『科学と魔法と――』
――― 記憶の落し物(Prologue) ―――



 さて、ユーティリアの村を出て1ヶ月。
零司達はいくつかの町や都市を回っては調べ物をしたり、日銭を稼いでいたりした。
まぁ、日銭を稼ぐことにユーティリアは最初こそ難色を示していたものの、零司の説得でなんとか納得してもらっている。
ユーティリアにしてみればお金に余裕があるのに、なぜそのような必要があるのか? という考えからだった。
しかし、零司にしてみれば経験からの行動である。というのも、旅というのはとにかくお金が掛かる。
宿代に食事代はもちろんのこと、長期ともなれば様々な消耗品や備品も必要となる。
そちらの方は節約しようと思えば出来なくもない。実際、町や都市にいても零司達は馬車の荷台で寝て、そういった出費を抑えていた。
では、何が問題かと言えば突発的な出費である。例えば、乗っている魔導馬車が壊れ、修理が必要になったりとか。
こればかりはどうしようもない。なにしろ、いつ起こるかわからないのだ。
零司もその辺りの事を警戒しており、2週間に一度は整備出来るお店で整備を受けてもらっている。
それでも起こる時は起こる。それに備えての日銭稼ぎだった。まぁ、方法はほぼ傭兵まがいな事ばかりだが。
というのもユーティリアが色んな意味で目立つ。例え、少女の姿になってマントとフードを纏っていてもだ。
なので、長期的な滞在が出来ないために、すぐに支払いが行われる仕事しか出来ないのだ。
そういう仕事となるとどうしても傭兵まがいな事になってしまうのである。
その間、様々なトラブルに巻き込まれているが、それはまた別の話して――
 そんなことをしていて1ヶ月経つのだが、零司の方もユーティリアの方も進展は無い。
長期的に調べられないのもあるが、調べる物が漠然としすぎていて的を絞って調べる事が出来ないのが大きい。


そのことで悩むある日の夜――
「シーアークに行こうと思いますの」
「シーアークって?」
 ユーティリアの発言に零司は首を傾げる。
まぁ、この大陸の出身では無い零司にとって、都市名を言われてもわからないのだが。
「開発都市シーアーク。わかりやすく言いますと、この大陸にある魔道具の開発を一手に行っている所ですの」
 それに対してユーティリアは人差し指を立てながら説明を交えて答えていた。
以前、科学と魔法との戦争で魔法側が勝ち、それによって一般人が少なくない混乱を起こしたことは話したと思う。
まぁ、当時生活基盤の中心であった科学の物が使えなくなったのだから、ある意味当然とも言えた。
それはもう生活レベルが落ちたとかいうレベルではない。生活そのものが出来なくなった人もいる。
それによって混乱が生じ、一時期は暴動が頻発していた程であった。
 そこで魔法を一般に使えるようにして、それによって戦争前の生活レベルに出来る限り戻そうという試みが行われたのである。
その開発場所となったのが開発都市シーアークであった。
「なるほど、そこなら俺達が知りたいことがあるかもしれないってわけだな?
ん? でも、それならなんで先にそこに行かなかったんだ?」
「それは……」
 納得しかけて、その疑問に思い当たった零司は思わず問い掛けてしまう。
開発都市というからには色んな資料があるのではないかと思う。
そこなら、自分達が調べていることがわかる可能性が高いのではないかと思ったのだが――
珍しくよそよそしい態度で顔を背けるユーティリアの姿に、零司はどこか嫌な予感を感じていた。
「じ、実は……その都市の礎を作ったのは……私の仲間なんですの……」
「例の仲間か?」
 変わらぬ態度のまま答えるユーティリアのひと言に零司は首を傾げる。
確かに3人の仲間がいるというのは聞いている。しかし、なぜそんな態度で話しているのかがわからない。
「なにか……あったのか?」
「私には3人の仲間がいるのは前にもお話したと思いますが……実はその内の2人の行方はわかりませんの。
1人は元々風来坊で、封印の後はどこかに行ってしまいましたの……
もう1人もなにやら目的があったみたいで、気が付けば居所がわからなくなっておりましたし……」
「ふむ、で、唯一把握している仲間がそこにいるというわけか」
 問い掛けるとユーティリアは答えてくれるのだが……肝心なことはなぜか答えてくれない。
このことに零司はますます嫌な予感を感じる。というのも、ユーティリアはどこかその人物を避けているように思えたからだ。
「もしかして……仲が良くないのか?」
「う……」
 零司の問い掛けにユーティリアはまともに声を詰まらせる。これを見て、流石に事情は察することは出来た。
つまり、会いづらいのだろう。何が原因で仲が悪いのかわからないが、それでユーティリアとしては会いたくないのかもしれない。
「おほん。で、ですが……今は個人的な感情を優先するわけにもいきませんの。
私達はせめて手掛かりだけでもつかまねばなりませんの。その為にはこれくらいは我慢しませんと」
「ああ、そうだな……」
 なぜか、明後日を見つつ意気込んでいるユーティリアを零司は苦笑混じりに見ていた。
実際はそんな理由でそんな大事な所に1ヶ月も行かなかったのかとツッコミたかったが。
それを言ってもしょうがないので、今はうなずいておこうと考える。


 そんなわけで開発都市シーアークへと向かうことになった零司とユーティリア。
しかし、そこで待ち受ける物が自分達の運命を左右しかねない物だったとは……この時の2人は気付くはずも無かった。





ども、匿名希望です。そんなわけで始まりました、第2章。
今回は2人の謎に迫ったり、新しい仲間が出来たりとそんなお話に……なるといいなぁ〜……(おい)
そんなわけで次回からはしょっぱなから新しい仲間が登場……する予定です。
うん、あくまで予定……出せるといいな……



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