―――死は全てを解決する。人間がいなければ、問題は起こらない。
あんまりと言えばあんまりな意見だが、これには確かに一部の理がある。
人間さえいなければ、戦争が起きる事もない。
人間さえいなければ、自然のサイクルが狂うこともない。
人間がいなければ………人間がいなければ……………etc………。

しかし現実として、人間という動物は存在する。
そして人間を絶滅させる事の出来る唯一の生物、これもまた人間であるならば、もしかしたらホモサピエンスという動物は、全人類が自殺する為に生きているのではないだろうか?








SIDE:レナード


ポイントC3。
EUきっての名将とブリタニアでも名高いテオ・シード将軍が守る地である。
この戦いにおける重用拠点の一つであり、ブリタニアが幾度となく攻めては敗北を喫した場所だ。

そんな場所に戦いに赴く兵士達の士気というのは、普通なら低くなるのだが、
今回はその逆。
士気が低下するどころか逆に上がっている。
兵士達も今回の作戦の司令官があの"コーネリア"殿下だと知っているからだ。

対するEUもこれまた中々に戦力を整えており侮りがたい。
KMFはこちらがグロースターとサザーランド主体なのに対して向こう側は戦車と、鹵獲したグラスゴーをコピーし大量生産したような代物。
つまりKMFならばこちらが上。

しかし、ここはEU。
相手にとっては庭も同然。
地の利においては負けているという事だ。

最後に兵力だが、これはほぼ互角。
僅かにブリタニア側が勝っているが、ほんの少しの差だ。
大局にそれほど影響するとは思えない。
となると勝敗を分けるのは、指揮を執る将の実力が問題となる。

「どうした、緊張しているのか?」

俺が新たに与えられたグロースターのコックピットで悶々としていると、何時の間にやらギルフォード卿の顔がモニターに浮かんでいた。
どうやら新任の俺を気遣ってくれたらしい。

「いえ、大丈夫です。問題ありません。」

「ははっ。それでは緊張していると言っているようなものだぞ。
確かに敵のシード将軍は我が軍においても名の通った男だ。
しかし我等には姫様がおられる。
負けてなどはやらないさ。」

「……ギルフォード卿は随分とコーネリア殿下を信頼しておられるのですね?」

「当然だろう。
あの方の騎士となって、もうそれなりに経つが、未だにKMFでの模擬戦でも三回に一回とるのがやっとだ。」

「それはまた……。
流石はコーネリア殿下というべきなのでしょうか?」

「そうだな。
守るべき主君よりも弱い騎士、というのは情けなくも思うが、それでも姫様の騎士として選ばれた事は、この私にとって、これ以上とない誉だ。」

そう言うギルフォード卿の顔には、殿下に対する絶対的な忠誠が垣間見えた。
恐らくその忠誠は、ブリタニアという国よりもコーネリア・リ・ブリタニアという個人に向けられているのだろう。

「しかし、だからといって我等の役目を忘れるなよ。
私達は姫様の親衛隊。
何時如何なる時でも、殿下をお守りするのだ。
勿論、この戦場においても。」

「イエス、マイ・ロード。」

「では、頼むぞ。」

プツン、と通信が切れた。
もうそろそろ時間だな。

操縦桿を握る手に力が篭る。
そうだ、部下が上官を信じられなければ勝てる戦いも勝てない。
まして俺の上官はコーネリア殿下なのだ。
断じて無能な司令官じゃない。

やがてコーネリア殿下の号令が響く。

『蹂躙せよ!』

それで十分。
一斉に動き出すブリタニア軍。
一糸乱れぬ統率で指揮された軍勢は、次々にEUの部隊を殲滅していく。

だが流石はブリタニアと同じく大国として世界に名を連ねるEU。
ブリタニア軍を防ぐどころか、逆に押し返している所もある。

それは獅子と虎の戦い。
エリア11で相手したテロリストのような、獅子と猫の戦いとは違う。
どちらの側も相手を殲滅するだけの力を持ち、激突する。

これが、本物の戦争。
まだ戦っておらず待機しているだけだというのに、なんて緊張感だ。

『拉致があかんな。
流石はEUきっての名将というところか…。
ギルフォード我等も出るぞ!』

『なりません、姫様。
戦場は未だ混迷の様子。
もし万が一御身にもしもの事があれば――――』

『ギルフォード。
私をそこいらの女と同じに見るな。
――――――――出るぞ。』

『……イエス、ユア・ハイネス。』

凄い。
あのギルフォード卿がたじたじだ。
これが戦乙女と畏怖される殿下の迫力なのだろう。

『さて、戦の開幕だ。』

殿下のグロースターに俺を含めた親衛隊が続く。
目指すは唯一つ、敵の司令部。
そこにいるシード将軍を討てば、恐らく勝敗は決するだろう。

しかし流石は殿下。
グロースターのランスを一閃するだけで、敵KMFが吹っ飛んでいく。
…………俺も負けてられないな。

「それっと!」

アサルトライフルを撃つ。
……本音を言えば、接近戦に優れたグロースターよりオールレンジで戦えるサザーランドのほうが好みなのだが、仕方ない。
親衛隊の皆が皆グロースターに乗っているのに一人だけサザーランドじゃ格好がつかない。

『レナード!
そちらの敵がいったぞ!』

ギルフォード卿からの通信。
咄嗟に操縦桿を後ろに倒す。

ほんの少し前まで俺が居た場所に、アサルトライフルの弾丸が通過。
…危なかった。
もし回避していなければ、機体にそれなりのダメージを負っていただろう。

この礼は今からしてやる!

「はあああああッ!」

ランスを構え突進。
敵KMFもスタントンファを展開したようだが、遅い。

素早くランスを突き串刺しにする。
敵のパイロットは脱出する間もなかったようで、そのまま機体は爆散した。

「助かりました、ギルフォード卿。」

『構わん、それよりも遅れるな。』

「イエス、マイ・ロード。」

再び進む。
司令部への接近を許さないと立ちふさがるKMFの悉くを撃破する。
だが、もう少しで司令部が見えるというところで、

『奇妙だな。』

コーネリア殿下がふと、そんな言葉を漏らした。

『何が、ですか?』

『呆気なさすぎる。
仮にも我が軍にまでその名を轟かせた男の指揮にしては、敵の動きが脆弱だ。』

言われてみれば、そうかもしれない。
しかし、そんなに気にする事だろうか?
ただ何度も攻め込んでは敗れた苦い経験のせいで、敵の実力が過大評価されただけなのではないのだろうか?

『では一度、軍を引き上げますか?』

『いや、ここで退けば我等は千載一遇の好機を逃す事となる。
司令部はあと少しなのだからな。』

『ならば、一度アレックス将軍と合流されては如何でしょう?
幸い距離も近いですし。』

『よし。では早速――――――――――』

殿下が指示をしようとした直前だった。
地面が割れ、そこから何か巨大な物体が上がってくる。

『なんだ、これは?』

コーネリア殿下の呟きは、親衛隊全員の代弁でもあった。
巨大な黒い塊。
そう形容するのが正しいのだろうか?
分厚い装甲版、そして―――――。

そして何よりも、装備された夥しい重火器。

『伏せよ!』

敵の巨大兵器の全砲門が、一斉に解き放たれた。



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