「あ〜イライラするーーー!!」

大声が格納庫中に響き渡った。驚いたように整備員達が一斉に声の主の方を向いた。

「お、落ち着いてスズネちゃん。」

「でも、イツキ姉〜。待機だよ?た・い・き!木星の憎いアンチクショウが来てるってのに待機だって・・・そんなのあるか〜〜〜!!」

吼える!その様子は、まさに腹をすかせたニャン虎。イツキは、必死になだめようとするも猛牛様に暴れ狂う。

「しかしなぁ〜このチビ助の言う事にも一理あるぜ。一般市民が危険にさらされていうのに俺達は、指をくわえて命令が来るのを待つだけ・・・くぅ〜正義の味 方の名が廃るぜ。」

「誰が正義の味方だか・・・単なるオタクだろ?」

「んだよ!このじゃりニャンコ!」

「誰がニャンコだ!3流パイロット!変態!熱血バカ!!」

睨み合いが続きリングに稲妻が走る。

二人の後ろには、魂の象徴とも言えるものがガイの後ろには、ゲキガンガーがスズネの後ろには、デフォルメされた虎が『がお〜』と吼える。

その様子をただ見ていることしか出来ないイツキ。ヨロヨロと壁に寄りかかり胸の前に両手を握り締め

「ナナシさ〜ん。助けてください!たすけてくださ〜い。私じゃこの場を治められませんーーー!!」

機動戦艦ナデシコ〜MACHINERY/DARKNESS
第12話『ホップ、ホップ、ステップ』

燃え盛る炎の中に二人はいた。黄色い制服を着た少年は、彼を見上げる。見上げられる黒い青年は、彼を見下ろしながら小さく笑みを見せた。

「お前にしては、上出来だな。諦めないことは、良い事だ。」

「ナナシさん・・・どうしてここに。」

訳が分からない。どうしてここにナナシがいるのか?どうして俺を助けてくれたのか・・・。

「そうだルリちゃんは!?」

「ホシノ?会ってはいないな。・・・むっ!!」

蹴りがカイトの頭上を行く。カイトは、目を見開いて後ろに身を退いた。

ズガンッ!!

鋭く伸びた槍の様な蹴りが飛び掛ってきたカマキリが吹き飛ばされた。

「とにかく。ここから離れないとな。」

「え、そ、そうっすね。」

さっきのアキトの一撃を見て腰が抜けかけたがゆっくりと立ち上がった。

「さて、逃げるわけだが。お前の足では、追いつかれるか・・・。」

チラッとカイトを見ると疲れたように息が荒い。

「男を抱きしめる趣味はないが・・・仕方あるまい。」

そう言うとアキトは、カイトを抱えあげた。

「えっ、ちょ、ナナシさん!!」

「黙ってろ。舌を噛み切りたくなければな・・・。」

カイトは、アキトの言葉を聞き黙った。黙った瞬間にふぅ〜と息を吐きアキトは何かを呟いた。

『  の法』

もう一度息をはく。後ろには、カマキリたちが目の前まで迫っていた。もう駄目だとカイトは、目をつむる。

だが、その前にアキトが走り出す。その瞬間にカマキリ達との距離が一気に離れた。

「は、はや    い!!!」

路地裏を疾風のように駆け巡る。人の制限速度を超える速さにカイトは、驚きと一緒に恐れを抱く。

この人は一体なんなのか?本当に人間なんだろうかと?速度がまた上昇したように感じる。
彼のスピードは、人の領域から獣の領域へと侵入している。そのスピードは、人間のトップアスリートなんかと比べ物にならない。勝負するなら競走馬やチー ターと競わせるべきと思うほどのスピード。

「テンカワ。」

「ひゃ、ひゃい?」

あまりの速さに驚き発音がうまく出来ない。だが、そんなことお構いなしにアキトが言葉を続ける。

「少し、ペースをおとす。」

「へ?」

いきなり急ブレーキに靴底が磨り減っていく。コンクリートの地面には、黒い後をつけスピードをおとす。
そして、また爆発がおこったように横の路地に侵入していく。

「ちょ、どこ行くんですか!?」

「安心しろ。近道だ。」

道を走りながら高く飛び上がりビルの側面を蹴り上げ昇っていく。

「嘘だろ!?」

「黙ってろ!!よく脳に刻んでおけ、そこらじゃ体験できない絶叫マシーンをな。」

ビルの屋上に着くと走り出し軽がるとビルからビルへと跳び移っていく。

「ちょ、嘘!冗談!」

「まだまだだ!今度は、もっと大きく飛ぶぞ!!」

秋との目線が移動したことに気づきカイトも目線を移動した瞬間に彼の顔が青ざめた。目線の先を見ると歩道橋が見えた。

ビル同士の狭い幅を跳ぶことすら尋常ではないのに今度は、かなり離れた歩道橋に乗り移ろうとしていたのだ。

「無理!無理だって!!」

「無理、無理うるさい!もし、ここで退き帰すと虫の餌食、ここで留まっても虫の餌食。なら、飛ぶしかない。」

「それでも・・・この距離・・・。」

かなりの距離がある。しかし、彼は、本気でビルから歩道橋に飛び移るつもりなのだ。

キチキチキチ・・・。

虫の声が聞こえる。近くにまで虫が迫っている。

「どうやら、蜥蜴の奴等も近くにまで来てるようだな。さっさと覚悟を決めろ。」

それとも死にたいか?と言ってくる。虫が近づいているのは、カイトも分かっている。
ここに置いていかれれば絶対に死ぬ。もう、覚悟を決めるしかなかった。

「クソォ!ああ、わかったよ!信じてやるよ!!だから、失敗するんじゃねぇぞ。」

「愚問だな。」

足に力を入れる。

「俺を誰だと思ってる?」

機会の駆動音が聞こえる。

「俺は・・・。」

地面から足が離れた。

「アカリ様の使用人だぞ?」

大きく空中に飛び出した。

「理由になってねぇ〜〜〜〜!!」

小さな息遣いが聞こえる。銀髪の少女が息を切らしながら一生懸命に走る。階段を駆け上がり急いでナデシコへと行こうとする。

「はっはっは・・・。」

辺りでは、銃の発砲音が聞こえてくる。ところところで爆発音も聞こえる。
少女は、戦場にいる・・・少女は、戦場から逃れようと走る、ナデシコへ速く帰ろうとする。

だが、階段を上り終え立ち止まった。『キチキチキチ』と二匹のカマキリが待ち構えていた。

「あ・・・ああ。」

後ずさりしようとも後ろが階段になっている。後ろから階段下りるのは恐い。だからと言って背を向けた瞬間に鋭い鎌で切られてしまう。

彼女は、死を覚悟した。どうせろくな死に方をしないだろうは研究所にいたときから思っていた。
だが、最初に覚えた感情が『恐い』という感情と言う事に少し後悔していたりもした。

(どうせなら、もう少し良い感情がほしかったな・・・。)

などと思い死を覚悟するも死は一向に訪れなかった。目を開けてみる。そこには、真っ黒な男が目の前に立っていた。

「さっさと降りろ。」

ドッサと黄色い服の男が落とされた。

「いて!もう少し優しくしてくださいよ。あれ・・・ルリちゃん!!」

「ん?ホシノ無事だったか。」

いきなり現れた二人にルリは、胸が苦しくなった。死を覚悟したのに助けに来てくれた。2度目だ、これで2度目。

「大丈夫ルリちゃん?怪我してない?」

思わず目頭が熱くなる。

「ル、ルリちゃん?」

「どうした?どこか痛いのか?」

「いいえ、ただ・・・安心しただけです。」

涙をぬぐう。泣くなんて私らしくない。少女だけど子供じゃない。だから泣いてなんかいられない。

「ふっ、まぁいい。もうすぐナデシコだ。二人ともしっかりと掴まっておけよ。」

また、カイトの顔が青ざめる。ルリは、何のことやらと不思議に思う。


「いったい!ナナシさんとルリちゃん!そして・・・愛しのカイトはどこに行ったの!?」

ブリッジに大きな声が響き渡る。耳を塞ぎ艦長の声を耐えるクルーの面々。彼らの方こそ居場所が知りたかった。

ナナシとカイトがいなくてもナデシコは、動かせるがホシノ・ルリがいなければナデシコは動かせない。

彼女がいなければ現状はそのままナデシコは、1oたりとも動くことなんぞないのである。

「確かに・・・気になるわよね・・・。」

彼女・・・ミナトハルカは、ホシノルリが外に出て世界を良い事だと思い送り出した。だが、いいと思った事がこんな事件を発生してしまい余裕の無い表情をし ている。

頭の中では、常に最悪のパターンが何通りも流れ出し思い浮かんだ途端に顔を青ざめさせていく。

ウィーン。

突然ドアが開いた。

「遅くなりました。」

「ルリルリ!」「ルリちゃん!」

ブリッジの中が驚きの声を上げる。絶望的にすら思えたルリの命が助かったことに安堵の声を出した。

「よかっ「ルリちゃん!カイトは!?カイトは無事!?」・・・・。」

「大丈夫ですよ、テンカワさんもアキトさんも無事です。」

「よかった・・・。」

一息ついた途端。

ズン!

急な揺れに各員バランスを失いそうになる。

「どうしたの一体?」

「待ってください。」
ルリがオペレートシートにつくと原因を探ろうとするとカタカタとキーを操作していった。

「原因が分かりました。映像に出します。」

メインモニターに出された映像には地表から表れたエステバリス並みの大きさのカマキリ型の無人兵器だった。

しかもその無人兵器は、周りの建物を破壊しながらナデシコのいる格納庫へ直進していた。

「エステバリス隊に連絡!至急戦闘準備!!」


ビシッ、バシッ!

拳の打ち合い青い奴のガードは、固い拳が当たっているというのに倒れる気配がない、それどころか時々ドキッとさせる一撃を打ち出してくる。

ビュッ!

赤い奴の攻撃は、凄まじく倒れないでいるのがやっとだ。どうにか攻撃できても相手に全て避けられる。

ビシッ、ガンッ!!

((なんて手ごわい奴だ。))

「それで・・・お前等何やっている?」

「「んあ?」」

「ナナシさ〜ん(泣)」

泣きつくイツキに『拳で叩き合うゲーム』で競っているガイとスズネ。そして、呆れるアキトと苦笑するカイトがいた。

「邪魔するな!これは、俺とコイツの勝負だ!」

「そうだそうだ、今まで居なかった黒頭巾は黙ってろ!」

「なんか知らんが仲いいな。」

「「どこが!!」」

ニヤニヤと二人に笑みを浮かべる。だが、ゴートの声が放送から聞こえるとほのぼのとした雰囲気から一転した。

「戦闘配備だ。総員エステバリスに搭乗!」

「お、おう!」

「了解!」

「あんたに言われなくてもね。」

「は、はいっ。」


あとがき
あれ?今回で月編を終わりにするつもりが・・・・。それなら次こそ月編を終わりにしますよ!(初志貫徹って難しいですよね。)





感想

NEOさん作品更新です♪

えーっと内容的にはナデシコへ帰還するまでの間といった感じですね。

感想を書くに当たって、この作品がどれ位ナデシコと違っているのか、という部分に考えさせられます。

再構成された部分の一つが、アキトがナナシになっている事及びその経歴。

アカリ嬢の事、イツキ及びその部下の事、ガイが生きている事など。


しかし、結構大事な点として、月がまだ木星トカゲに占領されていないという点があります。

幾つか変更点が出てくる可能性があるわけです。

例えば月のドックが使えるということはまだ連合宇宙軍が撤退していないと言う事ですから、

月で連合とナデシコの戦いが起こる可能性もあります。

コレは長引くかな?(爆)


後、月のドックで補給するとなれば、サツキミドリのコロニーの価値が曖昧になりますね。

でも、寄らないで行くとなれば、三人娘を仲間に出来ないですから……

NEOさんはどういう趣向を考えているのか、期待してしまいますね〜♪



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