IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第四十話
「落ちた自由」
IS学園学園祭は中止になった。
亡国企業の構成員が“二人”、侵入してきて、逃がしてしまった事と、謎の第五世代ISと思しき存在にキラが敗北した事で厳戒令が学園全体に敷かれたのだ。
そして、レジェンドプロヴィデンスに敗北して重傷を負ったキラは現在、医務室のベッドの上に寝かされてる。
全身と頭に巻かれた包帯が痛々しく、未だに意識を取り戻さない彼に、負傷したと聞いて駆けつけてきた箒、セシリア、シャルロット、ラウラの四人も、キラを医務室まで運んだラクス、一夏、千冬も痛ましげに見ていた。
「お兄ちゃん・・・どうして」
「キラさんが、負けるだなんて・・・」
この場にいる千冬とラクス以外の誰もが、キラが負けたという事を未だに信じられずにいた。
キラの実力、ストライクフリーダムの性能、その全てが桁違いで、それ故に最強と思っていたのに、そのキラが一方的に落とされたなど、誰が信じられようか。
「失礼します・・・織斑先生」
「山田先生か・・・ストライクフリーダムは如何だ?」
入ってきたのは真耶だった。先ほどまでストライクフリーダムの検査をしていて、それが終わったために来たのだろう。
「ダメージレベルD、正直・・・修理出来なくはないですけど、修理した所で以前程の性能を発揮出来るかは・・・判りません」
「そんな・・・それじゃあキラ、もう前みたいに動かせないって事!?」
「ストライクフリーダムの性能低下・・・そうだ! 姉さんなら、ストライクフリーダムを造った姉さんなら!」
「無駄だ」
鈴がストライクフリーダムの性能低下に危惧する中、箒が束なら完璧に修理出来るのではと提案したのだが、千冬がそれをばっさり切り捨てた。
「教官・・・それは何故ですか? ストライクフリーダムは篠ノ之博士が造った機体だと聞いています。なら、博士なら直せない筈は・・・」
「無駄だ、ストライクフリーダムは束が造った機体ではない・・・・・・いや、そもそもこの世界にアレを造った人間は存在しない」
千冬の言葉にパイプ椅子に座ってキラの手を握っていたラクスが慌てて立ち上がった。それはキラとラクスの秘密、束と千冬のみが知る話だ。
「千冬さん! それは・・・」
「ラウ・ル・クルーゼが出てきた以上、もう隠す事は出来まい・・・・・・そうだろう? 束」
え? と皆が千冬が目を向けた先、医務室の窓の方を向いた。
窓の向こう、窓枠の所に機械的なウサミミが見えた。そんなものを身に付けているのはこの世に一人しかいない。事実、箒は心底嫌そうな顔をしている。
「あちゃ〜、ちーちゃんにはバレちゃうか〜」
「篠ノ之博士・・・」
「やっほ〜箒ちゃん、いっくん、ラーちゃん」
窓を開けて中に入ってきた束はキラの容態を見て少しだけ表情を歪めると、いつもの笑顔に戻ってこの場にいる全員の顔を見渡した。
「ちーちゃんがこの場の皆に話すって決めたなら私は文句は無いよ〜、でもラーちゃんは覚悟出来てるのかな〜? 流石にもう隠しておけないよ〜?」
「・・・そう、ですわね。彼が出てきた以上、もう隠せませんわ」
そういう事で、話す事になったのだが、その前に千冬は束にこの部屋を調べさせて、自分は医務室のドアを開けた。
ドアの向こうには聞き耳を立てている楯無の姿、キラとラクスの秘密を盗み聞きしようとしていたのだろう。
「あれ?」
「更織・・・グラウンド300周と両手両足の生爪剥がしと、今すぐこの場を立ち去るのと、好きに選べ」
「あ、あははは〜・・・失礼しま〜す」
楯無が立ち去ったのでドアを閉めて鍵を掛けると、束が差し出してきた物・・・キラのベッドの下に仕掛けられていた盗聴器を受け取って握り潰した。
「さて、話すか・・・」
「それは、僕から話しますよ」
突然、キラの声が聞こえた。
全員、目を向けると、キラが目を覚まして上半身だけ起こしていたのだ。
「キラ!」
「ごめん、ラクス・・・心配掛けたね」
「・・・ご無事で、よかった・・・・・・」
駆け寄ってきたラクスに微笑みかけて、安心させると、ラクスは限界を迎えたのか涙を流してキラに抱きついた。
抱きついて泣いているラクスを抱きしめながら、キラはラクスの後ろで涙を溜めてキラを見ているシャルロットも手招きする。
「っ! お兄ちゃん!!」
シャルロットもキラに抱きついてラクス同様、泣き出した。
「おいキラ・・・お前、大丈夫なのかよ・・・? すげぇ大怪我してるのに」
「うん・・・もう殆ど治ってきてるから」
事実、キラが負っている怪我は自然治癒力で殆どが治りかけてきている。
「馬鹿な事を言うな! お前は全治3ヶ月と言われたんだぞ!? それが治りかけているなどと」
箒の言う事も最もなのだろう。だが、それはあくまでナチュラルの話だ。キラはコーディネーター、それもスーパーコーディネーター、自然治癒力はナチュラルの比ではない。
「それも含めて、全部話すよ・・・僕とラクスが抱える、秘密を」
漸く泣き止んだラクスとシャルロットはパイプ椅子に座り、他の面々は立ったまま話を聞く事に。キラとラクスの事情を知る千冬と束はキラの傍に立った。
「まず、第一に僕とラクスは・・・この世界の人間じゃないんだ」
「・・・は?」
当然の反応だろうが、今はそれに構わず話を進めた。
「僕とラクスの居た世界の年号はC.E.、石油資源の枯渇や環境汚染の深刻化、民族・宗教戦争の激化などもあって地球の国家、勢力が統合されて西暦という年号から新たな年号としてC.E.が始まったんだ」
「私とキラはそんな世界のC.E.73年の世界から事故によって来たのです」
石油資源の枯渇や環境汚染の深刻化、それは今現在、この世界でも将来的に心配されている問題だ。
「僕達の世界では人類は既に宇宙にも進出していて、いくつかのステーションに人が住める環境を作り、そこで生まれ育つ者も多い」
「ですが、私達の世界の特徴として最も大きいのは・・・コーディネーターという存在ですわ」
「コーディネーター? どういう意味ですの?」
「コーディネーターというのはそのままの意味、受精卵の段階で遺伝子をコーディネートされた存在、コーディネーターは普通に遺伝子操作などを受けずに生まれてきたナチュラルとは違い、頭脳や身体能力、自然治癒力、それに容姿や病気に対する抵抗力が高い」
「そして、私とキラも・・・そのコーディネーターですわ」
衝撃、キラとラクスがコーディネーターだという事に一夏たちは驚いていた。確かにキラもラクスも容姿はモデル以上に良く、頭も良い。他にも身体能力はラクスは普通の人より少し高い程度だったが、キラは異常に高かった。
そして何より、今回のキラの傷の癒える早さ、それはキラがコーディネーターで、自然治癒力がナチュラル以上に高かったからなのだと、知らされる。
「そもそも、何故コーディネーターなんて存在が生まれたのかは、C.E.15年に起きたジョージ・グレンという一人の男の告白が発端なんだ」
「ジョージ・グレンという男は幼い頃から学問、スポーツ万能で、ノーベル賞すら受賞していた男です。更には人類初の有人木星探査機、木星住還船『ツィオルコフスキー』設計に携わり、完成したそれで木星へ行っている時に地球への通信から自分がコーディネーターである事を告白したのです」
それが、人類初のコーディネーターの存在が世間に知らされた出来事であり、製法がネットによって公開された事によって禁止されたコーディネーター製造を、一部の裕福層が我が子をコーディネーターにして、多くのコーディネーターが誕生した切欠にもなった。
「そして、成長したコーディネーターの子供達は自然と、ナチュラルの子供達と、ヒトとしての差が出来上がって、それが社会問題にもなりました」
「コーディネーターは地上に自分達の住む場所が無くなって来た。だから宇宙にプラントを造り、そこに移り住んでいったんだ。でも、C.E.53年、遂に事態は大きく動いた」
「ファーストコーディネーター、ジョージ・グレンが暗殺されたのです。その二年後に再び遺伝子改変禁止に関する協定・・・通称、トリノ議定書が採決された事によって、ナチュラルの反コーディネーターの感情が最悪になりました」
そして、ナチュラルとコーディネーターが互いに殺しあう戦争に発展した決定的な事件がC.E.70年2月14日、世間ではバレンタインデーと呼ばれるこの日に・・・。
「地球連合軍は多くのコーディネーター・・・それも一般市民が住むプラントの一つ、食料生産コロニー、ユニウスセブンに核ミサイルを撃ち込んだんだ」
『っ!』
「それが、後に血のバレンタインと呼ばれる事件となり、コーディネーターがナチュラルを憎む決定的な原因となりました」
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