―――戦争をやめる最も簡単な方法は、負けることだ。
だが残念ながら、俺は負けてやるつもりは毛頭ない。
負ければ戦争が終わる、というのは後世の歴史家の理屈であり、今を戦う兵士にとって、そのようなものは眉唾に過ぎないのだ。
なんといったって、俺は今、生きたいのだから。








既に前線は総崩れだった。
流石はエリア11最大の反政府組織というべきか、それとも率いている将が特別なのか、とにかくブリタニア軍はガタガタ。
この状況を立て直すのは大仕事だ。
特に指揮官があれでは………。

しかし戦略の要である『藤堂』と『四聖剣』さえ落とせば勝敗は分からない。
"奇跡"なんて大それた異名を持つくらいだ。
イレブン、いや日本人にとっては希望の星なんだろう。
つまり、逆にいえば、その希望の星を地面に叩き落せば相手の士気は大きく下降する。
そうなれば、こちらの戦術が活きてくる筈だ。

―――――――その為にも!

「ここから敵を狙い打つ。」

『しかし、この距離では―――――――――』

「問題ない。威嚇として放つだけだ。」

念の為持ってきたバズーカ砲を構える。
大口径のこいつは、破壊力、飛距離共にサザーランドの武装でも断トツだ。
唯一の難点としては、単発式ということか。

照準する。
勿論、正確な照準は不可能。
この距離はサザーランドのファクトスフィアの限界を超えている。
しかも俺のサザーランドは未だ走行中。

――――これで当てるなど、正気の沙汰じゃない。

だから、ああ言った。
単なる"威嚇"だといっておけば、過度の期待はされないから。
外れて当然、当たったら奇跡。

「奇跡に対して奇跡をぶつけるのも、悪くない。」

どうせ、こんなバズーカ砲。
持って行った所で、役に立たない。
所詮これは一発しか撃てない欠陥品。
KMF同士の戦いでは反って邪魔だ。

機械には頼らない。
こういう時は機械より自分の勘に頼る方が命中率が高いものだ。

そして、俺は―――――――。
驚くほどに冷静に、引き金を、ひいた。







SIDE:藤堂


作戦は大成功といってよかった。
ブリタニア軍はまんまとこちらの狙い通りの場所に伏兵を仕掛け、そして"日本解放戦線"が予め設置しておいたサクラダイトと奇襲部隊により壊滅した。

これでブリタニアの部隊の多くは沈められた。
後は本陣を陥落させれば、こちらの勝利。
『日本の反逆者の集い』の者達も素直に我等の指示に従ってくれたので、完璧な状況での挟み撃ちが成功した。

だが油断は禁物。
俺は"奇跡の藤堂"なんて大それた渾名で呼ばれるが、別に厳島での戦いは奇跡でもなんでもない。
あれは事前に得た情報と作戦あって戦術的勝利に過ぎないのだ。
決して私が幸運の星の下に生まれたから、なんて理由ではない。

だからこそ、ブリタニア軍の強さもよく分かる。
片瀬少将や草壁には言わないが、厳島では勝てるかどうか半信半疑だった。
シャルル・ジ・ブリタニアという一代の傑物に下で生まれた者達。
そして皇帝による弱肉強食の思想が生み出した有能な指揮官達。

日本があの時、戦争に負けたのは断じてKMFがあるかないかではない。
物量・質・将、そのどれにおいても日本は劣っていたのだ。

それに比べ今回は些か拍子抜けでもあった。
呆気なさ過ぎるほど容易く罠に掛かり、あまつさえその後の指揮もどことなく陳腐。
正直、余りの惰弱さに落胆すらつきかけた。

――――――――その時のことだ。

『藤堂さん!』

朝比奈が私の無頼を突き飛ばす。
何故、と思う間もなく理由は分かった。

私の無頼を突き飛ばした朝比奈の無頼が、次の瞬間には爆散していたのだから。
幸い朝比奈自身は脱出して無事だったが、朝比奈の騎乗していた無頼は木っ端微塵。
もはや修理さえ不可能だと、素人目からも分かる。

しかし、一体だれが?
周囲にこちらを狙撃しようと狙っている敵はいなかったはず。

『藤堂中佐、前方より敵が接近中です。』

「なに?」

仙波に言われて気付く。
確かに三つの光点がこの地に向かって接近中だ。
まさかこいつ等が撃ったとでもいうのか、先程の攻撃を!?
だとしたら驚きだ。
走行速度から逆算するに、私を狙った場所はかなりの距離。
グラスゴーは勿論、新型のサザーランドですら、攻撃の届かない距離のはずだ。
つまり敵は、それ程の性能を持つ機体か、腕を持つ相手という事になる。

無意識のうちに拳を握り締めた。
相手がどんな奴であれ、厳しい戦いになるだろう。
さっきまでの相手とは訳が違う。

そして敵が現れる。
サザーランドが一機、グラスゴーが二機。
機体の種類で考えてサザーランドが隊長格だろう。

『お前が藤堂だな?』

サザーランドから聞こえてきたのは、まだ若い男の声だった。
もしやまだ二十歳にもなっていないのかもしれない。

「如何にも。」

サザーランドのパイロットの問いに正直に答える。
別に隠す事でもない、問題はないだろう。

『そうか。
ではその命。もらうぞ、藤堂!』

「やってみろ!」

私は、自分でも驚くほど好戦的に、その挑戦を受けた。







SIDE:レナード


奇跡ってあるんだ。
そんな事を今更ながらに再確認した俺は、サザーランドを全力で走らせ藤堂へと向かう。
残念ながら藤堂と思われる白い色違いの無頼は倒せなかったが、代わりに通常の無頼とは違い剣を持っていた無頼一機を破壊する事が出来た。

「お前が藤堂だな?」

念の為確認する。
これでなんとか倒しても、実は別人でした、じゃ洒落にならない。

『如何にも。』

どうやら本物の藤堂のようだ。
これで迷う心配はない。
後は全力で戦うだけだ。

「そうか。
ではその命。もらうぞ、藤堂!」

『やってみろ!』

ああ、やってやるさ。
言われなくても、お前はここで死ね、藤堂。

藤堂を始めとする四聖剣の無頼は、一般機とは違い剣のような武装をしている。
周囲のグラスゴーの残骸から、かなりの切れ味とみた。

「二番機、三番機は射撃で援護しろ。
俺は前面で奴等を牽制する。」

『イエス、マイ・ロード』

本当ならば、俺が援護射撃といきたいが、そうもいかん。
剣を主武装とする以上、恐らく藤堂達は接近戦に自信があるのだろう。
なんとか俺が牽制し、他の二機に決めてもらうしかない。

それに機体の性能なら俺のサザーランドの方が上のはずだ。
数の上では四対三と不利だが、一つの差くらい機体の性能でカバーしてやる。

『朝比奈の抜けた穴は俺が埋める!
仙波は左のグラスゴー、卜部は右を!
千葉は二人を援護しろ!』

『承知!』

なるほど。
藤堂が俺を抑えて、他の二機でグラスゴー。
残った一機が全体の援護、か。

だが思い通りにはさせない!
地面に向けてアサルトライフルを撃つ。
爆風が上がり、それは即席のスモークとなる。

「二番機、三番機。先ずは援護の一機を潰す!
俺が先行する、援護しろ!」

サザーランドの突破力なら、いけるはず!
僅かなスキマを縫い、援護の為の一機を狙う。

相手の無頼も反応するが、やはり所詮は第四世代。
反応速度もサザーランドに比べ、劣る。
スタントンファを展開。攻撃。

――――――――失敗だ。
寸前でカバーに入った無頼に邪魔をされた。
流石の連携、といったところか。
だがいける、敵は二機だがまだいける。

更に踏み込み、割り込んできた無頼を攻撃。
スタントンファの一撃をモロに喰らった無頼はたまらず脱出した。
これで残り三機。数の上では同等に――――――――――

『はあああぁッ!』

藤堂の雄叫びが聞こえてくるような一撃。
それが二番機を襲った。
防ぐ事すらままならず、二番機はそのまま両断される。
脱出すらできぬままに。

『うわあああああああああああっ!』

俺のサザーランドのコックピットに二番機のパイロットの悲鳴が響いた。
そして、なんの前触れもなく唐突に二番機を『LOST』する。

「くそっ!!」

思わずサザーランドのコックピットを殴っていた。
強く殴り過ぎた為に手から血が滲む。
だが、そんな事よりも―――――――。

死なせてしまった、俺の指揮で。

その事実が重く圧し掛かる。
一兵士として戦うのとは違う、命を預かった重み。

「ええぃ!今は駄目だ!
まだ戦闘中………後悔など後で幾らでも出来る!」

二番機の事は……………後だ。
無理矢理、二番機のパイロットの顔を頭から追い出す。
まだ戦闘は続いている、こんな所でウジウジする訳にはいかないのだ。
俺がモタモタすれば、今度は俺や三番機が死ぬ。

「三番機!」

『は、はいっ!』

「お前は後方へ下がれ!
こいつら、藤堂だけじゃあない!
全員がエース級だ!」

『い、イエス、マイ・ロード!』

そう、それでいい。
一般兵では、こいつらの相手は厳しい。
指揮能力において俺を上回るであろう藤堂に、エース級のパイロットが二人ついているのだ。
せめてルキアーノがいればな。
あいつが前面にいればどうとでもなるというのに……。

駄目だ。
今は現実的に考えろ!
ここにはルキアーノはいないんだ!

瞬間、二機の無頼が三番機へと突進した。
急いで援護に行こうとする俺を藤堂が止める。
………三番機を倒した後、三人がかりで俺を倒す算段か?
くそっ、強かな奴だ。

「退け、三番機!
全速力で後退すれば逃げられる!」

『で、出来ません!』

「なに!?」

『あいつは………俺の友人だったんです!
だから、こいつ等は俺が―――――――』

それが三番機の最後の通信だった。
無頼の剣は三番機を綺麗に切り裂き、そして沈黙させた。
俺のサザーランドのモニターには再び『LOST』の文字が浮かぶ。
だが二番機とは違い、なんとか脱出は出来たようだ。

その僅かな隙を見過ごせなかった。

ランドスピナーをフルに使い藤堂との距離を離し、発砲。命中。
敵の無頼をまた一つ沈黙できた。
これで残りは藤堂含め二機。

だからこそ、ここで敢えて藤堂に背を向ける。

いきなり背を向けた事に驚いたのか、藤堂の攻撃が一瞬、ほんの一瞬遅れる。
だがそれで十分だ。
敵の射撃を重要部分だけを避けて受ける。
機体が悲鳴を上げるが無視。
踏み込み、そしてスタントンファの攻撃!
胴体を抉ったトンファの一撃は、相手を倒すには十分だった。
四聖剣最後の一人も脱出し、後は藤堂一人。

『驚いたな。
結果的にとはいえ、まさか君一人に四聖剣が全てやられるとは………。
いや、だからこそ、君の首級には価値がある。』

藤堂の無頼が構える。
流石は藤堂、日本人の希望を一身に背負う男というべきか……。
見事の構えだ。

俺も覚悟を決めたほうがいいかもしれんな……。
俺もアサルトライフルを構える。
接近戦よりはこちらで戦う方が勝率も高い筈だ。
その時―――――――――。

「全軍に告げる!
私はキューエル・ソレイシィ、援軍だ!
今一度奮起しろ!もう直ぐヴィレッタ卿率いる第二陣も到着する!」

エングン!?



えんぐん?



援軍!!

た、助かったよキューエル卿!








その後、藤堂は混乱に乗じて撤退。
だがブリタニア軍はこの戦いで『日本の反逆者の集い』を完全に壊滅する事が出来た。
しかしブリタニアが被った被害も大きく実質的には痛み分けといっていい内容であった。


余談だが、無能な司令は汚職やらの罪で後送されたらしい。
今回の作戦で唯一よかった出来事かもしれない。



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