IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第三十八話
「動く亡国(ファントム)、伝説の天帝」



 楽しい筈の学園祭、キラも楽しい時間を過ごせるのだと思っていたのだが、しかし・・・先ほど感じた感覚、この世の全てに対する憎悪を孕んだあの感覚を感じて、一気に緊迫感に包まれた。

「一夏、ごめん・・・用事が出来たんだ。五反田君の事はまた今度、紹介して?」
「え、どうしたんだよ?」
「ちょっと、行く所が出来たから・・・それじゃ」
「お、おい!」

 正門前に向う最中にキラは一夏と別れて学園校舎側に戻りながらISのプライベートチャネルを開き、千冬の暮桜・真打に繋ぐ。

『この回線はヤマトか・・・如何した?』
「織斑先生・・・いえ、千冬さん、緊急事態です。今から会えませんか?」
『・・・キラは今、何処にいる?』
「一夏と別れて校舎に向ってます」
『なら屋上に来い。あそこは今、誰もいないからな』
「はい」

 千冬との通信を切って、今度はラクスのオルタナティヴに繋いだ。

「ラクス!」
『キラ? 如何されました?』
「今どこ!?」
『これから休憩に入る所ですが・・・』
「なら直ぐに屋上に向って! 千冬さんが待ってる」
『・・・何かあったのですね。わかりました、直ぐに屋上へ参りますわ』

 ラクスとの通信も終わり、キラは更に走るスピードを上げた。
 既にオリンピック陸上の金メダリスト並みのスピードを出しているが、それ以上のスピードまでギアを上げて一気に校舎に入ると屋上まで駆け上がる。
 屋上には既に千冬とラクスが待っており、キラは若干息を乱していたが、直ぐに整えて二人に歩み寄った。

「それで、何があった?」
「・・・先ほど、一夏と一緒に正門前に向かっていたんですけど・・・その時に学園敷地内で気配を感じたんです」
「気配、ですか?」

 人の気配なら学園なのだから感じるのも当然だが、キラが言っている気配は違う。

「ラクスには判ると思う・・・この世の全てに対する憎悪を孕んだ気配」
「っ!? ま、まさか・・・そんな! 彼はキラが・・・」
「うん、確かに僕が殺した・・・それ以前に、あの人がこの世界にいる筈はないのに・・・でも確かに感じたんだ・・・ラウ・ル・クルーゼの気配を」
「待て・・・何者だ? そのラウ・ル・クルーゼという男は」

 そう言えば千冬にはキラとラクスが別の世界から来た存在という事は話してあるが、詳しい事まで話してはいなかった。
 当然だがラウ・ル・クルーゼの名前を出しても、それが誰なのか、何を意味しているのか、理解出来る筈もない。

「ラウ・ル・クルーゼとは・・・僕達の世界で起きた戦争の、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で、僕自身の手で殺した男の名前です」
「私達の戦友、ムウ・ラ・フラガさんの父親、アル・ダ・フラガのクローンとして生み出された男でして、ザフト軍でも有名な知将でした」

 そして、不完全な自分を生み出し捨てたアルと、それを招いた人類の競争を憎悪し、戦争の激化による人類の滅亡を図った狂人だ。

「随分とイカレた男なのだという事は理解した・・・それで、何故その男の気配を感じた? キラが殺したと言っていただろう」
「ええ、間違いなく僕がフリーダムのビームサーベルでコックピットを潰して、ジェネシスのγ線レーザーに焼かれたのを見ました・・・生きている筈が無いんです」

 だけど、間違える筈が無い。一度、戦ったからこそ判るのだ、あの感覚はラウ・ル・クルーゼのもに間違い無いという事が。

「まぁ、お前の軍人としての勘は信頼している。だから、その男が今、この学園の敷地内にいると仮定して話すぞ? 如何すればいい?」
「一先ず、あの人も人が多い所で仕掛けてくる事は無いと思います。間違いなくあの人の狙いは僕でしょうから、余計な刺激は与えない方が得策ですね」
「下手に接触すれば殺されるか・・・」

 人を殺す程度、クルーゼは何とも思わない。だから下手に学園の教員が接触をしてしまえば学園から死人が出てしまう。
 それだけは絶対に避けなければならない。平和なこの学園を血で染めるなどあってはならないのだから。

「それから、もう一つ・・・これは千冬さんにも関係のある話です」
「私にも、か?」
「亡国企業・・・その人間と思しき女性と接触しました」
「っ!」

 一夏と千冬にとって亡国企業とは因縁浅からぬ存在だ。
 嘗て一夏を誘拐した組織であり、おそらくはドイツ軍やドイツ政府と繋がっているであろう組織、その人間が学園内にいる。

「名刺を貰いました。巻紙礼子、おそらく偽名でしょう。IS武装開発会社の社員と偽ってますが、橋運びが訓練された人間のソレでしたし、この時期、このタイミングで一夏と僕に接触してくるとしたら、間違いないでしょう」
「ああ・・・顔写真はない、か。流石に」
「いえ、こっそりとですけど、ストライクフリーダムに保存してあります」
「そうか、暮桜に転送してもらえるか? 後で印刷して確認しておく」
「はい」

 ストライクフリーダムに保存しておいた巻紙礼子の映像を暮桜・真打に転送した途端、ストライクフリーダムが一つの画面を映し出した。
 それは学園の見取り図で、その一部に白い点が止まっていた。

「これは・・・一夏が更衣室に?」
「おいキラ、何だ・・・それは」
「これはキラが白式開発時に取り付けた発信機ですわ、一夏さんの現在位置を把握したり、白式に異変が起きれば知らせてくれるんです」
「・・・一夏にプライベートは無いな・・・いや、護衛を頼んでいるのだから文句は言わんが」

 弟にプライベートは無いのだなと、千冬は若干不憫に思ったが、キラとラクスの立場を思い出して仕方が無いと強引に納得する事にした。

「でもここ・・・更衣室? 何で更衣室になんっ!?」

 一夏の現在位置を見て疑問に思っていた時だった。白式の異変を知らせる点滅が起きたのだ。

「白式に異変!? 千冬さん!!」
「先に行け! 私は教師陣に知らせてくる、学園内でのIS行使は私の権限でキラとラクス、それと万が一の時を考えて一夏に出す!」
「了解! ストライクフリーダム!」
「オルタナティヴ!」
「「起動!!」」

 一瞬でキラとラクスはストライクフリーダム、オルタナティヴを展開してVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲をONにする。

「キラ・ヤマト、フリーダム! 行きます!!」
「ラクス・クライン、オルタナティヴ! 参ります!!」

 屋上から二機のISが飛び立ち、一気に更衣室前の壁まで移動すると、オルタナティヴのCIWSを低出力モードで発射して壁を破壊する。
 中に入るとISを装備していない一夏と霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)を展開した楯無、それから見慣れぬISを展開した女性・・・巻紙礼子がいた。

「今度はなんだ!」
「キラ! ラクス!」
「ヤマト君と、クラインさん・・・」
「やぁ一夏、会長・・・それと、巻紙礼子さん」
「チィッ、キラ・ヤマトかよ・・・」

 巻紙礼子はもう一人のターゲットであるキラの登場に舌打ちをする。この状況ではもう一つの剥離剤(リムーバー)を使うなど不可能なので、ストライクフリーダムを奪えない。

「まぁ良いか・・・どうせテメェを殺せば手に入るんだからなぁ!!」

 8本の装甲脚がストライクフリーダムに伸びて先端が開き、実弾射撃を開始した。
 しかし、キラはそれを避ける訳でもなく、無防備に受けた。だが、ストライクフリーダムに一切のダメージは無く、巻紙礼子のISは無駄に弾を消費しただけに終わる。

「無駄です。僕の機体、ストライクフリーダムに実弾装備は一切効きません」
「チッ、んだよその装甲・・・ならこれでどうだ!!」
「無駄なんです、アメリカ製第二世代型IS、アラクネは実体兵器しか装備されていない・・・勝ち目はありませんよ」

 両手に日本のカタールを持って切り掛かってきたが、やはりストライクフリーダムの装甲に傷一つ付けられない。
 逆にキラが抜刀したビームサーベルによって両腕が破壊され、8本の装甲脚も一瞬で持ち替えたビームライフルの連射で破壊されてしまう。

「クソがっ!!」
「っ! 一夏君、今よ! 願って! 白式は貴方に必ず応えてくれるわ!」
「白式が・・・・・・、来い! 白式!!」

 右手を押さえて白式を呼んだ一夏、すると巻紙礼子が奪った白式のコアが消え、一夏の右手の中に再構築される。
 そのまま白式は展開されて、一夏の思いに応えるかの様にその純白の姿を現すのだった。

「な、なぁっ!? てめぇどうやって!」
「知るか! くらえ!!」

 緊急展開された白式が雪片・弐型を構え、零落白夜を発動。手足を失って無防備なアラクネのシールドバリアーを突破して本体の絶対防御に直接切りかかり、その勢いのまま一夏はアラクネを蹴り飛ばした。

「ぐぇっ」

 壁に激突したアラクネは完全に大破している。そのまま拘束しようと一夏がアラクネと、搭乗している巻紙礼子に近づいたその時だった。
 キラは先ほどと同じ感覚と、背筋が凍る様なゾクッとした殺気を感じた。ラクスを壁際まで押し飛ばして自分達が破壊した壁と一夏の間に立つとビームシールドを展開する。

「ぐぅっ!!」

 ビームシールドが展開された瞬間、壁に空いた大穴の向こうから緑色のビームが無数飛んできて、ビームシールドに直撃する。

「キラ!?」
「ヤマト君!?」

 衝撃こそ凄かったが、何とか防ぎきったキラは穴の向こうを睨みつけた。
 そこに居たのは見覚えのあるカラーリングのIS・・・背中にはドラグーンと思しきビットを無数取り付けたドラグーン・プラネットフォームがあり、ドラグーンの数こそ増えているものの、間違いなくあの機体の特徴を受け継いでいる。更にレジェンドが持っていたビームライフルの発展系と思われるライフルを持ち、特徴的な頭部とV字アンテナ、そして最も特徴のある白い仮面は・・・。

「久しぶりだね、キラ君」
「ラウ・ル・クルーゼ・・・」
「おや? どうしたのかね、そんな幽霊でも見たかのような表情をして」
「何故、貴方が此処にいるんです? 貴方は・・・僕が、殺した筈なのに」

 殺した。その言葉がキラの口から出て一夏と楯無の表情が驚愕に彩られる。

「ああ、そうだとも。確かに私は君に殺された・・・しかし、私は死の間際に飲み込まれたのさ! 君とラクス・クラインも経験しているであろう重力場にね」
「っ! ジェネシスに焼かれる直前に、という事か」
「そういう事だ・・・さて、無粋なお客様もいる様だが始めようか。私と君の、因縁の決着を!! 君の新しいフリーダムと、私の新たなプロヴィデンス・・・レジェンドプロヴィデンスでなぁ!!」

 最悪の展開になった。
 キラの後ろには一夏と楯無、横にはラクスが居て、足枷になっている。クルーゼを相手にキラは足枷を嵌めた状態で勝てるとは思っていない。
 一夏も楯無も、確かにIS操縦者としては強い方だろうが、残念ながらクルーゼを相手にすれば瞬殺されるのは火を見るより明らかだ。

「でも、やるしかない・・・今度こそ、僕があなたを!!」

 その瞬間、キラの脳裏で種が弾けた。
 SEEDを発動してクリアーになった思考は既に、この状況でクルーゼを相手に如何すれば有利に持ち込めるのかを考えている。

「来るがいい! 人類の夢の形、キラ・ヤマト! 我が憎悪が世界を滅ぼす前に、私を止めて見せるのだな!!」
「止めてみせる! 例え戒めを解く事になったとしても、必ず貴方を!!!」



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