―――競争は速い者が勝つとは限らず、戦いは強いものが勝つとは限らない。
この言葉を聞いた時、思わず『なるほど』と頷いてしまった。
例え戦力においてこちらが圧倒していようと、綿密なる作戦や統率、指揮の下に敗れる事だってある。
そう日本侵攻戦の際でブリタニアが唯一敗北した『厳島の奇跡』のように。
………ようするに何が言いたいかというと、俺は現在、絶体絶命だということだ。
切欠は数時間前まで遡る。
何時の間にやら大尉に昇進していた俺は、毎度の事の様にジェレミア卿に呼び出された。
そして…………。
「ヒロシマのテログループである『日本の反逆者の集い』という組織がしぶとく抵抗を続けているようでな。クロヴィス殿下よりトウキョウ租界から援軍を派遣するよう、私に命令が下った。」
ようするに、ヒロシマにいる駐留軍じゃ手に負えないからトウキョウに応援を求めたというところか。
それでクロヴィス殿下からエリア11のブリタニア軍の中でも、かなりの強さを持つ純血派に命令がいったのだろう。
あと如何でもいいけど、少しは名前ひねろよ。
なんだ『日本の反逆者の集い』って。
そのまんまじゃないか。
「それで私は、君を派遣したいと考えている。」
なんですと!
「あの…私が、でありますか?」
「そうだ。キューエルやヴィレッタは既にカナガワへと行ってしまっているし、トウキョウ租界の防備の為にも、私が行く訳にもいかんのだ。
私までトウキョウから離れては、この租界に純血派の主要メンバー全員がいなくなってしまう。
それは、いかん!
もしもの時の際に、誰が殿下をお守りするのだ!!」
……この人、根は良い人なんだけどなあ。
皇族の事になると、無駄に熱血なのが偶に傷だ。
「そ・こ・で!
最近純血派に現れたスーパーエースとの呼び声高い君を派遣しようと考えたのだ!」
えっへん、と胸を張るジェレミア卿。
しかしスーパーエース?
なんだそれは。
まったく聞いてないぞ。
「あの…スーパーエースとは一体?」
「よくぞ聞いてくれた。
前の戦いでの君の働きは他の兵達の間でも噂になっていてな。
私が親切心で、あれは新たに純血派に加入したスーパーエースだと教えてやったのだ。」
な、なんと余計なことを…。
面倒な派閥争いに巻き込まれるのはまっぴらなので、所属だけしておいて後は目立たないようにしようと思ったのに。
そんな俺の気も知らずジェレミア卿は呑気に笑っている。
しかし、どうも憎めない。
「では、頼んだぞ!
オール・ハイル・ブリタニア!!」
この時、もっと強く拒否していればこんな事にはならなかったのに。
それはヒロシマにあるブリタニア軍本部に到着して直ぐの事だった。
テロリストが結集し、本部に攻撃を仕掛けようとしていると諜報部が察知。
これに対し我が軍は、先手を打つ為に周囲に伏兵を伏せた。
つまりテロリストが本陣を攻撃すれば、周りの伏兵が攻撃を仕掛け包囲殲滅できる。
俺も、これで終わりかな?と思い気分上昇だったのだが、そうは問屋がおろさないとは正にこれ。
伏兵部隊が逆に奇襲に合い壊滅。
背後から現れた日本解放戦線のKMF部隊と前から進軍してくる"日本の反逆者の集い"略してニチハンの部隊。
ようするに、挟み撃ちにされてしまったのだ。
混乱する司令部、とういか司令官。
どうしてこんな男が軍人なんだ?と疑問符のつく禿頭のデブ男はヒステリックに叫ぶばかりで何の役にも立たない。
さっきから「敵を倒せ」だの「なにをやっておるか!」とか「どうしてテロリスト如きに我が軍が負けているのだ!」くらいしか言わない。
現場の指揮官としては、もうちっと具体的な命令を欲しいところだ。
だけど悲しいことだけど、あれが俺の上官で、この軍の司令官なんだよな、これが。
ほんと泣きたくなるけど……。
しかも幾ら俺が「自分を出させろ」と言っても司令は絶対に「うん」とは言わない。
恐らく自分の手元に近頃エースと言われる俺を置いておきたいのだろう。
どうやらジェレミア卿の流した噂が、マイナスに作用してしまったようだ。
「ぼ、防御拠点が突破されました!」
司令室に悲痛な声があがった。
それに対して司令の男が怒鳴る。
「なにをやっておる!
さっさと敵を防がんか!」
このままじゃ、本陣に敵が切り込んでくるのも時間の問題だ。
前方のニチハン部隊は良い。
テロリストらしく錬度もイマイチ。
質において上回るブリタニア軍の敵じゃない。
大問題なのは後ろの日本解放戦線のほう。
なんでも『奇跡の藤堂』と『四聖剣』とかいう奴等が着ているらしく、こちらのKMFが次々にやられていっている。
モニターでその動きをみたが…………いやはや凄まじい。
個々人の動きもそうだが、何よりも凄いのはその連携。
色違いの白い機体(恐らく藤堂)を中心として他の四機が変幻自在に動き、確実に我が軍のKMFを潰していく。
その動きには技巧を通り越して奇妙な芸術性すら感じてしまう。
これが奇跡の藤堂………騎士と将の器を持つ男、か。
それに比べて…。
「おのれおのれおのれおのれ!!
イレヴン如きに何をやっておるッ!」
またそれか。
仕方ない。無駄だとは思うが言ってみよう。
「………私が出ましょうか。」
「それはいかん!
レナード卿。君を出せば本陣の守りが薄くなる!!」
ちっ、保身主義者が。
このままでは、その本陣にまで攻め込まれるというのが分からないのか!
どういう手品でこの地位まで上り詰めたんだ、この無能が!?
いや、しかしどうする。
このままでは、こちらの敗北は必至。
それだけは避けたい。
だがどうやって?
総司令官は無能。
挟み撃ち。奇跡の藤堂。
不利の条件が揃いすぎている。
こんな時、お前ならどうする?
―――――――ルルーシュ。
思わず、この地で死んだ友人の事を思い浮かべてしまう。
こんな時あいつなら、と。
――――ルルーシュの性格なら、この無能な男からあらゆる手段を使って指揮系統を奪い、自分が指揮するだろう。昔から悪巧みは得意な奴だったからな。
では、もう一人の友人。
ルキアーノならどうするだろう?
いや、考えるまでもなかったか。
あいつがとる行動なんて決まっている。
俺はまだ死にたくはない。
こんな場所で死んでたまるか!
行動しなければ、世界は何も動かない。
ここで動かねば、ただ無意味に死ぬだけ……!
それだけは、御免だ!
「司令、私も出ます!」
「な、ならんぞ!
本陣の守りが薄く――――――――」
「そんな事を言ってる場合か!
敵は迫ってきているんだぞ!」
眉間に皺を寄せて怒鳴ると、司令が後ずさる。
もういい。
今はこいつ等に構っている時間はない。
早く日本解放戦線を止めなければ不味いのだ。
「め、命令違反をするつもりなのか!」
「五月蝿い!俺はお前達を守る為に軍人になったわけじゃない!
自分の身くらい自分で守れ!!」
我ながら上官に言う言葉じゃないとは思うが、仕方ない。
頭に血が上っていたのだ。
廊下を走り、俺の機体の置いてある格納庫へと向かう。
そこには、トウキョウで整備した時と同じ"サザーランド"が鎮座していた。
「この新型ならば、なんとかなるやもしれん。」
第五世代KMFの名が示すとおり、このサザーランドは第四世代KMFグラスゴーより性能が全体的に上回っている。
といっても、まだ全軍に配備されておらず、ジェレミア卿など一部の騎士が乗るのみだ。
大尉昇進の際にジェレミア卿の計らいで俺のところに回されて来たのだ。
今はジェレミア卿に感謝しよう。
事前にマニュアルで読んだ通りサザーランドを立ち上げる。
うん、問題ない。これならいける。
『大尉、私達も付き合いますよ。』
「むっ、お前達は―――――」
以前、ヨコハマで俺の指揮下にいた者達だった。
確か今回も俺と一緒に援軍部隊として来たらしいが。
「いいのか、これは明らかな軍命違反だぞ。」
『構いやしませんよ。
私達もあの司令の言動にはイラついていましたから。』
そういって笑う二人のパイロット。
……嬉しいじゃないか。
「よし、ならお前達二人のクビは俺が預かった。
再就職先は任せろ。」
『イエス、マイ・ロード!』
「では行くぞ!
目標は日本解放戦線の中心人物、藤堂鏡志郎。
奴さえ討てば、この戦いの形成は逆転できる!」
『イエス、マイ・ロード!』
「出撃!!」
サザーランドのランドスピナーが叫び声をあげ、一気に市街地へと降り立つ。
そして、戦闘が始まった。
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