Fate/BattleRoyal
11部分:第七幕
今回も色々といじっています。そして、おまけに展開が早いです!
第七幕
自らもセイバーだと名乗った少女のサーヴァントをイスカンダルは凝視しつつ青のセイバーことアルトリアに問い掛ける。
「なあ、セイバーよ。こ奴・・貴様の双子の姉妹か何かか?」
「なっ・・何を世迷言を・・・私はこのような者など知らん」
イスカンダルに問われアルトリアは呆けていた状態からやっと抜け出し、すぐに否定した。
「ほう・・・では他人のそら似か?世の中には自分と似た者が三人おるとは言うが・・・さて、そこなセイバーよ。このままでは何かとややこしい。ここは一つ真名を名乗ってはくれぬか?」
イスカンダルがそう持ち掛けるが・・・
「たわけ、そのように問われてサーヴァントの弱点にも成り得る真名を明かす馬鹿がいるか」
赤のセイバーは当然のように一蹴した。すると、イスカンダルは頭をかいて言った。
「余はこれでも名にし負う征服王なのだが・・・その余の命でもか?」
と問われれば・・・
「余とて、ローマ帝国を統べる皇帝だ。如何に彼の大王とは言え臣下に下った覚えなどない」
その言葉に一番に反応したのはイスカンダルではなく神威だった。
「えっ?そんなの僕も初耳だけど!?」
「なんだ〜、自分のマスターにすら真名を明かしてはおらぬのか」
イスカンダルが呆れたように言うと赤のセイバーは少し口篭もりながら言った。
「よ・・余のマスターは魔術師としては日が浅い。故に真名を教えるにはまだ、至らぬと言うわけだ」
その言を盗聴していた切嗣は赤のセイバーのステータスを読み取って眼を瞠った。
筋力B 魔力A 耐久A 幸運B 敏捷A 宝具EX・・・これだけのステータスで魔術師としては日が浅いだって?見え透いた事を。陽動作戦のつもりか?
などと値踏みしていると赤のセイバーがアルトリアの真ん前までズイッと進んで来た。アルトリアはギョとしてすぐに距離を取るが、赤のセイバーに敵意らしい物はなく寧ろ好奇に満ちた瞳を向けていた。
「うぬ・・・我が事ながら、本当に見れば見る程にそっくりだな〜。だが、やはり赤さが足らぬ!」
その言葉をアルトリアは侮辱と受け取ったのか風王結界で隠した剣を構えて凄む。
「貴様、悪ふざけも大概にしろ。そちらこそ人と似たような髪型や服装をして・・騎士王たる私を侮辱しているのか?と言うより貴様のソレはなんだ!?」
アルトリアがクワっと眼を見開いて詰問する。それに対し赤のセイバーはキョトンとした仕草ではて?と言う顔で首を傾げる。その態度がますます、アルトリアを苛立たせる。
「貴様の服装だ!何だその異様に露出度が高いドレスは!?それが戦場に赴く者の格好か!」
その指摘は確かに的を射ていた。何しろ、赤のセイバーのドレスはとてもとまでは言わないが、かなり際どい。
決して小さくはない胸部は甲冑も着けずに半ば露わになっているし、後ろ姿を見れば尻も半分は露出しているが、これらはまだ、いい・・・だが、特に何より前のそのスカートは―――
「特にその明らかに透けているスカートは何のつもりだッ!!それは見様によっては聖杯を賭けて戦う私達サーヴァントへの侮辱にあたるぞ」
その獅子の如き眼光に側にいたマスターの神威はガタガタと震える。一方、赤のセイバーはと言うと・・・
「ああ、これは見せているのだ」
物凄い答えが返って来た。当然、アルトリアは口をパクパクさせて、さらにオーラに凄みが増して行く。
「貴様・・・・私と同じ姿でよくも・・・・よくも!そのような破廉恥極まりない行いを恥げもなく堂々と〜!!」
神威などは余りの恐怖に自らのセイバーに言った。
「ちょ・・ちょっと、セイバー。何だかよくは分からないけど、謝った方がいいよ」
だが、赤のセイバーの口から出た言葉は―
「そなたと同じ姿?確かに顔立ちも髪形から服装まで似通ってはいるが、ここは圧倒的に違うと思うが?」
そう言って赤のセイバーは自らの胸部を指差して言った。
「ここだ。こ・こ!な?明らかに違うであろう」
その答えに神威は忽ち、ムンクの叫びの如き形相となって絶叫する。
「セイバーさあああああああああああああああああああんッ!!!」
そして、その場にいた者達は思わず、赤のセイバーとアルトリアの胸部を見比べていた。(アイリスフィールも含めて)
プツンッ・・・・・・・!
そんな音を一同は聞いたのかも知れない。アルトリアは顔を俯けたまま・・・ただし、先程以上に黒いオーラをはためかせて、口元から・・・
「フフフフフフフ・・・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・」
その渇いた笑い声にウェイバーやルクレティアは元より、あのイスカンダルやランサーことディルムッドも恐怖に半ば顔を強張らせる。一方、アイリスフィールは顔を青褪めさせながらも必死にアルトリアを宥めていた。
「落ち着いてセイバー・・・貴方はそのままでも十分、素敵よっ!」
その光景をスコープで見ていた切嗣は自分とは違う狙撃ポイントに陣取っている久宇舞弥に思わず、無線で訊ねた。
「なあ、舞弥・・・」
『はい、何でしょうか?』
「今は・・・戦争中・・・だよな?」
『はい・・・間違いなく』
微妙な沈黙を残す中、戦場に再び、大きな動きがあった。もう一人の乱入者が現れたのだ。
その乱入者は空中をガレー船で飛んで来た。ガレー船の船首には黒を基調にした海軍の軍服を羽織ったイスカンダルに負けぬ程の大柄な青年がいた。その青年は長い黒髪に鷲のように鋭い鷹のような黄眼で真下にいるマスターやサーヴァント達を睥睨し、そして、口を開いた―――!
「俺様はサーヴァント・ライダーッ!そして、真名はピョートル・アレクセーエヴィチ・ロマノフッ!!栄えあるロシア帝国の大帝であるッ!!」
また・・・真名を名乗った・・・・
イスカンダルを除く一同が呆然とする中、ガレー船から聞き覚えのある声が木霊する。
「ななな・・・何を考えているッ!ライダーッ!!真名を敵に晒すとは何事だッ!?」
そう・・先程の声の主―ウェイバーの時計塔においての講師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが自らのサーヴァントに素っ頓狂な声で怒鳴り付けていた。
その青い顔は先程までのウェイバーの顔となんだか、かぶった。激昂する自分のマスターに対しライダーことピョートルはあっけらかんに言った。
「と言ってもなぁケイネスよ。そこにいる征服王もライダー、こっちもライダーじゃ・・ややこしいにも程があるだろう?おまけに今回は百騎のサーヴァントが召喚されてクラスが複数に重複する事も日常茶飯事と言うじゃねえか。そもそも、俺様はまどろっこしい事は好きじゃねえんだ。戦争ってのは名と栄光・・そして、命を賭けてギリギリにせめぎ合ってこそ血湧き肉躍るんだぜ?だったら出し惜しみするだけ損ってもんだ」
その言葉に豪笑で同意したのは無論、これまたライダーことイスカンダルだ。
「がははははははははははははッ!!分かっておるではないか大帝よ。そうよ、この戦いにはあらゆる時代あらゆる国の英雄豪傑が招かれている。これらと刃や矛を交える機会を見す見す逃す手はあるまいて」
イスカンダルの言葉にピョートルもまた、同意する。
「だなあ。どう言う巡り合わせか知らねえが、こんな形とは言え再び生を受け、しかも、これだけの猛者が轟く戦場に放り出されるとは・・・聖杯って奴も粋な計らいをしてくれるぜ」
一方、その会話を盗聴していた切嗣はと言うと・・・『魔術師殺し』と言う精密機械としての機能を十全にフル稼働させ戦場の様子を冷徹に監視していた・・・が、内心は二騎のライダーの会話を苦々しく思っていた。
何が・・・名と栄光だ。戦場にそんな物はない・・・あるとすれば地獄だけ・・・そして、その地獄へと多くの若者達を騙して誘ったお前達『英雄』と言う名のクズが脚色した幻想のメッキだけだッ!
そう叫び出したいのを必死に堪え切嗣は無感情の表情と冷徹な眼で戦場の動きを追う・・・が、次の瞬間にその顔を大きく歪ませる―――!
イスカンダルとすっかり意気投合したピョートルが突如、鋭い眼をアルトリアの後方にいるアイリスフィールに向けたのだ。そして、言った。
「それよりもアインツベルンのホムンクルスだったか・・・あんた、青い方のセイバーのマスターじゃねえだろう」
その言葉にアイリスフィールやアルトリアは眼を剥いた。その仕草が図星だと如実に語っていた。
「え?」
「なんだと?」
ルクレティアとディルムッドも驚いた声を上げる。その他のサーヴァントやマスター達も呆気にとられている。そして、ケイネスに至っては―――
「何を根拠に言っているライダーッ!その女がマスターでないと言うなら、セイバーの本物のマスターは何処にいると言うのだッ!?」
その問いにピョートルはにべもなく答えた。
「何処にいるも何も最初っから此処にいるさ。お前ら眼の前の闘いに夢中で気付かなかったのか?この戦場を後方からライフルで狙っている気配が二つあっただろうが」
「なッ!?」
最初に反応したのはアルトリアだ。ピョートルの言葉でその二つの気配が誰か容易に察せたのだろう。一方、切嗣は舞弥に連絡してすぐさま、狙撃ポイントから撤退していた。それと同時に舌打ちして何故、バレたのかと自問自答していた。
何故、バレた!?周囲の警戒は厳にしていた。ランサーのマスターは元より、あのロード・エルメロイですら捕捉されなかったものを捕捉されるとは・・・あのライダー、特殊な捕捉スキルでもあるのか!?
などと切嗣が思考を巡らせていた頃、ピョートルは答えを一同に明かしていた。
「別に俺様に特殊なスキルがあるわけじゃない・・・強いて言うなら匂いさ。これでもガキの頃から暗殺だの謀殺だのと言った危機に晒されて来たからな。そう言う空気には人一倍、敏感になっちまった。それにしても騎士王よ。随分と下衆なマスターと契約したもんだなあ。サーヴァントであるお前を餌に使って自分は優々とマスター狙いとは・・・なかなかに強かじゃねえか」
すると、アルトリアは表情を歪ませて歯噛みする。ピョートルの言葉に彼女も自分が切嗣にとって単なる撒き餌でしかない事を悟ったのだろう。その傍らでアイリスフィールは気遣うようにアルトリアを見る。
一方、遠坂邸では・・・
「まずいな・・・」
『まずいですね・・・』
時臣と綺礼が頭を抱えていた。彼らが言っている『まずい』と言うのは先程の征服王の挑発だ。あのような挑発を受けて、彼の英雄王が黙って見ているとは到底、思えない。そして、案の定、彼らの危惧はすぐに現実の物となった。
アルトリアが歯噛みしたのと同じ頃、彼らの前に再び、輝く黄金の鎧を纏った一騎のサーヴァントがアルトリア達を見下ろすようにターミナルのポールに降り立ち、傲岸な光を帯びた赤眼で眼下を射竦める。
「我を差し置いて“王”を僭称する不埒者が一夜の内に四匹も湧くとはな」
それに対しイスカンダルは頭をかいて言った。
「難癖をつけられた所でなあ・・・イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが・・・・」
すると、黄金のサーヴァントは一層、眉根を寄せて傲岸に言い放つ。
「たわけ、真の王たる英雄は天上天下に我唯一人。後は有象無象の雑種に過ぎん」
その傲慢な言動に青と赤のセイバー二人はムッと顔をしかめる。一方、ピョートルは逆に黄金のサーヴァントを鼻で笑い言った。
「そこまで言うなら、先ずは名乗ったらどうだ?テメエがどのクラスの英霊かは知らねえが、クラスがこれからも重複して行く以上、ややこしくなるだけだ。それに何より、王だとほざくならテメエ自身の威名を憚ったりはしねえだろう?」
「問いを投げ掛けるか?雑種風情が・・・王たる我に向けて・・ッ!」
会話が成り立たない・・・いや、するつもりもないのか。ピョートルがやれやれと呆れるような仕草をするとそれが黄金のサーヴァントの逆鱗に一層、触れたらしい。
「雑種がッ・・我が拝謁の栄に浴して尚・・・・この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かして置く価値すらないッ!!」
そう言った瞬間、黄金のサーヴァントの後ろの空間に歪みが生じ、そこから無数の剣、槍と言った武器の柄が出現する。
「おいおい・・随分、沸点が低い王様だな」
他人事みたいに言うピョートルにケイネスは青い顔で激昂する。
「煽った貴様が言うなああああああッ!!」
「そんな・・・一騎のサーヴァントがこれ程の宝具を・・ッ!?」
ルクレティアが冷や汗を顔に垂らして絶句する。
「主よ。お下がり下さい!」
そんなルクレティアを護らんとディルムッドは彼女の前に出て槍を構える。
「嘘だろッ!?」
ウェイバーは黄金のサーヴァントが持つ出鱈目な数の宝具に呻き声を出す。イスカンダルも流石に真剣な面持ちで唸り声を出す。
「来るぞ奏者よ。弦をとれ!」
赤のセイバーは赤の大剣を構えて神威に言うが、神威はかなり慌てた調子で言う。
「と・・とれったって・・・ッ!?」
アルトリアもアイリスフィールを背に負傷した左腕で見えない剣を握り黄金のサーヴァントと対峙する―――その時、この戦場にまた、二騎のサーヴァントが出現した。
数刻前・・・コンテナターミナル付近―
「間違いありません・・・これは遠坂のサーヴァントであるアーチャーです」
バーサーカーことランスロットが水晶に映るコンテナターミナルの戦場に舞い降りた黄金のサーヴァントを見て断言する。それに対し雁夜はギュッと拳を握り締めたまま沈黙し、キャスターことマーリンはフムと言って問い質す。
「確か、君はこことは似て非なる並行世界に置いても雁夜殿のサーヴァントとして召喚されたのだったな。ではこの戦場の様相は君が召喚された並行世界通りなのかな?」
マーリンの問い掛けに対しランスロットは首を横に振って答えた。
「いえ・・多少、私がかつて召喚された世界とは事情が異なっているようです。まず、ランサーの主が違います。私の知る世界に置いて彼の主はロード・エルメロイでした。それに・・・このセイバーやライダーが介入した記憶はありません」
「だろうな・・さて、話は脱線したが、この黄金のサーヴァントの能力や宝具は如何なる物だ?」
「真名こそ最後まで分かりませんでしたが、無数とも言うべき宝具を持ち、それを射出して攻撃する能力を持ったサーヴァントです。私がいた世界では元より今世に置いても最強のサーヴァントと言って然るべきでしょう」
「無数の宝具・・・?」
奏が半信半疑な声で呟くとランスロットは頷いて説明を続ける。
「はい。この者はあらゆる宝具を所持しておりました。デュランダル、カラドボルグ、ハルパー、グラム、ありとあらゆる英雄達が各々にしか所有できぬ宝具を・・・しかも、それらは紛れもなく本物でした・・・」
奏と雁夜がランスロットの言葉に半ば絶句している中、マーリンは暫く黙考した後、再び、口を開いた。
「成程・・・・古代ウルクの英雄王ギルガメッシュか」
その途端に三人は驚いたようにマーリンの方を見るが、マーリンは何でもないような口調で答える。
「なに・・簡単な事だ。あらゆる英霊達がそれぞれに持つ宝具は紛れもなく、その英霊にしか持ち得ない物だ。だが、それも元を辿れば原型と言う物が存在する。そして、遥か昔にその原型全てを掻き集めた英雄がいたと仮定すれば浮かび上がるのは・・・・唯一人」
「確かに、この者が彼の英雄王とするならば・・・あの宝具の数にも納得が行きます」
ランスロットは漸く合点がいったと言う顔で納得する。
「それで・・・俺達はどうするんだキャスター?」
奏が問い掛けると雁夜が透かさず言った。
「どうするも何も、今回は様子見だ。このまま監視を続けるんだろう」
雁夜はまるで、自分に言い聞かせるような声で言う。それを奏は複雑そうに見つめる。どうやら、雁夜はかつての想い人を奪って行った挙句に桜と言う子を間桐に売り渡した事で遠坂時臣と言う魔術師に敵愾心を抱いているらしい事は聞いている。だが、そんな男でも桜の父親であり思い人の夫と言う事に変わりはない。
そして、雁夜の最大の目的は桜を救い、桜の実母であり自らの想い人であった遠坂葵の幸せを守る事。即ち、その為には時臣の生存は必要不可欠。そう自分に言い聞かせて自らの激情を押さえているのだろう。
それに、ランスロットの話によると並行世界における雁夜は臓硯の傀儡となり寿命を犠牲にして桜の為と聖杯戦争を戦ったが、結局、その初志さえ時臣への憎悪と言う形で終着し最後は時臣殺害の濡れ衣を着せられた挙句、葵に痛罵され最後は彼女の首を激情のままに絞めると言う破局を迎えたと言う・・・故にこそ雁夜はその並行世界の自分と同じ轍を踏まぬよう己を一層、律していた。
そして、桜の方だがマーリンが的確に体内の蟲を除去し適切な治療を行ってくれた事もあり、身体的には完全に回復したと言っていいが、やはり問題なのは心の方だった・・・
間桐の・・・と言うより、臓硯の蟲による凌辱はまだ、幼い少女の心を壊すには十分過ぎた。身体は回復し臓硯と言う恐怖が除かれても、それは簡単には治らない。あれから雁夜は元より奏やマーリンも色々と手を尽くしてはいるが、彼女は一度も笑っていなかった。雁夜としては彼女を一刻も早く葵の下へ返したかった。ここまで壊れてしまった彼女の心を癒せるのは母親である彼女の下以外には在り得ない。だが、時臣の方はどうだろうか?葵の下へ返してもまた、時期が落ち着いたら桜をどこかの魔術師の家に放り投げるのではないか?
少なくとも、今の時臣の下へ桜を返す事はできない。雁夜は試行錯誤しながらもそう結論しているが、本当にそれが正しいのだろうかとも頭を悩ませている。
そして、ランスロットもそんな主を気遣うように見守っていた。だが、マーリンの口から出たのは意外な言葉だった。
「いや、我々も征服王の御相伴に与ろうじゃないか」
「「「え!?」」」
マーリン以外の三人は思わぬ言葉に眼を見開く。
「いや、こうしてアルトリアもいる事だし。何より遠坂氏にも少しばかり痛い眼に会って貰おうと思っていた所だ。雁夜殿の話を聞く限り、遠坂氏の人となりでは英雄王の手綱は握れまい。ならばここで令呪の一つでも消費してもらおうか。実際、ランスロットは並行世界においてもあのアーチャーに人泡、吹かせたんだろう?なら、今世においてもブチかましてやればいい」
「だが・・・」
雁夜はそれでもまだ、躊躇いがあるのか返事を渋る。そんな彼にマーリンは言った。
「君が悪夢やランスロットから聞いた世界での君と同じ轍を踏まぬよう自制しているのは分かる。だが、今回は遠坂氏に戦いを仕掛けるのでなく、あくまでそのサーヴァントに戦いを仕掛けるんだ。君は遠坂氏に彼の間違いを自覚させる為にもとこの戦いに身を投じたのだろう。慎重になるのも分かるが、行動を起こさねば事は動かないぞ。本当を言えば、今すぐこの場に乗り込んで行って『娘が大変な事になっている時に、こんな事している場合か!』と怒鳴りに行きたいんだろう」
それは勿論だ。桜ちゃんをあんな目に合わせて置いて、アイツはカビが生えた『家の悲願』とやらの為に好き勝手な殺し合いに身を投じている。今すぐにでも飛んで行って、ぶん殴ってやる所だ!
「なら迷う事はない。ガツンと宣戦状を叩き付けてやればいい。今度は間違えずにな」
マーリンはウインクして言った。
それに雁夜は笑みを浮かべて言った。
「ありがとう・・・本当に今度こそは上手く行く気がするよ。それにしても君は最強の魔術師と言う割には時臣達と比べたら余り、魔術師らしくないな」
「フム・・私から見れば現代の魔術師の価値観こそ首を傾げるよ。これが・・時代のギャップと言う奴かな?」
「だから・・・そんな単語、何処で覚えたんだよ」
奏が空かさず突っ込みを入れる。
「それに、私達にしてもアルトリアに用があるからね。これは好都合なんだよ」
マーリンはお得意のスルー・スキルを行使した。流石にもう、慣れた奏も嘆息を付きながら言った。
「アルトリアねえ・・・まさか、あのアーサー王があんな女の子だったと言うのも驚きだが・・・彼女は本気でそんな願いを?」
奏が徐に問うとランスロットは首を縦に振る。
「はい・・あの方はそう言うお方です。あの時、ご自分が至らぬ為に国が滅んだ。だから、もう一度、やり直す機会があるならば、きっと民達も・・そして、我ら円卓の騎士達もそれ相応に相応しい結末があったはずだと・・そう思い詰め聖杯の招きに応じたに相違ありませぬ」
すると、マーリンは何時もとは似つかわしくない嘆息をついて零す。
「本当に・・・困った子だ」
その声はまるで親が子に向けるような温かさを感じた。だが、それも一瞬で消え彼は再び、不敵な笑みを浮かべて言った。
「それでは行こうか。宣戦布告の時間だ!」
その言葉に奏は頷き、雁夜とランスロットも互いに視線で頷き合う。かつての並行世界において彼らもまた、アルトリアや切嗣のように最後の最後までパートナーとしての信頼関係を築けずに終わった。だが、この世界の二人は今こそ、紛れもない相棒であった―
戦場に新たなサーヴァントが二騎、それぞれのマスターと共に出現した。一騎は漆黒の魔力を纏った黒い全身甲冑の騎士。その横にはパーカーを着た二十代後半の青年が飛針を手にして佇んでいる。もう一騎は黒のロープを羽織った銀髪の少年。そして、隣にはボサボサな黒髪の青年がその少年の前に立つ形で立っている。その場にいる者達は新たに現れたサーヴァントとマスター達に一層、緊張感を募らせる。
「なあ、征服王。あの二人には誘いをかけんのか?」
ディルムッドが冗談めかしに言うと、イスカンダルは頭をかいて言い淀む。
「う〜ん・・誘おうにもなぁ・・・銀髪の坊主はともかく、もう一人のは明らかにバーサーカーだわな。いくら何でもそれと交渉の余地は・・・」
「元より応じるつもりはないぞ征服王」
甲冑のサーヴァントが空かさず返答する。
「うぉッ!?」
バーサーカーが言語を発した事にイスカンダルのみならず、その場の全員が絶句したが、唯一人・・アルトリアが驚いたのはそこではなかった。彼女が驚いたのは・・・甲冑の騎士が発した声その物だった―――
「そんな・・・」
「セイバー、どうしたの?」
今のアルトリアにはアイリスフィールの言葉すら耳に入っていなかった。ただ、その耳も眼も漆黒の騎士に釘付けになる。
馬鹿な・・・そんなはずがない。彼が事も在ろうに何故、狂戦士などに身を堕とさなければならないのか?だって・・・だって、彼は誰よりも完璧な騎士だった。誰よりも勇猛で・・誰よりも義心に溢れ・・誰よりもッ・・・忠節な騎士であった彼が何故、そんな狂った獣に―――!?
だが、彼女の懇願は裏切られた。甲冑のサーヴァントが己の兜を脱いだ事で・・・そこには彼女自身が良く知る誰よりも凛々しい騎士の面差しがあった。
「お久しぶりです・・・・王よ」
アルトリアは今度こそ愕然とした声でその騎士の名を呼んだ。
「サー・ランスロット・・・・・・ッ!?」
ピョートル一世はかなり、砕けたキャラにしてみました。
それから本作では雁夜さんやランスロットが所狭しと大活躍します。
以下次話で!
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