―――怒りは一時の狂気なり。汝が怒りを制さざれば、怒りが汝を制せん。
ようするに怒りに囚われるなという事だろう。
戦場で怒りで我を失った敵ほど倒しやすいものはないから。
SIDE:レナード
「結局、かなり遅刻したな。」
ジェレミア卿や純血派のごたごたを片付けていたら、結果的にかなり遅くなってしまった。
時間割をよく確認していなかったので分からないが、もしかしたら今日の授業はもう全て終わっているかもしれない。
「では准将。
私達は特派でロイド伯爵と話があるので。」
「そうか、では後で。」
確か特派は大学の一室を間借りしてるんだったな。
それにランスロットか。
俺も機会があれば見に行ってみよう。
興味がある。
「ま、いいや。
確かクラブハウスだっけな。
ルルーシュとナナリーが住んでるっていうのは。」
頭を掻く。
というのも場所の名前は分かるが、肝心のクラブハウスが何処にあるのか分からない。
ただでさえ広大な学園内。
到底、一日で地理を覚えられるものではない。
しかもそれが、自分に関わりのないクラブハウスであっては尚更。
「誰かに聞くか。
でも、だれに………。」
その時だった。
チャイムだかが鳴った後、快活な女性の声が聞こえてきた。
『こちら生徒会長のミレイ・アッシュフォードです。』
どこかで聞いた名前かと思ったら、一年ほど前に租界の案内をしてくれた、自称生徒会長の名前だ。
どうやら生徒会長というのは本当だったらしい。
『猫だ!』
「猫?」
『校内を逃走中の猫を捕まえなさい。
部活は一時中断。
協力したクラブは予算を優遇します。』
猫って、何かあったんだろうか。
お偉いさんの飼い猫が逃走した、とか。
関係ないか…………。
俺は部活に所属してないから予算優遇されもしないし。
仕事の後に無償で働くっていうのもなあ。
『そして猫を捕まえた人にはスーパーなラッキーチャンス!』
ラッキーチャンス?
金一封でも貰えるのか。
でもそれでも関係ない。
別に貰わなくても、給料なら十分すぎるほど貰ってる。
『なんとー!
生徒会メンバーからキッスのプレゼントだぁ!』
「……………ッ!」
なんだと……ッ!
き、キッスのプレゼントだと!?
「そうか、そうか……。」
そういう事なら仕方ないなあ。
「俄然やる気になったぜ!」
手始めに近くにいた生徒を捕まえる。
「な、なんでしょう。
僕に何か用でも………。」
「生徒会メンバーの顔写真はあるか。」
「はっ?」
「生徒会メンバーの顔写真だ、写真!
あるのか無いのか、YES or NO!?」
「YESです、YES!」
予想通り。
こういう眼鏡を付けた少し陰気な男は三分の一の確率で、そういう写真を持ち歩いてるって相場が決まっているのだ。
少なくとも、士官学校ではそうだった。
「こ、これがメンバーの写真です。」
「どれどれ………。」
男子は要らん。
女子だけの写真を見る。
生徒会長のミレイ・アッシュフォードは前に会ったからいい。
上から順に、
シャーリー、
ニーナ、
カレン。
「……………………ふっ。」
「どうしたんですか?」
「なあ名も無き男子生徒、知ってるか?」
「な、何をですか。」
「ラウンズの戦場に敗北はない。」
いいだろう、この勝負のった。
否、もとより健全な男ならば退く事など選択肢にない。
ラウンズとはいえ俺も男……。
可愛い子とのキッスはOK牧場だ。
「ロシアの大地で強制的に鍛えさせられたサバイバル能力……。
まさか、学校生活で役に立つ時が来るとはな。」
そして考えるのを止める。
武装を確認。
特別な事がない限り片時も離さないライフルが一丁。
拳銃が一丁。
ナイフが一つ。
猫一匹捕まえるには十分過ぎる武装だ。
「ところで男子生徒、一つ確認してもいいか。」
「えっ。」
「ああ。猫を捕まえるのはいいが、
別に、アレを殺してしまっても構わんのだろう?」
「駄目ですよ!」
そうか、駄目なのか。
仕方ない、武器は使えないな。
猫を探す。
しかし、猫のような小さい体、そう簡単には見付からない。
くぅう、何時ものサバイバル生活の時は、見つけた動物をサーチアンドデストロイでいったが、獲物があらかじめ指定された狩りがこんなに難しいとは。
せめてライフルが使えれば、見晴らしのいい場所で構えればいいのだが。
『おおっと!なんとなんと、猫争奪戦にあのナイトオブツーが殴り込みだァ―――――――!』
再びミレイ・アッシュフォードの声が響く。
まあ天下のラウンズがこんな事に真面目に取り組んだら注目くらい引くか。
『ここで更にボーナスチャーンス!
ナイトオブツー、レナード・エニアグラムを捕まえた人も同じくキッスのプレゼント!』
「んなっ!?」
俺も、獲物にだと?
不味い、これでは…………。
「いたぞ!ナイトオブツーだ!」
フットボール部と思わしき一団が突進してくる。
部活が部活だけに、皆いいガタイをしている。
ラウンズである俺に臆すことなく掛かってきた事といい、軍にスカウトしたい人材だ。
………って言ってる場合じゃないっ。
「多勢に無勢、ならば。
戦略的撤退!」
「逃げたぞ、追え!」
「カレンお嬢様のキッスは俺のもんだ!」
「いや、俺はシャーリーさんを!」
「眼鏡っ子っていいよね。」
「る、ルルーシュくんの………唇!」
おい、ちょっとまて。
最後の奴、こんな所でカミングアウトするな。
しかし欲望と言う名の餌を吊るされた野獣どもは凶悪だった。
だが、甘い!
欲望という餌に食いついたのは俺も同じ、ならばっ!
「はあああああああああああああああああッ!」
「ば、馬鹿な!?
自称光速の足を持つ男であるエセシールド21が追い付けないなんて!」
フットボール部を振り切る。
他にも馬術部やらオタク軍団が襲ってきたが、全て撃退ないし鎮圧した。
しかし学校というものが、これほどサバイバルな場所だったとは………。
成る程、学業に勤しみながらも突発的なイベントにより、常に生徒達から緊張感を抜けさせないようにしているのか。
新兵にありがちの油断という弱点をなくす、そのための訓練か、これは。
やるなアッシュフォード学園!
暫くすると人ごみが見えた。
そして時計台の上には、
「ルルーシュ!それにスザク!
そうかお前達もキッスを狙っているということか。
ならば例え友達であっても容赦はしない。」
ルルーシュのやつ。
一体誰が狙いだ?
それにスザク。
真面目な顔をしていたが、やはりお前も男だったという事か。
いいだろう、ナイトオブラウンズの実力を見せてやる。
階段を全力で駆け上がる。
窓から飛び出すと、そこには、
何故か時計塔から落ちかけているルルーシュとそれを引っ張り上げようとするスザクがいた。
「れ、レナードいいところに。
ルルーシュを引っ張り上げるのを手伝ってくれないか。」
「ん、ああ。」
予想外の事態に面食らい、猫の事が思考から吹っ飛ぶ。
ルルーシュの体重は平均的な男子生徒より軽い。
二人なら簡単に引っ張り上げる事が出来た。
「助かったよ、スザク。
ついでにレナードも。」
「俺はついでかよ!」
「それより猫は……。」
「ほら、あそこだよ。」
ルルーシュが時計塔の天辺。
鐘を指差す。
「悪いけど、二人は猫を捕まえて先に行ってくれないか。
俺は忘れ物がある。」
「ああ、いいけど。」
なんだか気が削がれてしまった。
結局、猫は俺とスザクが協力して捕まえた。
「やっぱり、この前の猫だったか。」
「この前って、知ってるのか?」
「うん。実は前に――――――――。」
と、そこでスザクの足が止まる。
時計塔から下りた俺達を出迎えたのは、結構な数の生徒達。
そして、
―――――――ナナリー。
生きている事は、ルルーシュから聞いていたが実際に生きているのを見るとホッとする。
目と足は相変わらずだが、悲壮感は漂ってないので何よりだ。
「ありがとうルルを助けてくれて!」
生徒達の中の一人。
確か生徒会のシャーリーという少女がスザクに言う。
「やるじゃん、転校生!………それと、ああレナード・エニアグラム様?」
躊躇いがちに、俺に向かって礼を言う男子生徒。
俺は少しだけ溜息をついて。
「レナードでいいって。
最初の挨拶の時も、学生の時は普通の生徒と同じように扱ってくれって頼んだだろう。」
「そっか。じゃあ宜しくレナード。
おれリヴァル。リヴァル・ガルデモンドね。」
「この猫、何か持ってたでしょう?」
お次は生徒会長がスザクに言う。
「何か被ってたみたいですけど、何時の間にかなくなっちゃってて。」
「ねえ、ルルは?」
「忘れ物があるから先に行ってくれって。」
「それだ!あいつの恥ずかしい秘密!」
「そういう事ですか会長。」
イラついた顔でルルーシュがやってくる。
どうやら忘れ物というのは回収したみたいだな。
「…折角弱みを握れると思ったのに。」
「ルルって格好つけだから。」
おいおい、その発言は生徒会長としてどうなんだ。
それともルルーシュの奴は、そんなに授業態度が悪いのか。
「ねえ、三人って知り合いなの?」
「「「!」」」
やばい。
少し迂闊すぎたか。
今のルルーシュの立場は庶民。
ラウンズの俺や名誉ブリタニア人、それも枢木ゲンブ首相の息子と知り合いとバレたら、最悪…。
「だって、イレブンと。
それにラウンズ様となんて。」
どうする?
俺が悩んでると、ルルーシュは何でもないかのように答えた。
「いや、俺とスザクは………」
「友達だよ。」
「!」
ルルーシュ、何を………。
「会長、こいつ等を生徒会に入れてやってくれないか。」
「「「ええぇ!?」」」
「うちの学校は必ず何処かのクラブに入らなくちゃならない。
でも、スザクとレナードは軍人。
なら融通の利く生徒会が。」
「副会長の頼みじゃしょうがないわね!」
「これで一件落着ですね。
お兄様、スザクさん、………レナードさん。
お耳を。」
なんだろうか。
少し気になるが、大人しく耳をナナリーに傾ける。
すると少し湿った感触、これは…………キッス!?
「ナナリー!?」
「ミレイさんが公約したご褒美です。
三人なので、半人前の私で、我慢して下さいね。」
グッジョブ!
勿論、我慢しますとも……。
が、学園に入ってホントに良かった。
「おおっ!これは、
ボーナスチャンスはナナリーがゲットね!」
「はあ?」
何を言い出すんだ、この会長は。
まてよ。そういえば………。
「なに呆けた顔してんのよ。
さっき放送で言ったじゃない。
ナイトオブツー、レナード・エニアグラムを捕まえた人にも『キッスのプレゼント』って。」
「んなっ!?」
素っ頓狂な声をあげたのはルルーシュだ。
怒ってるんだか、混乱してるのだか分からない表情。
どうやらイレギュラーに弱い癖は治ってないようだ。
「さあて、ナナリーは誰とキスしたい?
誰でも自由に選んでいいのよ。
「ま、まさかルルと…………。」
「案外、会長だったりして。」
「えっ、女同士で、なんですか。」
「ふふ。どうする、ナナリー。
リヴァルの言う通りなんなら私でもいいけど?」
間違いない。
あの人、完全に遊んでる。
「か、会長。待ってください、ナナリーはまだ……。」
「おお、愛しの妹を馬の骨にはやれないと。
お兄様直々の乱入だ。」
「少し黙ってくれないか、リヴァル。」
うわっ、ルルーシュその顔かなり怖いぞ。
リヴァルなんか若干震えている。
「え、え、」
「ほらほら、リヴァルは兎も角。
男子なら新しく加入した二人も有りよ。」
「で、では…………保留ということに。」
ナナリーが赤面しながら言うと、そこで騒ぎも多少収まる。
ルルーシュの方も安心したようだ。
「スザク、よかったな。」
「うん、ありがとう。二人とも。」
名誉ブリタニア人って事で避けられていたスザクも、これなら馴染める。
ユフィから頼まれていた問題も解決、俺も生徒会。
順風円満か。
これで、あのゼロが捕まったら言う事なしなんだけどなあ。
空は俺とスザクの生徒会入りを歓迎しているかのように真っ青だった。
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