IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第三十二話
「兄姉妹の一時」
束の隠れ家から帰ってきたキラとラクスは、残りの夏休みをシャルロットと共に過ごす事にした。流石に旅行というには時間も残り少ないので、学園で過ごす事になるのだが、それでも充分だろう。
「ねぇお兄ちゃん」
「どうしたの?」
「これ、何?」
現在、シャルロットはキラとラクスの部屋に来ているのだが、キラのデスクの上に乗っていた何かの資料を指差して尋ねてきた。
その資料には『エクレール・リヴァイヴ』という文字が書かれており、それだけでシャルのISに何か関係あるのだという事がわかる。
「ああ、それ? シャルをフランス・・・っていうよりデュノアから貰うのに恩を売っておこうと思って、それで僕が考案したリヴァイヴ系の第三世代型ISの企画書を作ったんだ」
「リヴァイヴ系の第三世代!?」
現在、デュノア社で作っているIS、ラファール・リヴァイヴは第二世代だ。第三世代は未だに基礎どころか企画段階にすら持っていけていない。
だが、キラはデュノア社の総力を挙げても未だに達成できていないリヴァイヴ系の第三世代の企画を完成させていたのだ。
「完成したらシャルの専用機にしようと思ってるんだ。で、データはデュノア社に送る代わりに、シャルを完全に僕の妹にする事を認めさせる」
「そ、そうなんだ・・・それで、その第三世代型のISの名前が、エクレール・リヴァイヴ?」
「うん、高速切替も可能にして、第三世代型兵器としてガトリングレーザー“ゴルジェ”と二連装パイルバンカー“グレート・スケール”、近接レーザーブレード“ダルク”、超重力場発生用ビット“木星の使者”を搭載している」
その他にもラファール・リヴァイヴ・カスタムUに搭載されている武装は全て装備出来る様にしており、拡張領域も3倍になっているらしい。
「コアはラファール・リヴァイヴ・カスタムUのを使って、装甲も転用させてもらおうと思うんだ。フランス政府には第三世代の技術提供と、その試験機のテストデータ提供という形で許可を貰うつもり」
「へぇ・・・」
最早スケールが大きすぎてシャルロットには付いて行けない。でも、自身のISが更に強くなるのならそれは歓迎すべき事だ。キラ達メンバーの中で、自分だけが第二世代という事に少しだけコンプレックスを抱き始めていたのもあり、余計に。
「でも、いくらなんでも足りなくない? 僕のリヴァイヴを使うと言っても、パーツとか、全然足りないと思うんだけど」
「その辺は大丈夫、前のクラス対抗戦の時に襲撃してきた所属不明機、アレのパーツの使用許可も貰ってきたから、アレも使わせてもらうから」
他にも束の所から色々と貰ってきているので、IS一機を作る分には問題無い。
「後はもうフランス政府から許可貰ってシャルのリヴァイヴを預かるだけで良いんだ。夏休みが終わるまでに完成するから」
「じゃあ・・・」
「完成したらみんなでテストしてみよう?」
「うん!」
エクレール・リヴァイヴの話はこの辺にして、キラは珈琲を一口飲み、先ほどから編み物をしているラクスに目を向けた。
「ラクス、何を編んでるの?」
「マフラーですわ。冬には必要でしょうし、キラと、シャルさんの分を」
「僕の分も?」
ラクスの分も合わせて3人分を編んでいるので、今から編めば冬には間に合うらしい。
「私達、三人お揃いですわ」
「わぁ・・・! うん! 嬉しい! すっごく嬉しいよ! お姉ちゃん!」
「うふふふ」
感極まってラクスに抱きついたシャルロットを、優しく撫でるラクス、何処から見ても立派な姉妹だろう。
キラは珈琲を啜りながら微笑んで、手元の資料に目を落とした。そこに小さく書かれている『キラ・ヤマト、ラクス・クライン誘拐計画』という文字を。
「さて、フランスとドイツ、随分と面白い事を考えているね」
この計画はフランスとドイツにハッキングをして見つけたものだ。更にドイツにはストライクフリーダム、オルタナティヴ、白式、紅椿、暮桜・真打、強奪計画の事も書かれている。
「予想が正しければ、学園祭かキャノンボールファストの時に来るね・・・フランスか、それとも亡国企業が」
もはやドイツと亡国企業の繋がりは確実、なら、ドイツが動くとしたら、間違いなく亡国企業が来る。その人員にもしかしたら来るのかもしれない、イギリスでサイレント・ゼフィルスを盗んだ千冬のクローンが。
「今まで、不殺を貫いてきた僕だけど・・・でも」
必要とあらば、容赦はしない。かつてストライクに乗り、連合の白い悪魔と呼ばれていた頃の様に、人を殺す事も、厭わない覚悟を固めた。
昼の時間になり、部屋のキッチンではラクスが昼食の用意をしている。その間はキラとシャルロットはやる事が無いので、キラが趣味でやっているハッキングを後ろからシャルロットが見学をしているという、何とも変な光景が出来上がっていた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「何?」
「ハッキングってさ」
「うん」
「犯罪だよね?」
「バレたらね」
バレなければ問題無いと言い張るキラは、何処かおかしい。
「えっと・・・今は何を見てるの?」
結局、それ以上は何も言えずにスルーしたシャルロットは、今は何を見ているのかを尋ねた。懸命な判断だろう。
「臨海学校の時の、福音のことでね。アメリカとイスラエルのホストコンピューターの福音計画を見てるんだ」
「福音の?」
「あの後、福音がどうなったのか気になってね。それで調べてみたら福音計画は凍結、機体も凍結処理されたらしいよ」
最も、更に調べてみたら福音の凍結は表向きで、ナターシャの専用機として、現在修復中らしい。
「せっかく第二形態に移行したんだから、凍結するのは勿体無いと判断したんだろうね」
「どこにでもあるんだぁ、社会の裏側って」
「そういう事」
シャルロット自身、そういう社会の裏側が関係する立場に居た為、驚きは無いのだが、やはりそういう世界を見てきた分、呆れも大きいのだ。
「キラ、シャルさん、出来ましたわよ」
「あ、わかった」
「今片付けるね!」
テーブルの上の資料を片付けて、そこにラクスが昼食を置いていく。今日の昼食はタマゴサンドとハムサンド、それとサラダにコーンスープと、洋風だった。
「わぁ、美味しそう」
「今、紅茶を淹れますわね」
「じゃあ、僕は珈琲のお替りでも淹れようかな」
ラクスとシャルロットは紅茶を、キラは珈琲を淹れて、食事を始めた。
相変わらず、カリダから料理を教わっていたラクスの料理は絶品で、キラは勿論のこと、シャルロットもラクスの料理が大好きだった。
「ねぇお姉ちゃん、僕も料理・・・やってみたいなぁ」
「でしたら、今度ご一緒にやりますか? 教えますわ」
「良いの!? やる!」
「味見は僕かな、楽しみにしてるよ」
幸い、ラクスはフランス料理に関しても心得はあるので、フランス人であるシャルロットに教える事は出来る。勿論、シャルロットが他の国の料理を覚えたいのであれば、それでも問題は無い。
「明日から早速、始めましょうか?」
「うん!」
これは、明日からの食事が更に楽しみになった。キラはそれを楽しみにしつつ、タマゴサンドを口に運び、その甘さを楽しんでいるのだった。
昼食も終わり、夕方まで三人揃って部屋で映画を見たり、一夏が貸してくれたゲームをしたり、夕飯も楽しみつつ、本当に楽しい時間を過ごしていた。
もう直ぐ夏休みも終わり、また忙しい毎日がやって来る。そうなればこんな楽しい一日を過ごすのも大変になるので、今という時間を目一杯楽しんだ。
「さてと、そろそろ僕は大浴場に行ってくるよ」
「はい、それでは」
「ゆっくりしてきてね」
「うん」
着替えとタオルを持って部屋を出たキラは、大浴場に向う。
大浴場の前に着いた時、キラは足を止めて振り返ると隠し持っていた銃を近くの柱に向けた。
「・・・もう移動したんだ。流石は対暗部用暗部の家系、かな」
先ほどまで感じていた気配は、キラが振り返って銃を向けたときには既に移動していた。もう近くにはいないだろう。
「更織楯無・・・」
遂に学園上層部が動き出した。キラはその事を確信すると、今後の対策を練る必要があると考えた。
相手は学園上層部と生徒会、更にロシア、学園最強の生徒、何が起きてもおかしくないし、厄介な事態になっても不思議ではない。
「まぁ、容赦はしないよ。もしも僕や、ラクス、シャルや一夏たちに手を出すのなら、僕は現・生徒会を敵に回す覚悟もある」
それも、向こうの出方次第だが、もしも敵に回るのであれば、容赦はしない。
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