―――戦争は常に人間の最悪の部分を引き出す。 平和な時ならあいつも普通の男だ。
戦争がない世界なんて考えたこともなかった。
ある程度、世界に興味を向ける年頃になると、既にブリタニアは各国に対して戦争を仕掛けていたから、軍人は戦争に行くものだと疑っていなかった。
しかし平和な時でも軍人はいるらしい。
もし平和な世界だったら、俺も普通の男だったのだろうか。







SIDE:レナード


俺がコーネリア殿下と合流してから数週間。
三日もすれば体も完全に回復し、前と同じように戦場に出れるようになった。
戦場ではコーネリア殿下やギルフォード卿、そして今共に戦っているダールトン将軍の指揮下に入って戦った。
EU屈指の英雄でもあるシード将軍を失ったEU軍の勢いは弱まり、ブリタニア軍の前に敗北を続ける毎日が続くことになる。

他に面白い話しといえば………
そういや風の噂ではルキアーノの馬鹿がラウンズ入りしたらしい。
同じ戦地にいながら、あちらはシュナイゼル殿下の指揮下で動いていたから共闘する事はなかったが、その活躍だけは俺の耳にも届いていた。
だからルキアーノのラウンズ入りも、まあ打倒かもなという感じだ。
少なくともラウンズに相応しい実力はある。モラル以外は……………
取り敢えず殺人狂の癖に大出世を果たしたルキアーノに心の中で妬みの言葉と賛辞の言葉を送った。

まあしかし。
今はそんな事よりも現在を生きるほうが先決。
そんな俺は、今日も、俺はダールトン将軍の下で、EUに新たなる敗北を与えるため戦っていた。

「ダールトン将軍、α3に敵影5!」

『分かっている。』

ダールトン将軍のグロースターが敵機に接近。
ランスを振るいあっさりと倒した。
…………流石だ。
ギルフォード卿の槍のような動きや、コーネリア殿下の王者としての機動とも違う。
質実剛健、理にかなった動きで、確実に敵を殲滅していっている。

『ふむ。ここが敵の隠れ家ではなかったか。
ビンゴならずだな。』

「は?」

『合わせろよ。
さて、では次のポイントに行くとしようか。』

作戦行動中にも冗談を飛ばす余裕があるとは。
色んな意味で凄い人だ。
………昔は、ただの筋肉ムキムキのおっさんにしか見えなかったのに。

『ん?何か言ったか?』

「いえ、なにも。」

おまけに勘も強い。
亀の甲より年の功というやつか。
というか、そろそろ結婚どかしないと不味いんじゃないだろうか。
完全に婚期を逃している気がするぞ。

『レナード。今かなり無礼な考えをしなかったか?』

「いえいえ、それより作戦中ですよ。
ほらα3は外れでしたが、γ2を落とせば、最低でもリーチです。
ビンゴまで後一歩ですよ。」

『フム。中々分かってきたじゃないか。』

どうやら、思考を別の方向へ向けてくれたようだ。
では、さっさと仕事するか。

狙撃砲で敵の隠れ家らしき建造物を狙撃。
すると今回は当たりだったらしく、一斉に多くの敵が現れた。

「将軍。今度はビンゴでしたね。」

『そうだな。
では商品を受け取りに行くとするか。』

――――――撃墜スコアという名の商品をな。
そうダールトン将軍が言っているのは、なんとなく理解できた。








 「ご苦労だったな。」

「いえ、大した規模の基地ではありませんでした。
苦労という程ではありません。」

作戦終了後、俺とダールトン将軍はコーネリア殿下に呼び出されていた。
殿下も最近はすこぶる調子が良いらしく何時もよりご機嫌のようだ。

「さて、では早速だが次の作戦だ。」

侍従の一人に合図をさせ、ディスプレイに地図を表示する。

「これが次の目標。
ポイントC2の地図だ。」

「ポイントC2…………この地のEU軍の中でも最大規模の基地ですね。」

「そうだ。
此処を落とせばEUも両手を挙げざるを得ないだろう。」

ふむふむ、此処を落とせば勝利、或いは勝利は目前と。
これは是が非にでも負けられないな。

「最近は植民地エリアも騒がしい。
特に中東の方でもナイトメアもどきが出て来て苦戦しているという報告もある。
本国としては、EUとは一旦矛を収めたいというのが本音だそうだからな。」

ナイトメアもどき、という事はナイトメアじゃないのだろう。
しかし苦戦しているという事は、少なくとも、ある程度の性能はある筈だ。
そうでなければ、今まで通りKMFが敵を蹂躙して終わりだ。

「作戦時刻はおって伝える。
今はその体を休ませろ。」

「「イエス、ユア・ハイネス!」」







 そしてやってきたポイントC2.
なんだかピザのイメージが脳に浮かんだが気のせいだろう。
他にも拘束具を着込んだ女性の姿が思い浮かんだが、間違いなく気のせいだ。

EU最大の前線基地というだけあって、装備の兵の質も他とは一味違った。
鹵獲したグラスゴーやサザーランドを使い、EUは必死の抵抗を続ける。
当然だ。
この基地を落とされたら戦術的だけではなく戦略的敗北を喫する可能性が濃厚になるのだから。

「しかし、数が多いっ!」

スタントンファを使い襲い掛かってたサザーランドを撃破する。
現在の俺は一個中隊を率いて戦っていた。
コーネリア殿下の部下となって以来、誰かの指揮下で戦うだけじゃなくて、自分で一軍を率いる機会も随分と多くなった。
将来的には、こういう経験は貴重な財産になるのだろうな。
そう思いながらも黙々と敵を倒す。

『た、隊長!』

「どうした?」

部下の一人が慌てた声で通信を入れてくる。
一体どうしたというのだろうか。

『あのサリアスとかいう戦車が、我が軍を囲っています!』

「なにィ!」

どうやら敵はサリアスを地下に隠しておいたようだ。
地面からサリアスの巨体が次々に上がってくる。
ちょっと……いや結構不味いな。
サリアスの火力だ。
こうも囲まれては、結構な被害が出る。
親衛隊クラスの者ならまだしも、今俺の部下には一般兵もいるのだ。

『こ、こちらマックス!
敵戦車の攻撃を受け被弾!至急きゅ、うわあああああああああ』

『たっく、なんだよあの火力は!』

『たすけっ…』

やばい。
既に被害が出てる。
早急になんとかしないとな。
といっても、長距離からの攻撃じゃ大した効果もないし、接近するか。
近付いてランスで突くなりライフルで蜂の巣にするなりすれば………
ならば部隊内でも錬度の高い小隊を選んで…。

「よし。モリー隊、サックス隊は俺に続け。
ディノ隊は「ちょっと待て」…………なに?」

唐突に通信に割り込んできた声があった。
EUじゃない、この通信コードは友軍のものだ。
しかし一体誰が………。

そう思い空を見上げて、驚愕した。
空には輸送機が一機あった。
―――――――――それはいい。
問題は、輸送機から下りてきたグロースターが白と紫に塗装されていたことだ。
しかも、さっきの声はどこかで………。

『久し振りだなァ、レナード。
お互い元気でなによりじゃないか。』

「お、おまえルキアーノ!
ラウンズ入りしたから本国に戻ったんじゃないのか!」

『ああ。戻ったよ。
だけど本国待機なんて私の性に合わないだろう。
だから直ぐに舞い戻ってきたのだよ、戦場にね〜』

「相変わらずだな………。」

『それに他の仕事もあったからなぁ。
そうお前だよ、レナード。』

「おれ?」

『そう私に与えられた任務は、EUと戦うブリタニア軍の援護。
そしてレナード。お前へのメッセージだよ。ブリタニアの魔人。』

「なんだ、その魔人っていうのは?」

『知らなかったのか?
お前の狙撃の腕が、もやは人間離れしているから、人を超えた腕の持ち主、魔人として、本国でも名が通っているぞ。』

なんだと!?
そんな異名が自分についているとは………知らなかった。
しかし異名をつけるなら、もっと格好良い奴にして欲しい。
なんだ、魔人って?
俺はランプから出てこないぞ。

『では魔人くん。
さっさと邪魔な敵を虐殺するとしようじゃないかァ。
正直、私は獲物を前に我慢できるような性格をしてない。』

「……分かったよ、ブリタニアの吸血鬼さん。」

『おや、これは一本とられた。』

「言っとけ。
……全軍に通達。
これより俺とナイトオブテン、ブラッドリー卿が仕掛ける。
お前達は援護を頼む。」

『『『イエス、マイ・ロード!!』』』

やけに士気が高いな。
そうか、ルキアーノ……というよりラウンズが戦場に来たからか。

『やけに指揮官が板についてるじゃないか。魔人。』

「黙れ吸血鬼。さっさとやるぞ。」

『おやおや、私の方がお前より階級は上なんだがね。
まあそんな事はどうでもいい、さてと。』

どうでもいいのか………。
相変わらず軍のモラルとか何処吹く風の奴だ。
俺がそう思ってると、何を考えたのかルキアーノが外部スピーカーをONにした。

『EUの諸君、教えよう。』

グロースターがランスを構えた。
マントを靡かせたその姿は、普通なら騎士や武人を連想させる筈なのに、俺には獲物を狩る猟犬にもみえた。

『お前達の大事な物とはなんだ?――それは命だァ!
さあ貴様等の命を弾けさせろォ!』

そう宣言するとグロースターが突進する。
相変わらずの高軌道、突撃だ。
しかし無謀な行動ではない。
サリアスからの圧倒的な砲火をまるで見えているかのように避けていく。

「たっく、負けられないな…。」

俺もグロースターを突っ込ませる。
しかしルキアーノと同じようにではない。
あくまでもライフルでの援護に徹し、時には大胆に仕掛けて、だ。

幾ら俺でも、サリアスの火力だ。
普通なら即席で込んだコンビ。
連携もチグハグになるのだが、その心配は皆無。
なんといったってルキアーノとは三年間ずっと同じ部屋で過ごし、戦ってきたんだ。
ルキアーノが次にどのような機動をするかという事も、なんとなく分かる。

『さぁ捕らえたぞォ〜。』

獣の声が戦場に響く。
それは敵にとっては悪魔の断罪だった。
サリアスに取り付いたルキアーノがランスで装甲を抉り、破壊していく。

『さぁ、次は誰だァ。』

もはや俺とルキアーノに敵はいなかった。








 「ラウンズだって、俺が!?」

思わずコーネリア殿下の前で、大声で叫んでしまった。
だが無理はないと思う。
何故ならルキアーノから伝えられた言葉は予想外にも程が合ったのだから。

「ああ。本国でもレナード。
お前の噂は聞こえたよ。
なんでも敵将テオ・シードが司令官を務める基地を一人で落としたとか。」

「いや、それは偶然だ。
たまたま、戦力が少ない時だったからで……。
大体、あれは独断専行だ。
称賛されるような事じゃないだろう?」

「それが称賛されるのが、ブリタニアという国なんだよ。
分かるだろ?」

「うっ。」

確かにそうだ。
ブリタニアという国は基本、実力主義、結果主義だ。
どのような手段を使っても結果を出せば称えられ、逆に清廉潔白な人物であっても結果を出さなければ侮蔑される。
少なくともそれが現在のブリタニアという国であり、皇帝陛下の考え方だった。

「それで、レナード・エニアグラムは早急に本国に帰還し皇帝陛下直々にラウンズ任命の言葉を頂く事になる。
ついでに言うと、私はこのままEUで戦争。
尤も、残念な事に終戦まじか、だがね。」

というと、殿下の親衛隊も今日で終わりなのか。
そう思うと寂しい。
嫌な思い出があるとはいえ、此処で学んだ事は多かったから。

「何をウジウジと悩んでいる!」

「!」

コーネリア殿下の一喝に驚き、息が止まった。

「お前はラウンズに入るのだろう?
ナイトオブラウンズは父上――皇帝陛下を守護する騎士。
そんな貴様が今から、そんな有様でどうする!
少しは姉であるエニアグラム卿を見習え!
あの人はラウンズ入りが決定した際にも、平然としていたぞ!」

何時も通りき、厳しい……。
だけど、そんなコーネリア殿下の親衛隊にいるのも今日が最後なのか。
だが、そうだ。
前はただ見上げるだけだった姉と同じ立場になるのだ。
今からこんなのでは、駄目だ。だから、

「イエス、ユア・ハイネス!」

精一杯の敬意と尊敬を込めて、コーネリア殿下に応えた。



そしてそれが、殿下の親衛隊であった時の、最後の思い出となった。
でも、此処で学んだ事は忘れない。
だから何時か、殿下や将軍、ギルフォード卿が苦境に立たされたなら、全力で力を貸そう。
そう思い、俺はEU戦線を後にした。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.