夜、突然の届いた宛先不明の郵便物。

 不信がりながらも、引き取った一家は郵便物を居間に置いてどうするか、考えていた。

 ホンの少し話して、開けてみようという事になった。

 カッターでガムテープを切った瞬間、ダンボールは轟音と共に爆散する。

 それを火種にその住宅は火災となる。

「うわぁぉ――マジで爆発するもんだな」

 幸いにも、火災は早期に消火され第二次被害は少なかった。

 郵便物に爆弾を仕込み、切ると起動するコードをダンボールの開口口に仕込む。

 無差別爆殺事件は、一家5人の内4人が即死。一人が視力のほとんどを失う重傷となった。

 しかし、世間的には日常茶飯事と言っても過言でもない。

 数日で他の事件の影に潜む世間的には軽い事件が起きたのは、2月の冬の日のことだった。







電波的なヴィヴィオ 盲目の純情 その一 「郵便物は爆発物」










 第102管理外世界のとある道場。女子高生の金髪の少女・高町ヴィヴィオと、師範代・武藤環は女性である事を忘れそうなほど、

 激しい組み手を取っていた。

「おぉ、いいねぇ。」 

「今日こそ、一本取らせてもらいますよ!」

「はい、残念!」

 三十を超えている環は、ヴィヴィオの正拳に対して完璧なタイミングで膝蹴りをカウンターで放ち組み手を終わらせる。

「いったぁ〜。今日もダメだったか〜」

「そうね。でも、時間は長くなってる」

「円は冷静だよね〜。半年前も一人だけ冷静だったし」

「光ならともかくね。でも、それはこの道場に通い始めた時から決まって事でしょう」

「ぶぅ〜。でも、危うく実家に帰る事になりそうだったんだよ!?」

「そうなっても、鍛錬を怠ったヴィヴィオが悪い」

「ひっど〜い! 光ちゃん、どう思う? ――あれ? 光ちゃんは?」

「師範と組み手してるよ。ヴィヴィオは相変わらずだね」

 円と呼ばれたヴィヴィオと同世代の少女は控えめに笑うと、自身の番となった組み手に進む。

 そして、さっき組み手をしていた光がぐったりと返ってくる。

「お疲れ」

「はい・・・・・・今日も相変わらずですよね。環さん」

「うん――あれで30過ぎてるとか」

「情報源は雪姫さんなんですけど、環さん毎晩焼酎一升開けてるらしいです」

「・・・・・・色々と化け物だよね」

「はい――それと、来週の火曜日に雪姫さんが打ち合わせしようって」

「うん。ありがとう・・・・・・来年受験だよね? どこにするの? うち? 雪姫ちゃんの所? お姉ちゃんの所?」

「悩み中ですね。お姉ちゃんの所も全部良い所だし」

「うん! うちはちーちゃんも、紫さんもいるしね。何より、新聞部の部室の設備はどこよりもいいからね」

「ですよね・・・・・・っあ、円さんも終わった」

「ねばったね」

 肩で息をしながら戻ってくる円。その顔にいつもの冷静さは無くなっている。

 円堂円、男子並みに短い髪をし、スラッとした体つきながら、男子に混じっても実力で劣る事もない。

 ヴィヴィオがこちらの世界に着てから、同じ道場にて腕を磨いてきた。空手に関して言えば、ライバルと言える。

 しかし、円もヴィヴィオも共通の趣味を持ち、高校は違うが仲は未だにいい。

 その隣で笑顔でヴィヴィオと話をしていたのは、二つ下の堕花光。

 活発な少女で、スタイルも顔もいい。明るい性格がまた、少女の魅力に拍車をかけている様にも見える。

 実際、道場内でも光の人気は高い。

 こちらも、ヴィヴィオが幼い頃から一緒に道場で鍛えた仲間である。

 服などを買いに偶に一緒に行く事もある仲である。

 そして、武藤環に至っては、男子4人と同時組み手をしていたりする。それでも、笑顔を崩さずにいなしきっていたりする。

「久しぶりだね、ヴィヴィオちゃん」

 環が一通り暴れきった時に、黒いスーツを着こなした真九郎が入ってくる。

 その顔には、出会った時と同じように真九郎は笑顔で満たされていた。

 道場には、ヴィヴィオの様子を見によく来たりしているので、道場に通う面々も笑顔で受け入れる。

 男性不信の円も、真九郎に対してだけは好意的に迎える。

「真九郎さん! 今日はどうしたんですか?」

「ん? なのはさんに報告する為にね。それと、少し言っとかないといけない事があるしね。今日から二週間程、

 俺日本にいないからね。帰ってきてからなのはんさんからの伝言とか渡す事になると思うけどいい?」

「ぁあ、いいですよ! 仕事ですか?」

「うん。ヨーロッパの方にね」

 それから少し、真九郎は円、光、ヴィヴィオと話をして時間を潰していた。

「ねぇねぇ、真九郎君。久しぶりに組み手してかない?」

「残念ですけど、飛行機の時間ですよ。帰ってからしましょう」

 真九郎は笑顔で断りながら、道場を後にする。

 ヴィヴィオは少し残念そうにしながら、真九郎を見送る。

 目標である真九郎と環の組み手は毎回見てみたいと楽しみにしているのだ。

 真九郎を知ってから10年弱。真九郎の仕事をじかに見る事はないが、お世話になっている村上銀子から聞く事はある。

 10年前には、ギリギリ二流であったが、今では超一流の揉め事処理屋として裏の世界に名声を轟かせている。

 今現在の真九郎には逆立ちしても勝てないが、駆け出しの頃の真九郎とはドッコイドッコイであると自負している。

 環に対しても、もう少しで追い抜けると思い鍛錬に力を入れていたりする。
















「はぁ――今日もか」

 ヴィヴィオは朝からうな垂れていた。

 毎朝の恒例ともなった靴箱開けを行ったのだ。落ちてきた数枚のラブレターが狙ったようにバラバラに落ちていったのだ。

 登校する他の生徒がいる中で散らばったラブレターを回収するのは骨が折れる。精神的にも朝の肉体的にも――

「せめて・・・・・・落ちないように入れてよ」

 溜息を隠しつつ、ヴィヴィオは腰を落として、散らばったラブレターを拾う。

 最後の一枚に辿り着いた時、そのラブレターを拾い上げる者がいた。

「今日もいい天気だな! おはよう、ヴィヴィオ」

 威風堂々といった風貌で立つ黒髪を膝まで伸ばした九鳳院紫がいた。

 ヴィヴィオにラブレターを返すが、その反対の手には10枚近いラブレターが握られていた。

「今日も来ておるようだな、恋文が」

「ええ――というよりも、レトロな言い方しますね。紫さん」

「私は日本人だからな。しかしまぁ、懲りずによく渡してくるものだ――直接こなければ愛など伝わらないのにな!」

「相変わらず豪気ですね」

 紫は、手に持ったラブレターを靴箱に設置された“紫専用恋文ダストボックス”に入れる。

 紫は恋文での告白は受け付けていない。

 その証拠に――

『恋文での愛の言葉は受け付けぬ。

 それでも来るなら、問答無用で捨てさせてもらう』

 と書かれ、実際に行動されている。その実行能力と他からの視線や評価を一切気にしない紫の心が羨ましいヴィヴィオ。

 自身もそう行動できれば、気持ち良いだろうと思うものの実際に行動する事も出来ない。

「そういえば、真九郎はヨーロッパに行っておるらしいの」

「あれ? なんで知ってるんですか? 昨日行ったのに」

「私の公務の護衛は真九郎に頼んでるのだぞ!? まぁ、今回は近衛隊に任せる事になったがな」

「忙しそうですね――公務」

「うむ。まぁこの時期は仕方ないがな。おぉ、散鶴も来たようだぞ」

 紫の言葉に振り返ると、後頭部で髪を束ね跳ねた黒髪に似合う落ち着いた顔の散鶴が下駄箱から靴とラブレターを取り出していた。

「おはよう、ヴィヴィオちゃん、紫さん」

「おはよう、散鶴」

「おはよう、ちーちゃん」

 崩月散鶴の手にはかなりの数のラブレターが握られていた。

「今日も絶好調のようだな、散鶴」

「うん、返事を書かなきゃ」

「直接これない者に返事など」

「でも、心を込めて書いてくれたんだから」

「まぁよいかな。では、部活で会おうではないか」

「ですね。それじゃぁ、紫さん。行こう、ちーちゃん」

「うん」







『天真爛漫』

 ――高町ヴィヴィオの事

『威風堂々』

 ――九鳳院紫の事

『大和撫子』

 ――崩月散鶴の事







 星領学園の男子生徒の辞書にはこう書かれているらしい。

 実際、毎朝とは言わないがよく靴箱にラブレターが入れられていたりする。

 しかし、浮いた話は一切ない。

 それに関しては――

 紫は真九郎がいるからである。

 散鶴は自身の家系の穢れとそれを差し引いても心ときめかせられる相手がいない。

 ヴィヴィオに至っては、恋人を作るよりも今は友達と遊んでいたりする方が楽しいから。 

 っと、男性陣を相手にしていない。

 それに三人とも、恋路よりも興味のあるものに没頭している。

 それは――

『アニメ』だ。

 嘗て、村上銀子によって独裁体制を取る事となった新聞部の部室。

 そこで、紫達は銀子から譲り受けたノートPCで毎日のようにアニメを鑑賞している。

 もちろん、新聞部としての成果も挙げるようにとのお達しが銀子から来た為、新聞も定期的に発行している。

 それでも、部活中のほとんどはアニメ鑑賞に費やされる。

 紫と散鶴はアニメ鑑賞などで止まっているが、ヴィヴィオに至ってはコスプレに熱を入れていたりする。

 斬島雪姫と共に、コスプレイベントによく顔を出していたりする。

 しかし、この情報は母親のなのはには報告されていない。

 なのはへの定期的な報告を行う、村上銀子、紅真九郎、柔沢紅香にヴィヴィオは頭を下げまくって口止めしているのだ。

 別にバレたからといって特にどうにかなるとかはないものの、口止めをしている。



















「あれ? 雪姫いないの!?」

 学校帰りにヴィヴィオは斬島雪姫が一人暮らししているアパート、五月雨荘を訪れていた。

 雪姫の部屋である三号室の扉の前で、ヴィヴィオは溜息をついていた。

 かれこれ三十分は雪姫を呼んではいるのだが、一向に返事は返ってこない。

 お互い携帯電話を持っていないので連絡の取りようもなく、雪姫が帰ってくるのを待っていた。

「なんで、呼んだ本人が帰ってこないのよ。折角話できると思ったのに」

 三号室の前に座ると、鞄からアニメ情報誌を取り出して視線を落とす。

「ほう、久しぶりだな。ヴィヴィオ」

 タバコを優雅に噴かしながら、現れた金髪の女性――柔沢紅香が独特なまでに不適な笑みをヴィヴィオに送る。

「んぁ? あぁ! 紅香さん、お久しぶりです」

「雪姫と待ち合わせか――相変わらずわからんな、面白いのか? 紙芝居」

「アニメですよ!」

「悪い悪い。同い年の息子はいるが、まったく興味持ってないからな。普通男が熱を入れるものじゃないのか?」

「どうなんでしょう? 私もちーちゃんも、紫さんも・・・雪姫も・・・皆オタクだからよくわからないですね。で、どうしたんです?」

「あぁ、真九郎に頼みたい事があるからな」

「そうなんですか。でも、真九郎さん二週間程ヨーロッパだって言ってましたよ?」

「あらら――」

「依頼なんですか?」

「あぁ、最近頻繁に起きてる郵便物に爆弾を仕込む馬鹿を退治してくれとな。

 私がしてもいいんだが、如何せん依頼がかなりの数重なってな」

 紅香は煙草を噴かせて、少し思考に落ちる。

 ヴィヴィオは紅香が真九郎に持ってきた仕事に興味津々な眼差しを紅香に向けている。

「んぁ? なんだ、ヴィヴィオ――もしかして、やりたいのか? もしかして」

「えっと・・・・・・はい! 前からしてみたかったんです! 私、揉め事処理屋に興味あったし」

「そうか――

 真九郎のようになりたいと?」

「はい! 腕もそこそこにはなったし! いつかは紅香さんも越してみせます!」

「ほう・・・・・・私を超えるか――真九郎からも聞いた事もないな。ハッハハ!

 そうかそうか、愉快だな」

 紅香は煙草の煙を噴出しながら、愉快そうに笑う。

 それは豪快に――腹を抱えて肩に掛けたコートが落ちようが気にしないぐらい笑っていた。

 ヴィヴィオはそこまで豪快に笑う紅香に驚きつつも、事実上の宣戦布告ともとれる発言に悦に入っていた。

「――跪け・・・・・・」

「っえ?」

「跪け!!」

 一瞬にして笑顔が消え、無表情に真剣な表情となった紅香は口調すら変わる。

 そして、二度目の“跪け”の発言と共に、ヴィヴィオを衝撃が襲う。

 今まで、ヴィヴィオと紅香以外の人の気配がなかった五月雨荘の廊下での襲撃。

 それも、ヴィヴィオが床に倒され両手を拘束されるまでヴィヴィオは自身が襲撃された事にすら気づかなかった。

 スレンダーな体系にスーツ、黒髪を後ろで縛った女性、犬塚弥生は、無表情にヴィヴィオを拘束する。

「何!?」

「弥生。そのまま頼む」

「はい、紅香様」

 そして、何とか首を上げて紅香を見る。その表情は、哀愁とも怒りとも取れる複雑な表情をしていた。

 そして、ゆっくりと右手に握られた紅香の銃がヴィヴィオの眉間に動く。

 そして、銃口が完全にヴィヴィオの眉間を捉える。

 ヴィヴィオもまさか撃たないだろうと思って紅香を見るが、その表情は真剣そのもの。

 そして、ヴィヴィオは本能的に感じる――紅香は迷わず引き金を引く。それも空の銃創ではない。

 本物の弾を撃つであろう事を

「紅香さん?」

「私も、複雑なんだよ。一児の母同士のお前の母親とは中々気が合うしな。お前も中々気にってるんだ。

 そんなお前を撃たなくちゃならない。それに、お前の母にお前が死んだ事を知らせなくちゃならない・・・・・・

 悲しいものだな――さよならだ」

 そうして、紅香の指がゆっくりとトリガーを引いていく。

 それに伴って撃鉄もゆっくりと、機械音を鳴らしながら倒れていく。

 そして、トリガーは無情にも最後まで引かれる。

 撃鉄は大きな金属音を鳴らす。





 第一話 完





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