あー、最悪。
こっちはほぼ全力で能力使ってるのに、……どんだけタイミング悪いのよ。
普段は蒼い髪を真紅に染めて血液支配能力を行使する忍は毒づく。
気持ちよく夜風に当たり、恋人の恭也と話をしているときに飛び込んできた美守の血の匂い。
匂いだけでも、美守の傷の深さが伝わってくる。
急いで駆けつけてみると、肋骨の骨は皮膚を突き破り、顔面の反面が陥没し、見た事もない雲のような妖気に包まれ、時間が静止した美守がまるでゴミのように地に倒れていた。
忍が能力の一つである血液を融合させることによる治癒を施していく。
妖気の雲は忍の力に敏感に反応し、力が及ぼうとしている所からスゥっと消滅していく。
忍は血を操作し、美守の皮膚にへばりつくように血を絡めると、内部へと意識を集中させる。
人の身体の構造とは別に“異物感”が忍の感覚に届く。
まるで妖混じりと呼ばれる妖と身体を共有している異能者達のような感触。
強烈な異物感に襲われながらも、忍は美守の人間としての部分の治癒を施していく。
能力を開放すると感覚が全て解放前の数十倍に研ぎ澄まされている感覚に隠そうとしない殺気の集団が引っかかる。
ざっと数えてみただけでも、20を超えている。
全員が隠そうとしない殺気が纏まって進んでいる。つまり、訓練された軍などの武装勢力ではない。銃器以上に圧倒的な力を保持し、発見されたとしてもどうとでもなるという自負心の現われ。
――異能者か。それも力の制御も、強大さもある者。
『いいかい、皆? “鍵”と“実験”に使えそうな人材以外は好きなように殺していいからね。水様(すいさま)に言われたように、目撃者は残すんじゃないよ。うちら“名無し”なんだからね』
忍の聴覚に届いたのは、殺しの指示をする無邪気な女の声。
忍は家族の危険を察知し、後ろで何も出来ずに唯眺めるだけの恭也へとバッと振り向く。
剥き出しの殺気を感じ取っていた恭也の目に驚きはなかった。
「恭也! 襲撃者が」
「わかっている。背中は任せて治癒を……」
「いいえ、宿の方に向かって! 昼にあった足の不自由な子は覚えてるわよね!? そこへむかって!」
「どうしてだ。美希さんは異能者なんだろう?」
「今、美希さんは仕事でいないのよ……正守さんもね。今あの子が一番危ないの!」
わかった! っと恭也は、全力で宿へと疾走していく。
それと入れ違うように、忍の下へと集まってくる者も現れる。
涙を流し、混乱している事がよくわかる表情の真紅の髪のすずか。
空を見れば満月。夜の一族にとって、力が強まる夜。自然と高まってしまった感覚が美守の、すずかの大切な友達の血の匂いを届けた。
一秒でも、一瞬でも美守の元へといきたいっという想いが、すずかの訓練以外では封印している異能を開放させて、駆けつけてきたのだろう。
「おねぇちゃん……美守ちゃんが」
「わかっているわ。早く、治療を変わりなさい。今こっちに向かってきてるのはあなたには手に負えないのよ」
渋々と忍と交代したすずかは、忍が走らせた治癒のプログラムを止めないように、全神経を集中させる。
すずかの集中を確認した忍は、ゆっくりと手を離して、向かってくる敵意に対して向かえる姿勢を持つ。
敵意は静かに、しかし剥き出しに現れる。
左腕を既に変化させ、獰猛な獣の鋭い鍵爪、刃も通さない程の剛毛な毛並を、前に掲げていた。
能力への絶対的な自信の表れなのか、その立ち振る舞いはゆっくりとしている。
「ねぇねぇ、“美守”頂戴」
「渡さないわよ。この子は大事な妹の友達だもの」
忍は、治癒を受けている美守を物扱いした敵に対して、冷たい殺気を放つ。
静かな森の中で、静かな旅館を舞台にした裏の世界の戦いの始まりの鐘は鳴り響いた。
魔法少女リリカルなのは×結界師
―ふたつの大樹は世界を揺らす―
第9話 「月夜の切り札」
作者 まぁ
アリサは目覚めると、いや、優しく高町士郎に起こされると、困惑に包まれてしまう。
起こしてきた士郎はどこか張り詰めた表情をしており、何かあったのかと周りを見渡してみると、一緒に寝ていたはずのすずかとなのはの姿がない。
「あぁ、うちの娘はともかく、すずかちゃんはお姉さんを追いかけて行ったよ……」
「はぁ…」
士郎はすこし寂しげな表情をすると、アリサを布団から出し、明かりのついている居間の方へと誘う。
居間には、先ほどまで楽しげに宴会がされていた形跡が多数広がっていた。
高町桃子は未だに笑顔でお酒を飲み、月村家メイドのノエルとファリンも楽しそうにジュースを飲みお菓子を頬張っている。
ずるいな……っと思いつつ、なのはとすずかの姿を探す。
桃子に手招きされ、アリサも席に着きジュースを呑み始める。
なのはがどこに行ったのかっと聞こうとした瞬間、突然異形の者が飛び込んでくる。
士郎は知っていたとばかりに、アリサにノイズキャンセラー機能が着いたヘッドホンをつける。
当のアリサは、既に許容範囲を超える事態に目を丸くして眺めているしかできなかった。
異形の者は身体に不釣合いな巨大な爪が右腕から生えており、苦労が見えてきそうなところどころ剥げた毛。
巨大な牙が生えた口をだらしなくあけ、涎を垂らし、大きく上半身を上下動している。
吟味するように、部屋の中の人たちを大きな目で見て回る。
あまりに突然の事に、全員が動けずに、入ってきた異形の者の次のモーションへと注意が注がれる。
「……鍵、ない……。全部殺して持ってく」
巨大な爪を振りかぶり、身体全体を縮めこんで、力を充実させていく。
巨大な爪が怪しく光り、次の瞬間にも飛び掛ってくるかという時、轟音とともに、異形の者は部屋から強制的に吹き飛ばされる。
轟音の主は、ノエル。
綺麗に畳まれた傘を片手で持ち上げ、異形の者がいた地点の方へと掲げていた。
「温泉とは、和み癒される場。
そこへ戦いを持ち込むとは、無粋な輩ですね」
いつもの柔らかい物言いは一切無く、冷たい口調で言葉を綴る。
ゆっくりと立ち上がると、鞄の中から黒のメイド服を出し、まるで早着替えの芸のように一瞬で着替えてしまう。
「ファリン! 早く用意しなさい!」
「は、はいですっ!」
ファリンはノエルと違い、アタフタっと必死に黒のメイド服を纏っていく。
よしっと純白の手袋をつけた瞬間、回転をつけながら飛び上がる。
タイミングを合わせるように、窓を割って先ほど入ってきた異形の者とは違った人並みにでかい蜥蜴が口を開けて飛び込んでくる。
ファリンは大きく足を上げて、蜥蜴の即頭部へと蹴りをぶち込む。
見事な蹴りを放ったファリンは、両手を素早く外へと振ると、両袖からMAG−7が飛び出てくる。
南アフリカで生まれたショットガンにサブマシンガンを足したような銃は精密射撃を必要とせず、ファリンの実力を如実に表していたりする。
また銃弾の装填にはポンプアクションを使用しており、誤装填を防ぐ目的でボタンを押してのポンプアクションでしか装填できなく、連射がしにくい構造となっている。っが、ファリンはその弱点をカポエラの体術でカバーしている。
軽くジャンプしリズムを取り、いつ襲い来られても対応できるように、構えは軽い。
ファリンのカウンターの回し蹴りだけではノックアウトに至らず、蜥蜴のような異形の者はゆっくりと立ち上がってくる。
わかっていたとばかりにファリンは、左手のMAG−7を腹に向けて発射する。
蜥蜴の異形の者は、素早く天井に飛び上がって、避けると、這うように天井を進んでくる。
そのあまりの光景に思わず逃げ出しそうになるアリサを、桃子は優しく抱きしめる。
戦場と化してしまった部屋で逃げ回っては逆に危なく、標的になりやすいと判断したのだろう。
天井を張ってくる敵に対して、ファリンは右手のMAG−7を発射し、自身も飛び上がりオーバーヘッドキックを相手の顔面にぶちまける。
敵が重力に引っ張られて落ちていく間に、ファリンはMAG−7のグリップからスライドへと手を移動させ、ガシャンっとスライドさせ、弾を装填する。
床に落ちた敵がバウンドした所へ、水平蹴りを入れ、床においていた手で飛び上がり、回転している敵の腹へと近距離で二発ぶち込む。
蜥蜴の鱗が銃弾を弾き、衝撃で床へと減り込むだけであったが、ファリンはその場で前宙すると、右踵を心臓の元へと全力を込めて打ち込む。
この一撃も決定打にはならなかったが、敵は堪らず口を大きく開ける。
ファリンはすかさず、大きく開いた口に装填し直したMAG−7を突っ込む。
「旅館を潰そうとも……温泉は守り抜きます!」
ファリンは決意と共に、静かにトリガーを絞るように引く。
ファリンの言葉とタイミングを同じくして、蜥蜴が入ってきた所から異形の者が2人も入ってくる。
巨大な爪を持った異形の者の相手をしていたノエルが、素早く戻ってくると、綺麗に畳まれた傘を開いて異形の者達の突進を止める。
傘の向こうで激しく動く異形の者達に動じる事無く、ノエルは静かに傘に仕掛けた銃のトリガーを引く。
一発では引き下がる事も無く、異形の者達は尚も進もうと傘を押す。
押し負けるとわかった瞬間、ノエルはコタツに座る士郎へ向けて目配せを送る。
士郎はそれだけでわかったのか、小さく頷き、軽く腰を浮かせる。
目配せをおえると傘を引き、後ろ回し蹴りを放ってから、異形の者へ目や喉への急所攻撃を素早く実行する。
「ファリンが言ったように、温泉だけは守り抜きます……! なんとしても」
ノエルは静かにメイド服のスカートを広げ、頭を下げる。
ゴロゴロっと黒くゴツイ手榴弾が無数に転がり落ちる。
ノエルは手榴弾を落とし終えると、軽やかに士郎が立てたコタツへと身を隠す。
急所攻撃を受け、今だ狼狽している異形の者達は退避が送れ、ほぼ直撃を受けてしまう。
手榴弾を爆発させ終えても、ノエル、ファリン、士郎が警戒を解く事はなく、感覚のセンサーを張り巡らせていた。
「一掃します!」
ファリンは元気良く立ち上がると、背中の服の中から持たれた腕には到底似つかわしくないゴツイ銃、ダネルMGLを取り出す。
今だ、煙で見えないながら、敵たちがいたであろう地点へと勘を頼りに、撃ちまくる。
勢い余って、旅館の構造毎持っていってしまったりしているが、発射線上にあるモノをぶち抜いていく。
こうして、ノエルとファリンは旅館を壊しながら、撃退していく。
恭也は必死で森を走っていた。
既に旅館を覆い尽くしている剥き出しの殺気から一般人達を守る為に……。
手には途中で拾ったしっかりとした折れ枝が2本。心許ない武器ながら、一騎当千の気構えで恭也は走り続ける。
ようやく森を抜けようかという時、恭也の眼前に一つの影が現れる。
身体にぴったりと合ったタンクトップにハーフパンツを着た氷浦蒼士だ。
手には二振りの小刀。
「有事の際には、あなたに渡すようにと……」
「忍か……。氷浦さん、共に無傷で終わらせましょう」
刀を受け取った恭也は、振り返らずに旅館へと向かう。
蒼士は、呪を纏って一ッ飛びで6m強の木の頂上へと飛び乗る。
蒼士は木の上から、殺気を吐き出しながら旅館へと侵攻してくる者達の数や行き先を把握していく。
「部屋への襲撃者以外を……つぶす」
1分弱様子を伺うと、蒼士は音も無く木から跳び立つ。
旅館内部への襲撃の第二段として、外で中から逃げる者達を捕らえる為に、それぞれが一定距離で待機している。
そこへ、蒼士は極限まで気配と音を消して襲撃する。
呪で形作った肘から先をすっぽりと覆うほどの大きさの刃を両腕に装備する。
1人目は気づかれる事なく、意識を、命を狩る事ができるほどの隠密行動だった。
しかし、蒼士の刃が敵に届く前に、更に音も無い襲撃が蒼士を襲う。
数本の闇に紛れる程の漆黒の呪が3本、矢のように蒼士付近の地面へと突き刺し、呪は縮まらず鉄の棒のように凝固し、それぞれが蒼士を絡めるように動いて、蒼士の身体を絡める。
咄嗟に蒼士も身を縮め、呪を最大限纏って防御に徹するも、計算されつくした敵の呪の動きに身体を逃がす事ができなかった。
強力な力で締め付けてくる呪の棒達を、蒼士は締め付けられている場所近くの呪を刀型へと変形させ、強引に斬り刻む。
地に逃げ込めた蒼士は、辺りを警戒して視線を流す。
「やぁ、“参号”。始めまして……っでいいのかな? 俺様は“八百号”だ」
楽しくて仕方ないっといった調子の男の声が、蒼士の遥か頭上から届く。
蒼士が視線を送ると、ボロボロの外套で顔も隠した細身の男が、呪から生まれたであろう巨大な蟲に乗り、不気味な笑い声を出していた。
八百号。それは、総帥により能力強化を受けた順番であり、一桁でないのは総帥に拾われる事すらなかった、選考落ちの証。
蒼士は一瞬にして隠密での暗殺から、多対一という不利な戦場へと身を投じる事になってしまう。
“参号”という過去を知っている所を見ると、蒼士の戦闘スタイルもバレてしまってるに違いない。
異能者同士の戦闘で、相手の異能に関する情報は圧倒的な武器。
「お前達……どこの者だ?」
「アンタが聞くのか?! 総帥の手駒になる為に記憶も全て奪われた誰とも知れないアンタが!」
「氷浦蒼士……だ」
「お世話役が記念につけた名前……だろ?」
蒼士はいつも以上に感情が乗っていない瞳で、八百号を睨みつける。
八百号は蒼士への挑発が成功したと思い、ほくそえむ。
しかし、蒼士は迷わず後方の森へと全速力で逃げる。
主である忍から課せられた使命は、“旅館の外にいる敵を撤退へと導く事”
撃墜できないと見るや、有利に運べる機会を伺おうとしている。
「おいおい、総帥お気に入りが逃げるって……ゲハハハハ!!」
八百号は、手を静かに上げると無数の黒い球が出現すさせ、ボールを投げる動作で、蒼士が逃げた方角へと無数の球を射出する。
「闇夜の雨に撃たれて……死にな! “参号”」
八百号の声と共に、射出された球は先ほどの凝固した棒へと変形して、重力加速以上の加速を着けて降りかかる。
(何が……起きたんだろう……?)
高町なのはは森の地面に寝転び、空を眺めながら考え込んでしまう。
ジュエルシードを奪われ、ひとしきり落ち込んだ後、なのははこっそりと旅館へと帰っていた。
そこへ、高速で走る蒼士と鉢合わせる。
お互いにあまりに想定外の事にポカンっとしていると、蒼士がなのはに覆いかぶさるように飛びつく。
それと時を同じくして、森へと黒い棒が撃ちこまれてくる。
蒼士は身に纏う呪を背中に集中させ、その呪を突破されようとなのはへは攻撃を通さないようにと身を固める。
何本かは突破され、背中へと撃ち込まれるも、蒼士は耐え抜く。
かなりの衝撃を内臓に受けながら、蒼士はなのはに悟られないように、表情を変えずなのはを抱えて森の中を走り出す。
四方八方から打ち込まれる呪の棒を受けつつも、蒼士はなのはを庇いながら旅館へと走る。
旅館を破壊する轟音とは別に、戦闘を奏でる音が激しく鳴っていた。
鉱石などの硬い物体が刃を弾く甲高く澄んだ音。
その主は、見事部屋からはやてを無事に救い出し、高町家が泊まっている部屋まで送り届ける為に背負って走る恭也と、襲撃を掛けてきた異形の者達。
恭也がはやてがいる部屋へと辿り着いた時には、正守が潰され紙切れに戻り、美希がはやてを抱えて必死に異形の者達の猛撃を必死に避けて逃げていた。
正守も美希も式神で、2人が不在の間に有事が起こった時に力のないはやてを護る為に作られ、設置された。
見事、今回の襲撃では、1人っきりで眠るはやてを護る為に結界を張る事に成功していた。
しかし、襲撃者の猛攻により、結界は壊され、はやては美希に抱えられ逃げ惑う事になった。
抱えられるはやては、静かに身を固めて式神に身を任せていた。
はやては夜の見回り任務に同行していた経験から、騒ぐのは邪魔になるという事がわかっているからだ。
恭也に預けられてからも、はやては恭也の質問以外は口を噤んでいた。
「さすがに硬いな」
はやてを背負う恭也は、幾度かの交戦を経て、体表を切り裂く事すら出来ない。
蒼士から託された二振りの刀に刃こぼれは無いものの、剣士としての性が恭也をイラつかせる。
本来動を持って虚を突く剣術を得意としている恭也にとっては、人一人背負っているので本来の動きが出来ないでいるので、尚更。
お互いにほぼ同じ速度で進み、隙を見て異形の者達が攻撃を仕掛け、恭也はそれらを避け、怯ませる為に斬撃を繰り出す。
お互いに決まり手なく進み、遂には高町家の部屋へと辿り着く。
既に壁と呼ばれるモノは無くなっており、柱や梁などの構造体の数本が食い千切られるように折れていた。
高町家の部屋を中心に戦争が起こったのではと思いたくなるほどの惨劇。
しかし、恭也にはこんな惨劇を見ても、やっぱりか……っと苦笑をこぼしてしまう。
「ノエルとファリンか……」
恭也は壁があった箇所から部屋へと飛び込む。そして、後ろから追ってきている異形の者達の存在を報せる。
先頭を走っていた異形の者がヒョッコリと顔を出すと、ショットガンを無表情に構えるノエル、ダネルMGLを同様に構えるファリンがお出迎えする。
息の合った轟音により、ファリンとノエルの戦闘は第2Rが開始された。
その堂々とした立ち振る舞いに、どこのハリウッド女優だ……っと思いつつ、恭也ははやてをいつの間にか帰ってきているなのはを抱えた士郎達に預けて旅館の外で戦っているであろう蒼士の助けへと向かう。
ファリンがダネルMGLで残っている壁ごと、その先にいるであろう敵へと発砲を始める。
その衝撃が収まる前にノエルが怯む敵へと接近し、鉱石のような体表への攻撃はせず、開いている口へとショットガンの銃口を突っ込む。
「口の中まで鉱石という事は……ないですよね?」
口の両端が不気味なほど吊り上げたノエルが楽しそうな声で問う。そして、答えを待たずに数発発射する。
「温泉は守ります」
ファリンもダネルMGLの弾奏を装填し直し、ノエルに合わせるように援護射撃のような主力攻撃のような曖昧な射撃を繰り出す。
恭也は森の中を進むうちに、辺りにチラホラとノックアウトされた者達を見つける。
そして、獰猛な野獣が力一杯に暴れまわったような跡を見つける。
既にこの森でも、高町家の部屋以上の戦闘が行われている証拠である。
それらを抜け、更に奥に進むと、肌を切り裂きそうなほど鋭く放たれる殺気に出会う。
木の上に立つ外套の男と、それを見上げる肩で息をする蒼士。
「さすがはエリートの参号だな。そんなボロボロの身体でよくやる」
「……傷なんてついていない」
「何言ってんだよ。さっきまで血を吐きまくって、その左腕も折れてんだろ?」
「……折れてない」
蒼士は左腕に過剰に呪を送り込み、小刻みに震えながら腕を曲げる。
左腕に今まで形作っていた刃よりも短く小さい刃を纏い、身体全体に薄っすらと呪を纏う。
疲労の色が見えながらも、蒼士の意識に陰りはない。
お互いに緊張感を持って睨み合う2人。
邪魔者がいなくなり、遂にタイマンが始まろうとしていた。
日本のどこともしれない薄暗い部屋の中、黒い和服に身を包んだ者達が静かに話し合っていた。
彼らは異能者組織、“裏会”を牛耳る12人の幹部“十二人会”。
「……ですから、神佑地全体が力を増した原因を究明する必要があると思います」
第三客は、楽しさを抑えきれないのか、声が踊っていた。
「っで、お主はどうしようと?」
「神佑地が活性化しだした10年程前の崩壊した神佑地への調査で何か掴めるかもしれません。ですので、調査の許可を」
「それは烏森も入っているのか……?」
「ええ、もちろん。というよりも、烏森が一番怪しいと踏んでいますよ
――何せ、10年前の崩壊までは唯一の小一宮でありながら特別重要保護地なんですから」
神佑地の規模とは別に裏会が決めた特別な事象を起こす神佑地であったり、全ての神佑地の要であったりっと認定された土地がある。
その前者が烏森。
それが10年前に、突然力を失った。それ以来、小一宮の位で落ち着いている。
小一宮の烏森と無色沼を含めた海鳴市の全権を墨村家、雪村家、月村家に一任されている。
「あそこは私達墨村・雪村・月村家が任されている土地。そこを負かされる者としては」
「はみ出し者の癖に……ねぇ?」
「お前
――烏森への調査は許可できない。本家に持って帰ろうと同じだ」
一瞬にして殺気だった正守とそれを笑って受け流す第三客。
このまま進むかと思い、野次馬に回ろうとした残りの幹部達に、正守は不気味な笑みを向ける
「この議題が終わるまで待とうっと思っていたんですが、そうは言っていられない事態になっているようなので。
――海鳴市付近の温泉宿で、どなたかの名無しが暴れているようですね」
「アンタの家族でも巻き込まれてるのかい? ならざまぁっとしか言いようがないね」
「そうです。しかし、巻き込まれている家族はそれだけではないのですよ。
墨村家、高町家、バニングス、
――月村家です」
月村家という単語が出た瞬間、幹部達にざわめきが起こる。
「月村というと……まさか」
「ええ、夜の一族の……ですよ」
「そう……ですか。では、議論すべきものもほとんど終えていますので、今回はこれまでということで終わりましょうか」
進行役が終わりを告げると、誰も席を立とうとしない中、正守は堂々と席を立って総本部を急いで去る。
自然とこぼれる笑みに、手で覆い隠す。
「本当に味方にしといて間違いないな……月村家は」
――TO BE CONTINUED
あとがき
ど……どうも、まぁです。
三月一杯投稿する事もなく、私的な事に突っ走っていました。。
旅っていいよね。。
っと言う事で、こっからボチボチっと進めていきたいと思います。
これからもどうぞ、お付き合いを。。
まぁ!
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