「ふんっっっ!!」
「遅い。」
振るわれる拳。それを見もせずに拳を避けていく。凡人にとっては、速く鋭い拳も彼にとっては、遅く鈍い拳。
しかし、奴は、笑いながら拳を振るう。だが、当たらない、命中なんぞしない、遅い、遅い。
「遅いぞ?そんなもので俺が殺せるか?」
「黙れ。その上から見下ろしたような言い方・・・気に入らねぇ。」
ナナシとの距離を一気にあけステップを踏む。
「ふっ、どうした?怖気づいたか?」
「ふふん。ダークネスよ〜。俺を挑発しても意味がない。」
「ふむ・・・挑発しているつもりはないんだがな。」
「ふん!強がりをテメェは、俺より強いと思っているらしいが実力では、俺の拳の方がテメェのより重い。なぜなら俺の拳は、最高級の新型。テメェは、中古の
旧型・・・日々進化する義手技術の中では、高価な方が勝つ!」
「ふん、そこまで自信がもてるもんか?そんな義手一つで。」
「ふふふ、試してみたら分かる。俺の・・・必殺技をくらってな!!」
右腕を振り上げる。息を吸い吐く。拳を強く握る。動作を2、3度くり返すと拳をゆっくりと引いた。
機動戦艦ナデシコ〜MACHINERY/DARKNESS
第11話『パーソナル・リベンジャー(2)』
風が舞う。静かに刃が踊るように流れ壁を傷つけテーブルが切断される。イスがバラバラにされる。
「なんだ?何が起きてんだよ。」
さっきまでは、平和な喫茶店だった。なんにもない平凡な場所だった。しかしあくまで過去の『だった』である。
危機感を感じた時には、厨房から現れた機械の虫がこの場にいた客を襲い、物を壊し自分達の巣だといわんばかりに蹂躙していた。
そこは、まさに、処刑場。平和な空間を壊した虫共は、まさに恐怖の象徴だった。
「うう・・・くっ・・・。」
人は、まさに、怖いと思った時に心にブレーキがかかる。いま、カイトは、恐怖を感じていた。火星の時と同じだ。恐い。また、何かを失うかもしれないから怖
い。あいつ等のいる場所が恐い。だから、怖い。
「怖い、恐い、こわい。」
・・・・・・こわい・・・・・。
ギュッ。
シャツの腕の部分を引っ張られた。
「カイトさん・・・。」
震える少女。カイトは、思い出した。火星にいた時のことを親と兄がいなくなって独りになった時も自分は、震えていた。
状況は、同じ。しかし、この場には、少女のほかに自分がいる。
そうだ、彼女にいま守る人がどこにいる?ここにいる。
彼女は一人か?いや、一人じゃない。
彼女を守る人はいないか?いや、いる。
どこに?ここに。
「(震えるな、怯えるな。いま、ルリちゃんを守れるのは、俺だけ。動け、守れ、もう悲しい思いなんか・・・。)」
立ち上がる。守るために、恐怖に震える少女を守るために。
「悲しい思いなんかしたくないんだーーー!!」
イスを持ち上げる。カイトの声に気づいた虫。振り向いた瞬間。バットがボールをヒットしたように虫が地面に叩きつけられイスが砕けた。
手が痺れる。しかし、気にしている暇はない。そして、手が少女の手を手に取った。
「カイトさん?」
「いくよ、ルリちゃん!!」
ルリの手を引いて店から出る。無人兵器達は、一瞬停止してしまったが再起する。
虫共は、キーキー喚きながら彼等を追いかけていった。その様子は、結婚式の花嫁を連れて行かれたのを追いかける新郎陣のようだった。
鈍い獣の唸り声のようにモーター音が決闘場に響く。男の目がギラギラと輝かしニッと白い歯を見せた。
「一言いっておくぜ。」
「なんだ?」
「これは、予言だ。この一撃で・・・テメェを押し潰してやるよ。」
「ほぅ、予言ね。予言を出来るほどの頭を持っているとは、思えないな。それとも何か特殊な能力でもあるのかな?」
「つまらん話をするな。ダークネス。そんなに俺が恐いか?」
「恐いね・・・・。」
笑みをもらし駆け寄ってくる男を見て呟いた。
「必殺ぅぅぅ〜〜・・・・。」
必殺という男を見て思った。『変わったのは、外見だけか。』先ほどのモーター音からいってあの義手は・・・。
「鬼人粉牙弾!!」
タービンが回転し腕がドリルのように唸りを上げる。猛獣の叫びのよう甲高く響き渡る。
地面を擦り礫が飛び散る。そして、振り上げアッパーの形になる。タイミング完璧だった。
だが、ナナシは、あざ笑う。なにが鬼人だ。とか思いながら後ろに跳ぶ。高く、高く。通常よりも高く。それは、跳ぶではなく飛翔。彼は、空を飛んだ。男の攻
撃なんぞ届かぬほど高く。
「なっ!!」
いままで、いままで、これ一発で片付けた必殺技。それが外れた。何故?
一撃で相手を殺してきた必殺技が通用しなかった。何故?
最高級品を装備した俺の攻撃が中古品をつけた奴に避けられた。何故?
「次は、俺の番だ。」
空中で回転し蹴りをジキの顎の辺りに一撃を入れる。避けられなかった。
重かった。歯が砕けるかと思った。一瞬だけ嵐が俺の目の前を過ぎもした。アイツの蹴りがそこまで重いはずがない! 何故!何故!何故だ!?
「戦ってる最中に考え事か?しかし、タフだな、痛みもないのか?」
「ふん、痛みなんてのは、戦いにとって邪魔なもんだ。俺は、完全に機械だ。内臓とかは残してあるがな。」
「ほぅ・・・・言ったな。」
一瞬空気が変わった。いや、一変した。世界が歪んで見えた。
「えっ?」
疑問を呟いた時に彼は、倒れていた。
『おかしい』と疑問を呟く。自分は、いつ攻撃を仕掛けられたのか?疑問、疑問。
「おかしいか?自分が倒れていることが?」
倒れた男は、見下ろされている。一番に気に入らない男に。なぜ?なぜ?なぜ?疑問が身体を縛る。
だが、そんな問いよりも許せなかった。あんな男に自分を見下ろされるのが見下されるのが。
「ダーーークネスーーーー!!」
起き上がりナナシに向かい拳を振り上げてくる。
「吼えるな、ハイエナ。」
ナナシの拳が彼の瞳を潰す。右目がへこみ赤黒い液体が流れ出し潰された目から電気が流れる。
「GRYUUUUUUUUUU!!!」
痛みはない。彼は、完全に自分の身体を機械にしている。
筋肉はなく機械の腕、神経は、回路へと代わり、臓器すらも機械にした脳以外の全てが機械。最強の存在であると思っていた自分がオモチャにされていた。
「品がない。いくら形を綺麗に正装したところで・・・・根本は、かわらないな。」
鋭い蹴りがジキの脇腹に食い込む。そのまま彼は、壁に叩きつけられた。
品がない?確かに俺は、スラム出身のボロクソみたいな存在だ。けど、力は、それなりにあったはずだ。
いつでもどんな奴でも平伏させた。『百獣の王ライオン』の俺だぞ?なら、ならなんで俺は、ここまでやられなくちゃいけない?
「貴様の敗因は、2つ。1つは、痛みを消したことだ。戦いは、情報戦。痛みは、状況判断の要。貴様は、大切な情報の1つを消した・・・プロのすることじゃ
ないな。」
うるさい、こっちは、考え事してるんだ。イライラする。なんで、こんなに苛立つ?答えが出ないからか?違う!答えは出てる・・・・納得できないが。
「2つめは・・・。」
納得なんて出来ないが・・・。
「相手を間違えたな。俺を相手にするには、お前は、子供のように暢気すぎる。」
けっ、その台詞は、2度目だぜ・・・ダークネス。ったく相手が悪すぎる・・・いくらライオンでも恐竜には、敵わないわな。
薄れていく意識の中ジキは、納得してしまう、いや、諦めてしまったのだ。目標である人物には、絶対に勝てないと。なんだか疲れた・・・そして、自らの機能
を停止させていく。
「はぁ・・・諦めてしまえばそれで終わりだろうに。」
それだけを呟くとナナシは、その場を離れていった。
「はぁっ、はっ、はっ。」
息を切らす。何かから逃れるように少女の手を引っ張りながら呼吸が重なる。
逃避行。確かに逃避行であるが、しかし、追いかけてくるのは、機械の虫。捕まれば命はない。
「ルリちゃん!がんば・・・・って!」
「だ、だめですカイト。い、息が。」
ルリは、少女。体力はないのは当然。しかも研究所にいて運動なんてのは必要はなかったために体力は、一般よりも低かった。
しかし、追いかける側は、無限の体力。いくらでも走れるしペースダウンなんていうのは、ありえない。旗色の悪い鬼ごっこ。勝てるわけがなかった。
「くそっ!ルリちゃんゴメン!!」
「えっ、ちょ、カイトさん!?」
無理やりルリを背負い上げた。カイトは、また、走り出す。
逃げろ!逃げろ!ナデシコまで逃げるんだ!安全なところまで逃げるんだ!
あたまの中で逃げることに精一杯な彼は、必死に逃げる。
呼吸が荒い、息が乱れる。喉が渇く、唾液がのどに絡みつく、肺から吸い、吐く空気が肺を痛めつけ苦しみが増す。
「がっ、はぁっ、はぁっ、はぁっっ。」
そして、遂には、足にまで到達し。
「ぐっ!」「きゃっ!」
見事に倒れてしまう。
「だ、大丈夫ですかカイトさん。」
「ルリちゃん・・・逃げろ。」
息切れした声で振り絞る言葉。
「でも、カイトさんが・・・。」
一人になりたくない。独りは心細いと目が言っていた。
「いいから、逃げるんだ!逃げて、逃げて、逃げ延びて!!」
ヨロヨロと立ち上がり迫るカマキリ達の前に立ちふさがる。
「いいから、行け!行くんだ!絶対に俺がルリちゃんを守る・・・行くんだ!」
恐い、恐い。足は震えるし、歯は噛み合わなくカタカタと音が鳴る。
「やってやる、やってやる!俺が、俺が・・・俺が守ってやる!!」
その言葉を呟いたと同時にルリが走り出した。覚悟を決めた言葉を聞きルリも覚悟を決める。逃げて助けを呼びに行く。そのために走る、走る!
キチキチキチ・・・・。
虫たちの群れが迫る。身体の震えがやまない。
「動け・・・身体。恐いけど勇気を出せ!恐くても人を守れないほうが嫌だ!勇気を出せ!勇気が足りないなら・・・・。」
ギュッと掌を握り締める。もう、迷いはしない。
「気合で補う!!」
カイトは、カマキリと対峙する。鉄パイプを握り締め『うおおおお!』と声を張り上げ走っていく。
「キチキチ!!」
一匹のカマキリが刃を向ける。鉄を削る音が響く。だが、カイトは、剣道をやっていなく鉄パイプでカマキリの鎌を避けることのみ集中していた。
「キキッ!」
力一杯に鎌が振り落とされ鉄パイプが真っ二つに切り落とされた。
「いっ!」
そして、カマキリの体当たりがカイトを吹き飛ばし盛大に尻餅をつかせた。
「いてて、くそぉ・・・。」
なんかないのか?と思いながらポケットの中を探す。そこにコツンと指先に当たるのを確認して取り出した。
「これって確かナナシさんから・・・って!」
余所見をしていたせいでカマキリのことを確認するのを忘れていた。突然振り落とされた鎌を転がりながらどうにか避けた。
心臓が破裂しそうになる。相手が悪い・・・それでも逃げられない。虫の相手は、自分がしなくては、いけない。少女を守るためにも。
そして、ライターを見つめる。『手前に押すな!(禁)』という文字を見つけカイトは、ライターを手前に押した。
「どりゃーーーーー!!」
思いっきり投げるとさっきまで相手をしていたカマキリの頭に『カツン』とぶつかりバランスを崩し襲い掛かる虫の集団にライターが落ちる。
カマキリの頭に当たるのが1秒、宙を舞うのに2秒、集団の中に落ち地面に触れる瞬間に3秒。そして、カッと閃光が迸り
ズドーーンッ!!
爆音を響かせ地面を抉り機械の虫たちを爆風で押しのけ炎で燃え爆発で吹き飛んでいった。
「うぇ・・・・。」
確かに何かあると思って投げたのだがあの小ささで手榴弾くらいの威力があるとは、思いもよらなかった。
辺りを煙が包む。カイトが立ち上がると同時に煙の中から機械の虫が飛び出してきて押し倒された。
「うっ・・・痛っ!!」
鎌が腕の皮膚に刺さっている。カマキリ自身も爆風で吹き飛ばされ稼動するのがやっとという状態だった。
「ギギギ・・・・。」
カイトは、諦めかけた。ああ、ここで死ぬのかと諦めかけた。でも、死にたくなかった。必死に目を開け抗おうとした。
「諦めるな・・・アニキが言ってた。」
虫のボディーを押し上げようとする。少し上がっただけで刃を掠めた腕の傷が広がっていく。
「諦めなきゃ道は開けるって。」
その言葉がカイトの諦めるという思いを消した。彼がコックを諦めないのもエステを操縦するのも『諦めない』ということが根本に出来ているからだ。
「はぁぁぁ!!」
声が聞こえる。突然カマキリの存在が消えうせた。カマキリは、地面に倒れていた。
「ふん、中々の根性だ。諦めないことだけが貴様の美点だな。」
諦めなければ・・・・。
「ナナシさん。」
道は切り開ける。
あとがき
パーソナルリベンジャー(U)終了です。ふぅ〜限界って感じ?とりあえず次の回で決着がつきます。
そして、月を離れて3人娘と出会う訳ですが・・・その前に新キャラが一人登場します。
それでは・・・みんな僕のことを忘れないでね。
浮気者さんに代理感想を書いていただくことになりました♪
感想代理人:浮気者
ども、浮気者っす。
黒い鳩さんから依頼を受けて早速ここまで読ませていただきました。
黒アキトと黄アキトが同時に存在する場合、どうしても黒アキトを重視してしまいがちですが、こちらでは黄アキトのほうも尊重されているようですね。
アキトのカイトへの態度が厳しいからどうなるかと思ってたんですが、今のところは大丈夫みたいですね。
今後もカイトがアニキ(アキト)の影響で立派になっていってくれるといいな〜と思います。
また、カイトがアキトに何らかの影響を与えてお互いに伸ばしあっていける仲になればなお良いと思います。
確かにアキトは強いのですが、このアキトはまだ完全にナデシコに溶け込めてはいない様子。
溶け込めない同士のルリとの関係も気になります。
今回の襲撃でアキト・カイト・ルリの仲は深まったようですし、そこにユリカ・ミナト・アカリなどが干渉してくれば彼らもすぐにナデシコに染まることでしょ
う。
実際アキトはすでにその兆候が見られますしね。
今後アキトがどんな方向に壊れて(笑)いくのか、楽しみ楽しみ。
そして忘れちゃいけないのがイツキ&スズネ&ガイという本来居なかったはずの面々。
さらにもう一人新キャラ追加予定だそうで、彼らが物語りに深く関わってくるのか、それとも単なる賑やかしで終わるのか、NEOさんの腕の見せ所ですね。
もちろん賑やかしでも面白ければいいんですけどね、ただ彼女たちばかり出てきてナデシコキャラの出番が減ると問題かも。
そこらへんのバランスは難しいですよね〜。キャラを生かすも殺すも作者次第ですもんね〜。
まあ、ここまではあんまり問題なさそうなので、これからもこの調子で、もしくはこれ以上の調子で頑張ってください。
で、今回のお話ですが、暗殺者対暗殺者、義体対義体、バトルが熱いですね〜。
そして守る戦いと諦めない強さに目覚めたカイト。
なかなか魅せてくれる戦闘でしたが、私はあえてこの後に期待してみたいと思います。
黒い鳩さんも言ってますが、この時点では木連人はいるわけがない、そしてジキも当然地球人でしょう。
ならばあの研究者風の男は誰なのか、そして今後どのような動きを見せるのか、楽しみです。
そして諦めたジキに対して諦めなかったカイト、このような描写をしたからには彼の今後の成長に期待していいと思います。
この物語が再構成である以上、NEOさんは原作とは違う展開と結末のビジョンを持っていると思います。
小説を書くのは結構しんどいですし、生活との折り合いをつけながらで大変でしょうが、是非そのビジョンを全て文章に書き起こして欲しいと思います。
この意見に賛成の方は、NEOさんに温かい応援の言葉をかけてあげてください。
そうすれば、どんなに時間がかかってもきっとNEOさんは続きを書いてくれるでしょう。
WEB小説作家はプロではありません、今これを読んでいる貴方と何も変わるところは無いのです。
自分の時間を割いてまでこんな文章を書いている友人に賞賛の拍手を送ってあげましょうよ。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
NEOさん
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