IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第三十七話
「学園祭開催」



 あれから、一夏は楯無に敗北して随分と色々と心労の溜まる毎日を送っているらしい。毎日キラの部屋に来ては愚痴を言って、キラもそれに付き合いながら何処か楽しそうにハッキングをして、主に一夏の胃とロシアのコンピューター、日本のコンピューターに被害が行っていた。

 そんな中、キラは千冬のツテでIS学園影の支配者である轡木十蔵と会う事が出来た。

「初めまして、キラ・ヤマト君」
「はい」
「用件は更織さんですね?」
「ええ、少し・・・彼女の行動に思うところがありまして」

 彼女の主観で、この学園で最も危険な存在と言えるキラとストライクフリーダムの情報を何としてでも引き出そうと、一夏を引き込むなど、手段を選ばなくなってきている事、その全てを話す。

「そうですか・・・僕の方からも言ってはおきますが、恐らくは無駄でしょう。今度は更織家かロシア政府を裏で動かされる可能性が高い」
「その場合は僕の方で問題なく対処出来ます。何かあれば日本から更織家という存在は消えてなくなり、彼女はロシアの代表から降ろされる事になるどころか、彼女自身が二度とISに乗れなくなる様にしますから」
「随分と過激な報復ですね」

 過激には過激で返す。それがキラ流の報復術である。

「まぁ、警告はしておきましょう。それ以降の面倒は、僕でも見切れませんよ?」
「ええ、それで構いません」
「わかりました」

 こうして、学園の影の支配者と、世界最強の対談は終了するのだった。


 そして、遂に学園の生徒たちが待ち望んだ学園祭が開催される。
 キラ達一年一組は朝から出し物であるご奉仕喫茶の準備に追われていて、食材やメイド服、キラと一夏の着る執事服の用意が慌しく行われていた。

「じゃ〜ん! どう? お兄ちゃん、これ・・・似合うかなぁ」
「こういう服は着た事がございませんが・・・キラ、如何でしょう?」
「うん、二人とも良く似合ってる。可愛いよ」

 キラの目の前にはメイド服に身を包んだシャルロットとラクスの姿があった。
 二人ともキラに褒めてもらいたくて、着替えてから真っ先に見せに来たのだが、実際に見せるとなると恥かしかった。しかし、褒められて悪い気はしないもので、二人とも満面の笑みを浮かべる。

「あ、あの・・・キラさん? その、私の方は如何でしょうか?」
「セシリア? ・・・うん、セシリアも、似合ってるよ」
「っ! そ、そうですの・・・似合って、おりますのねぇ〜」

 微笑と共に褒められて顔を真っ赤にしながらセシリアは脳みそが蕩けてしまったらしい。ふらふらと覚束ない足取りでキッチンの方に歩いて行った。

「あらあら、セシリアさん・・・よほど嬉しかったみたいですわ」
「お、お姉ちゃん・・・余裕の笑みが怖いよ?」
「うふふふふふ」

 因みに、キラは今のラクスの笑みは、見たくなかった。

 学園祭開催の時間が来た。
 早速だがキラ達一年一組は学園中の女子から大人気で、主な理由はキラと一夏が執事服でご奉仕してくれる点だろう。メニューにはキラや一夏が客にあ〜んして食べさせてあげるというものもあるので。

「一番席、ダージリンとベリータルト入りました!」
「は〜い! ヤマト君、4番席のオレンジジュースとサンドイッチ、持ってって!」
「了解」

 本気で大盛況だった。
 開店と同時に満席になり、客が一人でる度にまた一人入ってきて、既に教室の前には行列がズラッと並んで、長さが目測だと5〜6mはあるだろうか。

「あれ? あそこにいるのは鈴? ああ、一夏に食べさせてもらってるんだ・・・」

 ふと、一夏は何処にいるのかと探してみると、チャイナドレスを着た鈴が来ており、彼女の注文であろう執事のご褒美セットのご褒美、一夏にあ〜んしてお菓子を食べさせてもらっている。

「ん? あれは・・・更織会長」

 何故か、楯無がメイド服を着て混じっていた。
 相変わらず神出鬼没、何処にでも現れる人だが、今回の事も目的は一夏なのだろうと思っていたのだが、何故か彼女はキラの方に来る。

「やぁ。この前はどうも」
「約束、守る気が無さそうですね」
「・・・随分と面白いコネを持ってるのねぇ。彼を使って警告してくるなんて」
「さて、何の事でしょうか?」
「いいわ、そっちがその気なら此方も考えがあるから」

 挑戦的な目をキラに向けてきたが、恐らくは裏から更織家を動かすか、ロシア政府を動かすつもりでいるのだろう。キラの思っていた通りの展開なので、対処など容易い。

「会長が何をしても構いませんが・・・知ってますか? 後悔先に立たずという言葉」
「私が何を後悔するというのかしら? 貴方個人に出来る事なんて高が知れてるわ」
「そうですか・・・警告は確かにしましたよ」

 確かに警告は出した。後は楯無がどの様な行動に出るのか、だ。それ次第では日本という国から対暗部用暗部“更織家”は社会的にも物理的にも消えてなくなるか、ISそのものが二度と楯無に反応しなくなって、乗れなくなるか、若しくはその両方だ。
 立ち去った楯無の後姿を眺める気も起きず、キラは改めて接客に戻った。スマイル全開、超が付くほどの美形であるキラの笑顔に、この日も多くの女子が墜ちたのは、言うまでも無い。


 学園祭が開幕してから随分と時間が経った。漸く休憩を貰える事になったキラと一夏は二人で学園をぶらぶらする事になったのだが、如何やら一夏の友達が来る事になっているらしく、迎えに行く事になった。

「そんで、そいつ、五反田弾っていうんだけど、鈴とも知り合いなんだぜ?」
「へぇ、五反田食堂か・・・今度連れてってくれる?」
「おう! すっげぇ美味いから、気に入ると思うぜ」

 来る事になっているという一夏の友達、五反田弾の話をしながら校門前に向かっていた二人に、スーツを着た一人の女性が近づいてきた。
 一見するとOLの様に見えるのだが、キラは違和感を覚えた。明らかに訓練された人間の足運びをしているのだが、無理やり普通の人みたいに振舞おうとしているかの様な・・・そんな違和感が。

「ちょっといいですか?」
「はい?」
「失礼しました。私、こういう者なのですが・・・」

 差し出された名刺を見ると、IS装備開発企業『みつるぎ』歩外担当・巻紙礼子と書かれていた。

「実は、織斑さんとヤマトさんに是非とも我が社の開発した装備を使っていただけたらと思いまして」

 一夏が言っていた。キラがラクスと共に束の所に行っている間、こういう企業の人間が何人も来て、白式に自分達の会社の装備を使って欲しいと勧誘してきたと。
 世界で唯一、ISが使える男子の専用機に装備を使ってもらうというのは、相当な広告宣伝効果があるらしいのだ。

「残念ですが、僕はお断りします。ストライクフリーダムは現在の装備で初めて100%の性能を発揮出来るので、余計な装備は必要ありません」
「お、俺も・・・こういうのは学園の許可を貰ってからにしてください」
「そう言わずに是非! 織斑さんでしたら此方の追加装甲や補助スラスター、ヤマトさんでしたら脚部ブレードなど如何でしょう!?」

 しつこい、一夏ならそう思っているのだろう。しかし、キラは余計に違和感を覚えた。学園からの許可を取っていないのにこのしつこさ、何より先ほどから感じる匂い・・・これは、キラもよく知る戦場の匂いだ。

「と、兎に角! 人を待たせてるので失礼します! キラ、行こうぜ!」
「うん・・・・・・もう少し、足運びに気をつけるべきですよ、ファントム・レディ?」
「っ!」

 反応した。どうやら遂に動き出したらしい。キラと束が危惧する相手が・・・織斑姉弟にとっても因縁のあるあの企業が。

「やっかいな事に・・・っ!」

 一瞬、本当に一瞬だが感じた感覚、嘗ての戦争でレジェンドを駆るレイ・ザ・バレル、そしてプロヴィデンスを駆るラウ・ル・クルーゼと戦った時に感じた“あの”感覚が、一瞬だがキラの身体を突き抜けた。

「ま、さか・・・」
「? キラ・・・如何した?」
「・・・ううん、何でもない、よ・・・行こう?」
「? おう」

 何とか誤魔化したが、キラの顔色は悪い。
 何故なら、“あの”感覚、レイ・ザ・バレルの様に憎しみの中に悲しみがあったあの感じではなく、この世の全てに対する憎悪を孕ませた感じなのだ。
 そして、そんな感覚を持つ者など、キラが知るかぎり一人しか存在しない。

「でも、まさか・・・あの人は僕が殺した筈だ・・・ラウ・ル・クルーゼは」



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