―――多く笑うものは幸福であり、多く泣くものは不幸である。
同感だ。
嬉し泣きというのもあるが、大抵泣く時は悲しい時だ。
そして笑う時は嬉しい時だ。
では今の俺は幸福なのだろう。
泣く時より笑うときが多いのだから。
SIDE:レナード
「おお、聞いてたよりも豪勢だなー。」
「まあ腐ってもアッシュフォードの女!
このくらいのパーティーに紛れ込むなんてお手のものん♪」
俺を含めた生徒会メンバー(ルルーシュ・スザク・カレン除く)は此処、河口湖のコンベションセンターホテルに旅行に来ていた。
ちなみにスザクは仕事、カレンは病気、ルルーシュには連絡がとれず仕舞い。
リヴァルはバイトとか言ってたが、参加する男が俺一人だと聞いた途端、バイト先に無理言って休んだらしい。
リヴァルはたぶん会長が好きっぽいから、その辺りが理由なのだろう。
うん、青春してるなー。
「あのー、私は生徒会メンバーではないのに、いいんでしょうか?」
ナナリーが躊躇いがちに言う。
「いいんだよ。たまには。
ルルーシュに内緒で旅行ってのもいいじゃないか。
別に恋人同士でラブホに行く訳じゃあるまいし。」
「ら、ラブホ………」
「シャラップ!そこのナイトオブツーさん。
ナナリーにセクハラ発言しない。」
「へいへい。」
と、このように男だけの空間に慣れきってしまった俺は、どうもこの手の発言を日常で使ってしまう癖がある訳で、それはまだ抜けてない。
軍には女性もいたが、男だらけの職場にいるだけあって、そこらの事にも免疫のある女性ばかりなので、軽くかわされるだけだったのだから尚更。
いやはや、ずっと戦場にいた後に学生になるのも大変だ。
「さてと、先ずは食べるか、そして飲むか。」
「あのレナードさん、お酒は十八歳になってからじゃ。」
「まぁまぁ、硬いことを気にしちゃいけませんって。
いいか、ナナリー。
酒を飲まないって事は人生の半分を損してるって事なんだ。
ほれ、ナナリーも一杯。」
適当な酒をグラスに注ぎナナリーに渡す。
ナナリーは躊躇していたが、やはり好奇心はあったらしく「では一口だけ」と言って口に含んだ。
すると、たちまち顔が赤くなる。
咳き込む事はなかったが、まあ初めてじゃこんなもんだろう。
「よし、もう一杯。」
「え、でも………。」
「はいはい、ストップ。
これ以上は駄目。」
薦めたグラスは麗しの生徒会長によって奪われた。
少し文句を言ったが「退学がいいの?」と言われちゃ言い返せない。
「そういえば、やけに偉そうな人が多くないですか、会長。」
リヴァルがパーティーに出席してる人達を見て言う。
その理由は、
「サクラダイト配分会議に出席する為に来てるんじゃないの?
ここより上ではEUや中華連邦も来てるだろうし。」
「へぇ、そうだったんですか〜。」
先に言われてしまった。
ま、いいや。
今は何にしても肉でも食べるか。
やっぱり調理された牛肉はいい……。
戦場で肉といえば、丸焼きにしたのを裁いただけだったからな。
俺が次なる肉を探していると、偶然、不味い者を見た。
味が不味いじゃない。
俺が……いや、ナナリーが不味いのだ。
眼鏡などをして変装しているが間違いない。
あの髪型、それにSP。
ユフィだ、本物の。どうして此処に!?
「やばいな……。」
このままナナリーがユフィに見付かったら少し不味い事になる。
ユフィ自身に悪気がなくとも、
ナナリーを見たユフィが、驚いた声をあげてしまえば最悪それだけで………。
脳裏に浮かぶ最悪の光景。
それだけは防がなくてはならない。
急いで生徒会長。
いやミレイ・アッシュフォードの傍へ行く。
怪しまれないよう、ごく自然に。
そして小声で話しかける。
(会長、不味い事になりました。)
(ん、どうしたの?)
(この場にユーフェミア皇女殿下がおられます。)
(!)
(アッシュフォードがナナリーを匿っている事はルルーシュから聞いています。
いや、そんな事より………。
もしユーフェミア殿下がナナリーの存在に気付けば不味い事になります。)
(そうね、なら何か理由をつけて帰る?)
(それが打倒でしょう。
私が理由をつけてナナリーと一緒にここを出るので、会長は適当に理由を取り繕って下さい。)
(分かったわ。
それと、…………いいわ。
細かい話は帰ってからにしましょう。)
(ええ、では。)
そっと会長から離れる。
幸いユフィはこちらに視線を向けてはいない。
今のうちだ。
「ナナリー、少し熱があるんじゃないか?」
「えっ、そんな事は……」
(口裏を合わせてくれ、緊急事態だ。)
ナナリーだけに聞こえるよう小さく呟く。
「えっ!ナナちゃん大丈夫なの?」
「あ、はい。言われてみれば少し具合が。」
如何にも深刻そうな顔つきで、ナナリーの額に触れる。
当然熱などないが、
「うん、やっぱり熱があるな。
じゃ俺がナナリーを医務室に連れてくから、皆はここで待っていてくれ。」
「え、でも――――――――――。」
「シャーリー、ナナリーの事はレナードに任せて―――――――――」
会長がそう言う。
「そうはいきませんよ。
ナナちゃんは女の子なんですから、やっぱり女子が着いて行ったほうが。」
やばい、全く持って正論だ。
ルルーシュがいれば兄弟という事で正統な理由があるが、俺にはそれがない。
つまり客観的な思考になると、このような場合では医務室まで同行するのは男性である俺じゃなく、女性である会長、シャーリー、ニーナが適当。
ニーナは性格が少し大人しめだし、会長は一応はこの旅行の責任者。
だからこそ体力的にも性別的にも、シャーリーが付き添うのは一番適当。
いっそのことシャーリーも連れてくか?
駄目だ、そうなると医務室に行かずそのまま帰るという計画がおじゃんだ。
本当に医務室に行けば、仮病がばれる。
なんとかして、全員を説得させうる理由を見つけなければ……。
考えろ、俺。
そう俺にパニックという言葉はないッ!
何かある筈だ………なにか!
その時、俺の脳内に天啓のように閃くものがあった。
これしかない……!
全員を納得させるには。
「シャーリー、すまない。
俺がナナリーの付き添いとして医務室に行くのには、理由があるんだ。」
「理由?」
「そうだ。」
「なに、その理由って?」
す、少し恥ずかしい気がするが仕方ない。
これも運命だと思って諦めよう。
顔を歪め、如何にも真剣に見えるようにする。
「俺はナナリーと二人っきりで話したい事があるんだ。
だから、頼む……!!」
やばい、自分で言ってかなり恥ずかしい。
これじゃあまるで、どこぞの青春漫画の登場人物にでもなったようが気がする。
だが当初の目論みは成功したようだ。
シャーリーはどこか納得したように。
「そっか……レナード君…。
うん、そういう事なら応援するよ。
頑張ってね、恋はエネルギーなんだから!」
「い、イエス、マイ・ロード。」
つい軍隊式で返してしまう。
まあいい、これにて条件はクリア。
急いでこの場から退散しよう。
車椅子を引っ張り大急ぎでパーティー会場を後にする。
一回だけ振り返り、ユフィを見たがこちらには気付いてない。
ふぅ、これで何はともあれ一安心だ。
「れ、レナードさんっ!」
「どうした、ナナリー?」
「あの、二人っきりで話したい事とはなんでしょう?」
「ああ、それか。
実はあのパーティー会場にユフィが着てたんだよ。」
「えっ、ユフィお姉様が!?」
「そうだ。
もしあのまま、あそこに居たらお前の存在がユフィにばれる恐れがあったからな。
大事をとって連れ出したという訳だ。」
「………そうですか。」
何やらナナリーがガッカリしたような雰囲気を醸し出している。
成る程。
ナナリーはユフィと仲が良かったからな。
話したかったとでも思っているのだろう。
しかしそれは駄目だ。
人気のない場所ならまだ兎も角、あんな人の大勢いる場所でユフィがナナリーを見つけてしまい、不用意に名を呼ぶなんて事があったら………。
そうしない為にもナナリーを急いで、あの場から連れ出す必要があった。
「じゃあ直ぐに車を用意させるか――――――――。」
その声を遮るように、爆音。
そして銃声。
「!」
軍隊での生活で身に着いた習性だろう。
咄嗟に近くにあった物置部屋に入る。
そして、ダンボールの隙間に車椅子とナナリーを押し込み隠れた。
「レナードさん、一体何が………。」
「分からん。でも………。」
再び鳴り響く銃声。
それが後に河口湖畔事件と呼ばれるようになる忘れられない出来事の始まりであった。
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