どこまでも広がる銀河の深淵
漆黒の世界を彩る数千億の星々たち
その世界の中で唯一、営み続ける人類
私たちは小さな存在
私たちはいるはずのない存在
私たちは時間のほころびそのもの
私たちは存在そのものが至高
追う者と追われる者
知ろうとする者と隠そうとする者
最強を誇る銀河の一角で同時に天敵とライバルが
一度に現れようとはまだ私たちは知るよしもない
──ホシノ・ルリ──
闇が深くなる夜明けの前に
機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説
第二章(中編)
「蠢動する『義眼』と謎に魅入られし青紫色の瞳」
それは、銀河帝国の最重要軍事拠点の一つであり、首都星オーディンより6250光年の彼方にある直径60キロにおよぶ巨大な人工天体である。艦艇2万隻を収容可能なこの軍事天体は同盟と帝国の領土を分けるほぼ中間の位置にあり、二大勢力の行き来が可能となる二つの回廊のうちの一つの回廊内に銀河帝国が巨費を投じて建設したものだった。
もう一つの回廊は二大勢力の暗黙の三角貿易を中継する経済惑星フェザーン自治領の惑星フェザーンを抱いており、おのずと両者の戦闘行動はイゼルローン要塞がある回廊に限定されてしまうのであった。
──宇宙暦795年帝国暦486年、標準暦10月3日──
早い時間帯にイゼルローン要塞に帰還した駐留艦隊所属第107哨戒任務部隊隊長ヴェルター・エアハルト・ベルトマン中佐は戦闘で疲労した身体にかまわず、彼が撃沈しようとした「白い不明艦」に関するデーターと報告書をまとめ、任務報告書と一緒に要塞内にある艦隊司令部へ半ば「殴りこんだ」のは標準時10時20分をまわった頃であった。
「どけ!こうしている間にも叛乱軍では恐ろしい兵器を増やしているのかもしれんのだぞ」
ベルトマンは、静止する衛兵を猛然と押しのけ艦隊司令部に踏み込んだ。
「何事だ! 騒々しいぞ」
威圧の効いた低い声で怒鳴ったのは、真っ白な頭髪をオールバックにした筋骨もたくましい50代くらいの男だった。彼こそイゼルローン要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼークト大将である。
ゼークトは、突然の不届き者を視界に捉えると、着任の挨拶に来ていた半白髪の線の細い男を一旦脇に退かせる。
「ゼークト閣下!」
ベルトマンは、ゼークトの声で恐縮する衛兵を尻目に周囲の唖然とした視線も気にせずつかつかと歩き、彼の上官の前で敬礼する。その際、血色の悪そうな男を一瞥する。
「身のほどをわきまえろ! 一体何の用だ、ベルトマン中佐」
太い眉を吊り上げて不快感をあらわにするゼークトの声に身じろぎもせず、大将の前に悠然と立つベルトマン中佐は複数の書類と一枚の光ディスクを上官に差し出した。
「なんだ、これは?」
ゼークトの睨みをべルトマンは青紫色の瞳で正面から受け止めた。
「はっ、先日ヴァンフリート星系にて我が哨戒部隊が遭遇した叛乱勢力の新型艦と思われる艦艇についての報告書および映像です」
ゼークトは厳しい顔つきのままベルトマンを見て言った。
「ことのあらましだけは貴様の副長より聞いている。しかし、突然押し入ってくるとは聞いていないぞ」
口調は強いままだったが、いくぶん荒さはなくなっていた。
「僚艦を一隻撃沈されたそうだな、中佐。戦闘でも哨戒でも実績を残す貴官が、たかが一隻の駆逐艦クラスの叛乱軍艦艇に手を焼くとは意外だがな」
いやみではあるが、突然艦隊司令部に乗り込んだベルトマンは何も言えない。ただ、彼はまっすぐゼークトの顔を直視したままだった。些細なことで引き下がるわけにはいかなかったのだ。
ゼークト大将が一小部隊指揮官でしかないベルトマンを記憶していたのは、彼の母親が子爵家出身であり、ベルトマンが「高速巡航艦イアリ」の艦長として駐留艦隊に配属された一年余りのうち数度の哨戒任務の都度に叛乱軍の正確な布陣状況や動向をゼークトに直接報告していたからである。そのうち、一昨年の12月に起こった叛乱勢力による「第6次イゼルローン要塞攻防戦」における艦隊の出撃の際、彼は僚艦を従えて叛乱勢力の戦艦を1隻、巡航艦を3隻、駆逐艦にいたっては11隻撃沈しており、指揮官としての能力も目を見張るべきものが備わっていた。
ベルトマンは、その功績によって前線に出て以来、順調に出世を果たし、ヴァンフリートの哨戒任務の終了後は大佐への昇進が決まっていたのである
「たしかに僚艦を撃沈されました。ですが、その点が重要ではありません。新型艦の主砲の威力は直径が数キロある小惑星を一瞬で消滅させてしまうほど恐るべきものなのです」
かたわらで話を聞く半白髪の男の瞳が不気味に輝いたが誰も気が付いた者はいない。
ベルトマンは、急に改まって、だが声を高めた。
「閣下! 許しも得ず艦隊司令部に踏み込んだ非礼は後でいくらでも罰をお受けいたします。ですが、わが軍にとって脅威となりうる新型艦の装備は一刻の猶予もならず報告すべきと判断し、小官は最初から覚悟してまいりました。信じられないかもしれませんが、どうか早急に報告書と映像を御覧いただき、可能な限り早く帝都オーディンの統帥本部へご上申くださいますよう、お願い申し上げます」
ベルトマンは深々と頭を下げる。その姿を見てゼークトは少なからず故国への忠誠心を刺激されたのか、差し出された書類を商人出身の部下から受け取った。
「勘違いするな、貴様の非礼を許したわけではない。わが軍にとって脅威となるという言を汲み取ったまでだ。しかし、私が吟味して内容に価値なしと判断したときは統帥本部への上申は無いと思え」
ゼークトは、右手を軽く振ってベルトマンに退出を促す。ベルトマンもこれ以上の訴えは逆効果と判断したのか一礼して無言のまま艦隊司令部を辞したのだった。
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「ベルトマン艦長!」
司令部を出たベルトマンを待っていたのは、憂慮の視線を投げかける副長の洗練された姿だった。
「悪かったな少佐、どうやらオレは自分で思うよりも意外と不器用だったらしい」
謝罪に近い乾いた笑いを自分に向けるベルトマンに対し、ウーデットはたまに無茶をする上官に言わずにはいられなかった。
「艦長、せっかく大佐に昇進し、目標である戦艦乗りになることが出来ますのに、今回の件で見送られてしまうかもしれません。いえ、それで済めばよいのですが、艦隊司令部に許可もなく踏み込んでしまったために閑職にまわされてしまう可能性もございます。どうか、大将閣下には充分な謝罪をされておくべきと小官は考えます」
「忠告ありがたいが、それなら充分頭は下げてきた。あとはゼークト閣下の気分次第だ。まあ、昇進を見送られるのは一向に構わんが閑職にまわされるのは勘弁してもらいたいものだな」
こともな気にベルトマンは言うと、副長を務める優秀な僚友に告げた。
「副長、一杯つきあってもらおうか。撃沈された僚艦のたむけの意味もこめてな」
◇◇◇
ベルトマンが退出した艦隊司令部では、ゼークト大将が受け取った報告書と光ディスクをもてあますように眺めやっていた。中佐の言うことは大げさな事だと司令官は考えていたが、事実なら由々しき問題であり、叛乱勢力の武力が一気に破壊力を増大してしまう懸念があった。
しかし、正直なところゼークトには内容を検証している時間などない。今年は叛乱勢力に対する討伐軍が二度も出征したこともあり、その拠点となったイゼルローンにはいまだ多くの傷病兵と修理中の艦艇、一部部隊が残留しており、ほぼ連日、それらに関わる事務的な手続きと並行して駐留艦隊の再編を進めねばならず、問題が山積していたのである。
もともとゼークトは、戦場の只中こそ己が嗜好する場所と公言する根っからの猛将タイプの軍人であり、デスクの上で書類と砲火を交えるなど不本意極まりないのだが、第4次ティアマト会戦後の際、宇宙艦隊指令長官たるグレゴリー・フォン・ミュッケンベルガー元帥に「後事」を託されたからには宇宙もぐらの司令官に「差」をつけ、次の昇進を確実にするためにも中央に対する心証をよくして期待に応えねばならなかった。
そのような時期に、それが突然、突きつけられたのである。「厄介ごとの裏に疫病神が潜んでいた」とゼークトが苛立つのも仕方が無かった。
「このままオーディンに送ってしまおうか」
と一瞬ゼークトは考えたが、もしたいしたものでなければそれこそミュッケンベルガー元帥はもとより帝国軍上層部への心証を悪くしかねない。
かと言って、「司令部に持ち込まれた情報は必ず司令官が確認すること」という決まりもあり、ベルトマン中佐の言うように強力な武装を施した叛乱軍新型艦が事実であれば、逆にその情報を得ながら上層部に報告しなかったゼークトの対処が問われることになる。
しかし……
「すぐに必要はあるまい」
ゼークトは、預かった報告書と光ディスクを机の引き出しにしまうことに決めた。
「お待ちください閣下」
静かに強く、だが生気を欠いた発音でゼークトの行動を制した人物がいた。第4次ティアマト会戦と前後して駐留艦隊参謀長を拝命し、着任の挨拶に参上していたパウル・フォン・オーベルシュタイン大佐であった。
「オーベルシュタイン大佐か。挨拶の途中だったな、すまんが今日は下がってくれ。で、何か用があるのか」
容姿が陰気くさいとはいえ、まだオーベルシュタインに対する反感を抱く前なので、ゼークトの対応は普通だった。
「よろしいのですか、士官が処分を覚悟して持ち込んだ新型艦に関する資料をすぐに検証せずに保管してしまうなど」
ゼークトの太い眉がいくぶんつりあがったが、噴火点を刺激するものではなかった。
「貴官に言われるまでも無い。他の問題が山積していてすぐに検証できないだけだ。問題が片付けば目を通す」
あまり説得力の無い口調にオーベルシュタインは内心で冷笑したが、彼もまた己の目標のために上官となる人物に対する価値を吟味中であり、その言動はまだ穏やかな範囲だった。
「ですが、小惑星を瞬時に消滅させるほどの兵器を搭載した艦となると遅延してよい問題ではありません。差し出がましいとは思われますが、最低限、報告書にはすぐに目を通すべきと小官はご進言いたします」
言い終えて、ゼークトの関心が薄いことを瞬時に読み取った新任の艦隊参謀長は、ついには彼のほうから進み出て上官に願い出た。
「もし閣下が御多忙といわれるのであれば、その件、小官にお任せいただけませんか?まず小官が検証し、内容を大将閣下に御報告申し上げます。その時に統帥本部への上申の可否を御決定されてもよいかと」
着任早々の部下の差し出口にゼークトは少なからず気分を害したが、今年中の出兵はもうないであろうから参謀長の仕事もたかが知れていると考え、また、厄介ごとが一つ減るよい機会と捉えたようだった。
「よかろう、オーベルシュタイン大佐。貴官に報告書と光ディスクの内容の検証をゆだねることにする。期限は1週間だ。その頃には私にも時間ができよう」
ゼークトは、そう言ってオーベルシュタインに資料を渡し、軽く右手を上げて退出するように命じる。新任の参謀長は無表情のまま一礼すると、振り向きざまに異様な光を瞳から発しながら艦隊司令部を無駄のない歩調で後にしたのだった。
V
イゼルローン要塞にある士官用サロンは午前中にもかかわらず盛況であり、夜勤明けの士官たちの酒気でにぎわっていた。
そんな中、ベルトマン中佐は、副長とともに戦死した僚友たちに手向けの一杯としてウイスキーグラスを頭上に掲げていた。彼は黙祷中、ヴァルハラにむけて旅立った僚友になんと話かけたのだろうか? すまなかったと詫びていたのだろうか? 無事の天上界への旅路を祈ったのであろうか? それとも、ひしひしと胸中で燃え上がる静かなる復讐心を僚友たちに誓ったのであろうか?
ウーデットは目を開けた。そこには青紫色の瞳をした上官がウイスキーを勢いよくあおっている姿が映っていた。
「どうしたものかな、こういうときの酒は感傷が邪魔してどうもいかんな」
ベルトマンは悲壮感を漂わせながらつぶやき、一気に減ったウイスキーを見つめながら信頼する副長に言った。
「ウーデット少佐、貴官とイアリに乗艦してもう一年が経ったが、意外に短く感じるものだな」
ウーデットは無言でうなずき、優秀で豪胆な艦長がそうしたように、副長も記憶の河を遡っていた。
宇宙暦794年帝国暦485年、その日8月16日、高速巡航艦「イアリ」の副長となって半年後、ヘルマン・ハンス・ウーデット大尉は乗艦する巡航艦に着任後二人目の艦長を迎えることになった。
「ヴェルター・エアハルト・ベルトマンだ。よろしくな」
くだけた挨拶に驚いたのはウーデットだけではなかった。新艦長を出迎えた艦橋人員の全員が青紫色の瞳を有する青年士官の言葉に意表をつかれていた。
前任の艦長は男爵家の次男坊であり、ウーデットをはじめとした「イアリ」の乗員たちはそのわがままぶりに辟易していたものだった。たまに戦闘中に職務を放棄することもあり、撃沈されずにすんだのは指揮を引き継いだウーデットの手腕と乗員たちの生への執着であったろう。また、貴族ということもあり平民出身だが優秀なウーデットに対し少なからず嫉妬を抱いており、常に摩擦が絶えない状況になっていた。
その次男坊が自暴自棄かどうかはさておき、イゼルローンの歓楽街で問題を起こし、オーディンへ召還されて大半の乗員たちは喜んだが、次の艦長も貴族と聞いて肩を落としていた。
しかし、それは未確認の情報に基づく誤報であって事実ではなかったが、半分は誤りではなかったのである。彼らの前で着任の挨拶をする新艦長の父親は商人だが母親はとある子爵家の三女だったのである。
「珍しいですね」
そうウーデットに問われたベルトマンは、
「そうか? 言い方は悪いが、わりと借金の肩代わりに娘を商人に嫁がせる貴族は多いらしいぞ。まあ、うちの母親は積極的に嫁入りしたそうだがね。珍しいといえば、オレの母親は貴族の令嬢にしては合理的な考えの持ち主だからな。
そうだな、知り合いにも似たような境遇の男がいたな。左右の瞳が違う色男でな、そいつの母親も上級貴族の出身で父親は下級貴族なんだが商売で財を成した人物だった」
と気さくに答え、きっかけのネタにされた人物がくしゃみをしたかどうかは別として、緊張していた乗員たちの肩をほぐすことに成功し、ベルトマンはよい形で「イアリ」に迎えられたのだった。
さらに幸運なことにベルトマンとウーデットは同郷であったことで意気投合し、前任者と違って軋轢(あつれき)がなく、乗員たちの結束と士気を高める結果につながっていた。
また、「ベルトマン艦長」の信頼度を飛躍的に高めたのが同年12月に勃発した「第6次イゼルローン要塞攻防戦」であった。出撃した駐留艦隊は叛乱軍と幾度か砲火を交え、艦隊の戦果そのものはパッとするものではなかったが、ベルトマンは的確な指揮ぶりで対峙した叛乱軍艦艇を葬り去り、用兵家としての力量も部下に認められるに至ったのである。
◆◆◆
「よろしいかな」
不意の声にベルトマンとウーデットは一斉に振り向く。彼らの視線の先に背は高いが血色の悪い、頭髪の前あたりが半分白く染まった男が立っていた。
ベルトマンは、その顔にはっきりとした見覚えがあった。
「たしか、艦隊司令部で……」
「フォン・オーベルシュタインだ。駐留艦隊参謀を拝命し、つい先刻、着任の挨拶に来ていた際に卿と顔をあわせた」
「ええ、そうでした」
ベルトマンとウーデットは、オーベルシュタインの階級が「大佐」であることに気がつき敬礼しようと席を立とうとしたが、オーベルシュタインは軽く右手を上げて彼らの行動を制し、やや周囲を見回していった。
「実は、卿らがヴァンフリート星系で遭遇した叛乱軍の新型艦と思われる艦艇についてだが、先刻、小官がゼークト閣下よりその件を預かることになった」
「大佐が?」
「そうだ、ベルトマン中佐。オーディンの統帥本部へ上申する前に報告書と映像を吟味せよという命令を受け、まず卿らの話を聞こうと出向いたのだが……」
オーベルシュタインは、無表情のまま目だけで周囲を見回し、ベルトマンたちのテーブルの近くに他の士官たちがいないことを確認する。ふたたび彼らに視線を戻したとき、その瞳が不気味な光彩を放った。
「!!!」
驚く二人の反応に気づき、オーベルシュタインは右手で軽く目の辺りを覆った。
「これは失礼、小官の両目は義眼だ。光コンピューターを組み込んだこれのおかげで何の不自由も無いが、寿命が短いのが難点でね。それはさておき……」
問い返す隙を与えないかのように冷たい空気が一瞬だけ二人を押さえつけた。
「期限は1週間。それまでにはゼークト閣下の軍務も落ち着くようだ。よって小官は報告書に目を通す前に実際に遭遇した卿らの話を聞いておきたいのだ」
「そういうことなら……」
ベルトマンは、驚くウーデットを尻目に席を立ってオーベルシュタインに譲ると、自分は後ろのテーブルから椅子をひっぱってくる。ほとんど例の件が自分のやらかした行動によって忘れ去られるか葬られるか思い始めた矢先だった。ゼークトが真っ先に見なかったことに中佐は多少の腹は立てたが、新任とはいえゼークトの参謀となった男が「謎の新型艦」の件を引き継いでくれるというのは正直うれしい限りだったのである。
「……協力いたしましょう。大佐、どこからお話すればよろしいでしょうか?」
気さくにオーベルシュタインに話しかけるベルトマンと違い、艦長であるウーデットはやや警戒を帯びた視線で突然現れた参謀長を見やり、その意図を探ろうとしていた。はたして、艦隊参謀長がヴァンフリートの件を大将閣下より預かったという理由は一体なんなのだろうか? 単に命令されただけならば渡された資料に目を通し、映像は分析機にかければその正偽はすぐに判明するのではないだろうか。わざわざ着任初日にここまで足を運ぶ意義があるというのだろうか?
「単純に興味が湧いたからというのだろうか」
小惑星を瞬時に消滅させる主砲を搭載する艦艇というのであれば、よほどおき楽な軍人で無い限り興味を持つのは当然であろう。そういう観点では当然の行動といえるのだろうが、ウーデットの心の中ではもやにつつまれている何かが明瞭にならずにいたこともたしかであった。
しかし、オーベルシュタインという人物以外が例の件を担当することになっていればウーデットはそれほど警戒しなかっただろう。彼も長い軍隊生活の中で人物を見分ける能力を養っており、ほぼ初対面でその人物の人偽を見抜くことが出来るようになっていた。そういう意味ではオーベルシュタインに対する第一印象は容姿から想像できる偏見を差し引いても「警戒」の二文字だったのである。
「この男は何かが異質だ。冷酷そうな容姿と思考そのものというより、それがわかりづらいところが問題だ」
あの無表情の裏に隠された本音と思惑。それを探り把握する困難さをウーデットは初対面で感じとっていた。
と同時に、ウーデットは何か得体の知れない悪寒めいたものが身体の芯を貫く感覚に見舞われていた。この参謀長と関わったことがもたらす変化というものを、イアリの副長は懸念せずにはいられなかった。
「──では新型艦の武装は小惑星を消滅させたもの以外は確認していないのだな」
ウーデットが再び耳を傾けたとき、話はだいぶ進んでいるようだった。
「はい、我々が機先を制していたこともあり、また数の上での不利を悟ったのか、ほとんど逃げの一手でした。追い詰めた最後のほうで何らかの反撃を目論んでいたようですが、小官は相手との距離を詰めることで新型艦の攻撃を封じ撃沈しようとしたのです」
「だが、その一歩手前で叛乱軍艦隊に邪魔をされたのだったな」
「まさに一歩手前でした。新型艦が叛乱勢力圏に逃走したので、それを阻止しようと途中で撃沈を決意したのです」
「ふむ、その場合は卿の判断は致し方ないが、叛乱軍のタイミングは出来すぎの観もある」
オーベルシュタインは少しだけ思考するような表情を見せ、彼の頭脳の中で呼び起こされた情報と照合しつつ、最後に問うた。
「卿らが最初にその艦を発見したとき、どう感じたか率直に話していただきたいが」
「どう感じたか?」
ベルトマンは妙な質問だと思ったが、その質問に該当する感覚を終始もち続けていたイアリ艦長は、まちがいなくはっきりと言った。
「違和感。小官はそれを見たとき明らかな違和感を覚えました」
ベルトマンは、ウーデットに同意を求めるように視線を向け、片腕たる少佐も静かにうなずいた。
「そうか、卿らの証言は十分参考になった。それで──」
二人は気付いた。彼らのテーブルには高そうなウイスキーボトルをトレイに乗せたウエイターが姿勢も正しく立っていたのだ。
「──それで時間をとらせた礼というわけではないが、卿らがヴァンフリートで驚異的な武装をもつ新型艦を発見しなければ、その存在はわからずじまいだった。卿らの忠誠心と撃沈された僚艦に対する手向けとしてこれは遠慮せず受け取ってほしい。小官個人からの礼として」
「はあ……」
と不思議そうにつぶやいたのはベルトマンであり、内心で「意外だ」という声を上げたのはウーデットだった。
後年、オーベルシュタインの地位と権限が上昇するにつれ、その功績と反比例するように彼の人間的評価は悪化の一途をたどっていくが、ベルトマンもウーデットも彼らに気を使った(ような)参謀長のあのときの行動について他の諸提督の話のネタにされても悪くは答えなかった。
また、「あのオーベルシュタイン」が誰かにおごったという既成事実は後にも先にもこれが最初で最後であり、深夜にペットの食事を購入しているところをとある将帥に目撃された事実を含め、冷徹鋭利な人物という評価に議論の余地の一石を投じることになる。
話が終わるとオーベルシュタインは顔色に似合わない機敏さで立ち上がった。ベルトマンもウーデットも立ち上がり、書類を預かった艦隊参謀長に敬礼する。
去り際、青紫色の瞳の中佐が声をかけた。
「オーベルシュタイン大佐」
振り返った参謀長の瞳はまたも異様な光彩を放っていた。
「何か?」
しかし、ベルトマンは気にも留めずに言った。
「いえ、小官の持ち込んだ情報を引き継ぎくださり感謝いたします」
ベルトマンが再び敬礼すると、半白髪の大佐は一瞥と同時に小さくうなずき、サロンに入ってくる士官たちの流れに逆らうようにその場から姿を消したのだった。
W
ほぼ時を並行し、ユリカたちを乗せたナデシコは順調にハーミット・パープル基地に向けて航行を続けていた。
そんな中、テンカワ・アキトの部屋にあるゲキガンガーの置き時計は12時30分を指し示していたが、部屋の主は時間に逆行する形ですでに空腹状態が続いていた。
「うーん、起こすわけにはいかないよなぁ……」
アキトは頭をかき、彼のすぐ傍らですやすやと眠る少女の愛らしい寝顔に視線を落とし、少し困った顔をした。
昨夜、会見から戻ったアキトはユキナの求めに応じ、ラピス・ラズリを医務室にたずねた。少女はアキトを見るなり大喜びで抱きつき、何度も何度も彼の名を呼び、落ち着かせるのに苦労したものである。
それからずっとラピスのそばに寄り添い(というよりラピスがアキトを離さないので)ほとんど自分の部屋から出れずに少女の相手をしていたのである。
当然。ウランフ中将が訪問したときもラピスがぐずるために会うことも出来ず、今朝は今朝で疲れがどっと出てしまったのかすっかり寝過ごしてしまい、ウランフ提督との別れにも間にあわないていたらくであった。
そして、ようやく空腹で目を覚ましたのだが、ラピス・ラズリは安心しきったようにアキトの傍らで眠り続けており、彼は何度か起こそうかと考えてその都度思いとどまり、結局、ずるずると時間だけが過ぎてしまったのだった。
「それにしても、なぜオレなんだろう……」
アキトは、初対面の少女に慕われる理由をイネス・フレサンジュにたずね、それが鳥類や一部哺乳類に見られる「刷り込み(インプリンティング)」に近い本能学習ではないかと教えられていた。
「えっ! だってラピスは人間でしょう? どうして動物みたいなことになるんですか?」
アキトは、イネスに疑問をぶつけ、
「そうね、人間の赤ちゃんにだって起こることよ。幼児の頃はみな学習機能が未発達だからね。たとえば生まれた赤ちゃんを産みの親ではなく他の人が預けて育てたら、その赤ちゃんは育ててくれた人を「親」と認識するでしょう、それと同じよ。まあ、これは極端な話ね。
ラピスは一年近く遺跡が作り出したエネルギーコールドスリープの中で眠っていたわ。たぶんその間に彼女の脳内で何らかの記憶障害が起こったんでしょうね。そのさなかにお兄ちゃんが彼女の声を受け取って助けた。たぶん、その一瞬だけラピスはお兄ちゃんを見たのだと思う。ルリちゃんと同じくイメージとして記憶に残る「親」の姿がテンカワ・アキトの姿と入れ替わったんじゃないかしらね」
という仮説を聞いたのだが、イネスもそれ以上はわからないという。
「真実を知りたいというなら、私たちの時代の火星に戻らないと調査は不可能よ。お兄ちゃん」
アキトは、さすがに今の状況では無理だと理解していたのでそれ以上は追及しなかったが、金髪の科学者にうまく逃げられた観は否めない。
その、イネス・フレサンジュが青い瞳と魅惑的な唇に悪戯っぽさを浮かべつつ言った。
「そうそうお兄ちゃん、ラピスは今のところお兄ちゃんを特別な存在だと強くおもっているわ。だから面倒見のほうもよろしく頼むわね」
記憶が戻ってから、イネスは二人のときだけ、やたらとアキトを「お兄ちゃん」と呼ぶが、呼ばれる当人としては8歳も年上の女性に(なった)そう呼ばれることに気恥ずかしさと危うさを感じずにはいられなかった。
「はあ!? どうしてオレが?」
「それを見れば一目瞭然でしょう」
イネスの視線の先には、アキトにぴったりと寄り添う長いサラサラヘアーの少女が、やり取りの内容を半ば楽しむように無邪気な微笑をたたえていた。
「とまあ、そういうわけでしょ。今のところラピスはお兄ちゃんの言うことしか素直に聞かないのだから、しっかりと教育のほうも頼むわね」
さりげない押し付けだった。
「ちょ、ちょっとアイ──じゃなかったイネスさん。そういうことなら火星でマシンチャイルドの研究もしていたイネスさんの方が適任じゃないですか?」
アキトは、効果のある反論だと思ったが、
「だめよ私は。科学者としての自信はたくさんあるけれど、母親としての才能には自信がないの。だからよろしくね」
とすまし顔であっさりと反撃され、最終的にアキトはラピスの親代わりになることを了承したのだった。
「まあ、この娘にはなんの罪も無いよなぁ……親代わりか」
それもいいかな、とアキトは思う。火星に生存していた人々を見殺しにしてしまったアキトたち……
そんな恐ろしい事実の中、たった一人だけ生き残っていたラピス・ラズリというネルガルが生み出したマシンチャイルドの少女。ネルガルの非人道的な研究がまだ続いていたのかとアキトを含め、多くのクルーが怒りを覚えたものだが、生きていてくれた少女のためにテンカワ・アキトは何をすべきなのだろうかとずっと考えていた。
青年は少女の寝顔を見ているうちに、もう一人の少女と顔が重なった。二年前、アキトが火星のユートピアコロニーの地下壕にて木星蜥蜴の無人兵器と格闘中に彼のボソンジャンプに巻き込まれ過去に飛ばされたアイちゃんという幼い少女──今はイネス・フレサンジュという金髪の科学者の過去。
オレは、一人の少女の人生をまったく変えてしまったんだ。本当なら、今頃は公園で同じ年の子供たちと遊びまわっていたかもしれないのに、少女だった「アイちゃん」を「イネス・フレサンジュ」という説明好きでひねくれた大人の女性に成長させてしまったんだ。
アイちゃん──イネスの苦労を言葉で語るのは不可能に近かった。
しかし、成長し、ようやく記憶の戻ったイネス・フレサンジュは恨み言など一言も発しなかった。が、アキトは少なからず責任を感じたままであったのだ。
もうアイちゃんのような子は生み出したくない。テンカワ・アキトはラピスの先にある幸せのためにも、己に課せられた責任と義務を全うしようと心に決めていた。
「ウランフ提督のように信念をもって行動できる大人になろう」
そして、大切な人の幸せのためにも自分はもっと成長し、もっと強くなろうと誓うのだった。
X
「アキト、アキト、アキト起きてる?」
扉の向こうから声がした。あの聞き間違えるはずの無い高く美しい声の主は、ずっと幼い頃からアキトを慕っているミスマル・ユリカ以外考えられなかった。
「ユリカ、どうしたの?」
「うん、はいってもいいかな?」
いいよ、とアキトが応えると、トレイを片手にユリカはゆっくりとした足取りで部屋に入ってきた。彼女は布団の上で眠る少女を確認すると、トレイをちゃぶ台においてから「婚約者」にささやいた。
「まだ寝ているんだ、ラピスちゃん」
「うん、昨日、ゲキガンガーを深夜までずっと観ていたからね。だからかな」
「そうね、子供はたくさん遊んでたくさん寝ないとね。」
くすっ、と笑ってユリカはちゃぶ台の上におかれたトレイを覆うナプキンをとる。その美味しそうな正体に青年の顔はみるみるうちにほころんだ。
「差し入れだよ、大きいのがアキトの分。ホウメイさん特製のでか盛りチャーハン!昨夜も今朝もアキトが起きてこないから、もしかしたらおなかが空いてるんじゃないかなって思って作ってもらったんだ」
「ナイスだよ、ユリカ。もうおなかペコペコなんだ」
アキトは、ラピスを起こさないよう慎重に起き上がり、ユリカの差し入れたチャーハンを一気にかけ込んだ。
「うまい、うまい。うんうん…さすがは……ホウ……メイさん」
「アキト、がっつきすぎ。ゆっくり食べないと喉につかえちゃうよ」
ユリカが注意した直後、アキトはみごとに喉に詰まらせて咳き込み、美貌の艦長が慌ててちゃぶ台にあったポットを手に取り、ぬるくなったお茶をいれて青年に手渡した。
「ふー、死ぬかと思った」
ささやかな危機を乗り切ったアキトに向けて、ユリカは言った。
「ウランフ提督がアキトに会えずに残念がっていたよ」
湯飲みを片手に20歳になろうという青年は視線を落とした。
「うん、そうだね。オレも残念だよ。あんな立派な人の見送りを爆睡でつぶしちゃうなんて、はずかしいよ」
心底残念そうにアキトはつぶやいた。おそらく、テンカワ・アキトは両親以外で生まれて初めて尊敬できる「オトナ」に出会ったのではないだろうか? 自分のやや屈折した内面を一気に浄化させた同盟軍第10艦隊司令官ウランフ中将という、自身の責任と責務に背を向けず、祖国を守るために数万隻の艦隊を統率して広大な銀河を駆ける立派な人物。
今の自分には遠い存在だとおもう。だから、もし次に会うことがあるならば、今の自分よりももっと成長した自分を見てもらおう。それが実現できなくても一歩一歩着実に前に進んでいこう。それが、テンカワ・アキトが己に課した目標になるはずなのだ。
後年、その目標は達成されていき、テンカワ・アキトはあらたな旅立ちを決意することになるが、それはまだ数年も先のことである。
◆◆◆
「ねえ、アキト……」
不意に、ミスマル・ユリカの声が聴覚に流れ込み、その明るい大きな瞳には翳り(かげり)がさしていた。
「どうしたんだ?」
「うん、実は昨夜ね、ジャンプできないことがみんなにばれちゃったんだ」
アキトは、もちろん知っていたので、その告白を冷静に受け止め、ごく穏やかに応じた。
「そうなんだ。皆はなんて?」
「リョーコさんに怒られちゃった。そんな重大なことを隠すな、ナデシコ全員で共有すべきだって」
アキトはかすかに笑って言った。
「リョーコちゃんらしいね。でも、それは逆にばれてよかったのかもしれないよ。だって、もう一つの件はそれがカムフラージュになってまだ誰にも知られていないんでしょう?」
ユリカは黙ってうなずいたが、目で合図してそれ以上の話をしないようにアキトに頼んだ。
「ごめん、ユリカ、気をつけるよ」
「うん、アキト……あっ、左のほっぺたにご飯粒がついてるよ」
そう言ってユリカの右手が目標を至近にとらえようとしたとき、ネコのようなすばやさでそれを振り払った人物がいた。
「ラピス!?」
「ラピスちゃん?」
同時につぶやく二人の視線の先には、明らかな敵意をユリカに向ける黄金の瞳の少女の姿があった。
「アキトになにするの!」
その迫力にユリカはたじろいだ。
「ええと、ごはんつぶをとろうとしただけなんだけど……」
ラピスは、ユリカを睨みつけたまま、
「わたしが取るから、あなたはあっちに行って!」
と言って、アキトについたご飯粒をひょいと取って、パクっと口の中に入れる。
ええっ!!ちょっと待ってよ。いつの間にか新婚奥様気分!?
ユリカは、見えざる巨大な手でアキトとの距離を侵食されているかのような危機感に襲われた。
こ、この子は何なの!
ユリカと少女の間で数万ボルトに上る火花が散った。それはまさに龍虎の放つ闘気そのものであり、かたわらのアキトは見えざる妄想バトルによって半ば身体を硬直させていた。
「えーと……」
アキトは、冷や汗をかいたまま声にならず心の中で疲れたようにつぶやいた。
「前途多難だな……」
それはある意味、平和的な光景を象徴した形容だった。
Y
「おお、これが俺たちの新しい乗艦か!」
──宇宙暦795年帝国暦486年、10月8日──
ベルトマンとウーデットは、イゼルローン要塞の軍事宇宙港の一角に彼らの新しい乗艦となる新型の高速戦艦を感動の趣で出迎えていた。
「それでは大佐、この譲渡証明書にサインをお願いします」
新型艦を運んできた技術士官の代表がベルトマンにサインを求めると、念願の戦艦乗りに昇格した青年士官は達筆なサインを書類に書き込み、再び自分の個人旗艦を目を輝かせて仰ぎ見た。
艦隊旗艦級試作型高速戦艦 「アウルヴァング」
全長982メートル
全高242メートル
全幅187メートル
艦首中性子ビーム砲16門
側方中性子ビーム砲8門
艦首大口径粒子ビーム砲1門
艦首レールキャノン6門
荷電粒子ビーム砲18門
多目的ミサイル発射管24門
単座式ワルキューレ40機搭載可
従来の直線的フォルムから一転、曲線を描く流麗なフォルムとその姿からは真逆の力強さが新鮮さを際立たせ、その名にふさわしい雄々しさにあふれた、それがベルトマンの新しい乗艦であった。そのほかにも機関部や重力磁場などに新機軸を盛り込み、次世代の旗艦級たるを誇れる艦である。
「ところで、上層部は何か狙っていたのでしょうか?」
そのウーデットの質問には奇妙さと愉快さがブレンドされていたが、答える側の上官は少し考えるような顔をして、
「いや、単なる偶然らしいぞ。最初はごく普通の標準型高速戦艦だったらしいが、試作のこの艦がちょうど就航までこぎつけたので、早いとこ実戦で試したかったらしいぞ」
と淡々と話したが、言葉とは裏腹にその偶然を運命的と思わざるを得なかった。
イアリ(騎士)から
アウルヴァング(高名な戦士)へと劇的な成長を遂げたのであるから。
ヴェルター・エアハルト・ベルトマンは、10月6日付けで「大佐」に昇進を果たし、個人旗艦を下賜された。
もっとも、佐官で個人旗艦を下賜されるのは稀であり、その場合は辺境星系守備隊司令官として飛ばされることが多い中、幸いにも伝統にのっとることにはならず、引き続き駐留艦隊に所属することになっていた。
「さすがにレインヴェルト家につながる大佐を辺境に飛ばすことはしなかったようですね」
ウーデットの冗談にベルトマンはやや肩をすぼめて言った。
「三女の子供にもこう影響が及ぶとはな。まあ、今回は家柄に助けられたというより、オーベルシュタイン大佐の口ぞえとゼークト閣下が目をつぶってくれたおかげだろうよ」
感謝と皮肉が半々というところだったが難を逃れたという気持ちは少なからず存在し、これでまぶしいばかりの個人旗艦を駆って敵と対峙できるというだけで胸が高鳴って仕方がないのも確かであった。
「次は将官ですね、大佐」
「ああ、次は将官だ。そして一個艦隊の艦隊指令官になってみせるさ」
「お供いたします、ベルトマン大佐」
引き続き副長を務める優秀な少佐の言葉に青紫色の瞳をもつ男は破顔して言った。
「たのむぞ、ウーデット少佐。貴官とオレが組めば絶対に武勲を獲得できる。そして……」
地位が上がり、権限が強化されれば絶対にあの白い艦について自由に調査することも可能になるだろう。オーベルシュタイン大佐が昨夜示唆したように、あの艦が過去の亡霊であろうとなかろうと必ず所在を突き止め、その謎を解いて僚艦の仇を討つ!
しかし、ベルトマンの周囲は翌年に入り風雲急を告げ、彼はナデシコを追う余裕がなくなってしまう。それはあたかもナデシコの成長を助けるかのように、その間は抑止力が働くのである。
ベルトマンが再びナデシコと対峙するまで、なお12ヶ月あまりの時間の流れが必要であった。
……TO BE CONTINUED
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あとがき
涼です。二章「中編」をお届けすることが出来ました。「ああ、まだ二章か」と思ってしまいましたが、のちの章のためにも手抜きは出来ません(笑)
この作品は以前も序章のあとがきで書かせていただきましたが、当初はシルフェニアさんの2000万HIT記念用として考えていたものでした。が、ある場面だけ書くのはおかしいと思ったので長編へと変わったわけです。
変わったのはよかったのですが、最初のプロットル段階よりずいぶん長くなりそうです。
皆さんが「あっ!」と思っていただける章までなお二章分ほどありますが、どうかゆっくりとお付き合いいただければ作者も幸いでございますw
今回の章では、銀英伝ファンには良くも悪くも存在感のある「あのオーべルシュタイン」が登場しました。オーベルシュタインというキャラは、他のアニメや漫画に見られる策謀をめぐらせるキャラとは一線を画したキャラだとわたしは思っています。
ふつうなら裏側で暗殺とか陰謀とか、悪いやつに回りそうな役柄のはずですが、この銀英伝のオーベルシュタインは策謀はめぐらせるが、それは自分の出世や地位のためではなく、彼が仰いだ君主に対して一貫して行われた敵を排除する忠誠行動でした。
まあ、「秘密主義のオーベルシュタイン」ですが、言うところは言う人物なので、ナデシコに関する情報の一部をベルトマンに教えたりしています。何を狙っているのかまではわかりませんが……
皆さんのオーベルシュタイン像ってどんなものなのでしょうか? よろしければ教えてください。
今回も楽しんでいただけましたら、作者も本望です。
メッセージと感想もお待ちしています。
2008年9月6日 ──涼──
改訂につき、誤字や脱字、その他追記などを行いました。
2008年11月1日 ──涼──
読みにくい段落差を解消し、一部修正を加えました。
2010年1月29日 ──涼──
◆◆◆◆◆◆メッセージコーナー◆◆◆◆◆◆◆
前回もメッセージいただきました。具体的な質問や要望もあり、返信するほうも楽しんでいます。
それでは前回寄せられたメッセの返信です。
◆◆2008年8月14日◆◆
◇◇14時01分◇◇
おおっ!!仕事明けに覗いて見れば、更新されているではないですか。作者様の更新ペースが10日前後と睨んでいて間違いはなかったみたいです。ところで、実は楽しみに…いや、心配していることがあるのです。「キラキラ星から来た高等生物」がナデシコ女性陣にどのような悪戯をするのかを考えると心配で夜も眠れなくなりそうです。ですから、この心配を吹き飛ばす為にも思いきりヤっちゃって下さいw
>>>ヤっちゃっていいんですか!
ええ、もう充分悩んでいるんですが、まあ、「自称エース」がいかに作戦をたてて彼女たちを口説き落とすのか、今から作者も楽しみです。シェーンコップもいるなぁ……
ポプランの好みってイネスやエリナだろうなぁ……
◇◇21時19分◇◇
楽しく読ませていただきました♪ ヤンとユリカの初対面で話す場面とか今から楽しみ〜と妄想しつつ……完結までがんばってください!
>>>ありがとうございます。ユリカとヤンの会話は確かに楽しみですね。どんな場面で二人が初の会話を交わすのか、ぜひ推理(妄想)しつつ、続きを待っていてください。
◆◆8月21日◆◆
◇◇17時28分◇◇
続きを楽しみにしております!
>>>ありがとうございます。そのお言葉、作者の励みになります。今回もどうぞよろしく。
◆◆8月22日◆◆
◇◇17時10分◇◇
前回、ストーリーとは無関係の糧食関係の質問で失礼しました。ところで、この銀英伝とのクロス、ナデシコ側が異様に強かったりしなくてよいですね。これからも楽しみにしていますので、銀英伝アニメ版なみにがんばってくださいw
>>>今回もメッセをありがとうございます。質問の内容は気にしないでください。そういう意表を突いた質問も面白かったですよ。
アニメ並み・・・15年かかりますが、何か?
「ナデシコが異様に強い……」
>>>まあ、銀英伝の世界はナデシコ世界より艦隊戦が成熟されており、さらに規模がまったく違いますからね。ただドンパチ撃ち合うだけにとどまらず、戦術的行動がしっかりと加味されているわけです。しかも、双方の技術力はほぼ拮抗しており、新兵器足りるものもありません。ナデシコの装備は残念ながら相転移砲を除けば銀英伝艦艇より貧弱です。グラビティブラストはナデシコ一艦の武装としては強力ですが、いくら強力でも当たらなければ意味がなく、しかも数万隻に及ぶ艦隊に対しては焼け石に水といえるわけです。(ふつう、正面から射線に飛び込む艦はいない)
ある意味、銀英伝の艦隊規模はSF作品最強ではないでしょうか?それは艦隊戦術が加わることによってより強力さを増しているのです。
◇◇17時19分◇◇
しつもーん。なぜ、怪しい二次創作設定が数多くあり、出鱈目なストーリー展開ができる劇場版後ではなくて、公式設定等の縛りのキツイTV版最終回後にしたのですか?
>>>第二の質問は、これはまた具体的ですねw では以下でお答えします。
確かにナデシコの二次創作は劇場版を題材にしたものが多いと感じます。その後に続編が作られていないことも、設定等があいまいな部分があるからのようですね。特にラピスとアキトの関係では、公式設定と思われてしまうような二次設定が多くあると教えられました。
ずばり、わたしはこのクロスを書くまで「機動戦艦ナデシコ」をほとんど知りませんでした。本編、劇場版ともこれを書くにあたって初めてシリーズをDVDで観たのです。
その結果、以下の理由で本編の方を採用しました。
@劇場版だとアキト側とナデシコ側の合流が難しいこと
A彼らは劇場版では、すでに成長していること
B上記に関連し、彼らの成長を銀英伝世界で書きたかったこと
Cユリカの復帰を明確にするのが困難なこと。劇場版ではルリが中心になっている。
Dユリカの方が感情が豊かなので、銀英伝のキャラとからませるのが楽しい
の以上でしょうか。
◆◆8月23日◆◆
◇◇14時17分◇◇
最新の更新日が更新されていませんよ。
>>>すみませんでした。最近、シルフェニアさんもヒット数が増え、大変になっているようです。細かいところでエラーがあるかもしれませんが、作者も気がついたら訂正をしていただいていますので、御安心を。もちろん、気がついていない場合いもあるので、御指摘はありがたいです。
以上です。今回のSSに関してもメッセージおよび感想掲示板での書き込みをお待ちしております。
2008年9月6日 ──涼──
◆◆◆◆◆◆◆メッセージコーナー◆◆◆◆◆◆◆
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