IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第七十七話
「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」



 全学年合同タッグマッチが中止になって数日、キラとラクスは一夏と箒の二人を連れて第四アリーナに来ていた。
 先日、この二人にキラとラクスが直接指導をしながら特別な訓練を施すと話をしているので、早速この日、それを行う事になったのだ。

「な、なぁキラ、ラクス、俺達がやる訓練って、何なんだ?」
「そうだ、そもそも訓練なら他の者も一緒で良いと思うのだが・・・」

 一夏と箒の言いたい事は理解出来るが、この訓練はこの二人だけの方が良いのだ。キラとラクスが感じ取った二人の内に眠る種子の気配、それを覚醒させる為の訓練は他の人間にさせても意味が無い。

「二人にはこれから訓練に入る前に実感してもらう。ISを展開して」
「実感? ・・・まぁ、とりあえず・・・来い、白式!」
「む・・・紅椿、行くぞ!」

 二人がISを展開したのを確認して、キラもブリリアントフリーダムを展開した。
 リミッターは一切無し、その状態で宙に浮き上がると、二人にも同じように構える様に言う。

「先ず、二人にはこれから僕が使う力を見てもらう・・・っ!」

 そう言うと、キラの脳裏で種が弾ける衝動が起きた。アメジスト色の瞳からハイライトが消え、微笑みを浮かべていた顔からは表情らしい表情が抜けて無表情となる。

「そ、それは・・・一体」
「それにこの威圧感・・・何だ、この力」

 今までキラとの訓練で感じた事の無い威圧感、表情、瞳、その全てに二人は戸惑った。
 思わずラクスの方を見たのだが、そこでも驚く。いつの間にかオルタナティヴを展開していたラクスまでもが無表情になり、瞳からハイライトが消えた状態になっていたのだから。

「これが僕とラクスの切り札、SEEDだよ」
「SEED・・・?」
「種・・・?」

 SEEDと言われれば、確かに日本語訳の種が連想されるだろう。だが、キラが言っているSEEDとは別の意味だ。

「SEED、正式名称は“Superior Evolutionary Element Destined-factor ”・・・優れた種への進化の要素である事を運命付けられた因子の事」
「コーディネイター、ナチュラル問わず現れる因子なのです。ヒトの遺伝子に何かしらの要素があって発生した因子であり、その因子を持つ者は優れた種への進化の要素であるという運命が課せられるのです」

 SEEDが覚醒すると、今のキラやラクスの様に瞳のハイライトが消え、表情も怒の感情を残して消失する。
 更に戦闘能力だったり、指揮能力だったり、脳内演算能力だったり、凡そ戦いに必要な能力が爆発的に上昇するのだ。

「なぁ、キラ、ラクス・・・そのSEEDってのが、俺と箒に何の関係があるんだ?」
「判らない?」
「まさか・・・」

 箒は気付いた様だ。そして一夏も少し考え、可能性に至ったのかまさか、という顔をしてキラの顔を見た。

「二人とも気付いたね。そう、二人の中にも眠っているんだ・・・SEEDに覚醒するための因子が」
「俺と箒にも・・・」
「因子がある、だと・・・」

 しかし、そこで気になるのは何故、キラとラクスがその事に気付いたのかと言う事だ。察するに遺伝子を調べなければ普通は判らないはずなのに。

「SEEDを持つ者であるが故に気付けた・・・からかな。何となく、SEEDに覚醒してから長いから、
同じSEEDを持つ者の気配が判る様になったんだ」

 唯一例外としてSEEDを持つ者の気配が判るのはキラ達の世界のマルキオ導師だろう。彼は盲目であるが故に気配といったものには敏感で、偶然にもSEEDの気配を察知することが出来る様になったのだ。

「二人にはSEEDを覚醒してもらう。亡国機業との戦いがこれから激化していくのは間違いないし、二人は今まで以上に強くなってもらわないと。その為のSEEDでもあるんだ」
「しかし、どうすれば覚醒出来る? 私と一夏にその因子があるのは判った。だが、簡単に覚醒出来るものではないのだろう?」
「うん、正直言って僕だって初めてSEEDに覚醒したのは仲間の危機で咄嗟に、という状況だったから」

 だが、二人に同じ真似をさせる訳にはいかない。ならば残る手段はキラ達SEEDを持つ者が覚醒する時の状態を無理やり作れば良いのだ。

「SEEDに覚醒する時、僕達は極限まで集中力を高めているんだ。後は勝手に覚醒してしまうから詳しいアドバイスは出来ないけど」
「ですので、お二人には戦闘を行いながら集中力を極限まで高める訓練をしていただきます」

 その為の戦闘訓練もある。

「それって・・・」
「うん、僕とラクス、二人を同時に相手しながら集中力を高める訓練をする」
「「・・・・・・」」

 言葉も出ない。キラとラクスのコンビ、未だ公式戦どころか模擬戦でも組んで戦った事が無い。それ故に未知数だと言えるの。
 最も、一つだけ判るのは後ろにラクスが居るという状況下でのキラは、無敵だという事だ。

「じゃあ、早速始めようか」
「行きますわよ」
「気が重いぜ・・・」
「ああ・・・」

 刹那、無数のビームとレール砲、ミサイルが一夏と箒の下に飛来してきた。
 必死に避け続ける二人を嘲笑うかの様に次々とビームが来て、時にはキラが自ら接近してきてビームサーベルが襲い掛かる中、二人は開始10分もしない内に悲鳴を上げるのだった。


 模擬戦が開始30分で終わった。
 最初という事でキラが随分と手加減をした為30分だったが、恐らくキラが本気で行っていれば10分で終わっていただろう。SEEDを発動中のキラはそれくらい強い。

「まぁ、最初だから仕方ないかな」

 既にSEEDも解除して、ISも待機状態に戻してあるキラは同じくISを待機状態に戻し、アリーナの地面に膝を着いて荒い息を吐き続ける一夏と箒の傍に歩み寄る。
 ラクスはオルタナティヴを展開したまま先ほどの模擬戦の結果を解析しながら三人の様子を眺め、何を考えているのかずっと微笑んだままだ。

「き、キラ・・・いつもの、模擬戦、より・・・強ぇ・・・」
「あれが、し、SEEDを、発動した・・・者の、力なのか・・・」
「あれでも大分手加減はしたけどね。でもSEEDを発動したら当然だけど戦闘に必要な要素全てが大幅に強化される。だから今までの模擬戦以上に余裕はあったのは事実だよ」

 そして、それはこれから一夏と箒が習得しなければならないものだ。

「今日は最初だったから集中なんて出来なかっただろうけど、明日からは集中力を高める事を意識しながら戦ってね」
「む、無茶・・・言うなって、の・・・」
「あれで、どうやって、集中・・・しろと」

 無茶は承知の上で言っている。正直な話、一夏と箒のISのバージョンアップは並ではない予定なのだ。だからSEEDを覚醒出来なければ簡単に機体を暴走させてしまう恐れがある、

「二人のISは、二人がSEEDを覚醒させられる事を前提でバージョンアップする予定だから、出来なければISを暴走させる事になるよ」
「マジか・・・」
「・・・SEEDを覚醒させる事を前提に・・・」

 どんな化物ISに進化する予定なのだろうか、白式と紅椿は。そんな事を考えていても、束とキラという二人の天才が自ら行うバージョンアップなのだから、性能の馬鹿高さなど当然と考えて良いだろう。

「じゃあ今日はここまで。今夜はゆっくり休んで、明日から本格的に行くからね」

 オルタナティヴを解除したラクスと共にアリーナを去るキラの後姿を眺めながら、漸く息が整ってきたのか深い溜息を吐いた二人、しかしその胸の内には自身の可能性に高鳴っていた。

「なぁ箒」
「何だ?」
「俺達、更に強くなれるんだな」
「ああ」

 勿論、それは二人の頑張り次第だ。

「SEED・・・優れた種への進化の要素である事を運命付けられた因子かぁ。そんな凄ぇものを、俺達が持ってるなんてなぁ」
「修練次第ではキラのいる高みに、行けるかもしれない・・・いや、無理か」

 キラは二度の戦争で多くの戦い・・・ISの試合ではない命を懸けた戦いを何度も経験している。その経験から来る実力は今の一夏や箒では遥か雲の上を行く。

「でもさ、せめて千冬姉クラスには、届きたいな」
「・・・そうだな」

 キラクラスとは言わない、だがせめて千冬クラスにはなりたいと、心底願う二人であった。


 アリーナから立ち去ったキラとラクスはシャワーを浴び終えると寮への帰路に着いた。
 寮までの道程を歩きながら、キラはラクスに先ほどの戦闘での解析結果を聞いている。戦闘以外にも記録していた事があるのだ。

「それで、二人のIS適正ランクは如何だった?」
「驚きました。お二人の入学当時のランクは一夏さんがB、箒さんがCでしたのに、今回の模擬戦での記録ではお二人揃ってSを出しています」

 Sランク、つまり一夏と箒は千冬やキラといった最強クラスと同ランクの適正を持っているという事になるのだ。
 つまり、鍛え方次第では間違いなく最強クラス、ブリュンヒルデクラスにはなれるという事。

「二人が強くなる日が待ち遠しいよ」
「はい」

 キラと束の計画の要でもある二人、この先の未来において重要なポジションにいる一夏と箒のレベルアップが、今から楽しみで仕方が無い。
 二人の兄貴分、姉貴分として、キラとラクスは才能溢れる弟分、妹分のこれからの成長を、期待しながら、寮の中に入るのだった。



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