盛大な拍手が雨のように降り注ぐ、ミッド近海の特別救助隊演習場。
 その雨に撃たれているのは、スバル・ナカジマ。入隊して10年近くなり、25を迎えようという年齢ながら、エースとして最前線へと飛び出す魔道師である。
 近隣の小学校の遠足の一環として組み込まれた公開演習を終え、子供達から放たれる拍手を笑顔で受け止める。
 雑誌にも何度も取り上げられ、その眩しい笑顔とまっすぐな性格が功をそうしてか、特殊救助隊といえば、スバル! という代名詞的な存在で、子供から老人まで高い人気を誇っている。

 拍手喝采の中、汗だくのスバルは演習場の脇に設置された仮設の控え室へと入っていく。
 用意されていたタオルで汗を気持ちよさそうに拭くと、大きく間延びをする。

「んーん! やっぱり空を走るのは気持ちいいな〜」

「おつかれ。相変わらず人気者ね、あんたは」

 ふと、控え室の端から10年以上の付き合いの友人、ティアナ・ランスターの声が届く。
 スバルは驚きと嬉しさに、勢い良く声のする方向へと向く。

 そこにはやはり、ティアナが笑顔で小さく手を振っている。

「ティア! どうしたの?」
「近くに寄ったからね。後、シスターズ達に忠告をね」

「なんかあったの?」
「まぁね。真九郎さんの世界でなんか怪しい動きがあるんだよね。おかしな麻薬みたいなのが出回り初めてるらしいのよ。もしかしたら、戦闘機人が絡んでくるのかもしれないから……」
「ふぅん、でもそれなら直接言えばいいんじゃないの?」
「まだ確定じゃないからね、アンタも気をつけなさい」

 はぁいっとスバルが答えると、スバルは演習場から聞こえてくるアンコールの声に答えるために駆け出していく。
 ティアナはスバルを送り出すと、建物に身を預けて親友の観戦を始める。

 スバルが出た瞬間から、われんばかりの拍手が鳴り響き、演習場はまた賑わいを見せる。

 しかし、スバルへの歓声は一瞬にして悲鳴へと変わる。


 緊急事態だとスバルとティアナが駆けつける。

 ギュウギュウに詰めて少しでも前で見ようとしていた児童達が、ポッカリと穴を開けてざわついている。

 そのポッカリと開いた中心には、数え切れない切り傷を刻まれてボロキレのようなスカジャンを着て、血と傷で身体が埋め尽くされている斬島切彦が、ゆっくりとした動きでフラフラと歩いている。
 何日も眠っていないのか、目の下に隈を作り、壊れかけの人形のようにバランスの取り方が狂っている。

 裏十三家の1つ斬島の当主で、裏の世界では恐怖の代名詞とまで言われる人物である。
 そんな切彦が傷を受けている事事態に驚愕し、思考が止まってしまう。

「切……彦さん」

 ティアナが言葉を発すると、切彦は安堵の笑みを浮かべて力なく地面へとダイブする。

「みつ……けた」

 掠れた声で小さく声をつむぐと、切彦は意識を手放し崩れ落ちる。


 こうして、混乱する訓練場から始まる事となる。

  ――斬島切彦、最後の戦いが。





紅×魔法少女リリカルなのは
紅のなのは
外伝その2「白雪姫」
前編「“白”紙に戻った契り」

作者:まぁ






 悪夢

 ――人々の安らかな睡眠を恐怖へと染める悪魔のようなモノ。
 突拍子もない悪夢、希望を砕く悪夢、衝撃的な出来事、又は思い出したくない出来事を見せる悪夢。
 様々なモノがある中で、最後の悪夢に魘されている者がいる。

 斬島切彦。
 スバル・ナカジマとティアナ・ランスターによって、スバルの実家であるナカジマ家に運び込まれたのだ。
 傷ついて眠りこける切彦を誰もいない部屋へは置いていけない。
 ならば、誰かしら家にいる実家がいいだろうと運びこむ。

 来客万歳、お世話に賑やかな事大好きなシスターズ達は、我先にと切彦の世話をし始める。
 しかし三日間、一瞬として意識が覚醒する事はなかった。

 四日目の朝、ピクリとも動かなかった切彦が突然魘され、天に助けを求めるように腕を上げ、恐怖に染まった表情で目を開ける。

「目覚めたようだな……切彦殿」

 切彦に届いたはずの声にも、切彦は反応はしない。恐怖に怯え、目を泳がせ続ける。
 気づいてもらおうと声の主であるチンクは、声に反応しない切彦の視界の中へと顔を動かす。
 白に近い灰色と、金色の隻眼の少女姿のチンクは、その存在に気づいた切彦が声を掛けてくれると信じて疑いはしなかった。
 切彦の包帯で埋め尽くされた腕で首を掴まれるまでは……。

 決して力強いとは言えない瞳ながら、切彦の眼力はナカジマ家で随一のクレバーなチンクの思考も心も鷲づかみにしてしまう。

「どこですか? あの人は……」
「誰の事を……言っているのだ」

 首をガッチリと掴んだ切彦はゆっくりと起き上がる。そのまま、開いている手で視線を一切向けず手探りで刃物を探す。
 斬島の本能が見つけ出したのか、すぐにチンクが切彦が起きた時にでもりんごを切ってあげようと置いていた果物ナイフへと、手が届く。

「どこですか……? あの人は。
――どこだって聞いてんだろうが!!? 白髪の餓鬼んちょが!!」

 果物ナイフを手に取った瞬間、狂気が取り付いたかと思ってしまうほど瞳が、表情が……言葉遣いまでもが凶変する。
 心を鷲づかみにされていたチンクの心が一気に恐怖に染まり、身体の芯から震えがこみ上げてくる。
 誰の事を問われているのかっといった疑問よりも、この恐怖から逃げようと身体を後ろへと逃がす。

 首と腕で繋がった2人は当然のように、チンクを下にして床へと落ちる。

「あの糞野郎が、どこにいるか聞いてやってんだろうが! さっさと答えねーと地獄みるぞ」

 恐怖から逃れようとするチンクは、切彦の一挙手一投足へと全神経を集中させていた。

 ――にも関わらず、胸に刺された果物ナイフに気づいたのは、視界が暗く狭くなり、窒息の苦しみに侵食された時である。
 いつ、どうやったのかも見る事が出来なかった。

 光も、闇も、音も、痛みも、安らぎも、苦しみも何もない、何も感じない数秒。
 思考のみがクリアで、チンクは冷静にこれが死なのか……っと結論づける。
 その数秒後、チンクは窒息から開放された直後の苦しみが襲ってくる。
 戻ってきた視界に映ったのは、白のエプロンをし蒼の髪を膝元まで伸ばしたナカジマ家の長女ギンガが、切彦の両手首を抑えて壁に押し付けている光景である。

「落ち着いてください」

 そう言葉を発した直後に、ギンガは勢い良く頭突きをかます。
 一撃で冷静さを取り戻すかと思われたが、まるで狂った獣のように歯をむき出しに噛み付こうと何度ももがく。
 ギンガは、怯む事無く、何度も頭突きをかます。
 数度のダイレクトな痛みに混乱していた切彦は、落ち着きを強制的に取り戻させられる。

「“あの人”とは誰ですか? ここには私とチンクしかいませんよ」
「切彦殿、異様な魘され方をしていたが、それと関係があるのか?」

「……き。

 きりしま……斬島帝麒(きりしまだいき)。私の大事な大事な妹、斬島雪姫に手を出した私の伯父です」

 ダウナーな切彦の瞳に静かに燃える炎。
 それだけで、2人は切彦の傷がその者によって着けられたものだという事を理解する。

「お願いです……教えてください、人を死に至らしめる拳を」
「? どういう事ですか? あなたは刃物を扱えるはずですよね」
「伯父には……あの人には最大の屈辱を与えて、殺さなくてはいけないんです。……私が斬島の力を使わずに」
「何が……あったんですか」

 静かに切彦は話し始める。事の始まりを。





 切彦が切り傷だらけでスバル達の元へと現れる半日前。
 切彦は、定期的に開かれる斬島家の御家会議に正統として出席していた。
 斬島家の会議にも、お気に入りのスカジャンを着用し、いつものようにマフラーに口元を沈めている。
 目の前に所狭しと座っている屈強な者達……切彦が襲名した辺りから急激に増え、まるで宗教の信者な目をして斬島へ近づこうと日々努力している。

 会議を取り仕切る声の主に全てを任せ、海外から帰ったばかりの時差ぼけから来る眠気に襲われる。
 会議を取り仕切るのは切彦が“切彦”として就任する前から、斬島の当主代行を務めていた切彦の伯父・帝麒(だいき)である。

 綺麗なストレートの黒髪を後ろで束ね、黒と灰色の和服を着こなす。
 齢は40歳に相当するようにしわが刻まれ、痩せた体。
 戦いとは無縁な華奢な身体ながら、知の力によって生き抜いてきた事が分かる鋭い目つき。
 落ち着いた雰囲気と他人を卑下にしたような口元がどこか鼻につく。

 “切彦”就任時から海外で仕事をしてきたのも、切彦の実力を世界に知らしめると共に、切彦の能力を完成させるようにと帝麒の指示である。
 誰よりも斬島家を発展させる為に尽力し、幼い頃より殺し屋として動き回りあまり学を身に着けれなかった切彦にとっては頼れる参謀のような存在である。
 斬島に近づこうとしている者達、『信者』を大量に集めだしたのも帝麒が始めた。
 帝麒に会議進行を任せ、いつものように何も考えず、夢の世界と現実の世界を意識を行き交わせる。
 切彦はつまらなそうに一時間は軽く越える会議にまったく興味を示さず、帝麒の閉会の言葉を待つ。

「……以上が定例の報告となります。では、これより今回の会議の本題へと入りたいと思います。

 我らが正統、“六十六代目切彦”は前代よりも残忍に殺しを行い、斬島の名を裏の世界にさらに刻み込むという功労者であります。しかし! 10年ほど前から“友達”やら“大切な人”やらと、戯言をほざく様になりました。それに比例して殺しも減り、恐怖の代名詞斬島の名声は落ちつつあります!

 ――ですので、只今より新たに就任する六十七代目が六十六代目を殺し、六十七代目として就任させる事をここに、宣言します」

 帝麒の突然の宣言にも、切彦は気づかず今だ夢と現実の世界を行き来している。
 ザワザワとざわめき立つ出席者の間をすり抜けながら、日本刀を力なく握る斬島雪姫が朦朧とした瞳、泣きながらフラフラと歩みを進める。

「や、だ……。逃げて、逃げて。 切ちゃん!」

 夢の世界にいた切彦を起こす突然の叫び。大切な妹の叫びが耳に届き、ハッと顔をあげると眼前に日本刀を握りどっしりと大きく振りかぶっている雪姫が涙を流しながら小さく震えている。
 状況がまったく理解できない切彦に、無情に振り下ろされる刃。無意識に切彦が避けようと動いたのか、泣いて震える雪姫が仕損じたのか、刃は切彦の左肩から右脇腹に掛けて浅く一線が刻まれる。

「雪……ちゃん? なんで、なんで刀なんて握って……。伯父貴、約束が……」
「違えてはいないさ。お前が“最強(きりひこ)”であるかぎり、雪姫を使わない。
――お前が違えたのだよ! どうだ、今日この場のお前はどうだ!? かつてのお前なら既に反撃して雪姫の腕を落としていただろう。
しかし、お前は困惑するだけだ。
 かつての切彦はもう死んだのだよ。ならば新しく雪姫を“最強(きりひこ)”に就任させねばならないだろう」

「っ! ああああああぁぁぁ!」

 切彦は言葉にならない叫びと共に伯父へと詰め寄ろうと脚を進めた瞬間、刺突が脇腹や太もも、各所へと放たれる。
 その全ての刺突がかするように身体の各部の芯には当たらない様にギリギリで軌道がズレている。
 そんな違和感よりも切彦は大切な妹の雪姫に攻撃を受けているショックで、雪姫にも伯父にも何も言えず何も出来ず、ただ攻撃を受け続けるしかなかった。
 切彦お気に入りのスカジャンは既に切彦の血で紅く染まり、至る所が切り裂けていく。

 雪姫の攻撃の合間を狙い、伯父がヤクザ蹴りで切彦の腹へとめり込ませ吹き飛ばす。
 地面へと崩れ落ちた切彦に伯父は唾を吐きかけて切彦を足蹴にし切彦の後ろへと進む。
 切彦の座席の後ろに掛けられていた刀、斬島家の宝剣“弐鬼刀・鬼百合”を手に握る。

「ほら、弱くなっただろう? 避けれずただ受けるしかない。そこら辺のゴロツキにすら劣る……利用価値はもうないわ。お前の父同様な」

 鞘を切彦に投げつけると、怪しく光る鬼百合を切彦に突きつける。
 伯父は切彦のマフラーに隠れた細い首目掛けて、鬼百合を大きく振りかぶる。洗練も何もない雑な動き。斬島の者ならば当然とも思える事も、伯父のその構えはどこか違和感が付きまとう。どこか身体に定着していない、完全なフリのような……どこか滑稽に見える構えから、勢い良く振り下ろされる刃。
 首に巻いたマフラーごと首を切り裂くかと思われたが、マフラーの繊維1つ切り裂けず、鈍器で叩きつけられたような衝撃が切彦の首へ走る。

「っち! おかしなものをつけおって。こんなものに頼るとはやはり“切彦”失格だな」
「伯父……貴。あなた……」
「黙れ! 黙って死ぬがよい」

 伯父は切彦のマフラーを締めるように結び目を握り片手で楽々と切彦毎持ち上げると、切彦の気道を圧迫していく。
 裏の世界に関わる者ならば、細身の切彦の身体を片手で持ち上げるなど造作もない事。
 しかし、デスクワーク、権力によって人を動かしてきた非力な帝麒が起こした事に、切彦は猛烈な違和感を受ける。

 圧迫されていく気道と意識の中、ようやく伯父と雪姫の動きの違和感を認識した切彦。
 攻撃の軌道がズレ、泣いて逃げてっと言っているにも関わらず攻撃してくる雪姫。
 非力な帝麒の異常な力。
 この二つの違和感にようやく、困惑していた頭が思考に向かう。しかし、圧迫され意識がブラックアウトし始めた切彦に逃れる術はなかった。
 全身の力が自然の抜け落ち、意識が完全に抜け落ちようとした瞬間、首の圧迫感がフッと抜け、重力に捕らわれて床へと落下する。
 だらしなく開けられた口から、大きく目一杯酸素を取り込み、咳き込む切彦を尻目に、伯父は雪姫を睨む。

「やはりまだ調整が不足しているみたいだな。これが終わったら再調教といこうか。まだ“例のモノ”には余裕がある」
「や、だ……殺したくないよ……いやだ」
「眠れ!」

 伯父の手を叩く音と共に、スイッチが切れたように意識を失い、人形のように無残に地面に崩れ落ちる雪姫。
 その異様な光景に、戻りかけた視界で切彦は確認する。

「ッハ。伯父……ゲホゲホ貴、雪姫に何を……」
「落ちぶれて殺されるお前に言う義理もないが、魔法世界の技術はすばらしいものだな……潜在能力を強制的に覚醒させて、操り人形に出来るなんてな」

 起き上がろうとする切彦を足で押さえつけると、鬼百合を左肩目掛けて振り下ろす。しかし、今回も切彦のスカジャンを切り裂く事は出来ず、圧力が切彦にかかるのみ。
 運悪く骨の繋ぎ目に当たり、切彦の左肩の間接は無残にもガコッと音を立てて外れる。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 あまりの痛みにのたうちまわる切彦を尻目に、伯父は鬼百合を投げ捨てる。
 刃物を捨てたたった一瞬の隙をついて、どこからかくないに結ばれたワイヤーが帝麒を絡めるように投げ込まれる。
 見事に壁に貼り付けにされた帝麒と、対処できないで立ち尽くす斬島の分家の者達を飛び越えて、柔沢紅香の壱の部下にして忍の末裔・犬塚弥生が音もなく降り立つ。

「何をする! 柔澤の犬が!!」
「犬です。斬島に不穏な動きがあると調べていましたが、こういうことでしたか。正統の血筋は頂いていきます」

 痛みに悶える切彦を抱え、意識を失っている雪姫を抱えようと近づこうとした瞬間、弥生を包む強制転移魔方陣が展開する。
 驚愕に包まれながらも、転送完了までの数秒の間に弥生が数m先の雪姫を掴む事など造作もない事。考える前に行動に移していた弥生を物理防壁が邪魔をする。

「ハハハハ! 無駄だよ、犬! いつまでも魔法技能を味方につけないわけないだろう。私の次の作品までは奪わせんさ。欠陥品に成り下がった廃棄物を連れて消え去れ!!」

 寡黙な弥生が反論するはずもなく、切彦を抱えて転送される。

「……ふぅ。皆の者、このワイヤーを外してくれないか? 六十六代目の処刑の為に六十七代目を完成させなければならないのだ」





 ワイヤーを外された帝麒は失神中の雪姫の髪を乱暴に掴み、信者達が取り囲む中、解散を命じて雪姫をひきづりながら奥へと消えていく。
 狂ったように低い笑い声を聞きながら、分家の者達は屋敷から去っていく。
 帝麒は屋敷の奥に建てられた蔵の中へと入っていく。

「ククク……やはり4割程度だったようだよ。しかしすごいね、あんたが開発してくれた“覚醒物質”は。何十年と動かしていない私の身体すら効果をもたらしてくれるとは」
「でしょう? 私は戦闘機人専門だから時間も装置の素材も探すのに手間取ったがね」
「いいじゃないか。このままいけば、斬島と戦闘機人とやらのハイブリットが生まれ、この世界はおろか異世界さえも支配できるのだから」
「恩は返さないといけませんからねぇ。幼児体で逃げ惑っていた私を拾ってくれたんですから」

 帝麒は、暗闇へと声を投げかけ、暗闇からの声に答える。暗闇から15歳程のくせっ毛を肩まで伸ばした少年が出てくる。どこか達観したような果てぬ欲望を求めるようなギラついた目をした少年は、大型の椅子に座らせた雪姫にヘルメット型の装置を取り付ける。
 意識を失っている雪姫の身体へ遠慮もなく探りを入れ、計器などを取り付けていく。
 全てを取り付け終えると、モニタを展開させて装置を起動させる。

 魘されるように雪姫はビクビクっと震え、助けを求めるように手が宙を彷徨う。
「切ちゃん……助けて。助けて。助けて。助けて助けて助けて助けて……

 ――タスケテ、オネエチャン」

「無駄な記憶を消した方がいいと何度も忠告させてもらいましたのに、今回も記憶を消していたら殺せたものを。完成には二週間かかりますよ?」
「構いませんよ、それに面白いと思いませんか? お互いに好き合っている姉妹を殺し合わせて兵器としての心を完成させる。究極の兵器が出来上がる!」
「悪趣味ですね、斬島帝麒」
「あなたもね、ジェイル・スカリエッティ博士」

 お互いの名前を呼び合い、お互いに込み上げてくる笑いを抑えようとはせず、部屋には怪しい笑い声が止まる事はなかった。





 強制転送させられた弥生は、切彦の肩をはめると紅香に連絡を入れる。
 運良くミッドの近場に出れたためか、紅香は数分とせず緑髪の部下を引き連れ転送してくる。
 いつものように煙草を咥え冷たげな視線を、放心している傷だらけの切彦を見下ろす。

「ハッハハハ、長生きはしているものだな、ギロチンのこんな姿が見れるなんてな」
「……」
「っで弥生、動きはどうだった?」
「やはり“例の情報”は正しかったようです」
「そうか。なら、ランスターの嬢ちゃんも突入だな」

 紅香の言葉にうっすらと反応した切彦は、ゆっくりと顔を紅香に向ける。
 紅香は驚く事はなくじっと見つめる。静寂に包まれる中、切彦がゆっくりと口をあける。

「雪姫をどうするんですか?」
「必要なら殺すさ。最悪の事態ならばな……永遠の欲望の結晶が完全に浸透してしまっているのなら」
「何を掴んでいる……んですか」
この世界(ミッドチルダ)の技術型の犯罪者がお前の家の頭でっかちに拾われてたって話さ」

 切彦は紅香の決断に反対するかのように、ゆっくりとだが、立ち上がる。血液を大量に失われフラフラと足元が定まらない。
 紅香は助ける事も笑う事もなく、唯静かに眺めている。

「させない……雪姫を傷つける奴は……」
「どうすると言うんだ? 丸腰のお前はそこら辺の餓鬼にも劣る」
「……」
「そう睨むな。突入は一週間後……ランスターの嬢ちゃんの準備が整うまでは動かんさ。治療してやるから大人しくしていろ」

 そういうと紅香は切彦の腕を掴む為に腕を伸ばす。しかしそれを避けるように切彦はするりと脇を抜けて逃げる。
 そしてフラフラと立ち去ろうと歩く。

「どこへ行こうというんだ? 家に戻ったら即殺されるぞ?」
「……殺しに行くんです。最大の屈辱を刻んで」

 振り向かず歩き続ける切彦を捕らえようと弥生が動こうとすると、紅香が手のジェスチャーで止める。
 言葉もなく、切彦を送り出す。





 ――TO BE CONTINUED




   あとがき


 シルフェニア5000万HIT、おめでとうございます。
 微力ながら記念SSを投稿させていただきます。

 〜年記念や〜万HIT記念といった機会に、紅のなのは外伝をシリーズでだしていこうかと考えています。
 ネタが尽きない限りではありますが……。

 今回は電波的なヴィヴィオの三年前で、斬島雪姫やヴィヴィオが中学一年生の時の話になっており、紅のなのは本編であまり書けなかった斬島切彦と雪姫を中心とした物語です。
 どうぞお付き合いください。


    まぁ!



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