闇が深くなる夜明けの前に
<外伝>


機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説



『ルリの航宙日誌』

(其の三)


挿絵 近衛刀このえかたなさん







T

 次の日、みんなの目が点になりました。

 なぜかって?

 艦長の報告があまりにも突飛だったからです。

「今は1400年後の未来なんです」

 驚くなっていうのが無理です。

 「ちょっと未来の別の銀河系にアウトしたくらいかな?」

 ──程度の想像を大幅にスケールアップして裏切ってくれました。

 みんなの驚愕はごもっとも。ゴートさんなんか普段からいかつい顔をさらにこわばらせて2回も発言の真偽を問いましたし、冷静沈着なプロスペクターさんも眼鏡の柄に左手をかけたまま動きが止まってしまいました。

 時間は朝の8時40分を過ぎたところでした。艦橋には主要メンバーが集められ、その他のクルーのみんなにはコミュニケや各施設に設置された館内放送用のTVスクリーンに会議の様子を流しています。

 各端末の向こうでみんなの呆然とした顔が容易に想像できます。

 しばらくみんなは絶句していましたが、ヒカルさんが手を挙げて質問しました。結局、「ここは何処?」ってことです。

 ヒカルさんの質問は誰もが知りたがってたことです。もし普通に未来にジャンプしたのだとしたら、1400年後の火星周辺にジャンプアウトするはずです。

 でも、今いる宙域は明らかに別の銀河系です。それも太陽系からはかなり離れていることが想像できます。私たちは昨晩、訪問したウランフ提督を通じて多少の知識を得ましたけど、まだここがどういう宇宙なのか全てを知ることはできていません。

 「そうね、それは私が説明しましょう。艦長、いいかしら?」

 艦長に許可をもらって説明役になったのはイネスさんでした。説明好きなおばさんでちょっと困ります。白衣の下から指示棒出してメインスクリーンの横に陣取りました。なぜか伊達めがねを掛けてます。男性陣が唸ってますが、まさか眼鏡萌え?

 「ルリちゃん、今朝取り込んだ星系図を表示してくれないかしら?」

 「はい、わかりました」

 私はコンソールに手をかざし、メインスクリーンに大きな星系図を表示しました。

 表示された瞬間、誰もが息を呑んだみたいです。ただの図ですが、明らかに太陽系を凌駕していることが一目瞭然だからです。

 「ヒカルさんの質問についてですが、ここは太陽系からはかなり遠く離れています。信じられないかもしれませんが1400年後の未来、地球を中心とした太陽系はその役目を終え、今は二つの星系が中心となって人類の歴史は続いています」

 まさかの説明に艦橋が騒然としました。誰よりも早くデーターを閲覧した私でさえ、それらのデーターが意味することを初めてし知りましたし……

 それにしても、私たちの全てが始まった地球がただの辺境に成り下がっているなんて、いまいちピンときません。

 ピンとしませんが、なんだかすっごく寂しく感じます。

 「ええと、よく聞きなさい……」

 イネスさんの説明は続きました。今、ナデシコが航行するのは両勢力の中間地点であること、私たちがウランフ提督に助けられた宙域はヴァンフリート星系という場所だったこと……

 でも星系図を見るみんなの顔が不審そうです。やっぱり気が付いたみたいです。

 「ちょっと待ってください。ええと、太陽系はどこにあるんですか? その星系図には表示されていないみたいですが?」

 ジュンさんの指摘通りです。表示された星系図にはどこにも太陽系の記述すらありません。辺境って言ってましたけど、まさか……

 その懸念は当たってました。イネスさんの説明どおり、今や人類の中心は太陽系から1万光年以上も離れ、地球は星系図に表示されることすら叶わないほど影の薄い存在になっているということでした。

 「1400年も経っていれば起こりえる事よ!」

 イネスさん、ちょっと声を荒げました。なんか強制的に理解させようとしている気もしないではありません。

 イネスさんはシリアスな雰囲気のまま艦長にバトンタッチしました。

 あの事実をみんなに言うのかな?

 「えーと、それでは今後についてですが……」

 どうも違うみたいです。いつ言うんだろう? タイミングって必要だと思いますけど……

 艦長は予定を話します。ナデシコは第10艦隊とアスターテ星系外縁のすぐ近くまできてます。そのままアスターテ星系に入り、適当な宙域で連絡を待つとのことでした。

 もし私たちの受け入れが叶わない場合、しばらくは第10艦隊と行動をともにするみたいです。

 まあ、そうは言ってもナデシコの損傷具合とエンジン出力の差を考えるとずっと一緒ってわけにはいかないだろうし、それが本当なら次の受け入れ地までどのくらいかかるのやら……

 星系図を基にこっそり計算しましたが、首都星まで行くとなると3000光年前後って算出されるんですよねぇ……

 「艦長、もしナデシコの修理が終わったら私たちはその後どうなさるのですか?」

 みんなが気になっていることをイツキさんがずばり質問しました。視線が艦長に集中します。

 「もちろんユニット回収して私たちの時代に戻る──これしかないわよね」

 ミナトさんが先にきっぱりと言いました。顔がとても真剣です。きっと鋭い洞察力をもっているミナトさんのことだから、宇宙の情勢に懸念を抱いているのかもしれません。プロスペクターさんもわかっているみたいです。

 もちろん、二つの勢力の争いに巻き込まれることです。

 艦長の話とウランフ提督の反応を見るに、ナデシコの技術って1400年も経っているのに色あせていないそうです。

 「えっ?」

 て感じですが、よく考えるとなんとなく理解できます。ナデシコの技術ってもともとは古代火星人が培ったものだからです。彼らの文明ってボソンジャンプのための演算ユニットとか、相転移理論によるエンジンとか実現しちゃうくらいですから地球の先を遥かにいってたってことです。

 あれ? 私ってなんかおかしなこと言ってます……ま、今はいいや。









U

 何はともあれ、同盟にも帝国に存在しない技術をもつナデシコが戦争に利用される可能性はかなり高いはずです。

 私たちは、地球人と木星人との不毛な戦争を終わらせるために一年以上も戦ってきたんです。それなのにまた戦争に巻き込まれるなんて本当にごめんです。

 「でもまあ、ムリなんじゃないの?」

 ──ってアカツキさんがしたり顔で口を挟みました。同盟のお偉いさんは何らかの対価を要求してくるんじゃないかって言います。

 周囲のみんながアカツキさんを睨みつけますが、すぐに視線を外してしまったのは彼の言うことが現実になりうる危険性が大きいからです。

 実際、ナデシコの就航当初、木星蜥蜴のテクノロジーに唯一対抗できる「戦艦ナデシコ」を宇宙軍は手に入れようとあれこれ画策してましたから……

 そして実際にナデシコは地球連合に組み入れられてしまいました。

 艦長も、ナデシコが武力を有する「戦艦」であるかぎり、都合のいいようにはならないかもって考えてはいるみたいです。そして少なくとも技術提供には応じなければならない可能性が高いとも言及しました。

 「ですが、可能な限り私たちは戦争に介入しないように努力します」

 さすが艦長! みんなの不安をきれいに払拭しました。

 けれど、艦長はミナトさんが早期撤退の後押しをすると険しい顔をしました。

 ここがちょうどいいタイミングだと思います。

 「──そうですね、もちろんです。エンジンの修理が済み次第、ユニットを回収して元の時代に戻ります」

 あれれ? 艦長ったら「事実」を言うのかと思ったらまるっきり嘘言っちゃってます。みんなのことを考えての発言かもしれませんが艦長らしくないし、ここでごまかしちゃうと後が大変です。

 「嘘です。艦長は嘘をついています」

 つい言っちゃいました。だってねえ……

 「な、何を言いだすのかな……ルリちゃん」

 艦長は、わかりやすい反応でみなさんの不審を買いました。

 私は動揺した艦長に視線を向けたまま、昨晩聞いてしまった事実を暴露しました。

 ボソンジャンプができないって話していたことです。

 もちろん、その事実を知らなかった人たちは絶句状態になりました。

 「言わなきゃよかったかな?」

 とは思いません。とても大事なことだからです。

 私たちナデシコの一員は固い信頼関係で繋がっています。みんなを落胆させたくないっていう艦長の気持もわからなくはありませんが、事実を伏せたままなんて地球連合やネルガルとなんら変わりません。

 「艦長、いったいどういうことなのか話してくれよ」

 リョーコさんが艦長を睨みつけました。こういう場の雰囲気でもしっかり意見をいうところはさすがです。

 「ええと、ちょっと質問の内容がわかりませんが……」

 艦長は、らしくなくとぼけてみせました。けれど表情が強張っているので成功したとはいえません。逆にリョーコさんを怒らせてしまいました。

 「もっと俺たちを信用してくれ」

 って事です。ナデシコの強さは単なる武力だけではありません。各部署が各部署に敬意を表し、ナデシコを愛する絆があるからこそ、どんな困難な任務も達成してこれたんです。

 一喝された艦長は今にも泣き出しそうです。リョーコさんは顔を背けちゃいました。

 なんとも重い時間が数秒流れましたが、沈黙を破ったのはアカツキさんでした。

 「まあまあ、艦長もつらかったと思うよ。いろんなことが起こりすぎて一つ一つを理解するのも困難だったんだからね……」

 アカツキさんは艦長を擁護しました。みんなを心配させたくなかったことを理解してあげよう、とフォローをいれます。

 「うっさい、そんな事わかってる」

 リョーコさんは膨れっ面をしつつも同意を示します。なんだかんだと怒っていますが、それは全てを抱え込もうとする艦長を心配してのことなんです。私は艦長の事がすきですし、艦長に頼りたいし、逆に頼ってほしいと思ってます。その気持はみんな同じはずです。

 少しその場の雰囲気が回復した頃を見計らってプロスペクターさんが尋ねました。

 「それで、具体的にどうしてジャンプできないことがわかったのですかな?」

 わりと理由は簡単でした。ウリバタケさんがイネスさんに鑑定を依頼した金属片がハッキング能力のある木連の無人兵器「ヤドカリ」の残骸だったてこと。不審に思ったイネスさんと艦長がボソンジャンプを試し、何も起こらなかったからです。

 念のためにアキトさんにも協力を仰ごうとしたみたいだけど、あの子のお守で部屋から出られない状況だったので断念したとか。

 あの子、まだ引きこもっているんだ……



 話が逸れてしまいました。

 それで、ボソンジャンプできない原因ですが、

 「ええ、これは状況から推測するしかないけど……」

 と前置きから始まったイネスさんの話は、みんなに固唾をのみこませるのに十分すぎる中身でした。

 いろいろと調査した結果、「ヤドカリ」が演算ユニットに取り付いていたのではないかという推理に行き着いたそうです。ユニットに送られるイメージが正しく伝達されず、それが原因で今回のジャンプにつながったのではないかということでした。

 「ただ、今現在もジャンプが不可能ということは、へたをするとユニットの一部かユニット全体に機械的な問題が生じている可能性が高いわね」

 それが異常なのか破損なのかはわからないとのことでした。

 だってユニット事体が行方不明ですから、程度を測ることは困難です。

 「で、ユニットがなぜ消えたかという仮説だけど……」

 最も考えられるのが一時的に姿をくらませたのではないかということです。ユニットそのものの研究はなんらなされたわけでもないから、ユニットに組みこまれているだろう自己防機能が働いた可能性を否定できないそうです。

 うーん、正直かなり曖昧です。手元に本体があるわけではないので曖昧にならざるえないのは仕方がないことですが……

 所在だけでもわかると今後が違ってくるんですが、イネスさんも艦長も存在を感じ取れなかったそうです。

 そして、何よりもみんなが心配したのがユニットの復帰時期です。イネスさんはたぶんユニットには自己修復機能も搭載されているって言ってましたが……

 「そうねぇ、3日後かもしれない、1ヶ月後かもしれない、3年後かもしれないわね……」

 すごい自信なさげです。みんな一斉にため息をつきましたが、ユニットが手元にないんじゃ、やっぱり明確にしろっていうのもムリがあります。

 演算ユニットの全体はわからないことだらけです。古代火星人の技術の結晶ってだけで、その能力も用途も機能も解明されたのは氷山の一角ですらないかもしれません。

 イネスさんもそのあたりを強調して悲観的にならないよう、みんなを励ましました。

 ここで、アカツキさんが疑問を呈しました。

 「ちょっとさっきから不思議に思ってたんだけど、僕らが回収したユニットが問題を抱えているのはわかった。じゃあ、この時代のユニットはどうなってしまったんだい? ここまで人類の生活圏が宇宙に広がったのはもちろんボソンジャンプが貢献しているんでしょ?」

 あっ! それって私もずっと疑問に思っていたことです。今はすっごい未来だし、地球は辺境になり、人類の生活圏は1万光年以上も拡大しています。

 ここまで人類が宇宙に進出したってことは、ボソンジャンプが技術的に広く利用できるような何らかの手段が確立されたって事ですよね?

 一つ矛盾があります。、私たちが回収したユニットがダメージを受けて未来にあるとしたら、今のユニットってどうなっているんだろ?

 もし別に存在するなら、なんかタイムパラドックス的におかしな事になるんですが……

 それとも過去から未来に運ばれたユニットは無事に私たちの時代に戻ったということでしょうか? そうだとしたら、私たちは元の時代に戻れたって事ですよね?

 アカツキさんも同様に考えたみたいですが、

 「違います」

 と、イネスさんは真っ向から否定しました。きょとんとするみんなにイネスさんは驚くべき事実を口にしました。

 「人類は2390年に亜空間跳躍エンジンを実用化して、ここまで生活圏を広げたようです」

 みんなまた絶句です。アカツキさんなんか放心状態です。

 まさか、まさかの夢のワープ航法を人類が発明していたなんて、十分私も驚きです。

 それにしても皮肉なのは、極冠遺跡の独占を狙った人たちの目論見が200年もしないうちに崩れちゃったってことです。もしかすると火星脱出後、地球側と木連側はわりと早く和平を実現できたのかも知れません。

 あっ! そうするとタイムパラドックス的には説明がつきます。イネスさんが説明していましたが、私たちが運んできたユニットが「唯一」のものであり、そのためにボソン技術は衰退し、他の跳躍方法が確立された理由になります。

 理由になりますが、そうなると演算ユニットは元の時代に戻らなかったって事になります。じゃあ私たちって……

 最終的にイネスさんが意見をまとめ、いろいろ議論を展開するのは基地に入港してからってことになりました。仮説や憶測・想像だけで議論しているので落ち着いた環境であれこれ思考するべきだとか。

 たしかにここでごちゃごちゃ会議していたって不毛なだけですからね。基地には過去の時代の資料もあるはずだから、いろいろ詮索するのはそのときってことになりました。

 

 イネスさんが艦長に代わって終了を宣言しようとした直前でした。

 <<ルリさん、通信が届いています>>

 ──ありがとう、オモイカネ

 メグミさんも会議に参加しているので通信士の仕事も私が代行しています。

 私はオモイカネに通信を転送してもらいました。通信コードを確認すると発信者はウランフ提督でした。

 「艦長、ウランフ提督から通信が届いています」

 私が報告すると、ミナトさんやメグミさんに励まされていた艦長が我に帰って顔を上げました。なんか両手で自分の頬をぱちんと叩きます。

 「えーと、じゃあ通信を開いてください」

 私が生意気な差し出口をしたにもかかわらず、艦長はいつものようにニコっと笑ってくれました。

 「はい、艦長。通信を開きます」









V

 お昼になりました。

 私はナデシコを自動航行に切り替え、ミナトさんやメグミさんと食堂に向います。途中でユキナさんと合流し食堂に入りましたが、そこでの話題は「今後のこと」でした。

 「とりあえず基地に入港できるみたいでほっとしたわね」

 「そうですね。もしダメだったらかなりの長旅になっちゃいますからねぇ」

 「なんか私には首都星まで3000光年って想像できないなぁ……」

 「ユキナさん、損傷のないナデシコが全力で航行を続けても9年はかかります」

 「うへー」



 ウランフ提督からの通信は吉報でした。ナデシコはアスターテ星系にあるという前線監視基地「ハーミット・パープル」に受け入れが決まったんです。

 統合作戦本部長さんを早期に説得できたのも、私たちが協力してくれたからだとウランフさんが言っていました。

 ですが、みんな安堵しているようで不安も一杯です。

 朝の報告会はそのままウランフ提督と基地司令官さんを交えての協議になりました。基地司令官さんはマクスウェル准将という熊みたな巨漢の軍人さんでしたが、誠実そうな話のわかる大人でした。そのあたりはみんなほっと胸をなでおろしています。

 協議内容ですが、その中身を吟味すると同盟さんの対応はしっかりしたものです。

 基地へ入港時に仮のIDカードを配ってもらえるし、同盟の資料を事前にくれるとか、私たちが戸惑わないよう、しっかり配慮してくれます。

 「でも意外だったわね。まさかほとんど自由にしていていいだなんてねぇ」

 ミナトさんの呟きに私たちは同時に頷きました。

 というのも、ふつうに考えれば私たちは「信じられない存在」です。時の旅人っていう表現がありますが、まさに時間を越えた存在です。ですからこちらにお世話になるということは、その秘密を守るためにたいてい軟禁か隔離状態になるのがパターンです。

 ですが、それでホントに大丈夫? と逆に私たちが心配してしまうくらい規則や制限はゆるいものでした。


 一つ タイムパラドックスに関する話題や身の上の話は控えること

 一つ 基地兵士との交流は制限するものではないが、極力注意すること。

 一つ 基地内での行動の制限は特に設けないが、立ち入り禁止重要区画には入らないこと

 以上です。ウランフさんが「注意」って言ってましたけど、まさに言葉の通りです。

 どうしてここまで寛大なんだろうって思いません? 疑うのもあれですが、私たちは犯罪者ではないし、戦況に影響を与える存在でもありません。理由はたくさん考えられますが大まかに挙げると、

 一つ 軍の最高司令官さんと話がついている

 一つ 私たちは未来の存在じゃない

 一つ 隠すよりも適当にオープンにすることで不信感や詮索を和らげたほうがよい

 ──じゃないかと思います。

 私たちを「特務部隊」にしてナデシコを特別な試作艦にするところとか統合作戦本部長さんて頭いいです。

 だって「彼らは何者?」なんて基地の軍人さんに細かく勘ぐられるよりは遥かにマシです。けれど別の意味で最初はそう思われるかもしれませんけど。

 ですが、最初から私たちに特別な肩書きを与えることは大きな意味をもちます。

 私たちの「本当の正体」をあれこれ調べられるより「ナデシコ」という変わった艦型の戦艦をほどよく機密扱いにすることで軍人さんたちは自然とブレーキを掛けるわけですし、その戦艦に乗る私たちだって機密があるわけですから、接触も控えようと意識がおそらく働くはずです。

 「これは心理学の問題だよ」

 ウランフさんは楽しそうに笑ってましたが、まさにその通りです。できる人たちってやっぱり発想とか対応とか完成度が違います。




 昼食の終わり、みんなはそれぞれお気に入りの飲み物を片手にまったりです。ミナトさんはコーヒーをすすって一息つくと、思考するような顔をして呟きました。

 「もうちょっと基地までかかりそうだし、その間って特にやることないよね? みんなはどう過ごす?」

 「そうですね。もう帝国軍に攻撃されることもないそうですから、交代で艦橋に詰める以外はやることないですよねぇ……私は部屋で本でも読んで過ごそうかと思います」

 メグミさんがティーカップ片手に質問に答えました。なんとなーくミナトさんと同じでやや上の空なのは今後の見通しを少なからず想像しているからかもしれません。

 ──ボソンジャンプできない

 この事実はどれだけの衝撃をナデシコ全体に与えたか計り知れません。ましてユニットそのものが手元にないわけですから、予想を立てることさえ叶いません。

 ユニットがダメージを回復させるのが3日後か、1週間後か、それとも数年後なのか……
先が見えないって不安です。憂鬱です。

 「みんな心気くさいなぁ…イネスさんが言ってたじゃない、そんなに深刻ぶる必要はないってさ。みんな無事だし、ナデシコの修理は出来るし当面の生活はなんとかなるんだからもっと気楽にいこうよ!」

 ユキナさん、相変わらず前向きです。そんな明るいユキナさんを見ているとみんな励まされるようです。

 「ユキナの言う通りかもね。こんなチャンスは滅多にないわ。1400年後のファッションとか流行はどうとか興味があるし、前向きに考えてもいいかもね」

 「私もTV番組とか今の声優業とか気になります。そう考えるとなんかワクワクしてきますね」

 「そうでしょう、そうでしょう」

 応じるユキナさん、腕組みしてなんか偉そう。

 もう一つ話題になりました。

 「私たちが戦った戦争の帰結とかわかるのかしら?」

 「そうですね。それって私も気になってました。平和になってくれたと信じたいんですが……」

 「なってると思うよ。だってユニットは1400年後の未来にあるんだもん。下手にもとの時代にあるより確実に隠し通せるわけでしょ!」

 「そうね。ユニットがあの時代から消えちゃったから亜空間ワープが実現したんだからね。そう思うよねルリルリ?」

 「はい、そうだと思います」

 「「「だよねー」」」

 若干ハモってましたけど、異口同音ってヤツです。

 いつの間にか食堂が騒がしくなってました。最初はそれぞれに思い悩んであちこちのテーブルで議論が展開されていましたが、今はなんだか笑い声が多くなってます。

 「ちょっとタイムトラベルってヤツを満喫してみるか」

 なーんて声もチラホラ。

 このおき楽な空気ってやっぱり「ナデシコ」です。






 ……TO BE CONTINUED

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あとがき

 空乃涼です。外伝の三作品目をお届けします。本編並みに容量があったので、調整させていただきました。

 外伝二話目から間が空きましたが、今回も絵師さんとのタイアップのためご了承ください。

 今回からの挿絵は、シルフェニアでもTOPクラスの実力を誇るお一人の近衛刀さんです。ご自身の「スタイル」を確立しているといっても過言ではない絵師さんです。動きのあるハツラツとした表現を得意としています。
 
 そしてそして、シルフェニアでは数少ない巨ぬー派でもありますw

 会議中のミナトさんの見事な胸もしっかりと描かれています。

 近衛さんには外伝3話・5話・6話までを担当していただいています。絵師さんに対してのメッセージもお待ちしています。

 で、今話は、すっとばした場面の描写を少ししています。急遽最初の容量がでかすぎて半分にしたので少なくなりました(謝

 次話はもっとすっとばした場面が登場予定です。

 2010年5月27日──涼──


 文章中の誤字脱字等を修正しました。
 一部、本文に加筆と数字的修正あり


 2011年5月30日 ──涼──

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 メッセージ返信コーナー

 ここは今回の外伝と本編にいただいたメッセージの返信コーナーです。

 毎度遅くなってしまうのが玉に瑕。すみません(汗

 2010年04月07日15:10:5

 待ってましたよず〜と。
 続編を心待ちにしております


>>>お待たせしまして、すみません。まあ、いろいろリアルがあるので状況見ながらになりますが、お待ちいただければ幸いです。

 2010年04月13日13:7:25

 ナデシコを助けてくれた同盟の艦船をハッキングするなんて、無礼にもほどかあるのでは? 常識に考えて。
 そもそも、セキュリティの厳しい軍艦を、500隻同時に、しかもバレずに(笑)操作出来る程の力が有るなら、さっさと旗艦を自爆させればよい。その方が簡単です。



 >>>コメントありがとうございます。無礼ということですが、なるほど、そう捉えられるとは意外でした。たしかに言われてみるとそうも感じますが、ナデシコが置かれた状況を考慮すると「のほほーん」としているわけにはいかないのではと思う次第です。

 我々はウランフ提督がどんな人物か知っているが、彼らは知らない。ナデシコ連中は帝国軍に襲われ直後なだけに、まるまる信用するとは限りませんからね。

 あと、「500隻ハッキングした」、という記述はありませんので。念のため言わせていただきます。オモイカネが無駄な領域を削除して動作環境を整えたとして、ナデシコが可能と思われる制圧数が「500隻前後」とルリが算定した数値に過ぎません。
 
 そう捉えられたとしたら、記述不足があったのかもしれませんね。修正をかけておきます。
 ただ後述にあるように、駆逐艦など小艦艇のハッキングは行っています。

 「…さっさと旗艦を自爆させればよい。その方が簡単です」

>>>上記の内容に対しては、はっきりとありえないと反論します。どういう状況をもっていきなり自爆させるのか、それこそ過激で非常識です。状況を踏まえると純軍事的にもまずい対応といわざるえません。

 対応する同盟軍の提督がウランフではなく、トリューニヒト派の「困ったちゃん」だったとしても、「あぶないから旗艦を自爆させちゃえ」なんてナデシコクルーが発想にいたるわけがありません。

 もしそんなことをしてしまったら、彼らは自分から処刑執行のサインをした事になり、唯一生存する手段を自ら消し去ることになってしまいます。

 2010年04月14日23:2:14

 軍事施設へのハッキングは戦闘行為ですな。バレなきゃ良いってもんじゃないだろう。

>>>コメントありがとうございます。

 これは本編かそれとも外伝の中身についてなのか判然としませんが、状況によってはありです。そしてバレないのが一番いい。ナデシコは本編アニメや劇場版でも遠慮なくやってますしねw


 2010年05月12日0:43:48

 いつも楽しませてもらっています。同盟軍に組織ですが、既に確認していたらば申し訳ありません。外伝4巻の螺旋迷宮に出ていますが、統合作戦本部に国防委員会とは別個に人事局があります。統合作戦本部には各部局(具体的にどことまではなかったかと思いますが)に参事官職が設置されているようです。各星系に管区司令官が置かれてます。とくに螺旋迷宮はその辺りが描かれていたと記憶しています。加えて、外伝2巻イゼルローン日記にもいくつか役職があったかと思います。第二部楽しみにしています。

 >>>コメントありがとうございます。同盟軍の役職についてはまだ収集中ですので、情報ありがとうございます。読まないと拾えませんからね。それが何処に記述があるのかというと捜すのがたいへんですから、情報はたいへん助かります。

 第二分に向けて執筆を進めています。それまではしばらく外伝をお楽しみにください。

 2010年05月19日9:30:26

 クロスオーバーということでどんな物なのか不安でしたが、予想以上にはまってしまいました。本来の「歴史」以上に生き残ってくれた方々も多いのが嬉しいですね(却って死んでしまった方もいるようですが)。これからイゼルローンや(本来なら)双方の内戦ですが、ナデシコから飛び立った「蝶」が今度はどんな波紋を広げてくれるか(「バタフライ効果」というものですね)興味深いです。

 >>>どうもありがとうございます! 作品を読んでいただき、楽しんでいただいたことたいへん嬉しく思います。ナデシコはようやく第六章で銀河の歴史に深く関わるようになりました。それまでの歴史からみればささやかな出発でしかありませんが、蝶の羽ばたきが銀河全体に及ぼす効果に今後も注目していただければと思います。
 

 以上です。いろいろなご意見、ご感想をお待ちしています。

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