『科学と魔法と――』
――― 記憶の落し物(Epilog) ―――
「まったく、暴食者が現れた時はどうしようかと思ったけど、思ったよりも被害が少なくて良かったわ」
執務室の窓辺で外を眺めるリヴェイアはため息混じりにそんなことを漏らした。時は夕暮れ――
窓の外からはエーテル街頭と飾り付けられた電球が広場を照らし、多くの兵士達が戦いを労いあっている癒している。
そんな光景を見まわしていると、目の端に妙に盛り上がっている人だかりが目に入ってきた。
「何でこんなことに……」
その盛り上がりの中央に位置する人物、は呆然とした表情でぼやいた。というのも――
「チャーンープっ!!チャーンープっ!!」
零司のことをチャンプとたたえる――いや、煽っている兵士達。
そして大量に積み上げられた皿と、その中に埋もれるようにテーブルの上に突っ伏している太った男。
佐倉木零司は今まさにシーアーク市内大食いチャンピオンとしての称号を賜ったところであった。
本来であれば、兵士団のしきたりとして『腕比べ』へと借り出される所であったが……
零司自身今回の戦いで大技を繰り出したことによって身体が動かなかった為、大食い大会へと誘われていた。
「いや、大食いとかも身体に負担がかかるもんなんだけどぉ!?」
零司のそんな叫びもむなしく、強引に戦場である食卓へと座らされてしまう。
しかし結果はごらんの有様だったりする。積み上げられた皿の量たるや山の如し。
その量を胃袋に収めているにもかかわらず見た目平然としている零司の姿を見て、リヴェイアは軽く引いている。
「あなたの契約者、食いすぎじゃあないかしら?」
「私もビックリしてますの。零司は食べる方ではありましたけれど、あんなに食べるとは思いませんでしたの」
リヴェイアの問い掛けにユーティリアも顔を引きつらせながら答えていた。
その後に「あと、零司と私はまだ契約していませんの」と、付け加えつつ紅茶を口に含んでいたが。
確かに零司は食べる方ではあった。ただし、それはあくまでも普通から見たらの話だ。
いくらなんでも異常な量を食べる程では無い。なので、零司が今見せた異常な光景にユーティリアも思わず引いてしまったのである。
ちなみにこれが後に問題となるのだが――今はまだ、そのことに誰も気付くことは無かった。
「契約してないんだ……へ〜」
ユーティリアの何気ない返答に何か含むところがあるのか、リヴェイアは考え込み始める。
零司の見せた「波動牙」は別のエネルギーに変換されたとはいえ、元々ユーティリアの持つ炎属性のエーテルだった。
契約無しで神類の力を使用する。それは契約による加護無しに他の神類からエーテルを奪い行使できると言うことに他ならない。
魔法大陸アルカンシェラの社会基盤はエーテルであり、その無尽蔵ともいえるエネルギーリソースにより科学力によらない社会基盤を持てている。
本来エーテルは契約などで固有の回路を形成した存在でないと使用ができない。
エーテルは、契約により必要以外の事では行使できないと言う前提があって成り立つ基盤である。
しかし、エーテルを奪うことが出来る科学兵器、引いては零司の存在は『この世界』を揺るがしかねない。
そのことでリヴェイアは、さらに深く考え込むのであった。
暴食者襲撃から2日。消耗の激しかった零司も丸一日の休息と食事で動くには問題無いくらいに回復している。
また、シーアークはいつもの日常を取り戻していた。といっても、それは被害が無かった所だけ。
被害を受けて破壊された場所は現在被害状況の調査とガレキ撤去が行われている。
幸いといっていいかはわからないが、被害が出たのが人が少ない外周地域であったこと。その為、一般人の人的被害はほぼ皆無であった。
また、被害を受けたのが半ばスラム街と化していた場所でもあったのも幸いした。といっても、この場所を選んだのは意図的であるが。
なにしろ、治安の問題があったのだ。なので再開発を考えていたのだが、それが中々出来ずにいたのである。
出来なかった理由は様々だが、被害の修復を理由に再開発に乗り出すことが出来たのだった。
「あ〜、それで……俺達はどうすればいいんだ?」
「その辺りはねぇ……まぁ、長居はお勧め出来ないのは確かだけど」
で、ユーティリアと一緒にソファーに座る零司の問い掛けに、リヴェイアは考える仕草を見せながら答える。
あれから翌日には『腕比べ』が行われ、多数の兵士達と対戦することになったが、程ほどに戦績を残した零司は先日の暴食者退治の功労者――
ということもあり兵士達に半ば仲間として受け入れられていた。一部からは英雄視もされていたわけだが、本人はその事実は知らなかったりする。
が、それで良かったというわけにもいかない。なにしろ暴食者を倒す際、科学兵器を使ったのだから。
現在はユーティリアの契約者であり、剣にエーテルを帯びることができる魔術師、魔剣使いとして誤魔化しているが、コレがいつばれるとも限らない。
なので、リヴェイアとしては用意が出来次第、2人にはシーアークを離れた方がいいと伝えていたのだった。
ただでさえボロが出やすそうな2人である。長居させる程リヴェイアも悠長ではない。
「ですが、封印の情報を調べないといけませんですの」
「それもあるのよねぇ。暴食者のおかげで、その辺りは全然手つかずだもの」
少しうつむきながらそのことを漏らすユーティリアに、リヴェイアもため息混じりに同意した。
暴食者の襲撃のおかげでユーティリアが探す封印のことを調べるのが難しくなった。
というのも、襲撃の被害の復旧に人員を取られているからだ。
それでも出来なくもないのだが、手掛かりが無い状況では人手が無いと効率が悪すぎる。
せめて、手掛かりがあればいいのだが……と悩むのだが、解決策が見つからない状況だった。
一応、零司達には再び旅に出てもらい、その間に調べて通信などで伝える方法もなくはない。
ただ、零司達――正確にはユーティリアを狙う者達がいるので、それを狙われてということも考えられたのだが。
「そのことはこれから考えるとして、ちょっと零司にお願いしたいことがあるのよ」
「お願いしたい、ことか?」
と、リヴェイアの言葉に零司は訝しげな顔をする。
お願いされることは別に問題では無い。暴食者との戦いで倒れた所を助けられ、治療や食事も提供してもらったのだ。
自分で出来る範囲でならば、手伝いなどしても構わない。だから、それ自体は問題では無いのだ。
問題なのは……なぜ、リヴェイアが興味深げといった表情をこちらに向けてくるかだが――
「大丈夫、あなたは座ったままでいいから」
「いや、そのままでいいって、うえぇぇ!?」
「な!?」
リヴェイアの言葉に顔を引きつらせながらも警戒していた零司だが、突然のことにユーティリアと共に驚くはめとなった。
というのも、リヴェイアがいきなり座っている零司に密着してきたからである。
「ん〜、やっぱりか。いえ、予想以上だわ……これって――」
「やっぱりって、何がですの!? なんで抱きついてますの!?」
「抱きついてなんかないわよ、触れているだけ」
で、抱きついてるリヴェイアはなぜか納得顔をしてるのだが、それをたしなめる……というか、完全に怒ってるユーティリア。
それに対してリヴェイアは気にした風も無く答える。小声で全身でねと付け加えてたりするが。
「why!? 何? 突然何!?」
一方、抱きつかれてる零司は顔を真っ赤にして固まっていた。
というのも、なんでこうなったのかまったくわからないのだ。試すとは聞いてはいたが、いったい何を試そうというのか。
「いやね、彼に直接触れると霊核が回復してるみたいなのよ。回復といっても微々たるものだけど。
でも、この調子でいけば完全にとはいかなくても、普通に力を行使出来るくらいにはなるかもと思ってね」
と説明するリヴェイアだが、実は少し嘘を付いていた。
暴食者の襲撃で零司に助けられた時に、自身の霊核の変化に気付いたリヴェイア。
実際の所、回復どころではない。ゆっくりではあるが過去破壊され失われた筈の部分が再生しはじめている。
上手くいけば全盛期の力を取り戻せるかもしれない、とリヴェイアは考えていたのだ。
このことはユーティリアはおそらく気付いていない。というのも、彼女も今は全盛の力とは程遠い。
なのにわざわざ零司に添い寝とかを願って出ている辺り、無意識下では理解しているのだろうと思った。
「ですからって、って零司?」
どこか期待感に興奮気味に説明するリヴェイアであったが、一方でユーティリアは複雑な心境だった。
確かに自分が原因でリヴェイアの霊核が傷付いてるのは確かであり、それを直す手立てが見つかったのはいい。
だからといって、そんなあからさまなことをしなくてもいいのではと思ってしまうのだ。
が、ここでユーティリアはあることに気付く。零司の顔が引きつっていることに――
「まさか……リヴェイア! 離れて!」
「え? なに!?」「おぶっ!?」
ユーティリアの叫びにリヴェイアが訝しげな顔になるが、その一瞬後に零司の頭に小さな霊気弾が炸裂した。
爆発は一瞬にして零司の意識を刈り取り、そのまま背中から落ちる形で床に倒れていく。
「ふう、危ないところでしたの」
「何? 何? なんなの?」
目の前で密着している人物の頭がパーンと弾けたのを見たリヴェイアは何が起こったかもわからず目を白黒とさせている。
一方でユーティリアは額の汗をぬぐいながら零司に近づき、白目を向いている顔を引き寄せ、唇を重ねた。
零司の「突発的な発作」がまたおこり、近くに居るリヴェイアからエーテルを「吸引」しようとしたのだ。
ユーティリアからすれば、この1ヶ月に零司に何度もエーテルを補充する為に唇を何度も捧げてる。このことに不満は無い。
零司の体が求めてることだし、彼のことを大事にも思っている。それにされることに嬉しく感じる自分もいた。
だからこそ、親友であるリヴェイアの唇を零司が奪うことはユーティリアしては我慢のならない想いだったのだ。
「ん、あ……」
「………………っ…」
キスの途中、ユーティリアは零司が意識を取り戻したのを見て唇を離した。
その後、零司は軽く頭を振って正気を取り戻し――
「……あ、俺はまた……」
「零司、いくらなんでも見境なさすぎですの」
「いだだだだだ!!?」
零司の量こめかみに拳をあててグリグリと圧迫する。で、されてる零司は本気で痛がっていた。
見た目は女の子なれど、ユーティリアも神類である。持っている力は普通の青年男子よりも強いのだ。
「て、ユーティもやめて!? いや、マジでごめんなさいって!?」
少しして零司から離れていったが、リヴェイアはその二人のやり取りを見てうらやましそうな表情を見せていた。
だが、不意に脳裏に何かがよぎる。懐かしい……それ自体は正確な意味では無いのだが、それに近い感覚がよぎったのだ。
それと共にリヴェイアの霊核が力強く鼓動した。傷が治った事とは関係ない。霊核が何かに反応するようにして鼓動したのだ。
一方、零司は見事な土下座を見せていたが、両手に炎を持つ怒ったユーティリアから逃げ惑うはめとなる。
だが、リヴェイアはそのことを気にしてはいられない。今も霊核は鼓動している。
流石に少しずつ収まってきてるが、それによって感じることが出来たのだ。
霊核の再生が確実に早まっていること。それは零司がユーティリアからエーテルを分け与えられた影響によるものだと。
そのことを感じながら、リヴェイアは零司に顔を向ける。彼は未だにユーティリアに追いかけられていたが。
そんな彼を見て、リヴェイアはあることを思いつく。この時、彼女の表情は妖艶なものだったりするのだが――
この時は誰もそのことに気付くことは無かった。
で、それから数時間後――
「旅に出る……のですか?」
「ええ、そうよ」
疑問を浮かべるフィオナに自分のイスに座るリヴェイアは笑顔でうなずいた。
ちなみに零司とユーティリアは執務室のソファーに座っている。零司の方は少しばかり焦げてたりするけど。
「なんで、この時期になんですか?」
が、フィオナは納得出来ずに問い返していた。この時期というのは暴食者による被害の修復のことだ。
全てというわけではないが、リヴェイアが決済しなければならない事項もあるのである。
「流石に今すぐって訳じゃないわ。旅の準備とかもあるもの。その間にやっておくべき仕事はやっておくつもりよ。
それと旅に出る理由もちゃんとあるのよ」
「と、言いますと?」
「私が必要と感じたから。それじゃダメかしら?」
話を聞きながらも問い掛けるフィオナに話していたリヴェイアは視線を外さずに答えた。
その話を聞いていた零司とユーティリアは思わず顔を向けてしまう。
「ま、旅に出ている間は定期的に連絡を入れるつもりだし、数ヶ月以内には戻ってくるつもりよ。
それにこのシーアークは私1人で動かしてるわけでもないもの。それくらいなら、離れていても大丈夫でしょ?」
「はぁ、確かにそうなんですが――」
「さっきも言ったけど、今すぐに出る訳じゃないから。詳細は追って説明するわ」
リヴェイアの話に疑問を浮かべながらも「わかりました」とうなずいたフィオナは挨拶をしてから執務室を去っていった。
それを確認するとユーティリアは立ち上がり――
「本当に……付いてくるんですの?」
戸惑い気味にそんなことを聞いてくる。というのも、リヴェイアは零司とユーティリアの旅に同行しようとしてるのだ。
そのことはフィオナが来る前に聞かされてはいたが、なぜそんなことをするかまでは聞いていなかったのである。
「私が必要だからと感じたというのは嘘じゃないの。さっきも言ったけど、零司に直接触れることで私の霊核は回復したわ。
どうしてそうなったのかを私はそれを知りたいのよ。まぁ、私としては慰安旅行みたいなものかしらね」
そんな問い掛けにリヴェイアは真剣な顔で答える。今回の事で零司はただの人間では無いことがわかった。
ただの人間がユーティリアのエーテルを吸うだけで無く、触れただけでリヴェイアの傷付いた霊核を治したりは出来はしない。
それなのに零司は出来た。このことにリヴェイアは強い興味を感じたのである。
「常時ヒーリングのスペルがだだ漏れになっているようなものだもの。なぜそうなってるのかを確かめておきたいのよ」
それにもしかしたら魅了も漏れてるいかも。
などととユーティリアのベタ惚れっぷりを見て話していたリヴェイアはそんなことを思っていたが。
(この子は単純だしね〜)
ちなみに今回だけでなくユーティリアがエーテルを吸われてるということは零司が焦げた後に聞かされたのである。
それがユーティリアには愛情表現の一種に思えて、零司に懐いているのではと推測したのだ。
「それとこれは回復している事に関係あるかはわからないのだけど、零司に触れている時にある言葉が浮かんだのよ」
「う……」
「言葉、ですの?」
未だに真剣な顔のリヴェイアの話に零司は気まずそうに呻くが、ユーティリアは訝しげな顔を向ける。
それに対し、リヴェイアは静かにうなずき――
「そう……ラシュタル……そんな言葉が浮かんだわ」
「ラシュタル? ラシュタル……」
答えるのだが、それを聞いたユーティリアはなぜか考え込んでしまっていた。
聞き覚えがあるのだが、それがどんな物かまで思い出せないのだ。
「ユーティ? あ、えっと……ラシュタルって、何?」
「私の記憶の中でラシュタルに該当するものは一つだけよ。第93番封印指定地区というのがあって、その土地の名がラシュタル。
この大陸の中に数あるエーテル枯渇やエーテル汚染で封印された地区の中の一つ。そこは生物は愚か植物――こけすらも無い不毛の地なの」
そんなユーティリアの様子が気になりながらももう1つのことを聞いてみる零司。
それに対し、立ち上がったリヴェイアが静かに答えていた。
「なぜか、その言葉が気になりますの」
「あなたもなの……私もこの言葉を聞いてからどうにも気になって……調べてみようと思ったのよ。
まぁ、場所とは限らないから、ここの研究員達に他にもないか調べてもらうつもりだけど」
考え込みながらもそのことを漏らすユーティリアにリヴェイアも考えながらもそう漏らした。
ラシュタル――それが零司達が探している物がある場所なのかはわからない。だが、他に手掛かりが無いのも事実だ。
その言葉に関係する物が他にもないか調べてみると共に、その間にその場所へ向かってみようとリヴェイアは言ってるのである。
「じゃあ、まずはそこに行ってみるということになるのか?」
「そうなるわね。でも、私の方で色々と準備があるから、向かうのはそれからってことになるけど」
零司の疑問にユーティリアは顔を向けながら答えた。他に手掛かりが無い以上、今はそのラシュタルに向かうしかない。
むろん、確実とは言えない。ユーティリアとリヴェイアが気になってるだけで、実は関係無いというのもありえるのだ。
それでも現状はそこに行くしかなかったのだが――
それから2週間後――
リヴェイアの仕事と準備でここまで掛かってしまった。その間にちょっとしたことがあったのだが――
こちらはいずれ機会があった時に話そう。それはそれとして、零司は立ちすくんでいた。
「何、これ?」
思わず問い掛けてしまうのだが、何があったかというと自分の魔導馬車の荷台の後ろに一回り大きな物が繋がれていたのだ。
一言で言うなら車輪が付いた木製の小屋。ただし、その造りはしっかりとしており、シンプルながらも豪華な装飾が外壁に施されていた。
「そっちは簡易の寝床よ。ラシュタル周辺は村1つ無い上に気候が不安定なの。
だから、少しでも安心して寝られるように用意したわけ。魔法具で中は3人でも不自由ない位の広さにしてるしね。
それとあなたが使ってた荷台と魔導具は補強しておいたわ。場所が場所だけにしっかりした物にしておいた方がいいもの。
ああ、荷台は食料とかの運搬用にするから」
「引っ張る魔導具が2つあるのはそういうことか。でもこの装飾とかはいらないんじゃ――」
「さて、準備準備」
説明に零司はうなずくが装飾の話題を出した瞬間、リヴェイアが話をそらした事に首をかしげる。
そのことに奇妙に思いながらも零司は馬車を改めて見てみた。
確かに使っていた荷台も造りがしっかりした物になっており、馬車を動かす魔導具も少しばかり形が変わっている。
また、その魔導具と同じ物がもう1つある。引っ張る物が増えたので、それに対応する為だろうと零司は考えたが。
ちなみにリヴェイアはこの時説明していなかったが、寝床部分には簡易的なシャワーもある。
ラシュタルに入れば数日は探索することになるだろうという考えからの対処であったが。
「にしても、本当に付いてくるんですの?」
「私としても傷の方は治しておきたいの。こうやって隠しておくのも結構辛いのよ?
ま、今は零司のおかげで簡単な物なら行使出来るようになったけど」
一方、少し不満げなユーティリアの問い掛けにリヴェイアは苦笑気味に答えた。
この2週間の間、リヴェイアは治療として1日に小一時間ほど零司にひっついていた。
立場上、零司にひっついている所を見られるのは問題があったので、その程度しかやれなかったのだが。
でも、そのおかげで簡単な魔法なら使えるまでに回復したのである。
「今はまだ魔道書とかの補助が必要だけど……いずれは――フフフフフフフフフフ」
「リヴェイア……怪しい感じですの」
目が妙に輝くリヴェイアに、零司とユーティは背筋に冷たいものが走るのを感じたのだった。
それはそれとして、リヴェイアが旅に同行するのは封印が気になるのもあるが、治療をする為でもあった。
長時間一緒にいられる方が治療が進むと考えた為だ。
「リヴェイア様、準備が整いましたが……本当に行かれるのですか?」
「そう不安そうな顔をしないの。今回は事情があるのは確かだけど、骨休めというのもあるのよ。
まぁ、こんな私が言えた義理じゃないけど、私がいない間のシーアークを頼んだわね」
「は、はいです!」
不安そうなフィオナにリヴェイアがそう言い聞かせると真剣な顔で返事をした。
そのことにリヴェイアは苦笑しつつも魔導馬車に乗り込み、シーアークの者達に見送られながら零司達と共に出発するのだった。
で、移動中は魔導馬車を零司に抱きつくリヴェイア。
「あ〜、キく〜〜〜〜」
気の抜けた表情で、脱力のままにほぼ寄りかかっていると言う感じである。
ユーティリアはユーティリアでそんな彼女に対抗心を燃やしてか、反対側から零司に抱きついていた。
「コレ、岩盤浴の岩盤扱いだよなぁ……」
これに困ったのは零司だ。2人を嫌うつもりは無いが、かといって対処にも困る。
何よりユーティリアの体温は炎の神類だけに熱いし、リヴェイアは見た目海龍の神なので体温が低いのである。
そのおかげで体調がどうにかなってしまいそうなのが現状だった。
なので離れて欲しいのだが、引きはがそうとすると泣きそうな顔をしてくるのだ、2人とも――
それに2人とも女性であり、女性特有の柔らかさと暖かさを直に感じる。
これには男としての何かを刺激され……だから、余計に困る。2人を襲うわけにもいかないし。
いや、確実に返り討ちにあうけどと零司は考えていたりするけど。
「男としては役得だけど、こんな目を見てると絶対どっかで悪いことが起こるよコレ」
良い目にあった後には必ず災厄が降りかかる。経験則から言ってもソレは間違いはない。
なまじ、零司の場合は両極端なので、そのことが気掛かりでもあった。
「あら、女神を二人も引き連れて不幸なんかに怯えるの?」
「そういうわけじゃないけどさぁ……」
ジト目のリヴェイアに顔を引きつらせながらも答えつつ嫌な予感がよぎる零司。
そんな予感に戦々恐々としているその時だった
「ん? 何?」
「なんですの?」
リヴェイアとユーティリアが何かに気付いて、顔を前方へと向けた。
零司も気付いて魔導馬車を止める。直後、零司達から少し離れた前方で光の柱が現れたのだ。
「なんですの、あれ?」
「わからない……けど、魔法じゃないわね」
警戒するユーティリアとリヴェイア。光の柱は大人4・5人が輪になった程の太さ。
それが天まで届かんばかりに伸びているのだが、2人が警戒したのはそこでは無い。
光の柱から妙な力を感じるのだ。エーテルだとは思うのだが、それとは違う気配も感じるのだ。
その力を感じるが故に2人は警戒したのである。また、2人の話を聞いて零司もすぐに動けるように警戒した。
それから少しして、光の柱は徐々に薄れていき――やがて、完全に消えるとそこには1人の女性が両目を閉じながら立っていた。
その女性を見て、ユーティリアとリヴェイアは訝しげな顔をする。
女性はエメラルドグリーンに輝くショートヘアに、知的に整った顔をしている。
そこまではいい。問題はその後であった。女性の両耳は長く先端がとがっていた。
「エルフ種!? ここは彼らの生息地ではなかったはずだけど……それに――」
リヴェイアはそこで言葉を区切った。と言うのも、相手のエルフが自分の知るエルフの格好とあまりにもかけ離れていたからだ。
霊的にピュアな種であり目が良いはずのエルフが分厚いメガネを掛けている。
それに着ている物も体のラインが丸わかりするほどに光沢を放ちながらフィットした物であった。
もし、今羽織っている赤いジャケットが無ければ、裸にも見えたかもしれない。それに両手には手甲と思われる防具らしき物もある。
普通のエルフ種ならば――いや、メガネ以外はアルンカンシェラ大陸でも見られない服装だった。
そんな女性に警戒するユーティリアとリヴェイア。その為か、零司が驚愕の表情を浮かべていることに気付いていない。
そんな中、女性が両目を開き、青い瞳を向け――
「ふむ、どうやら無事に転送出来たようだな」
「し、師匠………………ッッ!!?」
「「師匠?」」
女性が微笑みながらそんなことを漏らすと、零司はなぜか顔を青くし冷や汗が大量に流れ出していた。
そんな彼の姿を見て、ユーティリアとリヴェイアは疑問の色を浮かべるのだった。
あとがき
■
というわけで2話のエピローグでした〜
そして、唐突に現れたエルフはいったい何者なのか?
それは次回プロローグにて。次回からは零司の秘密にも触れていく予定です。
あくまで予定……だって、次回は冒険回だしな〜……
というわけで、次回またお会いしましょう。
by DRT
■
原案のげの字程も仕事をしていない僕です。
次回はブーストかけたいなと思います。
本当はこの話で男が出したかったのですが……
構想当初の原案は、犠牲になったのだ……
by キ之助
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