『科学と魔法と――』
――― 記憶の落し物(その2) ―――



「まさか、あなたがここに来るとは思ってもいなかったわ」
 自分の執務室にある豪華な造りの机にある高級そうなイスに座りながら、リヴェイアは呆れたようにつぶやいた。
そのつぶやきをユーティリアはこれまた高級そうなソファーに縮こまって座っている。
で、その横で座っている零司は顔を引きつらせながらも苦笑していたが。
 さて、今はどのような状況下かというと、再会した直後に詳しい話を聞かせろとリヴェイアにこの部屋に連れてこられているのだ。
「あ〜……その……こんなこと聞くのも悪い気がするんですけど……2人って、やっぱり仲が悪いんですか?」
 そんな顔をしながらも、零司は気になったことを問い掛ける。
ユーティリアから2人の関係は聞いてはいたが、どうにもそのようには見えなかった。
どちらかというと、ユーティリアの方が遠慮しているように見えるのだ。
「そうね……わかりやすく言うと、ユーティリアの勘違いよ。
昔、ちょっとしたことがあったんだけど、彼女はそれが自分のせいだと思ってるみたいね。
実際は誰が悪いというわけでも無かったんだけど」
「いえ、あれは――」
「はい、ストップ。あの時も言ったと思うけど、あれはあなたのせいでは無いわ。
いわば、天災。あんなの予想でもしない限りはどうすることも出来ないわよ」
 話に反論しようとするユーティリアだが、話していたリヴェイアは右手を突き出して遮った。
このことに零司は2人に何かがあって、ユーティリアが一方的に罪悪感を感じていると見ていた。
そうなると、その何かが気になるところ。しかし、リヴェイアも今ので話さない所を見ると、簡単には聞けないと思えてしまう。
「それで、あなたはなんでここに来たの? それも人間と一緒で、そんな姿になってるのよ?」
「それは……」
 リヴェイアの問い掛けにユーティリアは何かを言いかけて、言えずにうつむいてしまう。
それを見た零司はこのままだと話が進まないと思い――
「まぁ、俺が知ってる限りなんですが――」
 自分が知りうる範囲で今までのことを話し始めた。
その話をリヴェイアは最初の方こそ静かに聞いていたが、話を続けていく内に顔をしかめていく。
「そう……私の危惧が現実になるなんてね」
「どういう、ことですの?」
「私達は記憶を失うべきじゃ無かったってことよ」
 その一言を聞いて訝しげな顔をするユーティリアに、漏らしたリヴェイアは答えてから真剣な顔を向け――
「確かに封印した物の秘密を守るという点では仕方が無かったのかもしれないわ。
でもね、私達はそれに関する多くの記憶を失ったせいで、それがどれ程までに危険な物なのかわからなくなってしまった。
それどころか、封印した物に関わったのが私達以外にいないとは限らないという、不確かな状況まで作ってしまったのよ。
あなたの所に現れた連中ってのはそういう奴らかもしれないわね」
 リヴェイアの話に零司はなるほどなと思った。
よくよく考えると、その封印したという状況が良くわかっていない。
なので、封印する最中を誰かが見ていたというのもありえなくは無いということになる。
そして、今になってその封印を狙ってユーティリアに接してきたというのも考えられる。
「そんな……」
「問題はもっと深刻よ。そういう奴らが現れたんなら、封印が解かれた場合の対処も必要になるわ。
本当なら、そうならないのが一番なんでしょうけどね。でも、もしもの場合を考えたら、そうしなきゃならない。
けど、封印した物がなんなのかわからないから、どのように対処すれば良いのかもわからない。
こんなことを今更言ってもしょうがないのだけれど……私達はやり方を間違えたかもしれないわ」
 戸惑いを見せるユーティリアだが、リヴェイアは構わず話を続けた。
しかし、その表情には悲壮感が見えている。確かに、彼女の言うとおりだった。
封印した物がなんなのかわからなければ、それに対しての対処はまず無理と言っていい。
下手をすれば、対処のつもりが最悪な結果になったというのもあり得るからだ。
「それじゃあ、どうするつもりなんだ?」
「そうね。何もしないわけにはいかないから、しばらくは情報を集めることになりそうね。
ただ、手掛かりが無いのよ。だから、何を調べたらいいのか、それがわからないのが現状ね」
 零司の問い掛けにリヴェイアは首を横に振りながら答える。
確かに封印した物がどんなのかわからなければ調べるのはほぼ無理と言ってもいい。
封印されてるのなら、それ関係を調べればと思われがちだが、アルカンシェラではそういった物は実は珍しく無かったりする。
科学と魔法との戦争の産物による物だが、意図不明な物が少なくないのだ。
なので、調べるのがどうしても難しくなってしまうし、封印した物がどんな物かわからないので、その中に正解があるのかどうかもわからない。
「なぁ、ユーティリアをさらった奴らを調べることって出来ないかな?
もしかしたら、そいつらが何か知ってるかもしれないし」
「なるほど……そいつらのこと、教えてもらえるかしら?」
「ああ。けど、俺達もそれ程知ってる訳じゃないんだけど……」
 あごに手をやり、納得と言った顔をするリヴェイアに提案した零司は困った顔をしながら後頭部を掻いていた。
というのも、ユーティリアをさらったボスと思われる者は殺され、あの占い師も顔などが隠されていて良くわからない。
後はあの時に捕まえた部下達だが、どれだけ知っているかは不安な所だ。
「なるほどね。そちらの方はこちらで頼んでみるわ。
さてと、あなたのことだけど……たぶん、期待に添えるのは無理だと思うわ」
「え?」
「というのも……遠洋調査とかは、こっちじゃあまり進んでないのよ」
 そのことを聞いて呆然とする零司に、話していたリヴェイアはすまなそうな顔をしてしまう。
アルカンシェラでは遠洋調査はあまり行われていない。理由は造船技術が高くないことが大きい。
どれ程かをわかりやすく言うと、中世の大航海時代よりマシ程度でしかない。
なぜ、そうなってしまったのか? これもまた科学から魔法へと移った弊害である。
確かに魔法を用いれば科学で普通に造るよりも丈夫な素材を製造するのは可能だ。
反面、専門の魔法を使う人が複数必要などの理由で大量生産は利かないので、高価な物となってしまう。
色んな素材が大量に必要となる大型船舶ともなれば、掛かる費用はあまりにも膨大な物となるのだ。
むろん、そういった船舶には魔法によるコーティングなどは行っているものの、普通よりは長持ちする程度でしかない。
それに動力も帆に魔法で風を送るか、潮の流れをある程度コントロールするかになってしまう。
それらを魔法で行うにしても、魔法具を使うにしても楽な物では無い。
他にもあるが、それらの理由で長期の航行が必要となる遠洋調査が難しく、敬遠されてるのだ。
まぁ、遠洋調査を行おうとする者がアルカンシェラにほとんどいなかったのもあるが――
「そういうわけで、あなたが言う大陸の場所はわかってないと思うわ。
まぁ、見つけていたら、まず間違いなく攻め入ってるでしょうけど」
「そうか……」
 リヴェイアの言葉に零司はため息を漏らすが、内心攻め入るという言葉が気に掛かっていた。
ちなみにリヴェイアのこの言葉は比喩でもなんでもない。アルカンシェラでは今でも科学を禁忌と見ているのが少なくないのだ。
そしてそれは技術立国であるシーアークでも例外ではない。
実際、科学に興味を持った学者がある集団に捕まり、極刑を下されたという話も最近あったことである。
「ごめんなさいね。あまり役に立てなくて」
「いや、俺の場合はあてでもあればって思ってたくらいだから……」
 そのセリフにリヴェイアは少し意地悪な笑みを浮かべ――
「その大陸の話をまず私に話しておいて良かったわね」
「え?」
 その様子に零司はきょとんとした表情を浮かべたあと真っ青になる。
「もし私が反科学主義だったら帝都に告発してたところよ?
ま、私は少なからず技術開発に科学を利用させてもらってるからそんな気はないけど」
「そ、そうか……」
 その言葉に零司は胸をなでおろす。千年前の事とはいえ、未だに科学と魔法の確執があるのを忘れていたのだ。
そのことと考えるとリヴェイアの話もあながち間違いとは言えない。
「い、以後気をつけます……っと、それはともかく、ユーティの方が深刻だろ? これからどうする気なんだ?」
「それは――」
 意地悪な問いを発したリヴェイアに零司は苦笑混じりに反省の言葉を返していた。
一方で問われたユーティリアは言葉に詰まっていた。深刻な事態だとは思ってはいたが、まさかここまでとは思ってもいなかった。
故に一刻も早い解決をとは思うのだが、その手段が思いつかないのである。
それを察したのだろうか? リヴェイアはため息を吐き――
「どう? あなた達しばらくはここに滞在してみない?」
「え?」
「いいんだろうか? こう言ったらなんだけど、ユーティリアを狙ってる奴らの厄介ごとに巻き込むかもしれな――」
「その点に関してはご心配なくと答えておくわ。もし、その話した通りなら、そいつらは私も狙ってくることもありえるもの。
だったら、ここにいた方がまだ安全だわ。警備隊の守りとかもあるもの」
 その提案にユーティリアと共に戸惑いを浮かべながらも問い掛ける零司に、リヴェイアは肩をすくめながら答えた。
確かに彼女の言う通り、ユーティリアを狙っている連中が何かの封印を目的としてるなら、それに関わったリヴェイアも狙われる可能性はある。
だとすれば、一緒にいた方が色んな意味でやりやすくなるし、この都市ならばそういった守りも強い。
「だったら、俺としては文句は無いけど……ユーティはどうかな?」
「わ、私は……」
「いいからいなさい。それに他にあてはあるの?」
 ユーティリアを気にしながら答える零司に対し、ユーティリアは戸惑いを見せていた。
なにしろ、ここには居辛かった。だって、私はリヴェイアに――
それを察したのか、リヴェイアはため息混じりにそう言い放つ。それに対し、ユーティリアは答えられなかった。
今まで色んな都市を回ってきたが、封印に関する手掛かりを見つけることは無かった。
いや、それらしい物を見かけることすら出来なかったのだ。むろん、調べ続ければ何かわかるかもしれない。
しかし、あてがない現状では、それがいつになるかがわからない。
結局、ユーティリアはうつむいたまま、その提案を断ることは出来なかったのだった。




 あとがき


どうも、匿名希望です。3話目はいかがだったでしょうか?
今回は封印された物をクローズアップしてみました。果たして、封印された物とはいったい?
さて、次回の方ですが、リヴェイアはユーティリアに自分達のことを問い掛けます。その真意とは?
一方、珍しく1人で出歩く零司の前にレグナードが現れて――というようなお話です。
少しずつ物語の核心に触れていく今回のお話……グダグダになりそうです(おい)
そんなわけで、次回でまたお会いしましょう〜


どうもこんにちはキ之助です。暑い日が続きますね、ちゃんと水分を取って倒れないようにがんばりましょう。
なんかまだ明かせない設定とかが多くてアレなんですけどちゃんと私も仕事してます……してるんですってば!!
ではではそんなわけで今日はこの辺で〜

そろそろタイトル画像変えましょうかしら…



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