざ出発という状態になり、束は二人を見送りに出てきている。
「それじゃあね! ちーちゃんといっくん、それと箒ちゃんによろしく〜!」
「キラ様も、ラクス様も、道中お気をつけください」
「ええ、束さんも、クロエも元気で」
「次にお会いするのは、また少し後ですけど、その間もお願いします」
「うんうん!」
「はい」
それから、束は手に持っていた物を二人に手渡した。小さなチップだが、ISのパーツにも見える。
「それ、束さんが開発した剥離剤(リムーバー)耐性チップだから、一応ストライクフリーダムとオルタナティヴに搭載しておいてね」
「剥離剤(リムーバー)?」
「どっかの馬鹿が造った強制IS装備解除兵器の事だよ〜、それの耐性チップ。それを搭載することで耐性を付ける事が出来るから」
剥離剤(リムーバー)の効果は束の言う通りのもので、非常に強力な効果を持っている。しかし、実は欠陥兵器で、一度使われたISは耐性が出来るから、二度と剥離剤(リムーバー)は効かない。その耐性となるものを束は造り、それをチップにしたのだ。
「それを搭載しておけばISを遠隔コールも出来る様になるよ〜、この辺は一度剥離剤(リムーバー)を使われたISと同じだね!」
「ありがとうございます。学園に帰ったら直ぐに搭載しておきます」
これで全部だ。キラとラクスは隠れ家を離れ、来た道を戻り、空港へ向った。次に束と会うときは、恐らくまた、戦いになると予想しながら。
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