切彦の血で一部の畳に血の水玉模様が残る部屋の中、帝麒(だいき)は上座にどっしりと座する。
 帝麒は上座の後ろに飾られた“弐鬼刀”鬼百合を、鞘から取り出す。
 天に掲げ、刃を凝視する。
 怪しげに光る刀身に見る者は心を奪われ、歴代の切彦も礼儀を払った刀はまるで濡れているかのようにしっとりと息をしているかのように活き活きとしている。

「俺ほど斬島を思う人物もいないというのに……なぜ俺を選ばなかった」

 帝麒は鬼百合を床へと突き刺す。
 そして、その光景に最も思い出したくないトラウマとして刻まれた記憶が否応なく蘇ってくる。
 それは帝麒が17歳の時のこと。


 絶対的な自信があった。
 10歳年下の弟・麟正(りんせい)のおっとりとした目つきとは対照的に、好戦的な鋭い目つき。
 斬島家長子として、10年以上、軽く1000人を超える殺人の経験値。
 先日7歳を迎えた麟正に負ける理由など微塵もなかった。
 刃物を持てば情など一切捨てれる。例え、実弟であろうと迷わず切り殺せる。

 父は私に“切彦”を継がせる為の儀式を用意した……。その為に弟を作り、7年育てた。私の時とは違って訓練もさほど行われていない弟を。

 今日、私は遂に六十五代目を継げるのだ。17年間待ち続けた……。

「帝麒、麟正。それでは当主の座を賭けて試合をしてもらう。勝敗は戦闘を止めさせる事。殺してもかまわん!

 ――それでは、はじめ!」」


 お互いに鞘から日本刀を引き抜き、お互いの隙を伺うように立ち尽くす。2人ともダラリと脱力し自然体で見合う。
 裏十三家、斬島同士の殺し合いに時間はそうかからない。どちらかが仕掛ければ、一分とせずにどちらかがこの世から去っている。

 帝麒はどう殺そうか、どう父親に自分の才覚を刻み込もうかっと頭の中で10を軽く超える殺し方を、意識を散漫させる事無く想像する。
 その中の1つの殺し方を本能が決定し、一切の無駄なく身体が再現に向かう。

 射程範囲ギリギリで横一線で首を跳ね飛ばす。

 作業時間は刹那も掛からない。生贄を育てるための親の7年間に感謝しつつ、帝麒は行動に移る。

 横一閃。
 しかし、その刃が首へと届く事はなかった。
 空振り。それも帝麒には成功したと錯覚するほど、ギリギリで避けられる。
 麟正は完璧な見切りと最小限の動きでやり過ごすと、幼い身体に不釣合いな太刀と言ってもいいほどの刀身の刀を片手で振りかぶる。

 帝麒は半歩下がって射程から逃れる。
 刃が通過した刹那にカウンターで首を刎ねようと、落ち着いて視界に麟正を入れ、呼吸を読もうと集中を更に深める。

 視界に入れた瞬間、帝麒は麟正の瞳に飲み込まれる。
 普段は大人しくおっとりとした瞳が、刀を振りかぶった瞬間に好戦的高圧的な鬼が憑依したのではないかっと錯覚させる程凶悪な目つき。
 餓死寸前で肉汁滴る肉にかぶりつこうと狂犬のような本能丸出しの凶悪な顔。

 帝麒は弟の圧倒的なモノに震えることすらできなかった。
 唯、目も動かせず呆然としてしまう。


 この一閃を見れば……やり過ごせれば……身体は動くはずだ。負けるわけにはいかないんだ。
 斬島を継ぎ、裏の世界に更に名を轟かせ、裏十三家の筆頭にするのだ……その為にだけ生きてきた。
 それだけが私の生きる意味……。


 帝麒がいくら待とうとも、麟正が刀を振り下ろす事はなかった。
 その代わりに、微塵の興味も失せた、瞳が帝麒へと投げられる。

「お父様、もういいですか? 無駄に兄の血が流れるのは嫌なのですが」
「……そうだな。これにて試合を終了とさせてもらう。

 ――そして、この時を持って斬島家当主は麟正とする。“切彦”は12歳の誕生日を迎えた祝いに与える」

 父親はスゥっと屋敷の中に消えていく。麟正もそれに続くように帝麒を一瞥する事もなく消える。

 唯固まる帝麒が残されるだけである。
 天才と思っていた自分は、蓋を開けてみれば斬島家の正統に選ばれないどころか、10も下の弟に闘う価値すらないと判断されるほどの凡才。今までは血に助けられ、父の図らいに助けられて苦戦する事もなかっただけ……。

 父と弟の態度に、これまでの人生全てが否定される。





 時は流れ、麟正の12歳の誕生日。この誕生日と同時に、“第六十五代目切彦”襲名式となる。
 分家筋も全員集まり、巨大な屋敷に麟正の襲名を目撃する為にだけ、静寂を作りその時を待つ。

 帝麒も余所行きの袴を着て、襲名する麟正の世話を任される。
 この数年何度も殺そうと策略を練るも、なんの障害もないとばかりにスルリスルリっと抜けられる。
 その度に帝麒は弱者の烙印を押されるという屈辱を受け続ける。
 今も殺意を放つも、蚊ほども気にも留められない。

 何事もなく執り行われた就任式。分家筋全員にむざむざ生き残った恥を晒しているかのような屈辱に、帝麒の精神は壊れかけていた。

 就任式以降、帝麒は家を出て、闇へと消えた。
 殺しの世界で無差別に殺人を行いつづける日々。

 再び麟正に出会ったのは、麟正が嫁を貰い、長女を授かって数年後の事であった。
 裏十三家という恐怖の代名詞を手に入れつつも、家族を授かる幸福も手に入れる。

 全てが違う……。
 切彦を継げず、闇に落ち、一般的な幸せも排除した帝麒。
 言葉を交わす前に、既に全てが敗北している感覚が支配する。

「お久しぶりです、帝麒兄さん。1つ、実の兄弟という事で頼みたい事があるんです」
「……」
「父さんも床に伏せってしまい、斬島家の運営をお願いしたいのです。どうも私はそういった事があまり上手くなくて……
 父さんがいつも言っていました。帝麒兄さんがいたら……って」

 またも、屈辱を受け続けるのか……そう考えたと同時に今まで一度も考えたことすらなかった事が浮かび上がる。

『切彦を裏から操り、世界を支配する……』

 その瞬間、帝麒の瞳に欲望の炎が再燃する。




「ひどい顔ですね、トラウマに襲われているような……」
「スカリエッティか。ちょっと昔の事をな」

 スカリエッティは床に突き刺さる鬼百合を手に取ると、興味深そうに刃筋を眺める。

「やはり何度解析を入れても、構成物質が特定できない。“UNKNOWN”っと出るだけ。実に興味深い存在だ、弐鬼刀は」
「弐鬼刀に近しい破壊力を持つ刀は何本出来上がった?」
「注文数は超えましたよ。作品が完成するまでは信者にも“覚醒物質”を投与して護衛をつけておきましょう」
「そうだな。薬にしても効果があるものなのか? 覚醒促進っというのは」
「もちろんですよ。六十七代目に使っているあの装置は脳に直接打って脳の構成を変化させているので物質は抜けにくくなっているだけで、同じ効果を得られますよ」

 2人は怪しい笑みを浮かべ、目的達成が近づいていることに静かに歓喜する。





紅×魔法少女リリカルなのは
紅のなのは
外伝その2「白雪姫」
中編「“雪”も積もれば鬼となる」

作者:まぁ






 ナカジマ家の庭には質素ながら美しい芝生が植えられていた。花壇には綺麗な花々が咲いている。中島家のシスターズ達が趣味で始めた家庭菜園の結晶である。
 休日にはこの芝生で家族団欒を楽しむのが休日の日課である。

 しかし、この芝生が危機に晒されていた。
 切彦が目覚めてから数日、切彦は寝る間も惜しんでずっとずっと……ギンガから教えてもらった右正拳を繰り返し続けている。

「まったくどういう心境の変化だ、ギンガ? 殺しに使う拳は教えないって言ってやがったのに」
「それは……同じ姉として放ってはおけなかったんです。あんな話を聞いてしまうと」
「そうか……しかし、ありゃぁ芝生が全滅しかねねぇぞ? もう丸三日もそうしてやがるぞ」

 ナカジマ家家長のゲンヤはむしられていく芝生を心配しつつ、同じく机についてお茶を啜るギンガに芝生へと視線を向けるように顎で指す。
 ギンガは苦笑しつつ、お茶を啜る。

 切彦が目覚めてから一悶着あった後、切彦から全てを聞いたギンガとチンクは言葉を失った。
 そして、全てを話した切彦は、2人に頭を下げ力強い声で頼み込んだのだ。
 当然断りを入れたが、何度も頭を下げ引き下がらない。

 どうしてそこまでこだわるのか? っと聞いた時だった。
 切彦は静かに語ったのだ。

「あなたの妹さんが殺す為だけの兵器に改造されて襲い掛からせてきたら……どうします?」

 ギンガは言われた通りに想像を膨らませる。大切な妹スバルが何者かに捕まってしまい、戦闘機人として改造されてしまったとしたら……
 一瞬にして心の奥底から、噴火するように湧き出る殺意。ギンガは殺意を認識した瞬間、駄目だ……! っと殺意を抑える。
 問いかけからずっと視線を離さなかった切彦の瞳を見た瞬間、心を見透かされているような感覚に陥る。

「たった一人の妹なんです」

 切彦の言葉に折れてしまったギンガは、襲撃に向かうときは自分も同行させる事を条件に基本中の基本、右正拳を丁寧に教えた。
 それから切彦は、好奇の目で見てくるシスターズやゲンヤの視線をものともせず、ナカジマ家の庭で唯ひたすら繰り返す。
 傷が開き、緑の芝生に紅が所々に咲く。

「それはそうと、お前本当に行く気か、ギンガ? うちの弟子の部隊に任せておけばいいじゃねーか。チンクも行くって言ってるそうじゃねーかよ。そんなに心配か?」
「それもそうなんですが、やっぱり見てみたい……同じ姉というのを」
「そうかい、まぁ生きて帰ってこいや。ごちそう用意してやるからよ」
「はい」

 お互い目を合わせて生還を約束すると、また窓越しに切彦の鍛錬へと視線を向ける。しばらくすると、ドアを開ける音と共に微かな足音を立て、チンクが静かに部屋へと入ってくる。

「只今戻りました、父殿」
「おう、っで調べ物は終わったのか?」
「はい。噂通り、明日部隊は動くそうです」
「そうか、斬島の嬢ちゃんは間に合わなかったって事か。あの傷じゃまず間に合わないだろうが……」

 傷だらけで鍛錬する切彦が戦場に向かわなくてよくなったと安堵したゲンヤとは、対照的にチンクとギンガは目を見開いて窓の方を見つめる。
 チンク達2人に首を傾げたゲンヤも、窓へと視線を向ける。

 窓を開けようと手を使うも引っかからずガラスに血を塗りたくるように横一文字の線。脱力しガラスに身を任せ、噴出した体中の傷からの血がまた滝を描くようにへばりついている。
 まるで残酷な殺人現場の窓ガラスに、デコを着け崩れ落ちた切彦が、ガラス越しに微かに見える。

 チンクとギンガの手によって室内へと運び込まれた切彦は、ベッドへと運ぼうとする2人を振り払おうと身体をくねらせる。
 バランスを崩し、チンクとギンガは切彦を床に直接落下させないように手を離さずにこけてしまう。

「もう休みましょう! 休養も大事です」
「そうだ、切彦殿。半日でもよいから、治癒を受けてはくれまいか」
「……もうそんな時間はありません。もう出ます。明日になれば柔沢紅香が突入します」

 力の入らない体を必死に酷使し、身体を持ち上げて這いずりながら玄関へとむかう切彦。チンクとギンガは必死に止めようと抱きつく。
 ヘトヘトの切彦を止める事など2人にとっては朝飯前。しかし、何か執念めいたものを感じ、2人が飛びついて抱きつく。
 進まずとも、切彦は腕を必死に動かす。
 ゲンヤは初めて確認させられる切彦の執念に、苦笑しつつお茶を啜る。

「チンク、おにぎりを作れるだけ作ってやれ。まぁ座れや、斬島の嬢ちゃん。飯食うぐらいいいだろう?」
「……はい」

 落ち着いたゲンヤの声に切彦も断る事が出来ず、這いずるのをやめる。落ち着いたのを見てチンクはキッチンへと入っていく。
 ギンガは包帯を取ってきて、椅子に座した切彦の血が出ている箇所全てを覆うように器用に巻いていく。

「そんな傷だらけでやれるのかい? 正直止めてぇんだがな」
「やるんです。それが父と母との約束ですから……」
「そうかい。なら、終わったらここにお前さんと妹でこいや。お前の妹ってのを見てみたくなった」
「必ず」

 2人が視線をずっと反らさずに、お互いの意志を確認し合っていると、チンクの手によって握られた大量のおにぎりが運ばれてくる。
 ゲンヤのジェスチャーにより、切彦は両手でおにぎりを握り口へと放っていく。
 すぐにチンクとギンガも席についておにぎりを食す。

「お前さん、自分の家潰しに行くんだろう? だから次に行くとこ決まるまでうちに住めばいい。嫌だって言うなら無理強いはしねーが、唯お前さんにも“帰る所”がいるだろ」

「大丈夫です……。私の“帰る場所(ゆきひめ)”を取り戻しに行きますから」

 そうかい……っと笑うとゲンヤはそれ以上何も言う事はなかった。
 廊下へと消えていこうかというとき、無表情だった切彦の瞳に、優しげな光が灯る。そして、薄っすらとしたものであったが確かにゲンヤに届く母親のような慈愛に満ちた和らげな表情。

「ゆーあーないすがい」

 一瞬見とれてしまったゲンヤは、一瞬遅れて苦笑してしまう。
 切彦は小さく頭を下げて廊下へと消えていく。

 おにぎりをたらふく食した3人は、静かに家を発つ。

 目的地は斬島家本家。
 目的は斬島雪姫の奪還と帝麒の討伐。

 出撃時、たった3人の行軍は転送ポートで1人合流し、4人で突入する事となる。






「ホンマ、紅香さんは意地悪やね」
「そうか? 普通だろ」

 とあるビルの一室、八神はやてと柔沢紅香はソファーに腰掛けて対面している。はやてはお茶を啜り、紅香は煙草を咥える。いつもの光景を見つつ、終わらぬ仕事に毒づきながらこなすリインフォースU。

「そうやよ、あんな傷だらけの切彦ちゃんが3日でいけると思ってんねや」
「思ってるさ。ボコボコにされた直後にも飛び込もうとしていたんだからな。たかだかあれくらいで止まるわけはないだろう」
「そら……ね。妹さんが捕らわれてるんやろ? うちらも動きたいけどこんなときに限って仕事詰まってもうとるからな」

 切彦と一番親交がある紅真九郎は、左腕に不可解な痛みが走り、動きが鈍く裏十三家の絡む事件は任せられない。
 どうしてもと無理やり出て行ったシグナムを思い出し、少し笑みが浮かんでしまう。ここ10年切彦をライバル視し、集まりで会ってもさほど会話をしなかったのに、やはりこういう事態には動きたくてたまらないのだろう。

「動く理由は少なからずあるがな……思い出さんか?」
「“暴走物質”の事ですか? 懐かしいですね。あれがなかったらうちらこうしてへんかったかもやから」

 ティアナは今も、数年前から噂になっていた人体の限界を超える事が出来る薬について調べている。
 真九郎達が管理局を壊滅させてしばらくして、流通を始めた“暴走物質”によく似ていた。
 暴走物質は、適応できた者は子供ですら町1つを壊滅へと追いやる事が出来た。しかし、数十分の行動の後に、身体が耐え切れずに死を迎えてしまう。
 適応できない者達は、微かに動くだけで身体が耐え切れずに暴走を始める前に死に至ってしまう。

「今回は暴走物質(あれ)のような粗悪なモノではないだろうよ。才覚は目覚めきってはいないものの裏十三家の本家筋を潰すようなモノは使わんだろうさ」
「そう願いたいね。雪姫ちゃんが無事に帰ってくる為にも」
「助けるだろうさ……“生まれるはずのなかった切彦”が先代の大願を果たす為にもな」


 最後に会ったのは雪姫が生まれた時だったかな……。旧知の仲の先代の切彦に祝儀を持て行った時か。
 あれほど神に愛され、あれほど全ての人を愛している人間を見た事はない。
 切彦として活動をして数年で、“声に出すのも恐ろしい人”として恐怖そのものになっていたな……。
 世間をまったく知らない切彦を仕事の場所へと何度か運んだ事もある。

 っがなんといっても、女を落とすのに協力してくれと言ってきたとき、声に出して笑ってしまった。
 仲人を務め、斬島家の殺人家業を廃業にする為に、尽力もした。
 後半歩、運命が味方をしていたなら……。


「んで、何があったん? 先代の切彦さんに」
「私も口が過ぎた……これ以上はもう闇に葬った方がいいんだよ。ギロチンが思い出すまでは」
「ケチー! でも、やっぱり顔広いんやね、紅香さんは」
「そんな事はないさ。息子1人ろくに育てれん女さ」
「ジュウ君うちの事覚えてるかな〜」
「早く結婚でもして子供でも生めば気兼ねなく会えるだろうよ、生き遅れ」

 さすがにカチンっと来たはやては紅香を睨むも、紅香は受け流すようにゆっくりと立ち去る。
 紅香はおちょくるように手を振ってドアの向こう側へと消える。

「紅香さんの言うとおりなのですよ〜、はやてちゃん」
「そんなん言うたかて……」

 あの人には先客がおるし、割り込みなんてもう出来ひんもん……っと小さく呟くと、膝を丸め顔を埋めて、聞く耳持たん体勢に入り、リインは溜息をついて仕事にまた集中する。





 静まり返った斬島の屋敷。それはこれから起きるであろう嵐のような騒乱を予感しているかのように。
 屋敷の前に立つ、斬島切彦、ギンガ・ナカジマ、チンク・ナカジマ、シグナムは、突入に備え息を潜めている。
 切彦以外はバリアジャケットを装着しており、戦闘態勢は整っている。

「助けてもらっている立場で言える事ではないですが……伯父との殺し合いには何があっても手を出さないでください」
「あぁ……しかし、限界だと思ったときは助けに行かせてもらう。例え恨まれようと、ライバルを失いたくはないからな」

 シグナムの言葉にチンクとギンガも力強く頷く。それを咎める事もなく切彦は静かに足を一歩踏み出す。
 たった4人と少数での襲撃、普通なら奇襲を選ぶはずが、この4人は意見が一切分かれる事もなく正面から突破する方法を選ぶ。
 どっしりと構えられた門を静かに開けると、そこには100人を超える両手に刀を持つ斬島の信者が待ち構え、どこか虚ろな目で正面を見据える。
 全員がキチンと整列し、切彦と奥に構える帝麒を一直線に結ぶ道が出来ている。

 申し合わせたように、切彦と帝麒はゆっくりと進み、庭の中心でお互いに数歩の距離で立ち止まる。

「よく殺されに来たものだ……今からお前に取り付けておいた発信機を辿ってお前を殺しに行くところだったのだよ、この軍で。覚醒物質を打ち込んだ、最強の軍でな!」
「どうでもいいです。雪姫を帰してくれれば」
「雪姫などもういないわ……! 六十七代目切彦になる人形ならいるがな」
「ゆるしません……」

 切彦はダウナーな目のまま、どこか滑稽な構えを取る。どうしようもなく不器用で格闘術といったモノが身体にまったく馴染まない人間の構え。
 それでも切彦の気構えは静かに燃える。

 帝麒は鬼百合を抜き、自然体に構える。鬼百合はいつもと変わらずに妖艶な光を放つ。
 刃物を持っていない切彦と100を超える自陣に余裕が否応なく溢れ、笑みすら出てくる。

 先に動いたのは、切彦。
 全力で飛び出し、先制の右正拳を撃ち込もうと右腕を振りかぶる。
 それに合わせて帝麒も鬼百合を振りかぶり、切彦の右にカウンターを合わせる。

 切彦の右拳は見事に帝麒の右頬にヒットする。しかし、帝麒の斬撃も斬彦の左肩にヒットする。
 右拳が当たったままの帝麒。左肩に刀が当たったままの切彦はお互いに数秒動きを静止させている。

 ゆっくりと動き出す切彦の左腕。スローモーションのように動く左手は鬼百合の刃をガッシリっと掴む。
 握った手から血は流れる事はない。

 ――唯、固く結ばれていた切彦の口が、獣が笑うように口元の両端が大きく吊り上る。それに伴いダウナーな目も、交戦的な鋭い目へと変貌する。
 斬島の血の目覚めである。

「ハーハハハ!! おい、伯父貴よ。アンタやっぱり頭はいいが、馬鹿だな。斬島の才能もねー。斬島だから剣術も習えねー。そんなゴミのような雑魚が……“裏十三家rp>きりしま)”に刃物で襲い掛かるなんてなぁ!!

 ――テメーごときが俺様を斬る事なんて宇宙が壊れてもありえねーんだよ!」

「ヒぃ……!」

 帝麒は無意識に小さく悲鳴を上げる。切彦以外には聞こえない小さなものであったが、確かに恐怖した。
 かつて自身の全てを否定した弟と同等の……いや、それ以上に禍々しい地獄から現れた鬼が憑依したのではないかと思ってしまうほどの形相を浮かべた切彦が見えたのだから。

「み……皆の者、侵入者を皆殺しにしろ!!」

 帝麒と第六十六代目切彦の決闘は一瞬にして、帝麒の一言で斬島一族最後の戦争へと移行する。





 ――TO BE CONTINUED




   あとがき



 どうも、まぁです。
 紅のなのは外伝その2 「白雪姫」 中篇 を読んでいただいてありがとうございます。

 半分というか、ほとんどなのはサイドの活躍がないですが、すみません……完全力量不足です。

 今回は切彦のお姉ちゃんエピソードを書きたいなっと始めたもので。

 ならなんでこんな殺伐としてるのかっというと、……なぜなんでしょうねw


 では、後編でお会いしましょう



    まぁ!!



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