―――迷ったら元のところに戻れ。
確かに、それは正しい選択だ。
だからこそ、俺は敢えて言いたい。
元のところに戻る?……大いに結構だとも。
しかし、戻るべき道すら分からないならどうすればいいんだ?
長くなったが…。
ようするに、現在俺は迷子である。








SIDE;レナード


「さて、どうしたものか……。」

途方にくれる。
しかし、だからといって慰めてくれる者が近くにいる筈もない。
何故なら、俺はたった一人なのだから。

切欠は先の戦いでの事だった。
EUの罠に引っ掛かった俺達はなんとか飛んで来たミサイルを全て撃墜する事に成功。
だが安堵したのも束の間。
格ポイントからの敵の接近。
再び飛来するミサイル。

正直、死ぬかと思った。
これが四面楚歌っていうんだな〜、なんて現実逃避もしたりした。

しかし、現実逃避しても現実は変わらない。
どうやらEU側はなんとしても、この戦場でコーネリア殿下を討ちたい様で、敵は執拗に攻撃を仕掛けてきた。
どれくらい執拗かというと、うっかり手に付けてしまったノリのベタベタ並みにしつこくである。

そんな絶体絶命の状況だったのだが、コーネリア殿下の一喝により失われかけていた士気が回復。
血路を開いての突破を試みた。

結果は――――――――大成功。
背水の陣とはよく言ったもので、親衛隊全員が鬼気迫る勢いで敵を撃滅していった。
だが、そこで俺の中に油断が生まれたのかもしれない。

偶然、俺の近くで爆発が起きたのだ。
理由は分からない。
何かの罠かもしれないし、ただの事故かもしれない。
ただその爆発で上がった土煙のせいで、俺は少し進路をずらしてしまった。
そうなると後は済崩し的に本隊と離れ離れになり、ヤケクソになった俺は我武者羅に奮闘し、なんとか敵の包囲網を抜けたのだが………そのせいで、完全に本隊と離れてしまったのだ。

どうやらEUが通信妨害をしているらしく、通信が繋がらない。
つまり、本陣に救援を求めることすら不可能。

はっきしいって嘗てないピンチだ。
超大ピンチだ。

グロースターは戦闘しなくても二時間しか保たない。
戦闘をすれば三十分で限界時間がくる。
そんでもって弾薬も残り少なく、補給も期待できないときた。

他にある武器といえば、俺がKMFに乗る時も常に持ち歩いているライフル。
それにブリタニア軍が通常持っている銃。
後はナイフくらいだ。

更に追い討ちとなるのが、俺はここら辺りの地理に全く詳しくない。
おまけにブリタニアのKMFの通信が出来ないという事は、恐らくここはEUの勢力圏内。
そうでなくとも、未だブリタニア、EUのどちらにも染まっていない場所だろう。

「参ったな……。
これで敵の大部隊にでも見付かれば一発でアウトだぞ。
というかコーネリア殿下はどうなったかだ……。
無事に撤退できてればいいけど…。」

脳裏に走った嫌な予感を振り払う。
大丈夫だ。
あの人がそう簡単に討たれる筈がない。
今頃、EUに対して痛烈な逆襲の為の作戦でも練っているところだ。
そうに決まっている。

「しかし、やっぱり味方と合流するの―――――――――――――」

息を潜める。
耳を研ぎ澄ます。

聞こえてくる微かな音。
これは…………この震動はナイトメア、か?
俺の居る場所は、地面が凸凹していて戦車が通るとは考えずらい。
このような場所なら、恐らくはナイトメアだろう。

「………敵か、味方か。」

こういう時の予想は悪い方に立てたほうが懸命だ。
素早くグロースターに乗り込み敵を待つ。

―――――――大丈夫だろうか?

俺のグロースターは小破している。
この状態でも一対一ならば勝つ自信はあるが、流石に十機、二十機になると無理だ。
残りエナジーの問題もある。

――――――――だが、やるしかないんだよなあ。

やらなければ、こちらがやられる。
よしんば捕虜となったとしても、待っているのは重労働か、監禁生活か、それとも拷問か。

音が近付いてくる。
こちらには気付いていないようだ。
…………これは、音から判断するに一機か?

耳を澄ませるが、こちらに接近する音は、そう多くない。
たぶん一機か二機程度だろう。
これならば、いける。

「……………!」

そして漸くその姿が見えた。
ブリタニアのグラスゴー、それを灰色に塗装した機体。一機だけ。
間違いない。EUだ!

「悪いが、一瞬で終わらせる!」

今この時は騎士道精神やらなんやらの全てが吹っ飛んだ。
ここでこいつにEU本隊に連絡をいれられれば応援が駆けつけてくるだろう。
そうなっては駄目だ。

相手が反応するのを待たずに、ランスで一刺しにする。
この時ほど自分の搭乗機が、接近戦に優れたグロースターで良かったと思った事はない。
かなりの破壊力を持つランスは、ただの一撃でEUのグラスゴーもどきを破壊する。

「脱出など、させるか!」

脱出しようとしたので、コックピットを押さえつける。
ここで行かせる訳にはいかない。
このパイロットには色々と聞きたい事もあるからな。

「そこのナイトメアのパイロット。
大人しくコックピットから降りろ。
そうすれば命までは取りはしない。」

警告する。
もし従わないなら仕方ない。
無理矢理にでも引きずり出す。

『…………………………』

無反応、か。
ならば力尽くで…。

そう思った時だった。
コックピットハッチが開き中からパイロットが出て来た。
顔は見えない。
ヘルメットともどうとも判別のつかない者を被っているせいだ。
もしかしてあれは、EUのパイロットスーツなのだろうか?
だとしたら、かなり暑苦しそうだ。
武器などは持っていない。

「手を上げて後ろを向け。」

敵兵は言う通り手を上げた。
それを確認してナイトメアを下りる。

「動くなよ。
大人しくしていれば、扱いに関しては国際法に乗っ取ると誓おう。」

暗に、大人しくしなければ非人道的扱いをすると仄めかす。
自分でも汚い手段だとは思いもするが仕方ない。

そう、そのまま大人しくしていれば………。

だが、そんな俺の儚い期待はあっさりと裏切られる。
袖の下から取り出した銃をこちらに向けた――――いや、向けようとした。

「悪いが、そんな行動に出る事くらい予測してる!」

「ぐっ……!」

こう見えても、どこぞの殺人狂のお陰で殺気には敏感なんだ。
銃を蹴り飛ばし、そのまま組み伏せる。

覆いかぶさるように、思いっきり敵兵の腹を殴る。

「がっあ、…」

敵兵は一瞬だけ呻き声を上げるが、
やがて静かに――――――――――もにゅ。

「はっ?」

なんだ、今のは。
敵を倒して、その効果音は変だろう。

ん?
ヘルメットから黄金色の髪が出ている。
見た目、長髪のようだ。

そういえば、軍人にしては細いな。
どこか体の感触もガッシリというよりかは…………。

何気なく、ホントに何気なく敵兵の顔を隠していたヘルメットみたいな物をとる。
予想通りロングヘア。
細い顎、白い肌、整えられた睫。

これは、まるでというより、どこからどう見ても………

「お、女だって!?」

なんで次から次へと、こう予想外の事態が起きるんだ。
本気で、神を呪いたくなってきた。



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