キ☆チ★ク☆な、ご舎弟さま



さて風呂敷畳みのエピローグ。
上手く纏まっていると良いのですが、それではどうぞ。

エピローグ






◆Side:Akinori





「ふぅ……」

 ようやく後始末を終えた私は、軽い溜息を吐きつつ、シートに腰を下ろしました。
 腰を落ち着けた左手には唯依が、右手には上総が気を失ったまま横たわっています。

「……はぁぁ……」

 再び、漏れる溜息一つ。

 やはりやり過ぎたかな――等と、後の祭りな後悔に囚われてしまいます。

 床に滴った色々な液体は、備えつけのトイレから失敬してきたトイレットペーパーで粗方始末し、乾いてこびり付いてしまったモノも、持参のウェットティッシュで拭き取りました。

 ……ああ、因みにこのウェットティッシュ、私が発明者という事で、特許とか取ったりもしてます。
 まあ、お手軽に手を拭ける物が欲しかったので、斑鳩家が出資している医療関係の企業にアイディアを持ちこんだら、いつの間にやら、そういう事になってました。

 当初は、製品化されるとは夢にも思っていなかったんですけどね。
 逼迫する世相が、思わぬ怪我の功名になったと言うべきなんでしょうか?

 なにせ国土の半分は丸焼け状態。
 当然、インフラも大打撃を受け、綺麗な水を確保するのも簡単ではなくなってしまいましたから……
 お手軽に清潔さを保て、除菌も出来るこのウェットティッシュは、中々、好評を博し飛ぶように売れているのだとか。

 お陰で私も、お小遣いに不自由しなくなったので、御の字なんですけどね。

 ……少し脇道に逸れ過ぎましたか。
 これが現実逃避というモノなんでしょうか?
 悩ましいところです。

 等と首を捻りつつ、もう一度、両脇の二人を見回す私。

 取り敢えず、二人とも綺麗に後始末した後、スカートだけは四苦八苦しつつ穿かせておきました。
 どちらもチョッピリ濡れてましたが、これで咄嗟の場合にも、なんとか誤魔化しは効く筈……だと良いんですけどね。

 ストッキングとショーツの方は、流石にアレな状態だったので、備えつけのエチケット袋に入れて封をしてあります。
 どうするかは、二人が目覚めてから決めて貰いましょう。
 女性の嗜みとして、替えのストッキング位は持ち込みの手荷物に入っていると思うんですけどね……ショーツまでは微妙かもしれません。

 現在、キャビン内は全力運転で換気を実行中。
 噎せ返る様な性臭の名残も、徐々に薄れていっています。
 まあ後は、降りる直前にでも匂い消しを振り撒いておけば誤魔化せるでしょう。

 そうキャビン内の後始末は、何とかなっています。
 キャビン内は……ですが。

 そこまで考えたところで、私は再び、両隣を見ました。
 満ち足りた表情で、スヤスヤと眠る類い稀なる美少女が二人。
 とても目の保養になる光景です。
 光景だったのですが……

『これは、バレるかな?』

 胸中で呟き、冷や汗を掻く私。

 先程までの激しく濃厚な交わりの残滓が、女の色艶とでも言うべきものとなって、二人から漂ってきます。
 甘く芳しい女……いや、牝の匂いとでも言うべきものが、全身から立ち昇っているかのような錯覚を覚える程、どちらも艶めかしいまでに『女』を感じさせてくれました。

 搭乗時と印象のギャップが有り過ぎです。
 まぁ唯依の方は、搭乗する前から悪戯を仕掛けていたので、多少は誤魔化せるかもしれませんが……

『むう……拙いでしょうか?』

 正直、色々と難しい任務ですしね。
 それなりに選別はされていますが、搭乗員の中にも敵が居ないとは限りません。
 この件をネタに、妙な噂でも流されると拙いかも……

 ……やはり少しは我慢すべきだったのでしょうか?
 しかし、これほど魅力的な少女達を傍に置いておいて、我慢しろと言われても……ねぇ。

 私とて木石ではありませんし、なにより若いんです。
 色々とその旺盛なお年頃という奴なんですよ。

 ……でもまあ、やっぱりやり過ぎなのかも?

 特に唯依などは、処女のままで尻をとか、どんだけ鬼畜なんですか私は?
 オマケに、上総を妾にしてしまいましたし……

 というか、唯依との結婚前に、上総を妾にした事を聞きつけた巌谷中佐が怒鳴り込んできましたしね。
 何とか唯依が取り成してくれたので、事を荒立てずに済みましたが……はぁぁぁぁ〜。

 嗚呼、世間の評判が怖いです。
 陰では、鬼畜な若君とか、見境無い獣クンとか言われているんじゃなかろうかと、内心ではドキドキものですよ、ホント。

 ……そういえば最近、ウチの大隊の女性衛士が、妙に接触して来る事が増えていた気がするんですけど、もしかして、そういう事だったんでしょうか?

 いやしかし、月詠の鬼娘も混ざってましたし……

 ……ハハッ、あり得ませんね。
 あの行けず後家が、私に色眼を使うなど、天地が入れ替わっても無い筈です。

 ――しかしまったく、どうしてこんな事になったのやら。

 そう内心で呟きながら、私は右手に居る上総を見ました。
 サラサラした真っ直ぐな髪を、何となく手で梳きながら、こうなる切っ掛けとなった出来事を思い返す私。

 あの日、上総に騙されて、山城の別宅に行っていなければ、或いは、彼女を見捨てていたなら――

 そんなIFを脳裏で想像しようとした私でしたが、全く思いつかなかったので直ぐに苦笑し止めてしまいます。
 別の可能性を考えるのも面白くはありますが、私にとっての現実が変わる訳でもありませんしね。

 上総に騙されたのも、彼女を見捨てなかったのも、私自身である以上、愚痴る以上の事を考えるなど卑怯というものでしょう。

 それになにより――

「結局のところ、兄上の所為な訳ですしね」

 ――多分、このややこしい関係を作る破目になった元凶に、乾いた笑みを浮かべながら、少しだけ恨み事を零す私でした。

 あの日――より正確に言うなら、一夜明けた後、何とか事を納めて帰宅した私は、その足で兄上のところへ向かいました。

 事の次第を話し、為すべき事――唯依との婚約破棄と上総を許嫁とする事――を為す為にです。
 色々と事情があったにせよ、私が唯依を裏切ったのは事実ですし、上総を傷物にしてしまったのも事実。
 そういった男女間の関係にも、なにかと喧しい武家社会において、武家の筆頭たる五摂家の末席を汚す身としては、筋道は通さねばならないと思ったからです。

 ……正直、内心はガクブルものでしたよ。
 理由はどうあれ、兄上が直々に決めて纏めた縁談を、ぶち壊そうと言うんですから。
 本音を言わせて貰えば、頬っ被りして逃げ出したい心境でした、いや本当に。

 とはいえ逃げ出す訳にもいきません。

 もはや覚悟を決めて、今は無き清水の舞台から飛び降りる覚悟で、兄上の前に出た私は、事の次第を包み隠さず報告し、けじめを着ける為にも、唯依との婚約破棄と上総を許嫁としたい旨を申し出た訳です。

 そんな私の申し出を、終始、無言のまま聞かれていた兄上。
 正直、いつ雷が落ちるか冷や冷やモノでしたが、何故か最後まで何も言われる事無く話終えた私に向かって、曰く――

「阿呆」

 ――たった一言でした。

 何と言うか、その一言で私のハートは、もうズタズタでした。
 目線といい、表情といい、口調といい、完璧なまでに言葉通りの阿呆に対するモノだったのです。

 余りの心理的ダメージに、思わず崩れ落ちる私に対し、兄上は呆れた様な口調で告げられました。

「篁との婚約の解消は有り得ん。
 既に話は、殿下の所まで上がっておるのだ。
 今更、破談にさせて頂きたいなどと、口が裂けても言える訳がなかろう」

 と、実に素っ気なく言い放ちます。
 将軍殿下にまで許可を貰っている以上、今更、無かった事には出来ないと。

 冷然と、そう宣告する兄上を前に、私は頭を抱えてしまいました。
 兄上の仰る事も分からないではないのですが、それでは上総はどうなるのかと……

 良くも悪くも因習や柵の多い武家社会。
 年頃の娘が、許嫁でもない相手に身体を許したとなれば、致命的な醜聞となるでしょう。
 恐らくは、ふしだらな娘として、まともな縁談は持ち込まれなくなる筈です。
 無論、口を拭って素知らぬ顔で嫁ぐという手もあるでしょうが、もし万が一、バレたりすれば、彼女の一生は滅茶苦茶になってしまいます。

 流石に、それは寝覚めが悪過ぎました。
 私の側から、彼女を抱いたという引け目も有りましたし……

 その辺りを兄上に訴えると、仕方が無いといった表情になった兄上は、少しだけ妥協してくれました。

「……山城の娘は、そなたの妾とせよ。
 そちらの話は、我の方で通してやろう。
 但し、篁の娘にそれを認めさせるのは、そなたが責任を持って行うがいい」

 ……またハードルの高い事を。

 斑鳩(ウチ)の方が、家格が数段上とはいえ、一応、婿養子に入る立場なんですが……
 結婚前から妾を作るとか、どんだけですか?

 というか、あの生真面目で頑固な唯依が、親友を妾にするなんて聞いたら、どんな反応をするか……想像しただけでも怖いんですけど。

 などと煮え切らない態度をしている私を、呆れた様に見据えていた兄上が、嘆息混じりに言われました。

「仮にも我の弟ともあろう者が、たかが小娘一人御せなくてどうする……まったく情けない」

 そういって一つ溜息を吐かれると、しばしこの場で待つようにと命じ、奥へと入っていきました。
 何を考えているのか不明で、とっても怖かったのですが、逃げ出すのも又、恐ろしく、結局、言われるままに、その場で待っていた私の前に、兄上が戻られたのは、五百ほど数を数えた後でした。
 そしてそのまま元の上座に座ると、手にしていた何かをポンとばかりに投げて来ます。
 惹かれる様に、落ちた私の眼に入ったのは……

「……斑鳩流房中術?」

 ……タイトルからして、怪しさ爆発な書物でした。
 どうみても、百年以上経っていそうな古びた表紙とは裏腹に、真新しいページが所々に混じっているのが、更に怪しさを増しています。
 思わずジト目になる私に向けて、兄上が何処となく自慢げに話し出しました。

「それは我が斑鳩家に代々伝わる閨事の指南書よ。
 本来なら当主のみが閲覧出来るのだが、特別に見る事を差し許す」

 ……へ?

 ……あ〜〜……兄上、意図が見えないのですが?

「結局のところ閨の問題であろう?
 ならば閨にて解決を図るのが確実であろうよ」

 ……え〜〜……つまり唯依を押し倒し、この(怪しげな)指南書のテクニックでメロメロにして黙らせろと?

 ………
 ……
 …
 マジですか?

 ……いや、自信満々なんですけど………本当に、ヤれと?

 そんな私の無言の問いに、兄上は鷹揚に頷き、そして言ってくれやがったのです。

「まぁ、ロクな実戦経験も無しに、決戦に臨むのも心細かろう。
 適当な者を見繕ってやる故、一週間ほど修練を積んでからいくが良い」

 そう気軽に言って下さる我が兄上。
 しかし、私の脳みそは破裂寸前でした。

 たかが一週間程度の付け焼刃で、ジゴロの様な真似なぞ出来る訳ありません。
 そもそも唯依の様な筋金入りの生真面目っ娘が、いかに許嫁とはいえ、婚礼前に肌を許してくれるとは到底思えなかったのですから……

 思わず断ろうとした私。
 ですが、とてもイイ笑顔で睨みつけて来る兄上を前にし、幼少時からキッチリと調教、もとい教育されている私には、逆らう言葉を発する事が出来なかったのです。

 そのまま花街へ連行……いえいえ、同道させられた私は、旧帝都から疎開してきたという一流どころのお姉さま方の中に問答無用で叩き込まれる事となったのでした。

 ……ううっ……地獄なのか、極楽なのか判別の付け難い一週間でしたよ、全く。

 しかしまあ、何とか(怪しげな)指南書に書かれている事については、大まかに実践し、体得した私。
 それでも、まだ不安があったので、申し訳無いですが、上総に協力して貰いました……三日程。

 そして併せて十日後、腰が抜けてしまった上総を残し、いざ決戦へと。

 ……まあ実際は、唯依を旅行に誘っただけなんですけどね。
 流石に、いきなりその……床に連れ込む訳にもいきませんし、やはりそれなりに段階を踏まねば……ね。

 真っ赤になりながら、それでも嬉しそうに受けてくれた彼女には、本当に申し訳ない気持ちで一杯でした。
 しかし、私も挫ける訳にはいきません。
 ここで私がヘタれれば、少なくとも二人の女性が悲しみの涙を流すでしょうし、なにより私もイヤだったのです。
 正直に言ってしまえば、どちらも手放したくなくなっていました。
 唯依も上総も、どちらもです。

 他の男にくれてやるなど、まっぴら御免。
 だから、二人とも私のモノにしたかった。
 それで強欲と謗られようと、好色と非難されようと構わない――それが私の結論となっていたからです。

 そして数日後、私達は斑鳩家が東北に持っていた別荘へ。

 道中の唯依は、とても楽しそうで、頻繁に私の世話を焼いてくれました。
 お茶だの、手作りのお弁当だのと、この日の為に一生懸命準備してくれたのでしょう。

 そんな彼女の笑顔を見ていると、とても心が痛みました。
 この旅行の真の目的を思えば、純粋に、そしてひたむきに好意を向けてくれる彼女への裏切りとも言える訳で、胸が苦しくなってしまいましたよ。

 ……まあ、用意してくれたお弁当は、米粒一つ残さず平らげましたが。
 特に、肉ジャガが絶品だったと言っておきましょう。

 まあ、そんな私の葛藤を他所に、別荘へとついた私達。
 自然豊かな山中に設けられたそこは、それなりに風情もある場所でしたが、その分、遊ぶ所も、見る所もありません。
 もはや貴重となった自然の景色を、しばらく見ていて時間も潰せましたが、やはりそれにも限界はあります。
 次第に会話が減っていく中、何故か、唯依の頬が少しずつ赤らんでいきました。
 更に注視していくと、視線があちこちに泳ぎ出し、モジモジと居心地悪そうにし始めます。
 どこか恥じらう様なその仕草に、不意にピンと来るモノがありました。

「唯依、今回の旅行について、誰かに何かを言われたのか?」

 と、さりげなくカマを掛けてみた私。
 その瞬間、ボンッとばかりに真っ赤になった清楚な美貌に、私は苦笑してしまいましたけどね。
 羞恥の色に全身を染めた彼女から、宥めながら話を聞いていくと、どうやら唯依の隊のお姉さん格の中尉から色々と吹き込まれたとの事。
 許嫁である私が、泊りがけで旅行に誘う意味などについて、色々とです。

 ……まあ、大まか間違ってはいなかったんですけどね。

 そこまで聞き出したところで、耳まで真っ赤になって俯く美少女な許嫁を、改めてしげしげと見つめた私。

 ――あ〜〜……つまりそういう事で良いのかと。

 ややオブラートに包みながら尋ねると、俯いたままの黒髪が少しだけ縦に揺れました。

 これもまた天命、いや、いつも兄上に振り回されている私を、天が憐れんでくれた好機と思いましょう。

 そう自身に言い聞かせた私は、今やトマトよりも赤くなっているたおやかな肢体を、そのまま抱き上げます。
 反射的に身を硬くされましたが、抗う素振りは見えませんでした。
 それを了承として受け取った私は、そのままお姫様抱っこで唯依を抱えると、奥の部屋へと移ります。

 ――奥の間、本日は寝室となる筈の部屋には、枕が並んだ布団が一組。

 流石、我が家の使用人。
 仕事に卒が無いです。

 などと感心しつつ、強張る肢体を優しくその上へと降ろしたのです。
 眼をギュッと瞑ったまま、抱き上げた時の姿勢で固まっている姿が、とても初々しくて、私の男心を直撃しました。
 そのまま初めての口付けを交わすと、ゆっくりと彼女の上に覆い被さっていく私。
 細身でありながら、豊かな胸と柔らかく肉付きの良い尻を兼ね備えた唯依の肢体は、何というかとても抱き心地が良く、私を夢中にさせていきました。

 ……今にして考えれば、ここで私自身が溺れてしまったのが拙かったのでしょうね。
 それほどまでに唯依が魅力的だったという事でもありますが……

 帯を解き、着物を脱がせながら、手の平に広がる彼女の肢体の柔らかさと豊かさに感動し、滑らかなうなじの味と匂いを舌先と鼻孔で堪能していく私。
 解かれた襦袢の合わせ目から覗く形良く盛り上がった豊かな胸、ほっそりとしまった腰からふっくらと膨らんだ尻へと繋がる柔らかな曲線が、私の眼を釘付けにしました。

 何もかもが美しく愛おしく感じられる少女。
 その全てを自分のモノに出来るという思いに、激しい昂ぶりを覚えながら、私は襦袢を剥ぎ取り産まれたままの姿にした彼女の『女』に触れ――様とした瞬間、突き飛ばされてしまったのでした。

 正直、あの瞬間は、何が起きたのか自分でも良く分かりませんでしたよ。
 私に組み敷かれながら、愛撫を受け入れ、甘い吐息を漏らしていた彼女が豹変した訳ですから。

 ……というか、唯依自身にも自分の反応を理解出来ていなかったんでしょう。

 私の愛撫を受けて、火照り切っていた肌が、いつの間にやら真っ青になってましたから。

 そして、素っ裸なまま慌てて頭を下げて謝り出した彼女に、剥ぎ取った襦袢を被せた私は、動揺を鎮める様に出来るだけ抑えた口調で問い掛けました。

 ――何故、と。

 これで他に好きな男が出来たからとか言われると、流石に凹んだでしょうが、やはりそういう訳ではありませんでした。
 唯依自身にも分からぬ自身の心の機微を、私は順番に整理させながら、ゆっくりと引き出していったのです。

 ……まあ……結局……なんというか……単純に言うなら、『怖かった』と。

 純潔を失う事も、許嫁とはいえ結婚前に男を受け入れる事も、なにより『男』を強く感じさせた私が、怖かった様です。

 上総も処女でしたが、錯乱してましたしね。
 それ以外に、私が知っているのは経験豊富なお姉さま方ですから……
 特に、唯依のような貞操観念が強そうな娘にしてみれば、元々、抵抗感が強かった上に、私がガッついて見えたのも恐ろしかったのかもしれません。

 ……ううっ……しかし、どうしたものかと思いましたよ。

 唯依自身は、今度こそ大丈夫と主張してましたけど、やはり色濃く残る恐れの色は隠せません。
 無理にやって出来ない事もないでしょうが、それでは男女の交わりに恐怖心を植え付けるだけでしょう。

『こんな場合は……』

 思わず、あの(怪しさ全開な)指南書の記述を思い起こしてしまった私。
 チラリ見した目に、肩掛けにした襦袢から覗く締っているのに肉感的でもある脹脛と、美味しそうな曲線を描く唯依の尻のシルエットが焼きつきました。

 思わず生唾を一つ飲み込んでしまった私。
 それを隠す様に咳払いをしつつ、彼女に一つの提案をしました。

 ある意味、究極の選択でもあるソレに、彼女は顔色を信号機の様に目まぐるしく変えながらも、最後は真っ赤になって頷いてくれたのでした。

 最初の難関を越え、ホッと一息ついた私。
 ですが、そうそう安堵ばかりもしていられません。

 なにせその……本来、そういう事に使う筈ではない場所を使おうというのです。
 事前に入念な準備をしてからでなければ、やはり彼女に恐怖心を植え付けるだけの結果に終わるのは確実だったのですから。

 そんな理由から、当初の予定を変更し、互いの休みも二日延ばした私達は、その日からずっと別荘に籠り、その……まあ……色々といけない事に耽ったのでした。

 羞恥の余り啜り泣きながら、それでも私の行為を受け入れてくれた唯依。
 そんな彼女の健気さと愛らしさに、のめり込む様にして開発を推し進めていった私。

 そして、慎重に、慎重に、事を進めていった私達が、ようやく結ばれたのは最終日の夜の事。

 数日掛かりで、ゆっくりと解きほぐした彼女の尻を貫いた時、そのまま精を放ってしまいそうな程の悦楽と歓喜に必死に耐えていた私の耳を、背徳の快楽に震える悦びの声が震わせた瞬間、私の理性は飛びました。

 ――こう何と言うか、『プツン』と。

 そのまま獣と化した私は、容赦なく唯依の胎内を貪り、熱く濡れた喘ぎ声を絞り尽くした果てに、絶頂に痙攣するその身を抱きしめながら、煮え滾る様な精の最後の一滴まで彼女の中に注ぎ込んだのです。

 そして、その日から私は、幾度となく唯依を抱きました。

 ――時に、互いの屋敷の一室で白い裸身を組み敷き、空が白むまで啼かせ続けました。
 ――時に、いつ誰が来るとも知れぬ外で、小鳥の様に震える唯依を優しく愛でました。
 ――時に、軍務の合間に情事に耽る事を悩む彼女を、軍服のまま激しく犯しました。

 男のモノへの奉仕を教え込み、その可憐な唇に、清楚な美貌に、豊麗な乳房に、欲望の証をブチ撒けたりもしました。
 彼女が、唯依が、自分だけの女であると示すかの如く。

 そうやって肌を合わせる毎に、精を浴びる度に、艶やかさを増していく唯依。
 そんな彼女に、半ば溺れかけていた私でしたが、それでも当初の目的は忘れていませんでした。

 ……多分……きっと…忘れていなかったと思います。

 まあ、何はともあれ、ちょっと予定と違いはしましたが、唯依と充分以上に深い関係になれた私は、最後の関門に挑む事を決意したのでした。

 決戦の地は、初めて私達が結ばれた場所。
 別荘に、再び誘った際には、前以上に真っ赤になりながら、前以上に嬉しそうに笑ってくれた唯依。

 ソレを永遠に失うかもしれないと思った時は、やはり躊躇しましたよ。
 何とか誤魔化してしまおうかとか、色々と……その…卑怯な事も考えちゃいましたね。

 ですがまあ、それは何か違う様な気がしたのです。
 そうするとナニか、大事なモノを無くしてしまうような気が、ね。

 結局、私は唯依と一緒に、再び彼の地を訪れ、そして洗いざらい白状し……

 ……泣かせちゃいました。
 こう大粒の涙をポロポロと。

 私の裏切りに、声も出さずに泣き続ける彼女の前で、平謝りに謝りながら、許しを乞い、そして上総を妾に迎える事を許して貰えるよう頼んだのですが……

 ――やはり許せない、と。

 そう言って席を立とうとした彼女の手を、私は捕え、その場へと押し倒したのです。
 押し倒し、そして組み敷いた彼女と真正面から視線があった時、私の心臓が一瞬止まりました。

 裏切りへの激しい怒りと悲しみを帯びた瞳で私を見つめる唯依。
 そんな彼女の眼を見ると、これから自分がどれほど卑怯で、ひどい事をしようとしているかが改めて分かりました。

 ……分かりましたが、それでも私は止まれません。
 止まってしまえば、この腕の中の温もりが、永遠に失われる事が分かっていたからです。

 そして私は、唯依を抱きました……いえ、あれを抱いたといっていいのか、今でも疑問ですね。

 既に充分に開発されていた彼女の肢体は、私に貫かれるや女の反応を示しました。
 ですが、その唇が紡ぐのは甘い喘ぎ声ではなく、裏切りを糾弾し、呪う言葉。

 私が愛を囁き、彼女が嘘と否定し続ける。
 私がその身を抱き締めれば、彼女は爪を立てて引っ掻いてきました。

 口付ければ唇を噛まれ、胸を揉みし抱けば引っぱたかれる。

 そんな異様な交わりを続けながらも、私は彼女を離しませんでした。
 今、離せば、もう決して戻らないと分かっていたからです。

 そうやって、ほぼ一昼夜、唯依を抱き続けた私でしたが、如何に鍛えようと所詮は人間、体力の最後の一片をホンの僅かな精として吐き出した瞬間、意識が途切れ、目覚めたのは三日目の朝。

 そんな私の枕元に、唇を引き結んだまま不機嫌そうな顔をしつつも座っていた唯依を見つけた瞬間、私は大事なモノを失わずに済んだ事に、心底、安堵したのでした。

 とはいえ、それからも散々説教され、愚痴を言われ、色々と約束をさせられた私。
 なんというか、既に尻に敷かれている気もしましたが、それでも唯依を失わず、上総も傍に置けるとあれば文句の付け様もありません。

 にこにこしながら説教を受け、愚痴を聞き、沢山の約束に頷いた私に、呆れ顔を浮かべた唯依。
 ですが、不意に相好を崩すと、所々で血の固まった私の唇に、その可愛らしい唇を重ねて来たのでした。

 ……その後は、まあ……ね。
 成る様になったのですよ。
 敢えて言うなら、三日目も、私達は別荘に籠ったままでした、という事で。

 そして、帰京した私達を出迎えたのは上総でした。
 整った貌を、緊張に強張らせた彼女の前に立ったのは、私では無く唯依。
 音高く上総の頬が鳴った瞬間は、今でも良く覚えてます。

 その後、呆然と倒れ込んだ上総を立たせた唯依は、何事か話し合っていました。
 私は近づかない様にと、釘を刺されていたので、内容までは知りませんけどね。
 とはいえ、その話し合いで、なんらかの決着がついたのは確かです。

 唯依は、私の許嫁のままであり、そして上総は彼女公認の妾という事になったのですから……



「まったく、我ながら無茶苦茶をしたものだ……」

 思わず溜息が零れました。
 もう一度やれと言われても無理でしょう。

 そんな思いと共に苦笑を漏らした私は、無意識の内に、唯依の、そして上総の髪を撫でている自分に気付き、もう一度苦笑します。

 この身は、兄上の様な英雄には成れないでしょう。
 ましてや世界を救う救世主なんて柄でもないのは分かっています。

 ですが――

「この腕の中に在る者くらいは、護りたいものだな」

 そんな想い、いや願いを抱きながら、愛しい女達の髪を撫で、今この時の幸せを噛み締めていくのでした。





〜おしまい〜


 後書き

 何と言うか衝動に任せて書いてしまったえっちぃSS。
 どんな塩梅でしたかね?


 まあ、とりあえずこれで終わりという事で。
 続きはまあ、今のところ予定はありません……多分


 それでは次は一般作の方で。
 ではでは〜





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