―――僚機を失った者は戦術的に負けている。
ならば、俺も相手もまだ戦術的には負けてなどいない。
何故ならばブリタニアもEUも僚機を失っていないのだから。
SIDE:レナード
『伏せよ!』
コーネリア殿下が叫ぶ。
その言葉を聞いてか聞かずか、一斉に親衛隊の者達は、その場から退避した。
「なんだ、ありゃ………?」
漸く目が慣れ全貌が見えてきた。
それは一つの戦車だった。
いやあれを戦車とするのは正しいのだろうか。
戦車というには、余りにも巨大過ぎる。
あれはもはや一つの要塞だ。
黒色の分厚い装甲、そしてその巨大を動かすためのキャタピラ。
そして装備された大量の武装。
あれらの砲火に晒されればKMFなんて直ぐにスクラップだろう。
『我が軍のG1ベースに似ているな。』
コーネリア殿下が呟く。
どうやら流石のコーネリア殿下も驚きを隠せないようだ。
僅かにその唇が震えている。
『姫様、如何いたしますか?』
『分かりきった事を聞くな。
EUが余りに脆弱だったのは、我等をこいつの所まで誘い出し殲滅する為だろう。』
素早くEUの策を見抜く。
ここら辺の才覚は見事だった。
『逆に言えば、こいつさえ落とせば奴等の手は尽きる!
行くぞ、ギルフォード!遅れるなよ!』
―――――やっぱりそうなるんだな。
状況を静観してそう心の中で呟く。
同時にコーネリア殿下の悪い予感が正しかった事を思い出し、更なる敬意を露にする。
しかし、今はそんな風な事を考えている時ではない。
目の前にいる巨大兵器。
コーネリアの言う通りこれがEUの切り札だろう。
今まで使用しなかったのは、確実にコーネリアという最上の獲物を葬るためか。
「どっちにしたって、やる事は変わらないな。」
自分の役目を再確認。
そう、自分は軍人だ。
ならば全力で上官であるコーネリア殿下の命に従うだけ。
『殲滅しろ!』
アサルトライフルが巨大戦車を襲う。
しかし分厚い装甲は、KMFの弾丸如きでは凹みすら出来ない。
相当の威力がある大砲でなければ、あれの突破は不可能だ。
『接近し、至近距離より攻撃を加えよ!
如何な装甲といえど零距離ならば―――――』
「イエス、ユア・ハイネス!」
頷いて接近する。
敵は大きい。
小回りは効かない筈だ。
しかし敵のKMFが襲ってきたので避ける。
どうやら敵は巨大戦車の周囲にナイトメアを配置したようだ。
確かにこれなら、小回りの効かないという戦車の弱点を、あるていど緩和できるかもしれない。
「だがこれだと、自分達が危ないんだぞ。
分かっているのか、こいつら?」
敵ナイトメアを近づけない為に、周囲に自軍のナイトメアを配置する。
言うのは簡単だが、かなり危険な行いだ。
何故なら自分達が戦車の砲火により散る可能性もあるのだから。だが、
「ちっ!そんなへまはしそうにないな。
凄い統率力だ。」
憎憎しげに呟く。
俺の見る限り敵がそんなマヌケな事はしてくれそうにない。
見事な連携で、戦車が攻撃をした瞬間、ナイトメア部隊は攻撃の届かない場所へと移動するのだ。
計算され尽くした動き。
凄まじい、とした言いようがない。
だが、そんな時コーネリア殿下の声が響く。
『落ち着け。
如何に攻撃力が高かろうが所詮は戦車。
私に続け、見本を見せてやる!』
コーネリア殿下が突撃する。
しかし無謀な行動ではない。
砲火の網を絶妙な動きで潜り抜け、どんどん巨大戦車に接近していく。
『ええぃ、殿下に続くのだ!
姫様を死なせてはならん!』
ギルフォード卿に言われるまでもない。
俺もフルスロットルで巨大戦車に近付く。
しかし、なんて火力だ。
俺のグロースターも既に小破。
このまま受け続けば不味い。
よし、ならば、
ライフルを構える。
巨大戦車にではない。
狙いは周りのナイトメアだ。
「これでも喰らえ!」
発砲。
弾丸は流れるようにナイトメアに飛び、そして倒した。
まだまだ、これで終わらせは………。
幾度も敵ナイトメアに攻撃を浴びせる。
これでも中〜遠距離戦には自信がある。
一機、一機、確実に落とす。
そして敵からの攻撃が弱まった隙をついて、コーネリア殿下が最初に巨大戦車に近付いた。
続いてギルフォード卿も続く。
『この、脆弱物がッ!』
零距離からの発砲。
流石の装甲も零距離攻撃には耐え切れずダメージが加えられていく。
だがそれを敵が指を加えてみている訳がない。
EUのナイトメアがコーネリア殿下に襲い掛かるが、
『姫様には手を出させん!』
残念ながら殿下には最高峰の騎士がついている。
そう簡単にやられる訳がない。
「さて、俺も頑張らないとな。」
ここからでは巨大戦車にダメージは与えられない。
なのでひたすら敵ナイトメアを落としまくる。
そう、ただひたすらに。
それも終わりを迎える。
コーネリア殿下やギルフォード卿の執拗な猛攻に晒された巨大戦車が沈黙したのだ。
『さて、次は司令部だ。』
短い一言。
それで十分だ。
操縦桿を操作しコーネリア殿下に続く。
やがて一際大きな建物が見えてきた。
諜報部からの情報によると、あれが敵の司令部だそうだ。
もはや、止まる必要などない。
そして、
『警告は一度きりだ!
武器を捨て投降せよ!』
「……………………」
敵の司令部は………反応なし。
つまりこれは、
『沈黙は否定と受け取った。撃て!』
アサルトライフルの一斉発射。
やった。
これで敵の重用拠点が落とせた。
今後の戦いはブリタニアが優位に進められるだろう。
ふと、気が抜ける。
あの巨大戦車には少し驚いたが、所詮は戦車。
前時代の遺物、か。
戦いはこちらの勝利。
今にもコーネリア殿下の勝利宣言が、
『全軍、急ぎ退却せよ!』
そうそう、早く退却しないと…………って。あれ?
なぜに退却?
またしても、その答えは直ぐに出た。
飛んでくる大量のミサイル。
それは此処の、EU司令部を正確に狙っている。
『ぬかった!
まさか司令部を囮にするとは!』
司令部を囮?
つまり、俺達はまんまと敵の罠に引っ掛かってしまったということなのか?
そんな、アホな――――――――――ッ!!
しかし叫んだところでミサイルは消えてはくれない。
不味い。
不味すぎる。
これはナイトメアの弱点を的確についた作戦だ。
現代戦最強の兵器であるKMFだが、遠距離からミサイル攻撃を喰らったら一溜まりもない。
ようするにKMFにおいて劣っている事を熟知していた敵の司令官は、本陣を囮にするという愚作を行う事により、コーネリア・リ・ブリタニアという最上の獲物を討とうと考えたのだろう。
つまり、敵の切り札はあの巨大戦車じゃない。
いや、巨大戦車は単なるフェイク。
本当の罠を隠すための――――――。
『残弾は気にするな!
なんとしても、ミサイルを打ち落とせ!』
悲痛な叫びが戦場に響き渡った。
SIDE:テオ・シード
「将軍。見事に引っ掛かりましたね。」
幕僚の一人が私に言う。
それに満足そうに頷いてやった。
「うむ。
本国より送られてきた"サリアス"。
あれは囮には最適だったな。」
サリアスとは、本国から送られてきた巨大戦車だ。
ブリタニアのKMFに対抗する為に作った実験機であり、今後の戦局を覆すかもしれない程の代物、だそうだが、私から言わせればそれ程脅威ではない。
確かにその火力は恐ろしいが、接近されて零距離から攻撃を加えられれば、幾ら分厚い装甲があったとしても、保ちはしない。
ましてや相手はコーネリアの軍。
ブリタニアきっての精鋭部隊だ。
たかだが戦車一つで戦況が変わる筈がない。
しかし物は使いようだ。
アレのお陰でコーネリアはこちらの真の狙いに気付く事無く司令部に接近していった。
別方向から攻め込んでいるダールトンとアレックスの部隊は、我が軍に阻まれてコーネリアの援護には行けない。
これはチャンスだ。
「全軍に伝達!
ここでなんとしてもブリタニアの魔女を討つぞ!!」
「「「「はっ!」」」」
そうだ。
ここでコーネリアを討てばブリタニアは劣勢に立たされる。
そうすれば、戦争は終わる。
祖国のためにも、俺は、負けられないのだ!
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