Fate/BattleRoyal
8部分:第四幕
お待たせしました・・・・
第四幕
「はああああああああっ!」
セイバーと名乗る少女が同じくセイバーと名乗る青年に剣戟を繰り出し青年もそれに同じく大剣で受ける。
「クククッ!女だてらにとは良く言うが、中々やるな」
青年がそう賛辞を送ると少女も不敵な笑みを浮かべて言った。
「そなたもゲテモノの類にしては中々に巧みな技を使うではないか」
二人は互いに楽しむように剣戟を交わす。その様子を神威は呆然とした眼で見ていた。二人の男女が剣を手に打ち合っている。現代とは余りにそぐわない・・要約すれば現実離れした光景を見ている事しかできなかった。
一方、ゴスロリの少女は相も変わらず金切り声を上げて己のセイバーに命じる。
「ちょっと、セイバー!何そんな偽物相手に遊んでいるのよッ!宝具の開帳を許すわ。さっさとけりを付けるのよ!」
すると、青年のセイバーは喜色の浮かんだ顔で少女のセイバーに改めて己の大剣を突き付ける。
「と言う事らしいのでな・・・実に名残惜しいが、殺りに行かせて貰う。我が宝具『黒血の毒薔薇』でなッ!」
すると、青年のセイバーが持つ大剣が禍々しい魔力を纏う。少女のセイバーは己の剣を手に構える。黒血の剣戟が少女のセイバーの剣を掠める。すると、少女の剣はその掠めた箇所を腐食させ融けていた。
「なんと!」
これには少女のセイバーも驚きに眼を見開く。
「クククククッ!如何かな我が秘蔵の毒の味は?」
その言葉と先程の宝具の名に少女のセイバーはこの青年のセイバーの真名を悟った。
「成程。黒血の毒薔薇・・・この宝具の名で瞬時に悟るべきであったな。イタリアのもう一人のカエサルにして毒の枢機卿・・チェーザレ・ボルジア。よもや、そなたの如き奸物が最良のサーヴァントたる剣士のクラスで現界しようとはな」
そう・・このセイバーの真名はあらゆる政敵を秘蔵の毒を持って粛清して来たローマ教皇の寵児チェーザレ・ボルジア!
「如何にも、我が真名はチェーザレ・ボルジアだ」
青年のセイバー・・・否、チェーザレも素直に認める。だが、彼のマスターであるゴスロリ少女は一層、金切り声を上げて激昂する。
「ちょっと!あんた何を勝手に真名を認めてんのよッ!否定しなさいよ!」
それに対しチェーザレはあっけらかんに言った。
「仕方あるまいリオン。宝具を開帳すると言う事は真名を自ら明かす事と同義だ」
彼の口振りからどうやらゴスロリ少女の名はリオンと言うらしい。しかし、チェーザレは余裕ある笑みで己のマスターに言う。
「なに大した問題ではない主よ・・・こ奴らをここで仕留めれば済む話だッ!」
その言葉と共にチェーザレは渾身のスピードを持って突きを繰り出して来る。
それを見て真名がバレた事で焦っていたリオンもいけると踏んでいた。
ふふふ・・・そうよ。あたしのセイバーがこんな女に負けるなんて在り得ない!何ってたってチェーザレ・ボルジアは剣士、槍兵、騎乗兵の三つのクラスに該当する程の強霊なのよ。それにしても・・・・
と、そこでリオンはマスターに与えられるサーヴァントのステータスを読む能力を通して自分の剣士と戦うもう一人の剣士を見る。
この女・・どこの英霊か知らないけど、どうやら『セイバー』だと言うのは本当らしいわね・・・同クラスのサーヴァントがニ体も存在するなんてどう言う事かしら?まあ、でも所詮はチェーザレの敵じゃないわ。と言うかそれ以前にこの女を召喚したモヤシにしたって真っ当な魔術師とは言い難いみたいだしね・・・
リオンはサーヴァント同士が戦っている最中、未だに呆然としている神威に眼を付ける。マスターと言う繋ぎがなければサーヴァントは現界を維持できず何れは消滅する。
特にこれは勘だが、あの女セイバーのマスターとなった男子生徒はそもそも魔術と言う知識すら欠落している。恐らく令呪が刻まれた事で突発的に魔術回路が開いた偶発的な召喚だったのだろう。ならば―
「先手必勝ってねッ!」
リオンは自身の魔術礼装である左手の薬指に嵌めた指輪を神威に向かってかざす。それを見たセイバーは―
「奏者ッ!」
と、すぐに駆け付けようとするもチェーザレの猛攻に対処するのが精一杯だった。その間にリオンは己の礼装を通じて魔術を発動する。彼女の属性は風。故にその魔術による攻撃手段は風を幾重にも練った鎌鼬!
リオンは魔術回路を起動させ凄まじい鎌鼬を発生させ神威に飛ばす―
「うわああああああああああああああああああっ!!」
神威は突如、襲い来る風の刃に神威は腰が引けて自分の身を守るように両手を上げる。
「ハッ!情けない悲鳴と格好ね!じゃあそのまま死んじゃええッ!!」
だが、そうはならなかった。咄嗟に上げられた神威の両手から強い振動・・いわゆる超音波が巻き起こり風の刃を逆に裂いた。
「なッ!そんな・・あたしの風の刃がッ!?」
リオンは信じられないと眼を剥く。しかし、当の神威すらも唖然としていた。
何だ・・・今の?僕、何かした!?
「奏者・・・」
彼のサーヴァントであるセイバーすらも唖然としていた・・が、そこをチェーザレに付け込まれる。
「殺った・・・」
間髪入れずチェーザレは猛毒の刃をセイバーのがら空きになった腹部に突きで入れる。
「しまっ・・・ッ!」
セイバーは覚悟を決めて眼を瞑りかけるも、その時・・・
「あ・・危ないッ!」
神威は思わず右手をチェーザレにかざし先程の超音波を喰らわせる。チェーザレはそれを己の宝具で受け、セイバーはその隙に離れ神威の傍まで下がった。
「ははははははは!我が奏者はやはり最高だ!でかしたぞ」
セイバーからの賛辞に神威は未だに呆然としながらも答えた。
「は・・はあ・・それはどうも」
一方、思いもかけない反撃を喰らったリオンとチェーザレはギリッと相対する二人を睨み付ける。
「ど素人のマスターと思って侮っていたけれど・・・どうやら簡単には行きそうにないわね。セイバー、アレを使いなさい」
すると、チェーザレは眉根を寄せて言った。
「良いのか・・・このような場所で?この学校所かこの地区一帯が消し飛ぶ事になるが・・」
そう諫言されてもリオンは頷かなかった。
「構やしないわ。こんなど素人丸出しの奴にしてやられたまま退いたら、あたしの面目は丸潰れよッ!やりなさいセイバー・・・第二の宝具の開帳を許す」
「やれやれ・・心得た我が主よ」
と、チェーザレも今だ嘗てない程の覇気を放出する。それに身構えるセイバー。
「奏者、来るぞッ!」
その言葉に神威はゴクリと生唾を飲み込む・・が、そこで突如、横槍が入った。
「はーい!両陣営共にそこまでです〜!」
緊迫した空気に似つかわしくない声が飛び出て対峙していた四人はその声の方角へ眼を向けた。すると、そこには髪を二三に分け黒い聖職者風の服装をした青年がスマイル0円と言わんばかりの安っぽい笑顔を浮かべて立っていた。その青年をリオンは鋭く睨み付けて訊ねた。
「誰よ、あんた?こっちは見ての通り取り込み中なんだけど」
その声音は明らかに邪魔だから消えろと言う意味が込められていたが、青年は一歩も怯まず安っぽい笑顔を振りまきながら言った。
「いえいえ、そう言うわけにも参りません。私、聖堂教会から派遣されました袴田淳一郎と申します〜」
その言葉にリオンは舌打ちする。自分達の行動をもう、監督役が嗅ぎつけて来たとは・・・
袴田は朗らかな声音でこう続けた。
「さて此度の戦闘ですが、今回、リオン・アルテイシア殿の公衆の面前に置いての魔術の行使並びにサーヴァントの使役・・・これらは明らかに魔術の秘匿に反する行いです」
すると、リオンは悪びれもせずに言い返す。
「サーヴァントの試運転よ。戦争が始まるんだから自分の持ち駒の能力を知りたいと思うのは当然でしょ」
「だとしても今回は度が過ぎます。これ程の死傷者を出した大惨事・・いくら我々の隠蔽工作でもこれでは全く意味がありません。おまけに・・・魔術師でもない一般人をも巻き込むとは」
その言葉にリオンは苛立ちながら異を唱える。
「人聞きが悪い事言わないでくれる?勝手に令呪がそいつの手に刻まれてサーヴァントが独りでに召喚されたのよ。あたしが何かをしたわけじゃないわ」
その切っ掛けを作った張本人でありながらいけしゃあしゃあと言うリオンに神威も彼のセイバーも呆れて物が言えないと言う顔になった。
だが、リオンはそんな事は眼中にないのか袴田に話し続ける。
「それよりもあんたが教会の人間だって言うなら聞きたい事があるんだけど?」
「はて・・何をでございましょう?」
袴田は首を傾げながら問い返すとリオンは言った。
「私は今回の聖杯戦争で『セイバー』を召喚したわ。だけど、たった今、そこのモヤシが偶然に召喚したサーヴァントも紛れもなく『セイバー』なのよ・・・これってどう言う事?確か聖杯が英霊に用意するクラスは七つ。一度として一つの戦争に二騎のサーヴァントが同一のクラスで召喚されたなんて話聞いた事がないわよ」
神威は一人だけこの会話に追いていけなかった。
聖杯戦争?・・・サーヴァント?・・クラス?一体、何の事?
だが、彼の隣に控える赤の騎士だけは二人の会話に真剣な眼差しで耳を傾けていた。
すると、袴田は含み笑いをして言った。
「それにつきましては何の心配もありません。クラスが重複するのは当然の事です」
「はあ?何言ってんのよあんた!」
リオンが答えになっていないと言う声音で言うと袴田はこう続けた。
「確かに聖杯が用意するクラスは七つですが、そのクラスを得る英霊は一騎のみとは限りません。何しろ、今回は七騎所か既に五十二騎ものサーヴァントが現界いたしております。故にクラスがかぶった英霊がいたとしても何の問題もございません」
その言葉にリオンとチェーザレ・・そして、神威の隣にいるセイバーが絶句している。唯一人、状況が把握できていない神威はオロオロと周囲を見る。
一方、袴田は立て板に水と言った調子で喋り続ける。
「いやー、我々教会としてもてんてこ舞いですよ。何しろ七騎だけでも厄介なサーヴァントがこの上、五十二騎もだなんて・・正に世界大戦さながらの戦力が終結したと言う事ですからね」
「そんな馬鹿な事が・・・だって聖杯が呼び寄せられるサーヴァントは七騎が限度の筈でしょう?それが五十二騎?何の冗談よそれ」
リオンがそう言うと袴田はいえいえと首を振って言った。
「残念ながら冗談でもビックリでもないです。正真正銘紛れもない事実なんですよ。おまけに本来、呼び出す事は不可能な筈の東洋の英霊までもが召喚されている始末です。正直、我々の監督も行き届くかどうかすら微妙な所でしてね・・故にこそ参加者の皆様方には是非とも思慮のある行動を尚更に取って頂きたい・・と、言う所です〜!」
すると、リオンは下唇を噛んで言った。
「ふん・・まあ、いいわよ。場もなんか白けちゃったし。今日の所は退いて上げるわ。行くわよセイバー!」
そう吐き捨ててリオンはチェーザレに抱き抱えられて共にその場を去った。
そして、その場に残った一組である神威とセイバーの少女に袴田は近づいて言った。
「さてさて、貴方方が今回、新たに参戦されたマスターとサーヴァントですね。先程も言いましたが、貴方方も思慮のある行動と戦闘をお願い致します。余りに騒ぎが大きくなると本当に我々の隠蔽工作も間に合わなくなりますので。平に平に」
しかし、そう言われても神威には何の事だかさっぱりだった。故に―
「あ・・あの参加者ってどう言う事ですか?」
そう問い掛けると袴田は安っぽい笑顔を無駄に振り撒いて言った。
「いやだな〜!どう言う事も何も当然、此度の第四次聖杯戦争の参加者に決まっているじゃないですか〜!」
「聖杯・・戦争?」
そのボンヤリしたような声に袴田は今度こそ眼を丸くして言った。
「もしかして・・・本当に何もご存知ない?聖杯の事も・・もしかして、魔術師の事すら?」
「は・・はい」
神威がすんなり答えると袴田は一瞬、間を置き再び、口を開いた。
「成程・・・リオン嬢が仰っていた通り本当に突発的な召喚だったわけですね・・・まあ、気の毒な事です。しかし、こうして令呪を宿しサーヴァントを召喚してしまった以上、貴方は紛れもなく此度の聖杯戦争に参加する魔術師です。最早、無関係ではいられません」
キッパリと言う袴田に神威はさらに問い質した。
「あの・・そもそも、その聖杯戦争と言うのは何なんです?」
「よろしい。説明致しましょう・・・まず、聖杯戦争とは『聖杯』と言う万能の願望機を賭けて戦う魔術師達の闘争の事です」
その言葉に神威はますます眼を丸くする。
「魔術師・・・でも僕はそう言うんじゃ・・」
「何を仰います。そう思うなら貴方の右手の甲をよく御覧なさい」
袴田にそう指摘され神威は改めて自分の右手の甲に刻まれた三画の赤い刻印を見る。
「それは『令呪』と呼ばれる自身のサーヴァントへの絶対命令権です。三度までしか行使はできませんから、使うべき時はよくお考えください。と同時にこの聖痕こそが聖杯戦争の参加資格となり、これが刻まれるのは魔術師若しくは魔術回路を持つ者のみなのです。故にこそ現に貴方は先程の召喚によって魔術回路が開き魔術をも行使されたではありませんか?」
そう言われ神威は先程、リオンの風の刃を喰らいそうになった時、身を守るように上げた自身の手から超音波が発生した事を思い出す。
ひょっとして・・・アレの事?
神威の合点がいったと言う顔を見て取り袴田はさらに説明を続ける。
「ふむ、漸く納得なされたようですね。では続けますよ・・・先程も言いました通りこれは聖杯を巡る魔術師達の殺し合いです。魔術師達は各々英霊と呼ばれる人外の精霊を令呪によってサーヴァントとして使役し最後の一組になるまで戦う・・と、言う物です・・・理解できましたか?」
「は・・はい、何となく」
神威は徐に頷いて答える。
「恐縮です。そして、召喚されるサーヴァントの数は七騎。それぞれに剣士、槍兵、弓兵、騎乗兵、魔術師、暗殺者、狂戦士これら七つのクラスが召喚される訳ですが、さっきも言いました通り・・此度の戦争では既に五十二騎ものサーヴァントが現界しておりさらに、その数を増やしております。はっきり言いましてこれは異常です」
「は・・はあ・・・」
神威は一応、理解はしたもののまだ、ピンとはこないようだった。だが、袴田は最早それを気にする風もなく最後にこう締め括った。
「故に我々聖堂教会の監督も手が足りないと言う在り様です、はい。しかしまあ、私に言える事は唯一つ。貴方の健闘をお祈り致します。ではくれぐれもご用心を!」
それだけ言うと袴田はその物腰からは想像もできない程の身のこなしと身体能力でその場を屋根まで飛び上がって去って行った。
後に残された神威は隣にいる己のサーヴァントを見る。すると、セイバーの方から口を開いた。
「五十二騎のサーヴァント・・・思っていた以上に熾烈な戦いとなりそうだな奏者よ。共に生き延びようぞ」
「は・・はい?」
事情と今現在、自分が置かれている身の上はどうにか理解せきた神威だったが・・やはり、気持ちが理屈に追い付いていないのかそう答えるより余裕がなかった・・・
これが二ヶ月前の事・・・そして、時は再び戻って雁夜がバーサーカーを召喚した深夜と同時刻・・・冬木市のとある某アパート・・・
「奏者よ。そなたも湯に浸らぬか?東洋人は湯浴みが好きであろう」
バスルームからセイバーの声が聞こえる。それを背に神威は気不味い声音で断った。
「いえ・・いいです。どうぞお構いなく」
神威はあの学校壊滅から二ヶ月が経過した現在を持ってしても何故、こうなったのかと自問自答していた。
リオンとセイバーことチェーザレの二人に学校を壊滅されてから僕とセイバーは家に帰らず居所を転々としていた。何しろ五十二組以上のバトル・ロワイアル・・・何時どこで襲撃されたとしてもおかしくはない。だからこそ家に戻るのは家族を危険に晒すと言うセイバーの言葉を受けて僕は大人しく従っている。
まあ、彼女の方が多分にこう言う事の専門だし元より従うより他はないだろう・・・けど・・本当に今更だけど、どうしてこうなったのかな?二ヶ月前までは普通の学生だったはずなのに・・・・
思わず嘆息をつく神威にバスルームから再び、セイバーの声が響く。
「どうした奏者?黄昏ておるではないか」
「だって・・・僕・・喧嘩すらまともにやった事ないのに・・・戦争だなんて・・・・」
思わず弱音が出る神威。
「うぬ・・・余のマスターはなかなかに神経質なのだな」
神威と対照的にのんびりとした口調でセイバーが言うと神威は言い返す。
「いきなり殺し合いに放り込まれて普通でいられるわけないだろう・・・」
すると、セイバーは少し強めの声で言った。
「だが、現実としてそなたは余を召喚し、この戦争に身を投じた。その事実を早急に受け入れねば・・・死ぬぞ」
その単語に神威は改めて身を固くする。
死ぬ・・・そう言う言葉はドラマとかアニメなどで何度も聞いた言葉だけど・・・・こうして自分が身を置いている現実で聞く事になるなんて夢にも思わなかった・・・確かに、今の僕は聖杯戦争の参加者と言う奴なわけで・・・僕を除く五十一人の魔術師が僕を・・・その・・・殺そうとしている・・・わけで・・・それを事実として受け入れなきゃ・・・セイバーの言うように・・・し・・死ぬっ・・わけでぇ・・・
そう考えていくと神威はますます、不安になって、ついには涙ぐみそうになる。すると、そこへ―
「奏者」
すぐ背後にセイバーの声が飛び神威は背後を振り返る・・と、硬直した・・・セイバーは風呂上がりの姿―要約すると一糸纏わぬ姿で右手には紅の大剣を持っている。
「ちょっ・・・!セイバー・・・ふ・・服をッ!!」
神威はすぐさま、眼を瞑って後ずさる。すると、セイバーは普段とは打って変わって静かな声で言った。
「奏者よ。そなたが不安や恐怖を感ずるのは無理もない。いや寧ろ、それを知らぬ者は単なるたわけだ。そも真の戦人とは不安と恐怖を内包しながらも前へ歩を進める者の事だ。そして何よりも、そなたは余が守る。余はそなたに呼び出された最強の英霊であるが故に」
その静かながら確固たる強さを持った声に神威は少し、不安と恐怖が薄らいだ気がした。
この子・・・僕よりも華奢なのに・・・その小さな身体のどこにそんな力強さがあるんだろう?僕はそんな彼女の力強さに応える事ができるんだろうか?でも―
「ありがとう・・・セイバー。これからよろしく、お願いするよ」
神威は自分を守ると言ってくれた己のサーヴァントに感謝と盟約の言葉を口にする。そして、セイバーもいつもの偉そうな笑顔を浮かべて応える。
「うむ!こちらこそだぞ奏者よ!」
こうして、神威は改めて赤の剣士と契約を結んだ。
それから二日後の深夜、奏とキャスターは間桐家への潜入を試みていた。
「なあ・・キャスター。どうして今回は参加もしていない御三家の邸に忍び込む必要があるわけだ?」
奏が問うとキャスターはこう答えた。
「無論、聖杯戦争について調べる為だよ。君も此度はおかしいとは思っているのだろう?本来なら七騎が限度の所を百騎もなどと・・・」
アンシェルに告げられた百騎ものサーヴァントの現界・・・アレは紛れもない真実だったと二人は一日足らずで思い知った。何しろ、この冬木市から七騎では到底、説明が付かない程のサーヴァントの気配を至る所に感じるのだから・・・
「単純に今回は聖杯の力が更に増したって事じゃないのか?」
奏はそう言うが、キャスターは頷かない。
「それならば、それには明確な方程式と等価交換を経なければならないはずだ。万事物事はそうして初めて動く。故に一足飛びに力が増すなどと言う事は決して、在り得ない。」
「それで・・その概要が間桐家にあると?」
奏がそう問うとキャスターは思慮深げに頷く。
「御三家の一角である間桐が此度の参戦を見送ったと言うのが気にかかってね・・・何か他の御三家すら知らない裏に精通している可能性が高い」
「裏って・・・何だよ?」
「私にもまだ、分からない。故に調べに行く・・・ッ!」
そこでキャスターは近くなった間桐家からサーヴァントの気配を感じた。
「奏」
「ああ、俺も感じた。行こう」
二人は急ぎ足で間桐家へと急行する。そして、その頃の間桐家の居間では・・・・
「おうおう・・・落伍者が今更、何をしに来たかと思えば・・・これは、これは・・・呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵ッ!」
居間にある腰掛け椅子には不気味且つ醜悪なオーラを醸し出している老人が予期せぬ訪ね人に愉快な笑い声を上げた。だが、その訪ね人―間桐雁夜は隣に己のサーヴァント・バーサーカーを従え愉快とは程遠い怒りと強い決意を込めた眼で老人・・・間桐臓硯を睨み据えて言った。
「爺ィ・・単刀直入に言う。桜ちゃんを返せッ!!」
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