IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第七十四話
「キラVSスコール」



 蒼い翼を持つ白き天使ブリリアントフリーダムと、紅の翼を持つ紅き凶鳥インフェルノ、それぞれを駆るキラとスコールは今正に激突しようとしていた。

「貴方の事はラウから聞いているわ。コズミック・イラでも最強クラスの実力者だと」
「・・・」
「私はね、ラウと一度だけ戦ったことがあるの。勿論負けたわ・・・だからこそ、興味があるのよ。そのラウに勝ったキラ・ヤマトの実力というものに」

 スコールは理解していた。自分の実力ではキラの足元にも及ばないという事、たとえ第五世代型に乗っていてもその差は埋められないという事を。

「でも、私はどうしても止められない・・・貴方と戦ってみたいという欲求を! この胸の奥から溢れ出る欲望を! 私は止められないのよ!」

 インフェルノのビームライフルが火を吹く。
 緑色のビームが銃口から放たれ、ブリリアントフリーダムに向って一直線に伸びるそれを、キラは抜刀したビームサーベルで弾き飛ばすと、戦いの火蓋が切って落とされた。

「始めましょう! 貴方と私の! 戦いを!!」
「はぁ!!」

 スコールがインフェルノの翼連結部分に収納されていたビームサーベルを抜くと、キラに切り掛かってきた。
 それに迎え撃ったキラのビームサーベルとスコールのビームサーベルがぶつかり、激しくスパークする。

「ラウから聞いていたけど、ビームをビームサーベルで弾くなんて、本当に出鱈目だわ」
「この程度!」

 キラは右足を振り上げ、疎かになっているインフェルノの左腕を狙ったのだが、そこから展開されたビームシールドによってグリフォンを防がれる。
 しかし、それでも蹴りの衝撃は殺せなかった為、スコールは真横に蹴り飛ばされてしまい、バランスを取るのに一瞬だが隙を見せた。

「っ! これで!!」

 その隙を逃すキラではなく、両手に構えなおしたビームライフルを連結して、更にパルマフィオキーナをライフルのグリップ部分にあるコネクターに接続すると、通常の何倍もの威力まで出力、貫通力を高めたビームを発射する。

「ぐっ!?」

 ビームシールドを展開したままだったので、そのビームを防いだスコールだったのだが、しかしインフェルノのビームシールドはレジェンドプロヴィデンスのビームシールドの劣化コピーでしかない。
 当然だがデストロイのスーパースキュラをも防ぎきる事が可能な本来のビームシールド程の出力は持ち合わせていないのだ。
 ブリリアントフリーダムのビームライフルを連結させてパルマフィオキーナを接続した状態でのビームは、スーパースキュラほどではないものの、イージスやカラミティに装備されていたスキュラよりも数倍強力な代物。
 そのビームの直撃を受けて劣化ビームシールドが防ぎきるなど不可能だろう。

「くっ!!」

 故に、インフェルノの左腕はビームシールドを貫通したビームによって破壊され、スコールはこの後、右腕一本のみでキラと戦わなくてはならなくなる。

「仕方ないわ・・・受けなさい! 灼熱の翼を!!」

 ビームサーベルを抜刀して接近してきたキラの姿を見て、艶美に微笑んだスコールはその場で飛び上がり、非固定浮遊部位(アンロックユニット)でもある紅翼を大きく広げた。

「これがインフェルノ最強の武装よ。受けてみなさい!!」

 翼にある機械の羽が一本一本、紅い光を帯びる。そのまま羽が全て紅い軌跡を描きながら射出され、インフェルノに接近しようとして加速していたキラに襲い掛かった。

「っ! これは!?」

 無数の翼が紅いビームを纏った刃となって襲い掛かる。まるで銀の福音の使った銀の鐘(シルバーベル)の様な攻撃に一瞬だが戸惑ったキラだったが、左腕にビームシールドを展開しながら全てを回避、防御していく。
 しかし、避けたからと言って接近出来たのかと言われれば、不可能だった。何故ならキラが避けた翼は軌道を大きく変えながら再びキラに襲い掛かったのだから。

「これは・・・誘導兵器!?」
「いいえ、違うわよ。私は流石に誘導兵器の適正を持ち合わせていないから。その羽・・・紅き灼熱(クリムゾン・インフェルノ)は自動追尾機能を搭載しているの」

 自動追尾機能、つまりそれはスコールが戻る様に指示を出さなければ延々と相手を追い続け、やがては紅いビームの刃で敵を切り刻むのだ。
 更に、自動追尾という事はスコールが操っているのではないので、BT兵器などとは違い、適正の無い彼女が紅き灼熱(クリムゾン・インフェルノ)を使用中でも他の行動が可能という事になる。

「羽の枚数は全部で2万5千枚、さあどんどん射出するわよ!」

 翼に羽が無くなると、新しく量子変換で搭載していた翼を補充して射出してくる。全てを射出すれば、その羽の枚数は全部で2万5千枚、一枚一枚が薄いからこそ搭載出来るのだろうが、インフェルノ自体の容量も相当なものだ。

「貴方やラウのドラグーンよりも圧倒的に多い弾幕、これを避けきれるのかしら?」
「こんなもの!」

 ドラグーンの射出は危険だ。この数の弾幕があるのだから、ドラグーンは恐らく役に立たないだろう。
 ならば使う武装は限られてくる。ビームサーベルを両手に構え、両足にグリフォンビームブレイドを展開すると、一直線にインフェルノ向かって瞬時加速(イグニッションブースト)に入った。

「はあああああああ!!!!」

 両手両足にあるビームの刃を縦横無尽に振るい、迫り来る羽の全てを叩き切った。避けれる物は全て避け、その他の物は全て切り落としながらインフェルノの目の前に来たキラはチャージしていた腹部の複相ビーム砲を至近距離から発射する。

「ぐぅっ!?」

 あっと言う間の出来事にスコールは対応出来ず、辛うじて展開したビームシールドも至近距離からのビーム砲によって貫通、残された右腕も破壊されシールドエネルギーが0になってしまうのだった。

「ま、まさか・・・ここまでとは」

 スコールが予想していたよりもずっと上の実力を示したキラに対して、スコールは恐れや畏怖といった感情を抱くことは無かった。
 何故なら、そのキラの実力を実際に戦って知り、この先に起きるであろう亡国機業とキラの戦いが更に楽しみになってしまったのだから。

「仕方が無いわね・・・今日はこの辺で失礼するから、次はもっと楽しみましょう?」
「逃げられるとお思いですか?」
「ええ、だって・・・」

 突如、スコールが地面に飲み込まれてしまった。同様に倒れていたオータムも。
 見れば彼女達の居た場所に人一人が通れる程の大きさの穴が開いていた。まさかここまで用意周到だとはキラも予想していなかった。

「・・・これは」

 いつの間にか、ブリリアントフリーダムの翼に手紙が張り付いていた。それを広げて読んでみると、やはりと言うか、スコールからキラ宛の物だ。

「・・・今日は楽しかった、また戦いましょう・・・亡国機業幹部、スコール……行動が読めない人だね」

 戦いには勝った。だが、何故か釈然としない気分になったキラは、ブリリアントフリーダムを解除して、束とラクスの方に振り返った。

「ラクス、束さん、怪我は無い?」
「はい、私も束さんも、何ともありません」
「私も〜、それよりもキー君の戦いをこんな間近で見たの初めてだから興奮してるよ〜!」

 オルタナティヴを解除したラクスは先に千冬の所へ報告に行くと言って立ち去った。
 残ったキラと束はその場にある二つの穴を見ながら、深刻そうな顔で話し合いをしている。

「亡国機業は束さんの頭脳と技術力を欲していた。それはつまり、第五世代の試作機は完成したけど、そこから改良するに至っていないという事ですよね」
「だね・・・でも今回の事で私の誘拐は不可能だと考えた筈だから、後は時間が解決してしまう。たとえ馬鹿でも時間を掛ければ問題ないんだから」
「近い内に、亡国機業は第五世代を増やしてくる・・・不味い事態になりそうです」

 特に第五世代のコンセプトである天候に左右されないビーム兵器だ。現在の第三世代機は全てレーザー兵器くらいしか光学兵器は存在していない。
 レーザーとビームでは威力などが桁違いで、特にレーザーではビームシールドを破る事は不可能と言っても良いだろう。

「束さん、急いだ方が良いかもしれません。第六世代の開発を」
「コンセプトは既に完成しているから、後はその先を考える段階に入ろうとしていから・・・そうだね」

 既にキラと束の間で第五世代型ISの量産計画は始まっている。だが、その裏では第五世代の上を行く第六世代型ISの設計も進めているのだ。

「まぁ、今ここで話していても仕方が無いよ〜。ちーちゃんの所に行こう?」
「そうですね・・・」

 キラはもう一度、スコールとオータムが逃げた穴の方を振り返り、そして何も言わずに背を向けると束の横に並んで千冬の所に向かうのだった。



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