『科学と魔法と――』
――― 記憶の落し物(その1) ―――



「あれがシーアーク……まんま都市じゃないか……」
 その光景に零司は驚きを隠せずにいた。もっとも、それは隣にいたユーティリアも一緒だったりする。
さて、零司とユーティリアは件の『開発都市シーアーク』が見下ろせる高台にいたのだが――
最初に見た印象はとにかくデカイにつきる。
零司もこれまでの旅で都市と呼ばれる所には行ってるものの、シーアークはその他の都市よりもとにかく大きい。
他の町では見られない巨大な建築物などで全景が見渡せず詳しくはわからないものの、土地の広さだけなら他の都市の3倍はありそうだった。
それにやたらと高い建物が多い。一見すると零司の故郷にあるビルと見間違うほどの造りだ。
「けど、シーアークはある意味納得だけど――」
 驚いていた零司であったが、そのことに気付いてふと首を傾げた。
零司の言葉はある意味間違いではない。シーアークは海岸線を基点に半円状に広がっている。
なのだが、シーアークの4分の1ほどだろうか。海の上にも施設があるように見える。
たぶん、人工島なのかもしれないが、なぜあんな所にあんな物があるのか零司には気になったのだ。
「しかし、こんだけ大きいと思いっきり迷いそうだな」
「私も……ここまで大きいとは思いませんでしたの……」
 そんな懸念にため息が漏れる零司。他の都市でも図書館などの施設を探すのは苦労したのだ。
都市の人に聞けばいいとはいえ、他の都市よりも大きい分探す苦労も大きくなる。
そんなことを考えていたら、未だに驚いた顔のままのユーティリアの言葉に訝しげな顔をしてしまった。
「え? だって、ユーティの仲間が作った所じゃなかったっけ?」
「あ、その……戦争が終わって別れてから一度も会っておりませんでしたの……シーアークに来たのも今日が初めてですし……」
 その疑問にユーティリアは顔を背けながら答えるのだが、疑問を投げかけた零司は聞いて顔を引きつらせる。
なにしろ、科学と魔法の戦争は千年も前の話だ。となると会っていないのもそれだけの話となる。
なんでそんなに仲が悪かったのか聞きたい所だが、零司はあえて問わないことにした。
なぜか、勘が聞かない方がいいと働いているからである。
 まぁ、そんなこんなでシーアークに向かう2人であったが――
「た、助けてくださいでありますぅ〜!?」
 その途中で悲鳴が聞こえそちらへと顔を向けてみると、そこにいたのは1人の少女であった。背は少女姿のユーティリアより少し高い程度。
見た目的にはスリムな体型で、どこか制服を思わせるような青い服にスカートを着ており、その上に純白のマントを羽織っている。
背中まで伸びる金糸のように輝くブロンドの髪に、可愛らしく整った顔立ちに眼鏡を掛けていた。
で、その頭には獣のような耳があり、腰からふっくらとしたしっぽが生えていた。見た感じは狐であろうか?
どうやら少女は神類のようだが、野良と思われる4匹の神類に追いかけられている。
海に近い土地柄か、少女を追う神類は半漁人のような鱗と粘液をまとった人型だった。
当然、少女はそれから逃げているわけなのだが、なぜか零司達に向かってきていた。
「どうしますの、あれ?」
「何とかするさ」
 少女の方を指差すユーティリアに零司は間髪入れずに答えた。
見ればすでに腰を低く落とし、剣に手をかけ戦闘態勢にまで入っている。
状況的にも、このままでは野良の神類の突進を受けることになる。そして、道幅はそれ程広くないために馬車は確実に避けられない。
それ以前に零司としては少女を見捨てるつもりは毛頭無かった。
そんなわけで零司はいつも使ってる剣にエーテルをまとわせ、ユーティリアは手のひらに火球を生み――
割とあっさりと仲良く半分ずつ野良神類を追い返すのだった。
「ありがとうございますぅ〜」
「いや、気にしなくていいよ。俺達もあのままじゃ危なかったしな」
「それにしても、なぜ1人でこのような所に?」
 助けられた少女は頭を下げながら礼を言うのだが、零司はといえば右手を振りつつ遠慮しながら答える。
そこでそのことに気付いたユーティリアが問い掛ける。
いくらシーアークに近いとはいっても、野良の神類はいないわけではない。
当然、1人で出歩くのは危険なのだが――
「あ、いえ……本当はシーアークを出てすぐの所に自生してる研究用素材を取りに行ったんですけど……
なぜか、無くなってて……探してる内にシーアークから離れちゃってたみたいで……気が付いたら鉢合わせしちゃいまして」
「ふ〜ん……って、研究?」
 気恥ずかしそうに話す少女。それを聞いた零司は納得しかけた所でそのことに気付き、思わず問い返してしまう。
「はい、私はシーアークにある学院の研究員なんです。あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。フィオネ・ネーシカって言います」
「ああ、佐倉木 零司だ。こっちはユーティ……ユーティリアだ」
「よろしくですの」
「サクラギ レイジさんですか……珍しいお名前ですねぇ〜」
 自己紹介をする零司と頭を下げるユーティリア。
問われたことに答えたフィオネと名乗る少女は零司の名前に首を傾げながらも、どこか感心したような表情を見せていた。
零司の名前はアルカンシェラではありえない名だとは気か付かないままで。
「それはそうと、フィオネは研究員なんだよな? それなら色んな資料を見れたりするのか?」
「ええ、まぁ……物によっては許可をもらわなきゃなりませんけど」
「Yes!!」
 問われて首を傾げながらも答えるフィオネだが、問い掛けた零司はその言葉を聞いてガッツポーズを取っていた。
フィオネが研究をしてるというのならそれなりの資料がある所でやっているはず。
その資料の中に自分達が探している物があるかもと考え、それを見せてもらえないかと考えたのである。
まぁ、調べる物がある場所を探す手間を省くという理由もあったが。
「実は俺達はある物を探しているんだけど、それを探すためには色々と調べないと駄目なんだ。
それで見せれる範囲でいいから、その資料を見せてもらいたいんだけど、出来ないかな?」
「それなら別に構いません。一般開放されてる所もありますし、時間は掛かりますけど許可さえもらえれば重要な物も見れますよ」
「ありがとう。お礼にと言っちゃなんだけど、そこまで送らせてもらうよ」
「本当ですか? ありがとうございます! 私、攻撃魔法が苦手ですので、また野良神類に襲われたらどうしようと思ってたんです」
 それを聞いて内心喜びつつも笑顔で提案をする零司。答えたフィオネはそれを聞いて嬉しそうな顔をした。
そんな2人をジト目で見ているユーティリアには気付いてはいなかったが。
「ところで何をお探しなんですか?」
「あ〜、うん、そうだな――」
 そんなわけで零司達の馬車に乗るフィオネだが、ふと気になったことを問い掛けた。
それに対し、零司は悩みながらも大事なことはぼかして答えたのだが――
「海の向こうの大陸をですか? なんで、そんな物を?」
「あ、いや、その……そのことに関しては話しづらいというか……」
 更に疑問に思われて問い返されることとなり、元々隠し事が得意でない零司は非常に困った顔をして答えに悩む羽目となってしまった。
そのことにフィオネは首を傾げる。この時、フィオネには零司達を不審者だとは思ってはいなかった。
おかしな人達だとは思ってはいたものの助けられた恩があったので、そうは思えなかった。
ただ、彼女がそう思わなかったのはそれだけが理由ではない。
(でも、あれって簡単に無くなるような物じゃ無いのになぁ〜)
 そのことを疑問に感じていたからだ。フィオネが研究用の素材と言っていたのはある植物のことだ。
しかし、その植物は動物や野良神類の餌になるような物では無い。
強くはないが毒性を持っているので、食べられて無くなるというのは考えにくい。
誰かに採取されたというのも考えにくい。多量のエーテルを含んではいるが、そういった植物はアルカンシェラでは珍しい物でもない。
だったら、なぜ? と、そんな疑問に思考を割いていたのである。
 そんな一行を離れた所から見守る物が1人――
「ここに来ちゃったか〜。まぁ、邪魔したわけでもないし、当然と言えば当然なんだけど。
でも、もうちょっと来るのは先にして欲しかったわねぇ〜」
 などと、軽いため息混じりにぼやいていたのは占い師であった。
彼女はある目的でシーアークに来ていたのだが、それがまだ終わっていなかった。
そんな状態で零司達に来られるのはまずいわけではないが、少々困ったことになるのは避けられないことは予想できる。
まぁ、困ったことはすでに起こり始めてるが。なにしろ、その目的が原因でフィオネが探していた植物が無くなったりしていたし。
このままではシーアークの者達に気付かれる可能性もあるので、占い師としてはその前に終わらせたかった。
しかし、零司達が現れたことで、その目的が更に遅れる可能性が出てしまう。
「まぁ、あいつもうるさくなってきたから、ある意味好都合とも言えなくないけど。それに――」
 呆れた様子ながらもぼやき続ける占い師だが、ふと妖艶な笑みを浮かべて零司の後ろ姿を見た。
「あの坊やのことも気になるし、ちょっと手を出してみようかしら?」
 妖艶な笑みのまま人差し指を軽くなめる占い師。
その考えが後に自分の運命を変えてしまうとは気付かずに――


 さて、零司達はといえば、フィオネの案内で馬車に乗ったまま目的地へと向かっていた。
フィオネのおかげでシーアークにすんなりと入ることが出来、そのことに感謝してたりしたのだが――
「あれです。あれがアークス大学院です!」
「これが……か?」
 笑顔で目的地を指差すフィオネだが、零司はそれを見てユーティリアと共に顔を引きつらせる。
そこは広大な敷地にいくつもの大小様々な建物がいくつも立ち並ぶ所であった。
見た限りでは大きめな町ほどの規模がある。零司の故郷にも大学院はあるが、ここまでの規模は無い。
そのあまりの規模の違いに顔を引きつらせる羽目となったのだ。
「お、大きいのですのね……」
「ええ、ここは大学院ですけど、シーアークの政治の中枢でもありますから――」
「フィオネ? その方々は?」
 未だに顔を引きつらせたままのユーティリアの疑問にフィオネが笑顔で答えていると、そんな彼女に声を掛けてきた者がいた。
零司達が顔を向けると、そこにいたのは神類と思われる1人の女性がこちらを見ている姿があった。
年の頃は20代前半。背の高さは零司より少し低い程度。
スリムな体型を両腕をさらす形でシンプルなデザインで鮮やかな青のロングドレスで包んでいた。
青く艶やかな髪を一纏めにする形で結い上げ、宝石のような輝きを持つ瞳に高い知性を感じさせる美しく整った顔立ち。
そんな女性がなぜ神類と思われたかというと、両耳の後ろ辺りから髪飾りのように角が生えていたからである。
 そんな女性を見た零司は思わず見入ってしまうが、逆にユーティリアは慌てて顔を背けようとしていた。
それどころかフードを深く被り、馬車の奥に隠れようとしている。
「あ、リヴェイア様! 紹介します、このアークス大学院の総括理事でおります、リヴェイア様です。
リヴェイア様、この方々は危ない所を助けてくださったサクラギ レイジさんとユーティリアさんです」
「まぁ、そうでしたの。助手を助けていただきありがとう――ユーティリア?」
 フィオネに紹介されて、リヴェイアと呼ばれた女性は笑顔で頭を下げて――そこでなぜか固まる。
そのことに訝しげな顔をする零司とフィオネであったが、零司はリヴェイアが漏らした名前に気付いて顔を向けた。
で、リヴェイアに名を呼ばれたユーティリアはというと、なぜか馬車の奥で縮こまっている。
この時になって零司はユーティリアの状態に気付いたのだが、同時に非常に嫌な予感を感じた。
というか、すでに確信していたりする。2人の関係を――
 で、リヴェイアは何を思ったのか馬車に乗り込んで、ユーティリアの顔を両手でつかんで無理矢理自分に向けさせる。
その突然の行動にフィオネは驚いたような顔をするが、零司は逆に呆れた顔をしている。
「あ、ああ、あんた……ユーティリア!? なんでここに!? それより、なんでそんなに小さくなってるわけ!?」
「あ、あはは……お、お久しぶり、ですの……」
 明らかに驚愕しているリヴェイアだが、逆にユーティリアは引きつった顔をしていた。
その光景に目を丸くするフィオネだが、零司はやはりかとため息を吐く。
「え、あ、あの……お知り合い……なんですか?」
「なんだろうね〜……話は聞いてたけど、まさかいきなり大当たりとは……」
 戸惑いながら問い掛けるフィオネに零司はため息混じりに答えた。
そう、ユーティリアとリヴェイアはかつての仲間であり、ある理由で仲違いを未だに引きずっている仲である。
本当ならユーティリアはリヴェイアに会うつもりは無かった。なので、この出会いは彼女にとって予想外だった。
そんな想定外の再会を果たした2人。しかし、それがある事態のきっかけとなることに……
今はまだ、2人も零司も気付かずにいたのだった。




『あとがき』

■匿名希望

というわけでいきなりの再会で終わった今回の話。
うん、なんかはしょりすぎた感もありますが……いや、大丈夫だよね?
さて、今回の話からこの物語の核心に触れていくこととなります。
ユーティリアとリヴェイアは何者なのか? 零司の秘密とは?
そんなのに少しずつ触れていきます。ただ、2章ですべてが明かされる訳ではないですが――

ところで私のHN、さらした方がいいですかね?
いや、ここで見てる人ならすでにわかってる方もいるとは思ってますが……
そうした方がいいのかなぁ〜と考えてます。みなさんはどう思いますかね?
そんなわけで、次回でお会いしましょう。



■キ之助

バラシテシマエバイイジャナーイ
どうも今晩はキ之助です。え〜と、今回もなんか居るだけだったりします、ハイ orz
構成作業だの何だのです。え〜と、そんなわけでまた次回〜



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