Fate/BattleRoyal
10部分:第六幕
なんとか投稿できました・・・
第六幕
「君達も知っての通り、アインツベルンの魔術は錬金術に特化したもので必ずしも戦闘向きではない。それが災いして過去の戦争を勝ち抜く事はできなかった。だからこそ、アインツベルンは第三次聖杯戦争に置いて、『必勝のサーヴァント』の召喚を試みたのだそうだ。ルールを破ってね」
キャスターの言葉に奏は首を傾げる。
「ルールを破って・・?何をしたんだ」
「本来のクラスにはないクラスの英霊を呼び出そうとしたんだ。その英霊のクラスは復讐者。そして・・・真名はアンリマユ」
その名に一同はギョッとした。それは彼のゾロアスター教において、絶対悪を司る神の名だ。
「まさか・・・神霊クラスの英霊を呼び出そうとしたのですかッ?」
バーサーカーが信じられないと言う顔で言うと雁夜も驚いた声を上げる。
「本物の神を呼び出す・・・聖杯はそんな事も可能なのか!?」
「いや・・・臓硯も言っていたろう。結果は大失敗。召喚は不発に終わり、その際にアインツベルンのマスターからも令呪が消え、アインツベルンはサーヴァントすら呼び出せずに敗退した」
「サーヴァントの召喚が失敗したと言うだけで令呪が剥奪されたのか?」
奏が半信半疑だと言うとキャスターはさらに説明を続けた。
「実はこれにはまだ、続きがある・・・アンリマユの召喚が不発に終わったと同時に『小聖杯』の器が砕け散ったと言うのだ。これによって第三次は無効試合となった。これは果たして偶然なのだろうか?」
「どう言う意味だよ?」
奏は生唾をゴクリと飲み込みながら、先を促す。
「これを踏まえて私は一つの仮説を立てて見た。もしかしたら、アンリマユの召喚は・・・『半分、成功していたのではないか?』とね」
その仮説に一同の顔には?マークが浮かぶ。
「『半分、成功していた?』・・・どう言う事だ?」
雁夜が皆の疑問を代弁する。すると、キャスターはこう言葉を繋げた。
「つまり・・アンリマユの魂のみを呼び寄せる事には成功したが、実体化できる程の魔力を供給出来なかったが為に召喚されてすぐに『小聖杯』に固定される事となったが、通常の英霊とは比べ物にならぬ程に莫大なエネルギーを誇る神の魂に『小聖杯』自体が耐え切れず崩壊し、その魂は『大聖杯』へと注がれ、その状態で冬木の地脈から六十年間、マナを吸い上げて結果的に『冬木の聖杯』は通常以上に力を増した・・・だからこそ、今回の第四次聖杯戦争においては百騎などと言う法外な数のサーヴァントの現界が可能となった・・・と、言う仮説だ」
その説に一同は納得したような若しくは戦慄したような表情を一様に浮かべる。初めに奏が口を開いた。
「百騎も英霊が召喚された理由は分かった。だけど、お前の話だと根源に至る為の孔を開けるには七騎の英霊が適量なんだろう?だったら百騎は余分な数って事に・・」
「そう・・問題はそこだ。根源に至るのであれば七騎の英霊で事足りるのだ。後の九十三騎は正に余分な数と言える。ではこう考えればどうだろう?聖杯・・いや、アンリマユは自らを実体化させる為に百騎もの英霊を呼び寄せたとかね」
三人はますます、絶句する中、キャスターはさらに仮説を続ける。
「元は人だった英霊と違い、本物の神をこの世界に繋ぎ止め、実体化させるとなれば以前の冬木の聖杯の力は元より、七騎の英霊の魂では到底、賄えないだろうからね・・・それこそ、今回のような法外な数の英霊が必要となってくる」
段々とキャスターの言わんとしている事の意味が三人にも漸く、分かった来た。まず、雁夜がオズオズと口を開いた。
「もしも・・この戦争に誰かが勝って自分の英霊を含めて百騎の英霊を聖杯に注げば・・・どう言う事態になるんだ?」
雁夜は敢えて、分かり切ったような問いを投げ掛ける。それに対しキャスターは嘆息を付きながら答える。
「まあ、何しろ、絶対悪の神がこの世に降臨あそばすのだ。多分にろくでもない事になりそうだな・・・さらに願望機の機能にしても絶対悪好みの方向で叶えられる可能性が高い。特に『負』の方向へとな。故に私は聖杯の破壊を提案したい。誰がこれを使ってもリスクが高過ぎる。と、ここまでが私の意見だが、マスター並びにランスロットと雁夜殿の意見はどうだ?」
「異議なし・・・話を聞くからしてやばそうだし・・・」
「俺もだ。クソ爺ィが蒔いた種で他人を巻き込んで堪るか」
「私も我が王と同じく異議はございません」
奏、雁夜、バーサーカーの順で即答する。
「では我々は同盟を結び聖杯の破壊と戦争の解体を前提に行動する物とす・・と、言う感じでどうだろうか?」
キャスターは再び、念を押して問う。無論、三人はすぐに首を縦に頷く。
「それでは今後の戦略を練るとしよう」
キャスターは珍しく真剣な面持ちで告げる。
このような遣り取りが間桐邸で行われてから三週間後、聖杯戦争はいよいよ、本格的な動きを見せ始め、他のマスター達はそれぞれの戦略を練ろうとしていた。
遠坂邸―――
「百騎ものサーヴァントの現界・・・・我が師よ。このような例はかつての聖杯戦争にあったのですか?」
黒い修道服を纏った男―言峰綺礼は貴族然とした赤い礼服を身に付けたこの邸の主にして遠坂家の五代目当主、遠坂時臣は嘆息をついて答えた。
「いや、私とてこのような事態は寝耳に水だよ・・・このような事は過去の聖杯戦争を紐解いても今だ嘗て起きた例はない」
“遠坂たる者、いつ如何なる時も優雅たれ”と言う自家の家訓を地でいく時臣も今回の事には流石に困惑しているようだった。
「しかし、参加枠が大幅に広がった事を良い事に魔術師にあるまじき輩も参加者に多く混じっているようだ・・中には真昼間にサーヴァントの試運転と称して、公衆の面前で魔術を行使し市内の高校を生徒諸共、壊滅させたりなどね・・こう言う手合いは絶対に許せない!」
綺礼は時臣の激昂を何の感慨もなく見ている。別に時臣はその魔術師が一般人の生徒を一方的に虐殺した事に憤っているのではなく、ただ単にその者が『魔術の秘匿』を堂々と破った事に憤っているのだ。
自分が言う事ではないが、その基準は一般の常識に当て嵌めれば間違いなく何かがズレている。
まあ、そのような事を時臣に言った所でその一般常識こそが凡俗と言う一言で切って捨てられるだけだろう。いや、そもそも自分だってその事に対しては関心が希薄だし時臣に師事した事で魔術師の倫理観もどことなく理解している。故に口に出すつもりすらない。
「とは言え、これはこれで全くメリットがない訳でもない」
と、突如、口元に余裕のある笑みを浮かべる時臣に綺礼はその理由を淡白な声で答える。
「ええ、自らのサーヴァントを令呪を使ってまで無理に自害させる必要がなくなりましたね」
そう・・今回の百組のバトルロワイアルに置いての最大のメリットはそこだ。根源に至るには最低でも七騎のサーヴァント・・即ち自らの手駒も最終的には生贄にしなければならない。だが、今回に限っては七騎所か百騎ものサーヴァントが現界している。つまり、自らの手駒を生贄にする手間が省かれる事も意味しているのだ。
「その通りだ綺礼。これで英雄王ともより円滑な協力関係を結ぶ事ができる。例え、通常とは桁違いな数の英霊によるバトルロワイアルでも英雄王ならば何の支障もなく駆逐していかれるだろう。その点で言えば何の憂いもない」
断言する時臣だが、綺礼は彼に師事した三年間で知っていた。この遠坂時臣と言う男は用意こそ周到なものの、肝心な所で躓く悪癖がある事を・・・今回もその慢心が命取りにはなるまいか?
綺礼はそんな事を思いながら自分の師を感情の無い眼で見ていた。
同時刻、ドイツ・アインツベルン城―――
その執務室で今回の聖杯戦争の為にアインツベルンに雇われた魔術使い、衛宮切嗣は情報の整理に追われていた。何しろ、当初、調べる魔術師が六人から九十九人となったのだから、それも当然と言えば当然だろう。
その隣には美しい銀髪の人間離れした美しい女性が切嗣にお茶を入れている。
彼女は切嗣の妻、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンが生成したホムンクルスである。
「切嗣・・・少し、休んだら?三か月もこの調子じゃない」
アイリスフィールが気遣うように提案するが、切嗣は首を縦には振らない。
「いいや、アイリ。戦争はもう、始まっているんだ。敵の情報収集は一部たりとも怠るわけにはいかない」
あくまで頑なに言う切嗣にアイリスフィールは溜息をついて言った。
「それにしても、聖杯戦争の参加者が七組から百組に増えるなんて・・・一体、何がどうなっているのかしら?お爺様も首を傾げていたし・・・」
どこか不安そうに呟くアイリスフィールに対し切嗣は冷静な声で言った。
「数が七人から百人になろうと戦略目的は変わらない。僕は全ての魔術師を駆逐し聖杯を手にする。そして、永く続く戦いの歴史に終止符を打つ為、冬木の地で流す血を人類最後の流血にしてみせる」
静かだが、強い決意を込めて言う切嗣の手にアイリスフィールは自分のそれをそっと、重ねて言った。
「ええ・・聖杯は必ず、貴方を選ぶわ」
「ああ、アイリ・・・僕は必ず、やり遂げて見せる。それに百騎の英霊が召喚されたと言うなら、それらが願望機に昇華されれば凄まじい力になるはずだ。僕達の理想は・・・必ず、成る!」
衛宮切嗣・・・この男が聖杯に託す望みは『恒久的な世界平和』誰かが聞けば一笑に付されるような理想をこの男は良く言えば『一途』悪く言えば『盲目』に夢見続け、ついに『聖杯』と言う手段でその理想を成す可能性を見出していた。その先に待っているのが単なる絶望でしかないとも知らずに―
その二日後の深夜・・・冬木市、某邸―
「ついに始まったな・・・聖杯戦争史上、未だ嘗てない凄惨な狂宴が」
アンシェルがワインを嗜みながら呟くと隣に控える太陽の騎士も凛々しい面持ちと声で応える。
「御意」
「今までの戦いは前戯でしかない。本当の意味での戦いはこれからだ。そう・・これからだ。面白くなるのはね」
アンシェルは愉悦に満ちた笑みを口元に浮かべ、手前の水晶に移った場面を見る。そこは大型のコンテナが並び立つコンテナターミナルでそこに二組の魔術師と英霊が対峙していた。
一組は銀髪を靡かせた美しい女性と青を基調にした甲冑を纏った金髪の少女剣士。もう一組は十四歳程の少女で栗色の髪を後ろに纏めた幼いながらに淑女然とした気品を感じさせる。そして、その少女を守るように立つのは両腕にそれぞれ長槍と短槍を持ち、右眼の泣き黒子が印象的な美丈夫の騎士だ。
その光景を見ながらアンシェルは隣にいる己のサーヴァントに言った。
「ほう・・彼女が彼の騎士王か?よもや、これ程に華奢な少女が君達『円卓の騎士』を従えたアーサー・ペンドラゴン王とはな」
アンシェルが愉快そうに感歎の声を出すとセイバーことサー・ガウェインは動揺の色など微塵も感じない声で言った。
「私達が生きていた時代の民は王の姿には興味を示しませんでしたので」
「成程・・・『王』として機能してさえいれば文句は出なかったわけか」
アンシェルは嘆息を付きながら納得する。
「さて、何はともあれ、本命の第一戦・・・こちらは高みの見物と洒落こませて貰おう」
アンシェルがその眼光に不敵な物を含ませて呟いた頃、当の対峙者達は・・・・
「その清澄な闘気、セイバーとお見受けしたが、如何に?」
二槍の騎士がそう問うとセイバーことアルトリアは堂々と答える。
「如何にも、そう言うお前はランサーに相違ないな?」
その問いに二槍の騎士―――ランサーは苦笑して呟く。
「ふっ・・・これから尋常に死合おうと言う相手と名乗りを上げる事も儘ならぬとは・・・興の乗らん縛りもあった物だ」
「然も在ろう。これは元より我ら自身の誉れを競う戦いではない」
セイバーがそう答えるとランサーも然りと答え、その後に彼のマスターであろう少女が名乗りを上げる。
「私はルクレティア・サルヴィアティと申します。ランサーのマスターです。そちらはアインツベルンのマスターとお察しします。どうか尋常な勝負を」
幼いながらに気高さを感じさせる声でルクレティアが言う。それに対し銀髪の女性―アイリスフィールがセイバーに言う。
「セイバー、この私に勝利を」
その言葉にセイバーも風王結界を剣に纏わせ応える。
「はい。必ずや」
一方、その戦いを見物しているのは何もアンシェルばかりではなかった。その戦いを赤のドレスを纏ったセイバーもマスターの神威を伴って戦いを見物していた。因みに今、二人がいる場所はコンテナターミナルを一望できる高層ビルの頂上だ。そこを神威が買って来た双眼鏡で戦いを見ている。
そこで二人は驚いていた。何を驚いていたと言うと・・・それはあのコンテナターミナルでランサーと対峙しているセイバーの容姿にだ。なんと、顔立ちも髪形もかなり、神威のセイバーと瓜二つなのだ。ただ、身に付けているのは重厚さを感じさせる青の甲冑姿でセイバーの赤を基調にした露出度が極めて高いドレスとは対照的だ。
「ふむ・・・世の中には自分に似た者が三人いると言うが・・・だが、惜しいな。赤さが足りぬ!」
そんな事をのたまう自分のセイバーに神威は呆れて呟く。
「そう言う問題なのかな・・・・?」
「奏者!戦いが始まるぞッ!」
そうセイバーに促され神威も自分の双眼鏡を取って状況を見る。すると、どうやらランサーが自らの宝具を開帳したのか赤い長槍で青いセイバーに傷を負わせたらしかった。
「ふむ・・あのランサーの長槍は魔の力を断つ物らしいな。あのセイバーの鎧は魔法でできておる。それを貫くとは中々に強敵だぞ。あのランサーは」
セイバーがそう講釈するのに対し神威も二騎のサーヴァントが繰り出す剣戟に息を巻く。素人眼から見てもそれは尋常な・・いや、人間の域に止まる立ち合いではない事が分かる。
自分のサーヴァントもそうだが、英霊と言うのは皆、人外と言う言葉すら生温い程にバケモノ染みた強さを持っているらしい・・・
等と考えていると戦いの方に大きな動きがあった。魔法の鎧が無意味と割り切り、鎧の魔法を解いた青のセイバーがランサーの黄色い短槍による奇襲を受け左腕を負傷したらしい。彼女のマスターが治癒魔術をかけるも効果が表れた様子はない。
「治癒できぬ短槍か・・・奏者よ。あのランサーの真名が分かったぞ」
その言葉に神威は顔を向けて訊ねる。
「えっ!?い・・一体、誰なの?」
「魔を断つ赤槍に治癒不可能の黄槍・・・この二つの宝具を持つ英霊は唯一人・・・フィオナ騎士団の『輝く貌』ディルムッド・オディナ。剣士のクラスにも該当する程の英霊だ」
ディルムッド・オディナ・・・ケルト神話の英雄で妖精王オェングスを育ての親に持ち二本の槍と二本の剣を持つ優れた戦士・・・そんなのがこれからも当然のように出て来るのか・・・・
神威はゴクリと生唾を飲み込む。すると、またも大きな動きがあった。突如、雷鳴と共に二頭の牡牛に牽かれた戦車に乗った赤髪に顎鬚を蓄えた大男がランサーと青のセイバーの前に降り立ち凄まじい大音声で告げた。
「双方、武器を収めよ!王の御前であるッ!我が名は征服王イスカンダルッ!!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界したッ!」
真名を・・・バラした!?
「ねえ・・セイバー、あんな簡単に真名をバラしてもいいものなの?」
思わず神威が分かり切った事を問い掛けるとセイバーも流石に考え込むように言う。
「ふむ・・・唯の馬鹿なのか。それとも余程の自信があっての事なのか・・・」
と話している内にライダーことイスカンダルはまたも轟く声でこうのたまわった。
「うぬら、一つ聖杯を余に譲り、我が軍門に下る気はないかッ!?さすれば余は貴様らを朋友として遇し世界を制する会悦を共に分かち合う所存であるッ!!」
「・・・馬鹿の方だったか」
「・・・そだね」
神威とセイバーはそう結論した。勿論、ランサーや青のセイバーがそれに是などと言う訳もなく交渉は決裂した。だが、イスカンダルは尚も諦め悪く・・・
「待遇は応相談だが?」
とのたまうが、無論、二人の答えは・・・
「「くどいッ!」」
取り付く島もなかった・・・
イスカンダルは本当に残念そうに頭をかいていた。それを彼のマスターと思しきおかっぱ頭の少年がぽかぽかと殴って―――
「何を考えていやがりますかッ!この馬鹿はあああああああああああああッ!!」
と悲痛な絶叫を木霊するのだった。それを見ていた神威とセイバーはイスカンダルのマスターに少し同情した。その時―――!
『そうか・・・選りにも選って貴様か』
殺気を帯びた忌々しそうな声が辺り一帯に響く。すると、イスカンダルのマスターと思しき少年がビクッと身を強張らせる。そして、声の主はさらに高圧的な声で言った。
『一体、何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみれば・・・選りにも選って、君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはねえ・・・ウェイバー・ベルベット君』
その内容から察するにあのイスカンダルのマスター・・・ウェイバーはどうやら、この声の主の聖遺物を盗んでこの戦争に参加したらしい。声の主はさらに甚振るようにねちっこく言った。
『残念だ・・実に残念だなあ、可愛い教え子には幸せになってもらいたかったんだがねえ。ウェイバー、君のような凡才は凡才なりに凡庸で平和な人生を手に入れられるはずだったのにねえ・・・』
その声にウェイバーは恐怖で自らの身体を抱くように俯いている。その声の主はその姿を見て楽しむようにさらに愉悦に満ちた嗜虐的な声で突き刺す。
『致し方ないなあウェイバー君。君については私が特別に課外授業を受け持って上げるとしよう・・・魔術師同士が殺し合うと言う本当の意味・・・その恐怖と苦痛を余す所なく教えて上げるよ・・・光栄に思いたまえ』
その余りに傲慢極まりない物言いにセイバーは眉間に皺を寄せて呟く
「ふん・・・陰険な鼠もいたものだな。ちっとも愛らしくない」
彼女がそう漏らすとイスカンダルもその声の主に轟く大音声で言った。
「おう!魔術師よ。察するに貴様はこの坊主に成り代わり余のマスターとなる腹だったらしいが、だとしたら片腹痛いのう・・余のマスターとなるべき男は余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸もなくこうして他の戦いを指を銜えて見ているしかできぬ臆病者なぞ役者不足も甚だしいぞ!ガハハハハハハハハハッ!!」
その痛快な声にセイバーも感嘆したように言った。
「ふむ・・あの大男、余り愛らしくはないが、なかなかどうして敬意に値する好敵手のようだな奏者よ。おまけに赤いしな」
「そう言う物なの・・・?」
今一ピンとこない神威が呟くと同時にイスカンダルはさらに声を張り上げる。
「おい、こら!他にもまだ、おるだろうがッ!闇に紛れて覗き見をしておる連中は!」
その言葉に神威はギクッとする。そして、セイバーはますます感歎に顔を綻ばせる。
「聖杯に招かれし英霊は今!ここに集うがいいッ!!尚も顔見せを怖じるような臆病者は征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬ物と知れッ!!」
すると、セイバーは神威の背を抱く。突然の行動に神威はドギマギする。
「セェ・・セイバー、何を!?」
「行くぞ、奏者よ」
「い・・行くッ?」
上擦った声を出す神威にセイバーはうぬと答えて言った。
「あそこまで言われて招きに応じぬ理由はあるまい。我らも参加させて貰おうではないか」
ニヤリと笑うセイバーに神威は引き攣った顔と声で言った。
「け・・けど、行くって・・ここは高層ビルの頂上なんですけどおおおおおおおおおおおおおッ!!」
言い終わらぬ内にセイバーは神威の背を抱いたままビルから飛び上がり夜の闇も一直線に戦場へと馳せた。因みにこの時、神威はイスカンダルのマスターであるウェイバーの気持ちが本当の意味で理解できたと言う・・・合掌。
一方、戦場の後方でマスターを狙撃する為に陣取っていた切嗣も呆れた表情でぼやいていた。
「一度はあんな馬鹿に世界が征服されかけたのか?」
まったく・・これだから『英雄』と言う奴は迷惑極まりない連中だと言うんだ・・・
切嗣はあんな馬鹿に征服された国々に若干の同情を感じた後、それを打ち消し戦場の状況を分析していた。今、セイバーは左腕を癒えぬ傷を受け負傷している。眼の前にはランサーとライダーがさらにもう一騎のサーヴァントも恐らくいる・・・・さらにマスターを狙撃しようにも同じく、この戦場を監視しているアサシンの存在が最大の障害。他のサーヴァントに比べ戦闘力は大きく劣るが、それでも人間である自分達が対処できる相手じゃない。こちらがマスターを狙撃すれば気付かれてこちらが排除される可能性も大だ。さて・・どうするべきか?
そう切嗣が考えているとこの戦場に物凄い速度で向かって来る物体・・いやサーヴァントを発見しスコープで見る。すると、切嗣の眼が大きく見開かれる。だが、驚いているのは自分だけではない。そのサーヴァントが戦場に降り立つとその場にいた者達は一様に驚きに眼を見開いている。特にセイバーの驚きようが酷い。騎士王とも在ろう者がポカンと口を開けているではないか。
降り立ったサーヴァントは右手にマスターと思しき少年を抱き抱えており、金髪の髪を靡かせ、闊達そうな翡翠の眼を戦場にいる者達に向けている。身に纏ったドレスは映える赤で所々、露出度が高い。だが、問題はそこではない。要するに簡単に言えばそっくりなのだ・・セイバーに!
そして、降り立ったサーヴァントの少女は高らかな声で言った。
「そなたの招きに応じ参上した征服王。余はサーヴァント・セイバー!至高の芸術にして至高の名器であるッ!」
ディルムッドの主を陰険講師から小さいけれども気高い淑女と言う感じの少女に変えて見ました。自分、このランサー結構、好きなんで。
陰険講師さんのサーヴァントは次回に登場する予定です。因みにイスカンダルと同じライダークラスでオリキャラです。
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