第3話
辛い、苦しい、寂しい――
いつもと変わらない。
今日も独りでトイレにこもって泣く。
それが日常。
私は、気づいたときから、不思議な力がある。
俗にいう超能力だ。
小学生、低学年の時は、皆が凄いと褒めてくれた。
嬉しくて、スプーンを曲げたり、裏返してあるトランプの絵柄を当てたり……
しかし、そんな日は簡単に崩壊する。
私がクラスで一番人気の男の子に告白されたのだ。
当時の私は、好きとか愛とかも分からず、告白を断った。
次の日、クラスの子たちの目が変わっていた。
誰もが、無視。
それが続いて、文句に変わる。
私は、心が不安定になり、超能力を暴走させる。
割れる窓ガラス、浮かぶ机。
私は、学校に入れなくなった。
親が超常現象に詳しい専門家を探す。
しかし詐欺ばかり。
家のお金は簡単になくなった。
最初は優しかった親も、私を、怪物で疫病神の様に見るようになる。
私は、寮がある学校に逃げた。
そこが麻帆良学園都市。
力を隠して、大人しく過ごす。
うまくいくはずだ。
でも、人って言うのは残酷だった。
大人しい私は、ストレスを発散するのに絶好のマトだったようだ。
いじめなどやさまざまなことを受ける。
勇気を出して、やめてと言ったけれども……
――被害妄想――
――こんなていど、いじめじゃない――
――気持ち悪い――
と、こんなところ。
自殺を考え、トイレから出る。
あたりは夕方。
ぶらぶらと歩く。
ふと私の超能力に直感の様なモノが響く。
私は直感を頼りに歩いた。
もしかしたら、いい死に場所にでも案内してくれているのかもしれない。
奥に進む。
すると何やら音がする。
太鼓?
激しいようで、優しいようで、不思議な音色だった。
音がする方向に向かう。
そこには上半身を裸にした少年が、何やら真剣に和太鼓を叩いていた。
私は、呆然とする。
何時間たったのか定かではないが……
荒れた心が少しだけスッキリとした。
「ふーう……うん? 君は?」
少年は私に問う。
答えていいか迷う。
その時――
月の光が少年を照らした。
あ、もう夜だった。
優しい光と少年の姿が重なって――
ずっと抱えていたせきが切れる。
「辛い、苦しい、寂しいよ」
「話を聞こう」
彼は、即答する。
今までのことを全部話した。
なぜか超能力のことまで……
拒絶されるかもと――
気持ちが悪いと――
言われるかもと――
しかし、彼は――
「そうか……」
そう言って、月を眺める。
それだけ。
何も言わずに、私の横にいる。
逃げないし、離れない。
心地が良かった。
その日は、彼の名前も聞かずに寮に帰る。
その日からそれが支えになった。
1週間に1回程度、彼に会って話を聞いてもらう。
それだけで良かった。
たまに金髪の女の子が邪魔しに来るけど、それも含めて楽しい。
学校でのことを我慢する。
月日が経つ。
光くんは、私より年下の男の子。中学1年生。私は中学2年生。
彼は、私より年下だと言うのに、大人のようだった。
容姿は整っているといえば整っているが、平均顔。
平均だけれど、悪いところが見つからない為、雰囲気と相まって、イケメンに見える。
スタイルもよく、綺麗な瞳が黒曜石を思わせる。髪は短いショートカット。
ある日、彼と図書館島に行く。
なんでも、古代を調べるようで、彼は、さまざまな伝承、民族学の本などを集め出す。
光くんは、それを高速で読みすすめ、ノートにメモをとる。
私がふとそのメモを除くと、賢者の石やら錬金術やらアギトやらグロンギなどなど、訳が分からないが、光くんの顔は真剣だった。
そんな時、4人の女の子が話しかけてきた。
「これ、貴方が書いたですか?」
「ああ」
「見せてもらってもいいです?」
「ただの、箇条書きだ」
「構わないです」
「夕映。迷惑だよ、やめようよ」
「でも、のどか。これ……面白いで」
「う〜ん。漫画のネタに使えそう」
しばし、夕映と呼ばれた女の子がメモを読み……
「これ、おじいさまの部屋にあった資料と一緒です」
「はぁ? 古代人のことを研究していたモノ好きがいるのか? そもそも伝承などしか残ってないんだぞ」
「祖父は綾瀬泰造と言いましてですね――」
「あの哲学者のか? なんで綾瀬泰造先生が古代の研究を?」
「おじいさまの趣味のようでしたよ。家にはさまざまな資料がありますですよ」
「できれば綾瀬泰造先生の視点から古代人のことを知りたい。資料を見せてはもらえないだろうか?」
「乱雑に扱わないと誓うならば。私は、綾瀬夕映です」
「月野光」
「え? あなたが? よく見れば……写真どうりですね」
「写真?」
「光くんて、長谷川さんの彼氏やろ? 噂になってんで」
「でも、別れたって朝倉が言ってなかった?」
その時の光くんの顔は、とっても辛そうだったから、私は……
「その話はやめて。光くんの顔を見て。踏み込んでいいこと。ダメなこと。色々あるよ」
「あ、ごめんなさい」
「ごめん」
「いや、いいんだ。オレが悪いし……そもそも千雨とは幼馴染みなだけで」
嘘。
だって、光くんは……いつも誰かを思って泣きそうだった。
それが長谷川千雨さんだったんだ。
そして、今度の日曜日に夕映ちゃんの家に行く約束をしてこの日は、別れる。
なぜか胸が痛かった。
夢を見る。
私が異形になる夢。
最近はいつもだ。
今日も学校でいじめがある。
でも、光くんがいるから。
私は――
光くんがいつもいる森に行く。
瞬間――
音が消える。
私の前に、豹に似た姿のナニカが現れた。
「アギト、可能性。排除」
ナニカはそう言うと、私を木に無理やり押し込む。
あ、これで――死ねる。
死ぬ?
い、イヤダ。
だって光くんと出会えたから。
もう独りじゃないから。
「光くん……」
その時、不思議なことが起こった。
よく見えないけど、恐らく人。
その人のお腹のあたりが光っている。
「変身」
光が収まると、銀色の姿の異形が姿を現した。
もしかしたら普通の人は怖がるかもしれない。
でも、私は、優しい月光を思わせた。
「やはりいたな」
「王? なぜ?」
「よく分からないが……その子に手をだすな」
月光の異形がゆっくり近づく。
豹のナニカは戸惑っているようで……
しかし、月光の異形は、構わず、拳を大きく打ち付けた。
豹のナニカは、数歩後ずさると……
「弱い、偽物? しかし……」
豹のナニカは頭に手を置いて思考しているようだ。
その間、月光の異形が私を木から引きずり出す。
「小夜子さん。大丈夫ですか?」
「え? なんで名前を?」
「あ、オレは――」
月光の異形は、人間の様に震える。
なんで? 貴方は……誰?
もしかして――
「試す。王か偽物か」
刹那で豹のナニカは、月光の異形を吹き飛ばしていた。
まるでトラックの衝突事故の様な光景。
「がはぁ」
月光の異形は、大きな木にぶつかり、声を漏らしていた。
豹のナニカは……
「偽物だな。それより、アギトの可能性を――」
私に向けてゆっくりと進んでくる。
怖い。
なんで、私だけがこんな――
ただ、私は――
「幸せになりたかっただけなのに……」
目を閉じる。
でも、一向に何も起きない。
恐る恐る目を開ける。
「え? 光くん?」
目の前には傷だらけの光くんがいた。
豹のナニカにしがみついている。
「離せ偽物」
「うるさい! 小夜子さんが何をした! この子は……何も悪いこともしていないのに頑張って……頑張っているだけの人間なんだぞ!」
「善悪など関係ない。アギトに至る可能性がある」
「ふざけるな!」
普段は見せない、光くんの怒り。
でも、そんな怒りなんて関係なしとばかりに、豹のナニカは光くんをボロボロになるまで攻撃する。
私は、そんな姿が見てられなくて――
「もういい。もういいから……逃げて!」
「オ、オレは! そんな言葉が聞きたいんじゃない!」
「え?」
「我慢しないで、言ってくださいよ。男は馬鹿で単純だからさ……可愛い女の子が、そう言ってくれるだけで、無敵のヒーローになれるんですよ……だから!」
光くん……本当は、ずっと、ずっと――
誰かに――
「私を……助けてよ! ヒーロー!」
「任せろ! うぉーー! オレは、今から進むんだよ! 人として……ヒーローとして」
光くんの腰にベルト、左手にはバングル、右手には綺麗なフェザーのアクセサリー。
「変・身」
光くんは、そう言うとフェザーのアクセサリーをバングルに装着する。
そして手をゆらゆら揺らしながら、まるで舞の様にゆっくりとポーズをとった。
刹那――
先ほどの月光の異形が出現している。
普段の光くんより大きく、身長は2メートル近くある。
そして先ほどと明確に違うところがある。
月光の異形の背中にナニカの紋章が彫り込んである。
不思議と私は、その紋章のことを理解できた。
「アギト」
「馬鹿な!? その力は!」
驚愕する、豹のナニカ。
「小夜子さん。オレは……貴方の味方だ」
「うん! 勝って……私のヒーロー!」
「何者?」
「仮面ライダー月光……行くぞォーーーー!」
それからは理解も認識もできなかった。
閃光の様で、夏の花火大会の様でもあった。
時間が過ぎる。音が鳴り止まない。
そして……
「ぐぅ……」
豹のナニカは、膝をついていた。
月光の異形――いや、光くんが左手のバングルに触れる。
摩訶不思議な音色が当たりに響く。
そして――
「石よ。力を貸せ」
光くんの足元にアギトの紋章が出現して、銀色の光を放つ。
「はあ……」
豹のナニカは、更に姿を獣の様に変化させて、巨大化した。
大きな雄叫びを上げる。
まるで、群れの仲間に呼びかけているようだ。
そして、私の直感が告げるのは……歓喜?
「王よ! 今こそ……世界を元に戻しましょう!」
「王とか、世界を元にとかどうでもいい。貴様は小夜子さんを泣かせた。その事実があるだけだ……はぁ!」
光くんは、そのまま空に大きく飛び上がった。
もう夜になっていて、大きな満月が浮かんでいる。
その満月が、ひときわ輝き、光くんを照らす。
空中で体操選手の様にぐるぐるひねりを加えて、そのまま、光くんは……
「シャドーキック!」
気がつくと、光くんは、豹のナニカの後ろに、立っていた。
そして豹のナニカを銀色の炎が包み込む。
「ぎゃーーーーー!? 王? なぜです?」
「オレは、王などではない」
豹のナニカはそのまま灰になって消えた。
それから、光くんが……
「小夜子さん。隠していて、ごめんなさい。オレは……化け物です。貴方の話を聞いて、自分に重ねて、同情して、憐愍して、仲間を欲しました」
それは懺悔の様だった。
異形のまま、光くんは……空を見る。
そして……理解する。
「なんで、光くんの側にいると落ち着くのか分かったわ。同じ傷があるとか、周りから浮いているとか、ましてや……超常の力のせいじゃない。貴方が、優しいから……貴方は、太陽の様に皆を照らせないけど、夜に迷ったら、そっと照らしてくれる月光よ」
私の様に、夜の様な人にとっての光。
だからね。
「泣かないで。誰かと一緒に生きたいと願うことは、間違いじゃないのだから……」
「ああ、わぁぁぁぁぁぁっ! 小夜子さん!」
姿が戻った光くんを抱きしめる。
彼の体温はとっても熱くて……私の顔は真っ赤になっているようだ。
その時……
「おい! 水無瀬。何をしている!」
「あ、エヴァンジェリンちゃんと茶々丸ちゃん」
「計測不能のエネルギーを感知していたのですが、摩訶不思議な空間に阻まれて、ここにこれませんでした。水無瀬先輩、何があったのですか? 戦闘があったようですが……」
「おい。水無瀬……貴様、光のアノ姿を見たな? なら、分かってるはずだ。もう光に近づくな。前から言ってただろ?」
ああ、だからエヴァンジェリンちゃんは……
でも……私ね。
決めたの。
「いや」
「あん?」
「私……水無瀬小夜子は、月野光くんとずっと……ずっと一緒にいます。例え太陽が月の光を塗りつぶしても。だって、光くんは……私の光でヒーローだから!」
「ふん。なら、その力、うまく使えるようになれよ。言っておくが、私は、弱い女が大嫌いだ。特に貴様の様に、いじめなんかに負ける奴なんかはな……」
「うん。頑張るから……光くん。見てて、私のかっこいいところ」
私は、泣き止まない光くんの背中をトントンと叩きながら……
前に進むと決めた。
だから――
「もう、私はいじめなんかに屈しない! 貴方たちに負けない!」
結局、女の子同士で殴り合いまで進展して、停学。
でも……
「光くん。私……」
「小夜子さん。暴力は、ダメですよ」
「光くんだって、豹のナニカを暴力で倒したよね?」
「うっ! あ、あれは! だって……その……」
「それに言ったよね。敬語禁止で呼び捨てにしてって」
「いや、先輩ですし……」
「私のこと、嫌い?」
「わ、分かりました……分かったよ! 小夜子! これでいいだろ?」
「うん! 光くん!」
私、今ね……とっても、幸せです!
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