第2話
不思議な時間が過ぎる。
エヴァンジェリンは、自分は悪だと言いながら、世話を焼くのが得意だった。
聞けば昔は高額の賞金首だとか、誇りある悪だとか、自慢げに喋るも、行動が一致しない。
甘いお菓子が大好きで、食べるところなどは見た目相応だし、子供のようなことですぐに怒る。
600歳を超えているらしいのだが、オレにはエヴァンジェリンが、もう化け物には見えなかった。
エヴァンジェリンは、オレに力の制御も教えてくれた。
オレは感情が昂ぶると、体が光に包まれて、独特の雰囲気になるらしい。
裏の関係者にばれると少々厄介らしいのだが……いまいち分からない。
この世界は魔法などがあり、裏で活動する人たちがいるらしいが、オレ達のような異形には優しくないようで、力の制御は必須だったようだ。
訓練は、不思議なボトルシップを連想させる大きな水晶で行った。
ジオラマのような外見で、この中では時の流れなどが違う。オレは魔法の知識がない為深くは認識できなかったが……中は予想以上に広くて快適だった。
ここでは、エヴァンジェリンの力が跳ね上がる。
シャドームーンに変身しても簡単にやられてしまう。
オレは、どうやら根本的に基礎がなっていないらしい。
2ヶ月ほど過ぎた頃、オレは自分の力の一端を解放することに成功する。
オレが神々しい男にもらった石は、言うなれば大きな力と知識の泉だった。
例えば……オレが水をコップに入れなければ発動しないような感覚だ。
さらにオレのコップは小さいようで、石から力を引き出せなかった。
その日のこと――
エヴァンジェリンとの訓練でオレは気絶をした。
すると、不思議なことが起こったのだ。
真っ白な空間にオレはいた。
前に進むと、大きな泉があった。
水は透き通っており神秘を思わせる。
オレは思い切って泉に飛び込んだ。
すると場所が大きく変わる。
真っ白な図書館だった。
連想したのは、仮面ライダーWのフィリップの地球の本棚。
オレは、探索を開始した。
思った通り、仮面ライダー専用の図書館だった。
ジオウの棚はなかったが、オレの知っている仮面ライダーの棚はあるようで……
各本棚の上には数値があり、シャドームーンの棚以外は0パーセントだった。
シャドームーンも1パーセントしかなく、恐らくこの数値が高いほど力を使いこなせるようだ。
何をすればいいのか見当が付かなかったが、あることに気づく。
各本棚に金属の小さなフェザーのアクセサリーが埋め込んである。
オレはそのアクセサリーが不思議と気になりすべての本棚から集めた。
各本棚の数値が0.1パーセントに変わる。
するとオレの意識は現実に戻った。
オレはエヴァンジェリンにそのことを話すと、彼女は少し考え……
フェザーのアクセサリーをイメージしろと言った。
イメージすると、オレの腰にシャドームーンのベルトと左腕にバングルが現れる。
バングルは大きく、フェザーのアクセサリーを埋め込めそうな穴が1つ付いていた。
だが、それだけで、進展はしなかった。
エヴァンジェリンは、フェザーのアクセサリーを具現化できるようになれば、バングルにはめ込み、さまざまな力が出せると……予想した。
なぜここまで詳しいのか、気になり、質問すると……
不思議なタペストリーを持ってきた。
なんでもエヴァンジェリンの師匠……ダーナ、なる人物のモノを奪ったらしい。
エヴァンジェリンはデブとダーナのことを言っていたが……
ダーナ曰く、この世界には、古代に不思議な力を持った一族がいたらしい。
その一族はさまざまな異形に変身して、一族同士で争い、滅んだらしいと……
ダーナも実際には見たことはないらしいが……力が高位の吸血鬼……神祖の貴族より上だったようだ。オレは神祖の力量など知らないが、エヴァンジェリンより高位なら、かなりの強さだろう。
オレのシャドームーンの姿はタペストリーの中心に描かれている異形にそっくりだったようで、エヴァンジェリンはオレに興味を持ったらしい。
オレ自身の力の制御と共にエヴァンジェリンは魔法も覚えさせた。
基礎を徹底的にやりこむ。
エヴァンジェリンは、オレなら、簡単に高位の魔法を習得できると言ったが、オレには考えがあったのだ。
オレは魔法の基礎と石の力をリンクさせることを研究した。
これで魔法の基礎は爆発的に応用が利くようになる。
身体能力、五感の強化など……
オレは、授業以外の時などエヴァンジェリンの家にいつもいるようになる。
すると、裏の関係者からオレに接触があった。
オレは、嘘をついた。
エヴァンジェリンに命を救われ、恩返しの為に、家事などの手伝いをしていると……
裏の関係者はすぐにオレにやめるように説得をはじめた。
おおむねエヴァンジェリンは悪だとか危険だとか……化け物だとか……
ああ、そうだよな……人間は自分と一緒のモノしか受け入れない。
オレは……今と未来を想像しながら……思考した。
エヴァンジェリンは……600年も……コレに耐えたのかという驚きと……怒り。
そして……オレもまた……
オレはどうにかなってしまいそうで……裏の関係者に丁寧に断りを入れ、その場をさる。
アレが人間。
もう……オレは違うのだと……自分に言い聞かせる。
そんな日々の中……
エヴァンジェリンが、知り合いと会うからついてこいと言った。
そして付いたのは研究室のような場所。
2人の女の子が自己紹介をする。 超鈴音と葉加瀬聡美。
超は、ブツブツと五月蠅い。
「やはり、知らない。私の歴史には――」
何を言っている? 歴史?
「オレがどうかしたのか? そもそも君とは知り合いではない。知らなくて当然だ」
「いや……そうだがネ。ふむ……光と言っていいかナ?」
「構わないが……」
こいつの目……ナニカある。
悲しみ? なんだ?
そこで……いきなり葉加瀬が興奮しながら抱きつく。
「エヴァンジェリンさんの小型のパソコンを作ったのはあなたですね!? 会いたかったです! いや、必ず会うと決めていましたし、あなたのデータはすべて調べています! 身長175センチ、体重62キロと痩せ型! しかーし! 私は見ました! プールの授業写真! 戦う男の身体です! 体育の授業は敵なしのうえにテストの成績も常に10番以内! 文武両道……そして……私がもっともあなたで評価しているポイントは……ネットで出回っているフリーソフトです!」
「ああ、寄付でお金をもらうタイプのヤツだな」
オレは3つほどフリーソフトをネットにアップしていた。
あちらのオレの知識と今の頭脳を合わせて作ったモノで、音楽制作ソフト、機械などを設計するソフト、イラスト制作ソフトだ。
特に凄くはないモノなので、フリーソフトにしていたが、今では寄付で月に3万円ほどの小遣いを稼いでいる。
ネットだとオレの正体に気づく者など皆無だしな。
しかし……なんだこいつ……
「アレをフリーソフトって……あなた馬鹿でしょ!? あ、ごめんなさい。実は全部使ってます! あはははは! タダ……最高!」
「どういたしまして……」
結局の所、オレはなぜここに呼ばれたのだ?
「エヴァンジェリン……帰っていいか?」
「ちょっと待つよろシ!」
「おまえ……発音、不自然だぞ」
「あはは……それは……おいといてくださいヨ。私……なんでこんなキャラにしたんだろう……」
またもやブツブツ五月蠅い。するとエヴァンジェリンがオレを手招きして呼ぶ。
「光、こっちに来い。おまえの頭脳でアイツを進化させろ」
「アイツ?」
「あ――」
「でしたね〜」
なんだ?
オレは奥の部屋に向かう。
目に入ってきたのは数十ものケーブルにつながれている女性型のロボット。
超と葉加瀬が大きなパソコンを複数同時に起動させる。
「実はネ。少し手伝って欲しいアルヨ。光はどうやらプログラミングが上手なようネ」
「是非とも茶々丸をよりよいモノに!」
「私の新しい家族だ。光……やれ」
「ひとまず……データを見せろ」
「よしきたネ!」
「茶々丸〜パパができるよ〜」
異常にテンションが高い2人を無視して、1台のパソコンの前に座る。
ゆっくりとデータを見る。
絡繰茶々丸……魔法と科学の融合をコンセプトに制作と……
オレは自分の中にある石から知識を引き出す。
「少し待ってくれ――」
オレは高速でデータをパソコンに打ち込む。
まだこの子は赤子だ。しかし、魔法に関わるとなると戦闘になる確率は高い。
アギトのGシリーズとV-1のデータを……過剰のような気がするが、オレは……アノ……タペストリーを見たときからある予想をしていた。
古代人の生き残り……恐らくいる。
根拠はない。だが……アノ男がオレに石を託したのには意味がある。
もし、古代人が善人ならいい……が……もし、完全なる悪で怪人ならば……オレがやらなければいけない。
しかし……オレは弱い。
人間も完全に信用できない。
千雨の恐怖の顔が浮かぶ。
エヴァンジェリン……すまない。おまえもいつかは、裏切るのではないかと思っているのだ。
だから……仲間を求めてしまった。
オレは孤独に敗れ……異形の癖に……人間の様に……
すまない。
すまない……絡繰茶々丸。
オレは――
「おはようございます。光」
「ああ、おはよう……茶々丸」
オレはおまえを作らなければよかった。
許してくれ。
「どうしました……光?」
「なんでもないんだ……それより、システムの調子は?」
「はい。Gシリーズ、V-1システム共に良好です。しかしながら……システムだけですので武器の制作をお願いします」
「超、葉加瀬。武器のデータはパソコンに入力済みだ。どうするかはおまえ達が決めろ。それと……AIを少しいじった。オレの知識などを入れている」
「へ〜え……じゃ、茶々丸。好きな言葉とかある?」
「どうなっているのか私も気になるヨ」
「検索を始めよう……ヒット。手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ……です」
「あ、オレは――」
火野映司。仮面ライダー000の言葉だ。
オレのすべきことは……なんだ?
人に見切りをつけることか?
違うだろ!
「ありがとう。茶々丸」
「いえ。光の顔色が悪かったので……少しばかり、親孝行しました」
「うひゃーーーー! 茶々丸ったら……成長したね。ママは嬉しい!」
「コレは……嬉しい誤算ネ……光、ありがとう」
「ふん。いい子ちゃんぶりやがって……この前まで……ポンコツロボットだった癖に……」
「マスター。正確にはガイノイドです。マスターの知識の方がよろしくないようですよ?」
「あん? 茶々丸……おまえな〜」
「アレ? オレは皮肉を言うようなシステムは組み込んでないぞ?」
「光。私は無限に成長をするように自分でシステムを構築中です。すべては光のデータと元のシステムのおかげです」
「そうか。おまえがいい子になってくれると嬉しい」
その時、超がオレを深く観察していた。
そして……
「光。あなたの身体を調べさせて欲しい」
瞬間――
エヴァンジェリンが超の胸ぐらを掴んで睨む。
「おい。超……踏み込むな!」
「やはり……カ……分かった。なら――」
いきなり超が服を脱ぎ裸になる。
「おい。オレに色仕掛けなど効かない」
「よく見て欲しい……」
はあ?
超の身体に、禍々しい呪文処理のあとが浮かぶ。
まだまだ魔法の知識は少ないが、コレが普通ではないことは分かる。
それに……
「超……おまえのソレ……」
エヴァンジェリンすらも驚愕している。
なれば、よほどのモノだろう。
エヴァンジェリンが難しそうな顔になり……告げる。
「おまえ……ソレどうやった? 術者の肉体と魂を喰らって力を得るモノ……闇の魔法のデッドコピーだぞ……狂気の沙汰だ」
「さあ?」
「真面目に答えろ!」
「知らないヨ。だって……私が自分でしたんじゃないから……」
なに?
では……こいつは……無理矢理改造されたのか?
仮面ライダー達の様に……
ギチリと奥歯から音がする。
そんなオレを見て、超は、嬉しそうに笑った。
「良かったヨ。あなたが誰かの為に怒ってくれる人間で――」
「違う! オレは……人間じゃない……化け物で異形で――」
「いや……光。あなたは人間ネ。だってこんなに暖かい」
「え?」
超がオレの手を握る。
手のぬくもりを感じる……
「やめろ。オレは加減を誤ると人の手なんて簡単に潰す」
「でも、私の手は無事ヨ」
オレは……
「超。悪用しないと誓え……おまえの身体……良くなるといいな」
「光……ありがとう」
瞬間――
「早く離れろ!」
「うぉ!? エ、エヴァンジェリン?」
「超。言っておくが光はやらんぞ」
「ソレは光が決めることヨ」
「あらら〜? 茶々丸……パパったら大人気よ」
「葉加瀬。私にはまだよく分かりません」
はは、なんだこれ?
胸が切ない。
オレは無性に千雨に会いたかったのだ。
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