『人は!平等ではない……。』
生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な体を持つ者、
生まれも育ちも才能も、人間は皆、違っておるのだ。』
その通り。
人は断じて平等ではない。
俺が貴族として生まれたように、ルルーシュが皇族として生まれたように。
ナナリーが障害を持ってしまったように。
『そう、人は、差別されるためにある!
だからこそ人は争い、競い合い、そこに進歩が生まれる。』
ブリタニアはそうやって成長してきた。
ライバルを圧倒し全てを奪い、俺もそうしてきた。
『不平等は!悪ではない・・・。平等こそが悪なのだ!
権利を平等にしたEEUはどうだ。人気取りの衆愚政治と坐しておる。
富を平等にした中華連邦は、怠け者ばかり……。』
事実、今のブリタニアは中華連邦とEUの国力を圧倒している。
もはやブリタニアを一国では相手とれないほどに。
『だが、我がブリタニアはそうではない。争い競い、常に進化を続けておる。
ブリタニアだけが前へ!未来へと進んでいるのだ。』
未来…………!
権力争い、皇族や貴族の間での血で血を洗う闘争。
だがその死んだ国家は、壇上で演説を続ける一人の傑物によって蘇った。
『我が息子クロヴィスの死も、ブリタニアが進化を、続けているという証。
闘うのだ!競い奪い獲得し支配し、その果てに、未来がある!!』
そうだ、俺は奪ってきた。
士官学校では競い、次席という座を獲得した。
そして今も、戦場で敵の命を奪い続ける。
『オール・ハイル・ブリタニア!!!!!』
「「「「「オール・ハイル・ブリタニア!
オール・ハイル・ブリタニア!
オール・ハイル・ブリタニア!
オール・ハイル・ブリタニア!
オール・ハイル・ブリタニア!
オール・ハイル・ブリタニア!」」」」」
だから――――――――――!
SIDE:Interlude
「えーーーーッ!
会長ってレナードと前に会った事あるんですか!?」
シャーリーの驚いたような声が生徒会室に響く。
その声の大きい事ときたら、猫のアーサーに餌をやっていたスザクが驚いて、アーサーの鼻の穴に指を突っ込む程だ。
「そうよ。
レナードってラウンズになる前はエリア11に配属されてたらしくてね。
なんか迷ってるみたいだったから、トウキョウ租界を案内してあげたの。」
「へえ、そんなことがあったんですかー。」
ミレイがレナードに会った事があるというのも初耳だが、レナードがラウンズになる前にエリア11に居たというのも驚きだった。
「あれ、でもレナード卿―――――じゃなかった。
レナードはEU戦線での功績でラウンズに任命されたと聞いたんですが。」
「だから、このエリアで功績をあげてコーネリア殿下の親衛隊に入ったの。
そこで更に功績をあげて、ラウンズってこと。」
「へぇ〜、凄いんですねぇ〜。」
「そう、凄いのだ!」
「………別に会長が威張ることでもないと思うんですけど。」
「まあまあ細かい事は気にしない、気にしない♪
さっさと書類を仕上げて。」
「うぅぅ、大体なんで生徒会室に私とスザク君しかいないんですか?」
「ニーナは工学部の特別授業に参加中。
リヴァルはバイト。
カレンは病欠。
ルルーシュは…………何時ものサボり。
レナードは―――――――――なんだろう?」
「なんだか、サイタマで作戦があるって言ってましたよ。
ロイドさ、僕の上官が。」
「サイタマって、あのテロリストの鎮圧。
大丈夫かな、レナード君。」
「大丈夫、大丈夫。
なんたってナイトオブラウンズよ。
そんじょそこらのテロリストにはやられはしないって。」
「そうですよねぇ。」
二人に気付かれないように、スザクが歯噛みする。
自分には力がある、ランスロットという力が……。
なのに自分にはそれを行使する事が出来ない。
命令がなくては軍人は動けないのだ。
スザクは遠く、サイタマの方向を見やった。
その頃、
レナードのいるサイタマゲットーでは今正に作戦が開始されようとしていた。
「サイタマゲットーの包囲完了しました。
大和同盟のアジトはこの内側にあります。
近隣住民の半数は彼等の協力者。これでしたら」
「総生産への影響は。」
「第一次が0,2のマイナスになります。」
「予想範囲内か。
貴卿等はあのシンジュク事変に参加していたのだったな。」
「はっ。コーネリア殿下の慈悲を賜り―――――――」
「そんな話はいい。
似てるとは思わないか。」
「はっ?」
「シンジュクの時と。」
コーネリアが怖い笑みを浮かべる。
そう、この作戦は表向き"大和同盟"というテロリストの鎮圧。
だが真意は別にある。
それはクロヴィス殿下暗殺の犯人、ゼロの捕縛。
ゼロは劇場型の犯罪者だ。
こちらが舞台を整えてやれば、やって来る可能性は高い。
「しかし、それでは総督のお命が!」
事情を知った幕僚の一人が言う。
だがコーネリアは動じる事無く、
「戦とはな。誇りと命の奪い合いだ。」
負ければ誇りも命も友人も全てが奪われる。
なら、どうすればいいか。
簡単なことだ。
負けなければいい、勝ち続ければいい。
そうすれば何も奪われない。
「責任者の掃除が終わりました。」
「うん。時間でもあるしな。始めるか。」
『全軍に告げる。
これよりサイタマゲットー壊滅作戦を開始する。』
ダールトン将軍の指揮で一斉にサザーランドが発進する。
熟練した指揮で次々にテロリスト達を撃破していった。
やはり所詮テロリスト。
日本解放戦線なら兎も角、統制などない。
ブリタニアの敵ではなかった。しかし、
「トリガー隊交信断絶。
敵は我が軍のナイトメアを鹵獲して使用しているようです。」
「同じだ、シンジュクの時と。」
「現れたのか、ゼロが。」
統制の取れていなかったテロリストに統制が出来始める。
その動き指揮には、まるでチェスのような優雅さが見受けられた。
「ふん、これはもしかするかもしれんな。
レナード。」
「はっ。」
「お前が指揮をしてみよ。」
「私が、でありますか?」
「そうだ。
お前もラウンズである以上、全軍を統制する経験をした方がよいだろう。
案ずるな、私もダールトンもいるのだからな。」
「イエス、ユア・ハイネス。」
そう言われては仕方ない。
全軍を実際に指揮するのは初めてだが、
「マルソー隊は屋根の上から回り込め。
ボリアルの部隊は、そのまま後退しろ。」
レナードが指揮をしている時、奪ったサザーランドに乗るゼロ=ルルーシュも異変に気付いてた。
(ん?動きが変わった……。
まさか指揮している者が変わったのか。
まあいい、相手が誰であろうと。)
「P2の部隊はG6と合流。
囲みこんで敵を殲滅しろ。
H7は陽動、敵部隊を誘き出せ。
T5、お前達はH7の誘い込んだ敵を包囲し攻撃しろ。」
「マルトー卿、ウィリアム卿。
敵の誘いに乗るな。数の上ではこちらが圧倒している。
時間を掛けてじわじわと攻めればいい。」
(ちっ、敵は動いてこないか。
随分と慎重な指揮官じゃないか。
いや、王道的な指揮か。ならば………。)
「B7、V6、R2。
地下鉄通路を進め。
その後、100m先の天井を破壊しろ。
U7、J3はビルの上に陣取り地下に落下した敵を掃射しろ。」
(ふふふ、落とし穴か。
帰ったらレナードの奴にも使うか。
八年前の借りを返さなければならないからな。)
ルルーシュの命を受けたサザーランド達が、指示通り地下鉄を進み、天井を攻撃。
その真上の地面に罅が入り、そこにいた部隊が落下する。
「落とし穴だと!?古典的な手を………。
ヴァリー卿、地下鉄内の敵は捨て置け。
先ずはビルにいる敵を殲滅しろ。」
(なんて奴だ、敵の指揮官は!?
こちらが慎重に攻めても、それを崩すかのような予想外の攻めをしてくる。
かといって積極的に攻めれば罠に掛かる。これでは、まるで………)
「ここまでだな。」
「!」
「全部隊に後退を指示しろ。
これ以上の被害は意味がない。」
「いえ、まだやれます!」
「良い、初の指揮にしては中々に見事だった。
ただ今回は相手の方が一枚ほど上手だったな。」
「分かりました。
全部隊に告げる、ゲットー外円まで至急後退せよ。
配置は問わない、至急後退せよ。」
「少しは張り合いがあったが、ここまでか。
後退する部隊に紛れ込めば、コーネリア、お前の直ぐ近くだ。
条件は早くもクリア。」
サザーランドを走らせる。
目的地は勿論、ゲットー外円。
「コーネリア。負けるのはお前だ。」
「勝つのは私だ。」
「はい、総督は勝利の女神にございますれば。」
コーネリアの言葉にダールトンも頷く。
幕僚達は訝しげだが、これは恐らくコーネリアに前から付き従っている者にしか分からないだろう。
「行くか。我が騎士ギルフォードよ。」
「御下命。ありがたく存じます。」
終わったな。
レナードは誰にも聞かれぬよう、そっと心の中で呟く。
(幾ら指揮官が優れていても所詮はテロリスト。
コーネリア殿下の親衛隊が動けば、既にチェックだ。
プレイヤーが優れていても、駒がポーン以下では話にならない。)
そんなポーン以下の部隊を使って、ブリタニア軍を相手どった"プレイヤー"の力量には尊敬の念さえ浮かぶが、これで終わりだ。
「信号を発するナイトメアが一機。市街地に取り残されております。」
「交信出来ないのか。救援を。」
「破壊しろ。」
「なっ!」
「しかしもしかしたら敵の人質になっているのかも。」
「私は下がれ、と命じた。
私の命令を実行出来ない兵士は必要ない。」
「そういう事だ。」
「しかしっ」
「命を捨ててでも任務を遂行する。
私の部下なら当たり前のことだ。」
『イエス、ユア・ハイネス。』
それが契機となった。
コーネリアの予想は正しく、信号を発していたナイトメアはテロリストだった。
抵抗したがギルフォードのグロースターの前に成す術もなくやられる。
そしてそのせいか、テロリストの動きに統制がなくなり始めた。
そうなってしまえば後は簡単。
親衛隊の力量の前に、テロリストのサザーランドなど赤子に等しい。
降伏してくる者もいたが、テロリストなど生かしておく価値もない。
全て抹殺した。そして、
『作戦終了。全軍第四フォーメーションに移行。』
「鎮圧された……。
こんな簡単に!
ゲームにもなってないぞ!」
「シンジュクのようにはいかなかったな、ゼロ。
それとも真似をした奴か?」
「総督、最後の仕上げを。」
「ふっ、そうだな。」
「これが組織………!
違い過ぎる!」
コックピットでルルーシュが言う。
だが本当の意味での脅威がこれからだった、
『全ナイトメアのパイロットに告げる。
ハッチを開いて素顔を見せよ。』
「なっ!…コーネリアァ………!!」
それはルルーシュにとってしては死刑宣告に等しい命令であった。
「総督、ゼロは本当にサザーランドの中に?」
「さあな。
可能性は五分五分だろう。
だが奴はクロヴィスを殺している。
ならば今回も同じように、私の首級を狙う筈だ。」
一人、一人パイロットが出てくる。
それをギルフォードが確認する。
今のところゼロはいないようだが。
ふとギルフォードの動きが止まった。
なんでも先の戦闘でコックピットハッチ故障したらしい。
もしかして、これは。
そんな時だった。
「ゼロだ!」
「!」
兵士の指差した方向には、紛れもない黒い仮面の男。
TVの前に始めて姿を現したのと変わらない、ゼロだ。
「やはり現れたか、ゼロ!」
現れたゼロはゆっくりと立っていた瓦礫から飛び、落下する。
すかさずレナードが銃を発砲、命中。
「どこに当たった?」
「心臓に、腹。
人間なら生きている者はいないでしょう。」
「そうか。
ダールトンどう見る。」
「はっ。恐れながら、このタイミングで我々の前に姿を現したという事は既に退路は確保しての事でしょう。またあのゼロが本物という保障もありません。
しかしながら、致命傷を負わせたのは事実。
追手は最小限で構わないでしょう。」
「よし、ゼロを捕らえられなかったのは惜しいが今日はサイタマのテロリストを一掃出来ただけで良しとしよう。」
ふぅ、と誰にも気付かれないようレナードが息を吐く。
なんとか今日は早く帰れそうだ。
急げば何とか九時頃にはクラブハウスに着けるだろう。
しかし俺の中では、テロリストを指揮していた相手を知っているような気がしたのが、少しだけ頭に引っ掛かっていた。
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