『科学と魔法と――』
――― 彷徨う者達の道標(その3) ―――



「そういえばさ、エレナさんって身内とかいるの?」
 亜季達と出会った次の日の朝。不意に亜季がそんなことを尋ねてきた。
この問い掛けにレグナードは一瞬悩む。神類自身が結婚でもしない限り、基本的に家族と呼べるものは存在しない。
”生まれ方自体”が人とは違うのだから当然なのだが、そこでレグナードにあることがひらめく。
これならばユーティリアを誤魔化すことが出来るかもしれないと考え、そのことを話す事にした。
「同時期に生まれた妹のような者はいます。今は行方知れずですが――」
「妹さんが行方不明?」
 レグナードの話に亜季は訝しげな顔をする。もちろん、レグナードに妹などおらず、全くのウソだ。
ただ、今後の行動を円滑に進める為にでっち上げたにすぎない。もっとも、亜季達が信じてくれるかは微妙な所ではある。
このご時世ではありえる話ではあるが、ベタすぎるという難点もあるのだ。
「な、何で妹さんは行方知れずに?」
「妹も私のような仕事をしておりますから、その時に……と思います。
なにしろ、いきなり行方がわからなくなりましたから……今も探してはいますが、手掛かりは未だに――」
 戸惑い気味な亜季の問い掛けにレグナードは話してから首を横に振る。それと共に内心はほっとしていた。
というのも、話を聞いていた亜季が泣きそうな顔をしているのだ。亜季の様子を見るに信じてくれたらしい。
これならユーティリアを誤魔化すことが出来ると考える。ただ、問題は零司だ。
零司は自分のことを知っている。なので、口裏を合わせて欲しい所だ。でないと簡単に破綻しかねない。
「あ、えっと……そろそろ行きませんと。仕事の期限が迫っていますので」
 ふと、レグナードは困ったような戸惑ったような表情を見せながら言い出す。
一刻も早く零司に会い、このことをお願いする為に行動しようとしたのだ。
しかし、結論から言えばその目論見は失敗に終わっていた。というのも――
「あ、それなら私達も一緒に行くわよ」
 なんてことを亜季が言い出したのである。これに内心慌てたのはレグナードだ。
予想はしてはいたが、それでは零司に秘密裏に会うのが難しくなる。
それは避けたい所なのだが――
「その……仕事上、ご一緒するわけには……」
「ああ、大丈夫。目的の町まで送ってくだけだから。それに野良の神類がまた襲ってくるかもしれないしね。で、どこまでなの?」
 断ろうとするレグナードだが、亜季の返事に困ることになった。
確かに亜季の言うことはもっともだ。普通に考えたら、そのことを警戒するのは当たり前である。
このことにレグナードは自分の失策に気付いた。昨日、野良の神類の群れに追いかけられた際、追い払う程度のことはするべきだったと。
どうやら、亜季は自分のことを弱くは無いが、多数に対しては強くは無いと見ているようなのだ。
そのことは亜季の勘違いなのだが、今更訂正するわけにもいかない。
先程の嘘がばれると逆に怪しまれることになりかねない。
「そう、ですか? では、お言葉に甘えて……リディアブルームまでお願い出来ますか?」
「あ、そこならちょうどいいわ。私達もそこに行こうと思ってたしね」
 結局の所、レグナードは頭を下げることとなった。
今更断って、それが元で疑われては後々支障をきたしかねない。
そんなわけでレグナードは亜季達と共にリディアブルームに向かう事になったのだが――
「あ、あの……なんですか、それ?」
 それでは出発、という時にレグナードは顔を引きつらせるはめとなる。
何があったのか? それは1台の荷台であった。荷台自体は馬などが引くのに使う普通の物。
それ自体は問題は無い。あるはずが無いのだ。なのに、問題があった。何が問題かと言えば――
「な、なんでグレンさんが……荷台を引いてるんです?」
 そう、その荷台をグレンが引いていこうとしていたのだ。
荷台自体はそれなりに大きい。なので、無理ではないが人1人が引くには厳しすぎると言ってもいいだろう。
そんな荷台をグレンは1人で引こうとしているのだ。しかも、その荷台には亜季がしっかりと乗っていたりする。
「とりあえず、売れる物を売って、そのお金で食料とか買い込もうと思ってね」
 なんてことを笑顔で話す亜季。良く見れば、荷台の中には捌かれた肉がぎっしりと詰まっている。
それだけでもかなりの重量になると思うのだが――
「だい、じょうぶ、なんですか? かなりの重さだと思いますけど……」
「だいじょぶじょ〜ぶ。グレンは力持ちだしね」
 顔を引きつらせてるレグナードの問い掛けに亜季は笑顔で答えるのだが……
いや、確かにグレンは体格がいいので力持ちだろうが、どう見ても彼は”人間”だ。
だから、出せる力にも限界があって、これはどう見てもそれを超えてるように思えるのだが――
 レグナードのそんな疑問をスルーするかのようにあっさりと荷台を引き始めるグレン。
その光景にレグナードは顔を引きつらせたままついて行くしかなかった。
「疲れたら乗ってもいいよ? グレンは問題無いしね」
「ああ」
「いえ、遠慮しておきます」
 亜季の問い掛けにグレンはうなずくが、レグナードは顔を引きつらせたまま断った。
さすがにその状態で町中に入るのは目立ちすぎる――というか恥ずかしい。
(これは少し失敗したかな〜)
 このことにレグナードは思わず頭を抱えそうになる。
零司と合流しやすくしようと彼の姉だと言う亜季と行動を共にすることにしたはいいが……
まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。これでは目立ちすぎる。色んな意味で。
目立つのはマズイのだ。いくら仕事として誤魔化しているとはいえ、組織に自分の行動を知られるのは。
故にどうするべきかと悩む。実はすでに”亜季達”が別の厄介ごとを呼び込んでいることに気付かずに――


 一方、零司はユーティリアと共に亜季達の捜索に出ていた。
理由は2つ。1つはクリスが持つ装置によって亜季達の反応が近かったこと。
正確な位置まではわからなかったが近くにいるのならというのと亜季の性格を考えてのことだった。
もう1つがその時にクリスが亜季が持っていた装備の中に『ECジャマー』があったのを思い出した為だ。
それがあれば野良神類の巣窟となっている坑道対策が出来る。その2つの理由から合流を急いだのである。
ただ、全員で行くわけにはいかない。建前とはいえリディアブルームと協力体制を取っているのだ。
なので、もしもの場合に備えてリヴェイアとクリスはリディアブルームに残り、零司とユーティリアが魔導馬車で捜索することとなったのである。
現在、零司達は町から少し外れた並木道を通っているのだが――
「ユーティ、何故に俺の膝の上に乗ってんの?」
「座席が硬くてお尻が痛いですの」
 ローブを纏ったユーティリアが澄まし声で零司に告げる。もっとも、その声は嬉しそうな声色が表情と共に隠しきれていなかったが。
そう、ユーティリアは現在困った顔を見せる零司の膝に乗っているのである。
(俺の膝も大概だと思うけどなぁ)
 一方の零司がそう考えてしまうのだが、そんな事はユーティリアには問題にならない。
今は零司と2人きり。そちらの方が重要だったのである。何しろ、色々とあって表立って零司に引っ付くことが出来なかった。
けど、今は零司と自分しかいない。この間に十二分に零司のぬくもりを補給しておこうと思ったのである。
もっとも、本人が気付いてないだけで、クリスやリヴェイアの前で十分零司に引っ付いていたのだが。
そんなわけもあって、零司の方もユーティリアに引っ付かれるのは慣れており、表情を引きつらせる程度で済んでる。
「して、その亜季さんはどこに居るのか判っておりますの?」
 ふと、ユーティリアが問い掛ける。リディアブルームでの亜季達の足跡は大体、リディアブルームの東方面にて固まっている。
なのである程度は現れる場所の目算は付いているらしいとは聞いている。そう、ある程度だ。
正確な位置はまだわかっていない。そんな状態で見つけ出すことは可能だろうか? と、思ってしまったのだ。
「出現ポイントは大体頭に叩き込んでるけど、次の事を予想しろって言われるとさっぱりだな」
「しゅ、出現、ですの?」
 零司の返事にユーティリアは思わず戸惑いを見せた。なにしろ、言ってることが人探しをしているようには思えなかったからだ。
零司は基本的に人の悪口や貶めるような事を言わない。そんな彼が探し人をまるで野獣相手のような物言いをしているのだ。
このことにユーティリアは戸惑ったのである。
「零司のお姉さまは、一体どんな人なんですの?」
「ん〜、何て言えばいいのか……油断ならない人かな。まぁ、会えばなんとなく判るよ」
 なので思わず問い掛けてしまったが零司のいまいち要領を得ない説明に、問い掛けたユーティリアの頭には疑問符が増えただけだった。
そんなユーティリアの様子を見て、零司は深くため息を吐く。本音を言えば話したくない。というか思い出したくない。
思い出すだけで頭痛を感じるからだ。というのも――
「あまりこういう事も言いたかないけど、早いとこ見つけないとマズイかもしれない」
「ま、マズイとは、どういう、ことですの?」
 どこか落ち込んでる様子の零司の言葉にユーティリアも亜季という人物に不安を抱いて流石に表情がひきつらせていた。
それでも言った方がいいと考えた零司はぽつりと亜季のことを話始める。
 亜季という人物は行動を起こすとそれが斜め上どころか直角なことになることが多いという。
不良グループを半殺しを皮切りに悪徳自警隊長を半殺し。中には神類の大群の撃退などが挙げられる。
まぁ、その行動も問題だらけだが、そこから更に悪化――というか激化する。
何があるかと言えば、例えば不良グループの半殺しの際はその場所となった公園が瓦礫化した。
大事な事なので2度言おう。公園が瓦礫化したのだ。本当に何がどうすればそうなるのかわからない。
ついでに言うとその瓦礫には公園に無い物も混じっていたのだが――
また、自警隊長に関しては庁舎が崩壊。その際、他の建物には一切被害無し。
傷も付かなかったという、どこの天才爆破解体士だ?と言わんばかりの芸当を見せたりしている。
それとは逆に神類大群の撃退には森林の大火災を起こしている。山2つ分程丸裸にする程の規模の。
そういったことを起こしてる割には妙な事に当事者以外のけが人は出ていない。
そう、出していないのだ。”当事者”以外は――零司としては頭が痛いのはそこなのだ。
そういったことで暴れる亜季を止めようとして吹っ飛ばされるのは1度や2度ではないし――
その場にいただけなのに吹っ飛ばされたこともある。というか、9割方そういう目にあっていた。
なので、零司としては悪い予感しかしないし、またそうなりそうな予感がしてしょうがないのである。
 まぁ、今の零司の話を聞いて、どうやら被害を拡大させるような性質の人物のようなのはユーティリアにも理解出来た。
出来たが、不安は消えない。というより、より増したと言える。いる先で問題を起こしてないかで。
「どう考えても後を引く事ばかりだろうがよ、コレ〜〜」
 妙に鬼気迫る口調で顔を青くさせつつ、引きつった笑いを浮かべる零司。
ユーティリアはそんな零司の気持ちがなんとなくわかったが、彼を宥めるために頬に手を添えた。
「零司、落ち着きますの」
「ん、ごめん……」
 ユーティリアの声にしどろもどろになりながらも落ち着きを取り戻していく零司。
ユーティリアは満足そうに微笑むと再び手を下ろすが――
結果的になだめたものの、ユーティリアは不安は消えない。本当に何も起きてなければと思うのだ。
もっとも、その不安は外れていない事をすぐさま思い知る事になるのだが。


 それから零司が落ち着きを取り戻したのとこれといった話題が無いことがあり、ゆったりとした時間が続く。
馬車の車輪の音と吹き抜ける風やそれになびく枝。そういった音が2人を包んでいたのだが、不意にユーティリアが零司の胸板に持たれかかった。
「どうした?」
「2人きりは……久しぶりですの」
 問い掛ける零司にユーティリアは嬉しそうな顔で答えていた。
良く見れば、ユーティリアは木漏れ日を浴びて気持ちよさそうに目を瞑っている。
「そういえ、そうだったっけ」
 ユーティリアのつぶやきに零司は思わずこれまでのことを思い返していた。
リヴェイアと出会ってからは確かに2人きりでいたことはほとんど無かったような気がする。
リヴェイアには治療と称してしょっちゅう引っ付かれていたし、クリスが来てからはユーティリアと2人きりという機会が中々来なかったのだし。
そう言われるとそうかもと思い、しばらくはユーティリアの好きなようにさせよう。
なんて、零司の思いをまるで見計らったかのように喧騒がどこからか聞こえてくる。
明らかに悲鳴の混じりのそれは一瞬にして零司の表情を引き締めさせた。
「遠くないですの」
 ユーティリアはといえば2人きりの時間を邪魔されたのが気に入らないのか、不機嫌な声色ではあったが。
そのことに苦笑しつつも零司は進行方向へと真剣な眼差しを向ける。
その進行方向の右側から人が逃げてくるのが確認出来た。それも1人や2人ではない。
明らかに大勢の人がこちらの方へ逃げてきているのだ。
「ユーティ、この先には何が?」
「地図によりますと……鉱山への中継地点の小さな村がありますの」
 ユーティリアの返事を聞いてから零司は魔道馬車の進路を変える。
このまま進んでも逃げ惑う人達が妨げとなって馬車の速度を上げられないからだ。
多少遠回りとなるが、道なりに進むよりは早くて安全だった。
その一方で零司は焦りも見せる。逃げ惑う人々の形相がただ事ではないことがわかるからだ。
そうしている内に村に近付き、様子がわかってくる。ロードペッカーが逃げている人を襲っていたのだ。
しかも、逃げている人の数を考えると1匹2匹でこうなったは思えない。複数、もしくは群れの襲撃があったのかもしれない。
だが、気に掛かることもある。向かってくるロードペッカーは手負いはほとんどだった。
もしかして、被害を食い止めようと誰かが現地で戦っているのか?
手負いのロードペッカーを見る限りその可能性が高い。そう確信した零司は現場に迅速に到着する事を選んだ。
何人で戦っているかはわからないが、手助けはあった方がいいはずなのだ。
それともう1つが手負いのロードペッカーの対処。手負いとはいえ、普通の人には驚異なのは変わらない。
現に数匹が逃げ惑う人達に襲い掛かろうとしていた。
「ユーティ!! 頼むっ!!」
「わかりましたの」
 返事と共にユーティリアは零司の横に立ち、指先に集めたエーテルでロードペッカーの羽を撃ち抜く。
揚力を失い失墜するロードペッカーは樹木に激突し、地面に落ちると嘴の先から舌をだらしなく垂れ出し痙攣していた。
「殺してませんの」
「ありがとうっ!! でも、ユーティ。俺に気を使うことは無いんだぞ?」
 ユーティリアの言葉に零司は苦笑していた。ユーティリアは零司が目の前で誰かが死ぬの望まない事に気を使っていた。
零司もユーティリアが本気モードにならずに『礼法(れいほう)』を使用したことから、そうなのだろうと思っている。
だが、それは零司にどこか負い目を感じさせる。ユーティリアにそんな気遣いをさせてしまったことに。
「気にする事はありませんの。本当にそれしかなかったら、そうさせていただきますの。」
 もっとも、ユーティリアはウインク混じりに返していたが。
他に方法があったら零司が止めていた――という確信もあったからユーティリアに迷い無く実行したのだ。
少し前だったら本気の自分が敵を消し飛ばそうとして零司が慌てて止めに入る。
という光景も珍しくなかった時期から考えると、互いの距離が結構近くなっている事を感じ、顔が綻ぶ。
その瞬間、轟音と共に光の柱が前方に立ち上った。それはいつか見た光。
零司が暴食者に撃った波動牙と同質の青い光だった。
続けて空に響き渡る連続した破裂音と何かが破砕され、きしむ様な音。
戦っている者は相当派手に暴れまわっている事が容易に想像できる程だ。
「零司、もしかして」
 ユーティリアが声を掛けるが零司は先程の光景が見えた方向をただ見ているだけだった。
ユーティリアが見た零司の横顔が青ざめているように感じたのは気のせいではないだろう。
今の零司の技と同質なのかもしれない。とすれば、あそこで戦っているのは――
そんなことを考えた為だろうか。零司は嫌な予感しか感じていなかった。


 零司達が到着した時には全て終わっていた。
いくつかの家屋が倒壊し、焼け焦げたロードペッカーの死骸が散乱しているのを見て、零司は眉を顰めている。
それは嫌悪感ではなく、どこか悲しそうな表情だったが一回目を閉じると振り払うように瓦礫に視線を投げかける。
その先には瓦礫の上にたたずむ青い長髪の女性と黒いロングコートの男が立っていた。それぞれ機械式のデスサイズと拳銃を持ちながら。
そんな零司の視線に気付いたのだろう。背の低い女性が青い長髪をなびかせながら振り向く。
「姉貴と……グレン……」
「零司ィ!!」
 少女にも見える女性、佐倉木亜季は零司の声を聞き顔を見た瞬間、ぱっと輝くような笑顔を浮かべた。
次の瞬間、零司に向かい駆け出す亜季とその先にいる顔面蒼白零司。言うまでも無く零司の顔は引きつっている。
零司の本能が警鐘を鳴らし、踵を返させるが、一歩遅かったようだ。首に亜季の二の腕が回り、零司がガッシリとホールドされる。
そして――
「生きてたかコノヤロー!!」
「ぎごぉ!! ぎぶっ、ぎぶっ!!」
 力一杯のスリーパーホールドで歓喜を表す亜季。苦しみにもだえる零司が二の腕を叩くも、離される様子も無い。
そんな2人を見てちょっと疎外感を感じているユーティリアだったが、やがて亜季の興味の対象が彼女に移る事となった。
「ん?」
 完全に落とされた零司を地面に放り出し、亜季は今度はジロジロとユーティリアを観察する。
そのことにユーティリアは思わず警戒の色を見せ――
「な、なんですの?」
「神類……か」
 少しの観察の後に亜季に指摘されたことにさらに警戒の色を強めた。
今のユーティリアはマントで服装を隠してる状態だ。だから、服装から判断したわけでは無いだろう。
だからといって気配でわかるかと言えば、簡単ではないとしか言えない。
気配というのはわかる人でなければわからないのだ。そういった意味では亜季は只者ではないのは確かだが。
「あぁ、ごめんごめん、脅かすつもりは無いのよ。ただ、零司と一緒にいるからね」
「私はユーティリアと申しますの。零司と共に旅をしておりますの」
「零司、ねぇ……ふぅ〜ん、へぇ……」
 ユーティリアの話を聞いて亜季がにやけた時、零司はなんとか正気に戻って立ち上がろうとする。
そのニヤニヤした表情にユーティリアは思わずたじろぐが、亜季はわざとらしく頭を抱え――
「くぅ、お姉さん悲しいわ。零司が『外道(ロリコン)』におちるなんて……」
「なっ」
「だ、誰が――」
 演技がかった声でロリコン発言をする亜季に衝撃を受けるユーティリア。
そして慌てて起き上がり否定にかかる零司だが、振り返ってみれば唇奪ったり身体中さわりまくったり一緒に寝たり、弁解の余地が無い事に気付く。
「どうしたの?」
「うぐぐぐ」
 蹲りながら道草を握り締める零司にやや冷ややかな視線を送り始める亜季。
羞恥とユーティリアへの申し訳なさに心が壊れそうになる零司だったが、今はその事を頭の片隅に追いやる事にした。
というのも確かめなければならないことがあったからだ。
「それはそうと、何があったんだこの惨状!!」
「あぁ、そうだったそうだった」
 睨んでくる零司の問い掛けに亜季は思い出したかのように瓦礫と化した家の軒数を数え始める。
そのことにユーティリアは首を傾げた。なんの意味があるのかと思ったからだが。
「う〜む、9軒……こりゃぁやりすぎちゃったかな」
「複数のロードペッカーが全方位の建物の死角より攻撃を行ってきた。あの状況では火力で押し切る以外の選択肢は無かった」
 苦笑しながら後頭部を掻く亜季にそれまで沈黙していた長身の男であるグレンが答える。
零司は頭を抱えたが2人を責めることは出来ない。こんな様子を見せているが実際の所2人はまじめに戦っていたのだ。
でなければ、被害はもっと増えていたかもしれない。零司自身も戦闘の際には結構被害を出しているので、それはわかるのだ。
「で、どうするんだこの始末。他にも色々やらかしてるみたいだし……」
「まぁ、さすがにこのままにはね。お金は飛ぶけど『修理』はさせてもらうわよ」
 ため息混じりの零司の問い掛けに亜季は考える素振りを見せながら答え、その会話を聞いていたユーティリアは少し安堵のため息を漏らした。
零司から聞いた印象では如何程の非常識人間かと身構えていたが、思っていたよりはマトモな人達の様子だ。
ただ、何が原因かはわからないが、出てくる結果が良くない事が多いということだけだが。
それはそれで問題だが、少なくとも悪い人では無いとわかったのは良かった――
「!?」
 ふと視線をずらすと視界の端に誰かがいるのが見えた。
その場には不釣合いな食料が山のように詰まれた荷車の陰。そこには1人の女性がこちらを見るように立っていた。
その女性にユーティリアは訝しげな顔をする。どこかであったような感じがして――


 こんな事があった為だろうか? 零司達はこの時、気付いていなかったのである。
自分達を観察する2つの影が遠方に存在していた事に……




 あとがき


前回投稿からどれくらい経ってるのだろうかと思う今日この頃。
いや、悪いのは私なんですけどね。修正しなきゃならないのに中々出来ませんでしたし。
でもまぁ、なんとか出来ました。次回はもっと早めに終わらせないと――
さて、次回はどんな話にするか(え?)

byDRT


力量不足を痛感しております。キ之助です。
もっと勉強しないと〜

byキ之助



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